みなさま、こんばんは。黒木ほの香です。
めっきり寒くなってきましたね。いかがお過ごしでしょうか。
わたしはというと、自分の番組(SSRほのけ)のイベントと、明治大学の学園祭を無事に終えて、一息ついているところです。
楽しかったなぁ!配信を見て下さった方、来て下さった方、ありがとうございました。
自分に起きたことを話すのは今だに少し苦手だと思っていたけど、トークテーマや資料があればいけるもんだ。
ありがとう、番組スタッフ。ありがとう、学祭スタッフ。
SSRほのけのイベントの方では、夜の部のゲストに下地紫野さんをお招きしました。
実はすんごく仲良くさせていただいているんですが、仲の良さ…伝わりきらなかったカモね…ウフフ。
多い時は二週間に一度くらいの頻度で遊びます。
インドアなわたしにとっては、かなり凄いことです。
とまぁ、黒木的ビッグイベントを二つ終えて、なんか気が付けば秋も終わって、本格的に冷え込み始めた今日この頃。
そんな本日のエッセイで何を話すかと言うと、とある日のわたしについてです。
エピソードトークが苦手なわたしは、文章でもそうなのか?
その判断を、ぜひお願いします。
これは、東京タワーで開催されていた、好きなゲームのコラボイベントのようなものに一人でひっそりと行った後に起きた出来事です。
その日の夜は、恵比寿の事務所で配信の仕事がありました。
グッズが入ったショップ袋を手に東京タワーを後にしたわたしは、事務所に向かおうと、赤羽橋駅から大江戸線に乗りました。
ガタンゴトン、よりもゴウンゴウンと表現した方が正しい気がする無機質な揺れに数分だけ身を委ね、ゆっくりと停車した車両から、六本木駅のホームに足を踏み出します。
日比谷線へと続くエスカレーターを目指して、ほどよく混雑しているホームを歩いていたところで…
「Excuse Me.」
ゆったりとした流暢な英語が、わたしの右耳に飛び込んできました。
例えばここが、夜の渋谷なんかであれば。
首を真下に折り曲げてだんまりを決め込んだんでしょうけれど、今は乗り換え途中の六本木。しかも英語ときたので「もしかしたらお困りなのかしら」なんて、顔だけを右へ向けました。
わたしより二十センチ近く高い背丈。すらっとした体躯に、軽やかな黒のレザージャケットを羽織った海外の男性が、にこやかに立っていました。
彼はゆっくりと口を開くと、わたしから目を逸らさずにこう言いました。
「※△☆#!◎★@?」
えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜、わかんない!
何かを尋ねているのは明白ですが、学生時代に学んでいた英単語たちを高校に置いて来たわたしには、何も聞き取れませんでした。
すまん…わたしじゃ何の力にもなれん…あばよ!
と思ったのですが、一度足を止めてしまった手前、何も言わずに立ち去るのも憚られる…。
この僅かな時間で、わたしの体にはじわりと変な汗が吹き出していました。
この状況、どう打開すればいいんだ…マリオカートの打開なら簡単なのに…なんて関係のないことを考えていると、彼のスマホ画面がわたしに向かって差し出されていることに気が付きました。
めげない彼は、もう一度言葉を発します。
「◎△$♪×¥〜 APA HOTEL roppongi six」
ははぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん、アパホテルに行きたいんだな!
それなら、最短距離で行ける出口の番号を教えればいいだけです。
超絶難解な突発イベントから一変、簡単なミッションになったなと自信をつけたわたしは、彼の問いかけに応えることしました。
「…please wait.」
めちゃくちゃ小っちゃい声しか出なかった。
おかしいなぁ、わたしってば声優なのになぁ…。
落ち込みながらも、自分のスマホを懸命に操作して『アパホテル六本木six アクセス』と検索窓に打ち込みます。
実際には震える指先のせいか、大江戸線の深さで電波の入りが良くないせいか『あぼまほてる あぬせす』とか打ってましたけどね。
くそぅ…フリック入力には自信があるのに…!
平穏時に地上で検索するよりもたっぷりと時間をかけて、知りたい情報を手繰り寄せた結果、件のホテルはどうやら三番出口から徒歩一分らしい。
とても近いため「これならこの人も迷わないかも」と心の中で満足気に頷いたわたしは彼に向かって、
「three. あー、exit 3.」
「very near… one minutes.」
またしても小声でぽそぽそと呟きました。
ただここは、さっきよりも可愛い声を出した事をお伝えしておきます。声優なので。
(ただ、今書いていて思ったのですが、『一分』という英単語?って、複数形のsって必要なんでしょうか…。今更ながらの疑問をここに記しておきます。)
吐息レベルでしか出ていない声量だけど、目をしっかりと合わせて発したわたしの拙い英語は、なんとか彼の耳まで届いたようで、美しく聞き取りやすい英語に修正して繰り返してくれました。
「三番、三番の出口だね、ありがとう。このままこのエスカレーターを上がればいいかな?」
大きな身振り手振りを加えながら、恐らくこんな感じのことを言ってくれていて、伝わった事に嬉しくなったわたしは「れっつごー」と調子良く笑いかけ、エスカレーターに一緒に乗りました。
大江戸線は他の路線よりも地下深くに走っているため、改札を出るにも一、二分くらいかかります。
後ろを少しだけ振り返ると、彼は少し不安そうにスマホの画面を見つめていたように見えました。
話しかける人を間違えた、と後悔しているかもしれません。
そんな彼の前に立つわたしも、同じく後悔をしていました。
何故さっき「follow me!」と言わなかったのか!
わたしは『ゼロの使い魔』と言う作品のヒロインである、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールというピンク髪のツンデレ魔法使いが大好きなのですが、そのルイズのキャラソンから学んだ英語『Follow Me!!』を使いたかったのです。
『着いて来てね』って意味だよね…嗚呼…さっきレッツゴーって言っちゃった…もったいない…。
全く交わらない後悔をお互いにしながらエスカレーターを何度か乗り換え、改札まで来ました。
彼はわたしの方にパッと切符を掲げたので、切符が入る改札を掌で指し示しながら、わたしもスマホをタッチして改札を出ました。
…アッ!改札出ちゃったよ!わたしは乗り換えなのに!
まぁ出てしまったものはしょうがない。
もう少しだけお供しようと、あまり馴染みがない六本木駅を見渡しながら、目的の三番出口を探します。
ありがたいことに、すぐ左側に目立つ表示を見つけました。
ただ周りにはエレベーターが無かったので、重たいキャリーケースを持って階段を登ってもらい、ようやく地上に出ることに成功。
少しひんやりとした秋の風が心地いいです。
マップアプリを起動してホテルの名前を入力すると、徒歩三分ですとのアナウンