「フィクションかどうか」は重要ではない時代に突入した
──皆口さんは『ゾゾゾ』だけではなく、『フェイクドキュメンタリー「Q」』も手掛けられているわけですが、その辺りのお話も伺えればと思います。これも経緯というか、どういう思いで立ち上げていったんですか?
皆口氏:
最初のきっかけは、『心霊マスターテープ』っていうドラマで寺内さんと初めてお会いしたことです。そのときに連絡先を交換したんですが、数カ月後ぐらいに寺内さんから「今後の活動について、ご相談したい」と連絡をいただいて。
あ、寺内さんって映画監督も幅広いジャンルでされてるんですが近年は心霊DVDを多く手がけられてて。
皆口氏:
TSUTAYAもどんどんDVDを置かなくなってきて、市場が狭まってきてる。もう将来がない中で、僕たちは何をしたらいいと思います? みたいな。
自分は寺内監督作品が好きだったので、「そんな悲しいこと言わないでください」と。
──(笑)。
皆口氏:
寺内さんのホラーが観れなくなるっていうのは、大きな損失だと思ったので、「一緒にYouTube番組やりませんか」と『フェイクドキュメンタリー「Q」』を立ち上げたんです。
コンセプトは、自分が見たい寺内さんとの作品を作ることで、アルファベットの中でたぶん一番不気味なQをタイトルにしました。
大森氏:
ひらがなで言う「ぬ」みたいなことですね。
一同:
(笑)。
皆口氏:
そうですね(笑)。その上で「フェイクドキュメンタリー」が付くことになったのは、1話目が公開される直前のことでした。
これは『ゾゾゾ』の経験があったからこそなんですが、まず前提として、クオリティの高い作品しか出したくないんですね。ただそうなると、最初のほうの話にあった通り、ノーカットの素材映像を出すわけにもいかず、かといって手を加えて編集をすれば「やらせなのか」「やらせじゃないのか」の議論になってしまう。
そこで「だったらもうフェイクって言っちゃいましょう」となり、『フェイクドキュメンタリー「Q」』というタイトルになったんです。
ただ、当時、寺内さんからすごく反対されましたね。
──DVDの畑の人間からしたら、きっとご法度なんですよね。
皆口氏:
そうですね。
「フェイクドキュメンタリーですよ、と言って誰が観るんですか?」と。でも「フェイクだ」ということで広げられる表現もあると思っていて。だってフェイクだと言ったら何でも許されるじゃないですか。それによって「この番組を発展させていきたい」という話をさせていただいて、納得していただけましたね。
あともう一つ想いとしては、「皆口がやってる作品は全部作り物だ」と思われるのも嫌だったんですよね。
大森氏:
なるほど。『ゾゾゾ』には「フェイク」と入っていないけど、『フェイクドキュメンタリー「Q」』も『ゾゾゾ』も両方ともフェイクだと思われてしまうと。
皆口氏:
そうです。『ゾゾゾ』は『ゾゾゾ』であり方を変えたくないし、でも『フェイクドキュメンタリー「Q」』みたいな作品もやりたいし、と。そういう差別化的な意味も含めてタイトルを付けました。含めて「フェイクドキュメンタリーって言っちゃおう」と。
──それにしても、なぜそこまで「フィクションと言っても大丈夫だ」という自信があったんですか?
大森氏:
それは僕も気になりますね。それこそ、3年前なんかはどこに「フェイク」と入れるかで会社とその線引きで粘っていました。
いまではもう、全然入れていいと思えてるんですけど、3年前の自分が聞いたら「いや、絶対ダメだよ!」と間違いなく言いますし、それを入れる=死ぬくらいの感覚でした。
皆口氏:
それは『ゾゾゾ』での経験が強いからですね。先ほどおっしゃっていただいたように、「乗っかる」みたいな。そういうリテラシーの視聴者の方がすごく多いことを実感していたので。
逆に「作り物です」と言わないと、そのお客さんの姿勢に対して「失礼なんじゃないか」という気もしていて。
大森氏:
「逆に乗っかりづらい」みたいな。
皆口氏:
そうですね。だから遠慮なく乗っかってもらっていいですよ、みたいな。
けど、裏があったのが、「でも、本物も混ざっている可能性ありますけどね」と言ったときのリアリティですよね。なんか、それぐらいのクオリティのものを作りたかったし、「フェイクです」というところに甘んじたくないというか。
大森氏:
「これはやらせなのか」という議論って、作品にとってはある意味ノイズじゃないですか。だからそれを排除したいのかなとも思いました。
皆口氏:
それも大いにありましたね。あとやっぱり、『ゾゾゾ』で人は殺せないんですよ。でも「フェイクです」と言ってしまえば、人殺しも出来てしまう。 そういう風に作れるものの幅が広がったのは大きいですね。
──あと背景としては、「フィクションかどうか」というある種の考察が、もうエンタメとして機能しなくなった可能性がありますよね。
大森氏:
時代が移り変わったんでしょうね。それこそフェイクニュースなど、もう嘘で溢れているじゃないですか。でもそのフィクション部分のクオリティはどんどん上がっていくし、正直、それを見分ける難易度もどんどん高くなってきていて。
そうなったときに、「これ本当?」「ウソなの?」っていうのは、もはや日常的な思考であって、そこがエンタメとして機能するのかは結構怪しいと思いますね。
だからむしろ、今は「物語として、それが面白いかどうか」に価値が置かれるというか。
──そう考えると、昔は「真偽不明」なところに面白さがあったと思うんですよ。でもいまその価値はどんどん減っていて。
皆口氏:
そういう意味でも、これは当たり前なんですけど、たぶん今が一番ネットリテラシーが高いんですよね。
ネット上はニュースとか、誰かのつぶやきとかあらゆることにフェイクが紛れている可能性があるから、それが真実かどうかは、実はみんなにとってあまり重要じゃないし、たとえフェイクだったとしてもそこまで失望したり怒る人も少ない。
──でもそう考えると、リテラシーが高い人たちが乗っかるには、やっぱ「フェイク」って言ってもらわないと「乗っかれない」っていうのがありますよね。
皆口氏:
そうですね。本当かどうか分からないと、やっぱり乗っかれないですよね。
エンタメとして考えたときに、それはとても健全な形な気がします。別に乗っかって傷つくわけじゃないし、みたいな。
ただ……昔は違いましたよね。テレビとかでやらせが怒られていたあの時代は、一生懸命本気で乗っかったのに、それが「実は作りものでした」「フェイクでした」「やらせでした」となったときに凄く視聴者が傷ついていた。だから、すごくみんな怒ってた。
でも今は、そうじゃない。
大森氏:
だからこそオールドメディアであるテレビは、まだまだ怒る人が沢山いらっしゃるんだろうなと思いますね。
これはそういう怒る人を非難しているのではなくて、やっぱりテレビってそういう存在なんだろうなという。だから、テレビに怒る人がいなくなったときが、テレビの終焉なんだろうなと思っています。
──そういった背景も踏まえて、やっぱりテーマやモチーフが『フェイクドキュメンタリー「Q」』ってすごく雑な言い方ですけど、今風ですよね。自分に接続されるホラーといいますか。
大森氏:
それこそ背筋さんや梨さん、雨穴さんの本がすごく売れているのに対して、フィクションのホラーが全てが全て売れているわけではない理由は、そこにあると思いますね。
いま言われたように、やっぱり「自分事」として接続できるかどうかっていうのが大事で、みんなそれを求めている気がします。
皆口氏:
「自分に接続される」というのは「自分にもありそう」ってことですか?
大森氏:
それでいうと、さっきのUberEatsの話がまさにで、めちゃくちゃ怖いじゃないですか。
凄く身近だし、想像も膨らむ。これが逆に「ザ・因習村」みたいな描かれ方だったら、「まあ、そこに行かんしなぁ……」みたいな、自分とは縁遠い気持ちになってしまうんですよね。
そういうのが、自分に接続されるかどうか、みたいな感じでしょうか。
皆口氏:
なるほど。
大森氏:
なので『フェイクドキュメンタリー「Q」』もそうですが、『TXQ FICTION』でも「接続しそうなテーマ」を選んでいますね。
『飯沼一家に謝罪します』は「謝罪」をテーマにしましたけど、今XでもYouTubeでも、誰のためにしてるか分からない謝罪みたいなのが、ありふれてるじゃないですか。
そこに接続感があるといいますか。
──それは、「これは接続しそう」「これは違う」という議論をしたりするんですか?
皆口氏:
そういうわけではないですね。
大森氏:
たぶん全員の中でなんとなく、「これは接続する」という感覚があるんだと思います。なので特別そういう議論はせず、自然と同じ方向のアイデアや意見が出る感じですね。
──さて、ここまで2時間くらい話してきましたが、かなり皆口さんのことが分かってきましたね。
大森氏:
いやもう、あんま語られてないですけど、皆口さんは明確にこのホラーブームの「祖」だと思ってます。
──それでいて、「作品的なYouTubeの見せ方」であったり、「コンテンツに乗っかる」という感覚をいち早く掴んでたんだな、というのが聞くだけで理解しました。
映像技術は完全に独学。『ゾゾゾ』のために会社を辞めた
──せっかくなので、皆口さんの経歴も改めてお伺いしたいのですが、幼少期からホラーには触れていたんですか?
皆口氏:
子どもの頃はホラーを避けていましたね。小1の頃に観た「金田一少年の事件簿」の『異人館村殺人事件』というエピソードがもう怖すぎて……血糊とかベーッて使ったり。贅沢な時代でしたけどね。
それで、しばらくホラーとは距離を置いてたんですけど、トラウマの腫れものを触るように、『奇跡体験!アンビリバボー』などを観始めたら、どんどん観るようになっていった、という感じですね。
──その頃は、まだテレビで心霊モノがやっていた時期ですか?
皆口氏:
中学生のときに、それこそ『奇跡体験!アンビリバボー』でも心霊モノやらなくなって、『USO!?ジャパン』とかも終わっちゃいましたね。
好きだったバラエティ番組がババババーって終わっちゃったので、そこから『ほんとにあった!呪いのビデオ』を観るようになりました。
──それこそTSUTAYAとかレンタルビデオ屋に入り浸る感じですか?
皆口氏:
そうですね。リリースされてている心霊モノはほぼ観ていると思います。もう新作が出ればワーって借りて、観るのが日課だったので。
── 一時期ニコニコ動画でもそういう心霊モノが公開されていたことがあったんですが、その辺りは触れていない感じですか?
皆口氏:
ニコニコ動画にはあまり触れてこなかったです。だってログインしないと観れないじゃないですか。それがなんか煩わしくて。
──映像の技術はどこで学ばれたんですか?
皆口氏:
ホームビデオを撮って遊ぶ、みたいなことはありましたけど、本格的な編集ソフトを触ったのは『ゾゾゾ』の1回目が初めてでしたね。
なので、映像の勉強はまったくやっていませんでした。その結果、『TXQ FICTION』を作ってる時に、寺内さんと大森さんが使っている専門用語が分からなすぎて……。
一同:
(笑)。
大森氏:
そうでしたか(笑)。
皆口氏:
すごい頭の悪い言い方になっちゃうんですよね。「ちょっとなんかあそこ、カットしません?」とか。
──それってなにか専門用語があるんですか?
皆口氏:
例えば「インサート」とか。
大森氏:
ああー(笑)。
──(笑)。でもその割には、最初からテレビ的な画角ができていたと思うんですよ。たとえばコンテを切ったり、ロケハンをしたりはしているんですか?
皆口氏:
コンテは全然切っていないですね。もうその場のノリでやっています。だからリテイクもありません。
ロケハンはたまにしてますね。廃墟が現存してないと意味がないので、一応事前に見に行っています。
大森氏:
おそらくテレビバラエティの作り方にすごく近いんだと思います。テレビバラエティもコンテは切らず、やってもロケハンをするくらいで。あとは台本をもとに2カメで撮って、あとで「入れそうだな」ってインサートをまとめて撮って帰る、みたいな感じなんですよ。
皆口氏:
たしかに同じですね。
──……え、それを全部独学で?
大森氏:
だからすごいんですよね(笑)。
皆口氏:
(笑)。
大森氏:
僕の予想だと、皆口さんは観過ぎてたんだと思います。
皆口氏:
たしかに。それもあるかもしれないですね。
──高校や大学はなにか特別なことをされていたんですか?
皆口氏:
高校は特に何もしてなくて(笑)。その後は大学じゃなくてデザインの専門学校に行ったんですが、そこでWebデザインを学んで、新卒もWebデザインの会社でしたね。
──それは『ゾゾゾ』を立ち上げた会社ですか?
皆口氏:
あ、また別会社です。で、その後はCD屋に転職して。
──え、CD屋?
皆口氏:
ずっとデザインの仕事をしていたんですが、転職するってなって、どうせだったら全然違う仕事をしたほうが面白いだろうなと思って、接客業をやってみることにしたんです。それでCD屋に5年くらいいましたね。
──結構長いですね。
皆口氏:
その後、26歳くらいのときに落合がいる会社に転職した感じです。その会社では再びデザインの仕事をやってました。
──転職して『ゾゾゾ』を作るまでは、結構期間があったんですか?
皆口氏:
結構ありましたね。自分が心霊ポータルサイトを作ってみたいと言ってから数年は経っていました。
その会社に転職してからは、会社の人と飲みに行く度に「いやー、絶対ホラーポータルサイト作ったら面白いと思うんですよね」とか言ってて。
あとそれとは別の話として、落合が自分と全く関係ないところでゲーム配信を始めたんですよ。それも違う会社の社長さんとはじめて、しかも完成してみたら動画が全然面白くなかったらしくて。
一同:
(笑)。
皆口氏:
あまりにも面白くないので結局配信はしなかったそうなんですが、飲みの時にそういう愚痴を落合から聞いて、「自分だったら落合さんのこと、もっと上手く使えますよ」みたいな話をしたら、「ええ、じゃあ皆口くんやってよ」と。
その辺りから「あ、じゃあ『ゾゾゾ』の過程を動画にして、ホラー番組作ったら面白いかな。それにサプライズで呼び出そう。」みたいなことを考え始めたんです。
大森氏:
あの公園に。
皆口氏:
そうです。
一同:
(笑)。
──それは一応会社の新規事業として始めたんですか?
皆口氏:
あ、違うんです。会社の人に内緒だったんですよね。
──え? 内緒ってどういうことですか?
皆口氏:
落合が恥ずかしがって。
一同:
(笑)。
大森氏:
すごい(笑)。急に学校みたいな話になってる(笑)。
一同:
(笑)。
皆口氏:
みんなには内緒ね、みたいな。
大森氏:
(笑)。
皆口氏:
なので、撮影は仕事終わりとか休日に行ってましたね。遠方は有給を使ったりして。
大森氏:
じゃあお金はどうしていたんですか?
皆口氏:
落合のポケットマネーですね。
一同:
(笑)。
皆口氏:
ありがたい事ですよね。
──逆に「会社の事業にしよう」となったのは、どのタイミングだったんですか?
皆口氏:
自分はずっと周りの人に自慢したかったし、観せたかったんですけど、落合はゾゾゾを事業にしようと言う事については、「取締役たちに説明しても説得できないから」と。会社の人に口外することを止められていたんです。それである日、「皆口君が本気で『ゾゾゾ』をやりたいんだったら、新しい会社を作ったほうがいいと思う」と言われて。
それで、ゴウドウガイシャギギギという新しい会社を作って、落合も元の会社を辞めてこっちに移動したっていう感じですね。
──え、落合さんも辞めちゃったんですか?
皆口氏:
辞めちゃったんです。
──ええー!
皆口氏:
社長だったのに。
一同:
(笑)。
大森氏:
改めて整理するとめちゃめちゃすごい話ですね(笑)。
皆口氏:
それで今はデザインの仕事をやりながら、『ゾゾゾ』をやっている感じです。
大森氏:
独立されたのは、登録者数が何人くらいのときなんですか?
皆口氏:
えーっと、どれぐらいかな……。20から30万ぐらい。なのでバズった後ですね。
──では、ある程度収益みたいなものもできていて、給料もそこからやりくりをするみたいな状態にはあったんですね。
皆口氏:
いえ、給料は全然やりくりできなかったので、デザインの仕事をしてました。
大森氏:
僕もよく分かってないんですけど、今って皆口さんもデザインの仕事をされているんですか?
皆口氏:
はい。
でも比率でいうと、最近は動画とデザインが8:2くらいですね。
──それは『ゾゾゾ』関連のお仕事なんですか?
皆口氏:
いえ、落合が営業で取ってきた全然関係がない、それこそ他社さんのコーポレートサイトとかを作っています。
大森氏:
クライアントの人は、『ゾゾゾ』の皆口さんが作ってるということを知ってはいるんですか?
皆口氏:
知らないと思いますけど、落合はよく営業先で「『ゾゾゾ』の落合さんですか?」と言われているみたいですね。(笑)。
──いま会社は何人ぐらいなんですか?
皆口氏:
4人ですね。
──その中に映像を作るチームもいるんですか?
皆口氏:
『ゾゾゾ』に関しては、自分ひとりでやってます。
──え、撮影も編集も、全部おひとり?
皆口氏:
そうです。
──ええっ。今もですか?
皆口氏:
今もです。
──ええー……!
一同:
(笑)。
──それはすごいですね。やっぱり「自分でやらないと」って感じなんですか?
皆口氏:
そうですね。「他人にどう任せていいのか分からない」というのが大きいのと、結局自分でやるのが、一番細かくやりたいようにできるんだろうなと。
──そうなると、皆口さんの負担は中々減っていかないと思うのですが、ここまで『ゾゾゾ』が大きくなってもなお、デザインの仕事を2割も続けているのには何か理由があるんでしょうか。
皆口氏:
Youtuberと呼ばれるのが、あまり好きではなくて。やっぱり地に足つけて仕事をしていたいという想いが強いんです。だから、肩書も一応「デザイナー」なんです(笑)。
──(笑)。
大森氏:
あ、そうだったんですね。なるほど、なるほど。
皆口氏:
まあ、いつ何があるか分からないので(苦笑)。『ゾゾゾ』も飽きられるかもしれないですし。そうなったらやっぱり、普通の仕事は続けてたほうがいいのかなっていう。
『TXQ FICTION』は「テレビだから安全」を逆手に取ったシリーズへ
──すごい、カタい(笑)。とはいえ、『ゾゾゾ』や『フェイクドキュメンタリー「Q」』をテコとして、いろいろと展開されていこうとしているんですよね?
皆口氏:
それがまさに『TXQ FICTION』ですね。やりたいことは既にできてるので、別に水面下で動いてるプロジェクトがあるわけではないです。
大森氏:
皆口さんは、結構いろんな案件をお断りされるんですよね。
皆口氏:
そうですね。いろんなことを。
大森氏:
とにかく断るっていうスタンス(笑)。なので、『TXQ FICTION』を皆口さんとできてるのが、まず「すごいことだぞ」と僕は言いたい(笑)。
皆口氏:
(笑)。
──逆になぜ受けようと思ったんですか?
皆口氏:
やっぱ自分はテレビっ子だったので、テレビ番組を作らせてもらえるっていうのは、夢のあることでしたから。
それこそYouTubeではできないことが詰まってますし、大森さんというクリエイターと一緒にチームを組んだとき、「どんなものができるんだろう」というのはすごくワクワクしました。なので「やりたいな」って思いましたね、すぐ。
──皆口さんの中で「テレビだからこそできること」っていうのは、例えばどういうことなんでしょうか。
皆口氏:
「テレビを擬態できる」ですね。こればっかりはYouTubeでやってもリアリティがないし、どうしても真似事になるじゃないですか。
それをテレビ局のセットを使って、かつテレビ局の人たちがバラエティ番組を撮る……フェイクドキュメンタリーでこんな贅沢なことって多分ないですよ。
大森氏:
そうですね。
──皆口さんから見て、テレビとYouTubeの違いや強み弱みはどう感じておられますか?
皆口氏:
テレビは意図しない出会いもあるというか。たとえば、夜遅くまで働いてた人が家に帰って、風呂に入ってご飯を食べながらテレビをパッとつけたら、『TXQ FICTION』みたいないかがわしい番組がやってる。
その「え!?」っていう出会いのときめきって、YouTubeにはないわけですよね。それってものすごくワクワクできる体験だと思うんですよ。
──YouTubeは能動的なのに対して、テレビは受動的ですもんね。ちなみに「何も知らずにパッと観た人たちが観る」ということをどれくらい意識して作られているんでしょうか。
皆口氏:
『イシナガキクエを探しています』に関しては、やっぱりギョッとしますし、「生放送なんじゃないか」と思われたいというのは結構意識して作りましたよね。
大森氏:
『イシナガキクエを探しています』は特に一発目だったので、リアルタイムの同時性みたいなものはすごく意識しましたね。
──番組内で視聴者に電話を促す演出がありましたが、実際に何人くらいが電話してきたんでしょうか。
大森氏:
8,000人くらいはいましたね。
一同:
(笑)。
皆口氏:
すごいですよね。
──たとえばどういう内容の電話だったんでしょうか。
大森氏:
それこそ先ほどの「乗る」の話じゃないですけど、みなさん当たり前のように話されていましたよ。「あそこの公園で見た」とか「ここでイシナガキクエらしき人、いました」とか。
──それは乗っかってますね。
大森氏:
なかには「私は祈祷師なのですが、今占ったところ、イシナガキクエさんがすごい狭いところにいるイメージが浮かび上がってきました」みたいなやり取りをスタッフと30分以上している方もいらして。
流石に30分以上話していただいて、「ありがとうございました」で終わるのも失礼だと思い、「一応こうこう、こういう番組で、こういう部分を放送で使わせていただきます。
こういうフェイクドキュメンタリーです」と説明したら、「あ、もちろんもちろん。分かってます」って言われて。まぁ別にその人も祈祷師でもなかったんですけど。
皆口氏:
すごいな。(笑)
大森氏:
それくらい乗っかってくれている。まぁちょっとそこまで来たら怖さもありましたけど……。ロールプレイングしてる人は、かなり多かった印象ですね。
──そのやり取りは実際に使われたんでしょうか?
大森氏:
第2話で実際に使いましたね。
──全員が全員ではないと思うんですけど、そういう方々が1回の放送で8000人も来るというのは、やっぱテレビの同時性が持っている強みと言いますか、ネットとは次元が違う数字で面白いですね。
皆口氏:
YouTubeだったら最悪動画を削除すればいいじゃないですか。でもテレビは取り返しがつかないので、「あ、大変なことになったわ」って思いながらオンエアを観てましたね(笑)。
一同:
(笑)。
大森氏:
テレビって公共性がありつつも、極端な話、何十人かが狂っていれば、いくらでも、なんでも、どんなものでも流せちゃうような気もしていて。
一同:
(苦笑)。
大森氏:
もちろんそれをやったら最悪放送権取消しとか、いろいろリスクはあると思うんですけど、でもなぜか「絶対に清潔なものが出てくるマシン」に見えるのが、テレビの不気味さとしてかなり強いんだろうなと思います。
だからこそ、その「テレビだから安全だ」という感覚から、ちょっとでもズレたものが出ると、そこの「いびつさ」が異常に目につくというか。
『TXQ FICTION』はそういうところを目指していますね。
その瞬間の盛り上がりか、作品か
皆口氏:
目指しているところでいうと、『TXQ FICTION』って許される範囲でノーマルじゃないことをやっているんです。
「テレビで何流してんだ?」という違和感や異物感を大切にしているというか…うーん、「気持ち悪さ」を再定義したかったんだと思います。「そもそも人探し番組ってちょっと怖かったよね」というところを突きたかったというか。
大森氏:
第一弾の『イシナガキクエを探しています』はそこの不気味さや、80歳の男性がずっと一人の女性を探しているという、人間の怨念から来る迫力みたいなものを出したかったんですよね。
一方で第二弾の『飯沼一家に謝罪します』は、「意志の不明さ」みたいな不気味さを取り上げたくて。なんで謝罪してるのか、誰が誰に謝罪してるのか、なんでそれは謝る必要があったのか。
なので怨念とか執着というより、謝罪というものに込められた“人間の業”から来る不明さみたいなものにフォーカスしているんです。
だから『飯沼一家に謝罪します』のほうが地味なんですよね。
──発案者というか、誰がやりたい企画だったのかでいうと、どういうかんじなんでしょうか。
皆口氏:
どっちかというと、『イシナガキクエを探しています』は自分がやりたかったもので、『飯沼一家に謝罪します』は大森さんというイメージがありますね。
大森氏:
『飯沼一家に謝罪します』は「番組枠を買い取った」という概念が面白いんじゃないか、という発想がもともとありまして。
テレビには営業企画があるので、莫大なお金を出せば番組枠を買い取ることができるんですよ。もちろん、買い取ったからといって何でもできるわけではないんですが、その「買い取って何かをする」という不気味さがある上で、「謝罪」というテーマを脚本の福井さんと寺内さんが出してくださったんですよね
──なるほど。ちなみにテーマ以外で、『飯沼一家に謝罪します』と『イシナガキクエを探しています』で目指している方向に違いや変化はあったりしたんでしょうか?
大森氏:
『イシナガキクエを探しています』はスタジオ性を担保するために、結構無理をしていた部分が大きかったんですよ。
もちろんテレビだからこその能動性って面白いしワクワクするんですけど、それを担保するために、たとえばリアリティを犠牲にしてしまったり、微妙にバランスを欠いてしまう部分が結構ありまして。
それこそ電話も、あれでバイラルしたり、体験として面白かったというのはあるんですが、「物語」としての強度は失わざるを得なかったんです。だから番組内で面白かったのは、基本的にはVTRのシーンだったと思います。
──では『飯沼一家に謝罪します』は逆に振った感じですか?
大森氏:
そうですね。『飯沼一家に謝罪します』は“物語として”作るという方向に舵を切りました。
やっぱ『TXQ FICTION』というタイトルですので、“体験としては、全体の物語としての面白さ”が一番重んじている部分ではあるんです。
──それでいうと、2作品作って結構やりたい本質は見えてきた感じなんでしょうか。
皆口氏:
ちょっと分かりづらい表現なんですけど、“テレビでテレビ番組を偽る”ことを目指しているのかな。
これはもともと漠然と思っていたことではあるんですが、『飯沼一家に謝罪します』まで作って、「ああ、『TXQ FICTION』ってそういう番組なんだ」っていうのがちょっと見えたというか。
大森氏:
そうですね。あと本質的には、「ちゃんとフェイクドキュメンタリーという手法を使って、面白い物語を作りたい」というのがありますね。
皆口氏:
うんうん。
大森氏:
まあでも、永遠のテーマだとは思いますね。“その瞬間の盛り上がり”なのか、“作品”なのかっていう。

──7月14日深夜24時30分から放送する『魔法少女山田』では、その辺りはどういう作りになっているんでしょうか。
皆口氏:
今あった通り、前2作品で『TXQ FICTION』がどんなシリーズなのか見えてきた部分があるんですが、今作はそれを壊しに行ったと言うか。
ここでシリーズの骨格を良い意味で砕かないと、作り手も視聴者も型にハマっちゃうような気がしたので。なので前2作品が好きな人には難しいかもしれないです(笑)。それも含めて個人的な満足度は高い新作です。
大森氏:
今回のTXQ FICTION「魔法少女山田」は「恐怖心展」に際して放送するので、「恐怖心」をテーマにしています。
恐怖心はやっかいな存在で、それを避けようとすればするほど、むしろ輪郭を濃くしてこちらに近づいてきます。たとえばなんとなく不安になる存在を「気にしないでおこう」と思った瞬間から、それが逆に気になることがありますもんね。
“実体”ではなく、“予感”として現れる。自分の中にしか存在しないはずの感情が、世界そのものを歪ませてしまうという感覚があります。
TXQ FICTIONの中でも、そんな根源的な感覚を追い求めたものになっているかと思います。
──おお、それは面白そうですね。
大森氏:
ぜひご期待ください……!
それにしても、皆口さんはやっぱりすごいなと今日改めて思いましたね。
皆口氏:
ありがとうございます(笑)。
自分は結構感情派なので、それに対して大森さんはすごくロジカルというか、自分がなんとなく「いい」と思ってやっていたことをきちんと理論立てられて話されたのが、すごく発見だったというか、「ハッ」とさせられることが多かったです。
今回は素敵な機会をありがとうございました。
──こちらこそ興味深いお話をありがとうございました。(了)
≪恐怖心展 概要≫
タイトル 恐怖心展
会期 2025年7月18日(金)〜8月31日(日)
会場 BEAMギャラリー 東京都渋谷区宇田川町31-2 渋谷BEAM 4F ※渋谷駅徒歩5分
開催時間 11:00〜20:00 ※最終入場は閉館30分前まで ※観覧の所要時間は約90分となります
料金 2,300円(税込) ※小学生以上は有料
主催 株式会社闇、株式会社テレビ東京、株式会社ローソンエンタテインメント
会場協力 東急不動産株式会社
企画 梨、株式会社闇、大森時生(テレビ東京)
医学監修 池内龍太郎(精神科医)
公式HP https://kyoufushin.com
SNS X・Instagram・TikTok @kyoufushinten≪放送≫
【タイトル】 TXQ FICTION「魔法少女山田」
【放送日時】 2025年7月14日(月)、21日(月)、28日(月)深夜24時30分~1時00分
【放送局】テレビ東京≪配信情報≫
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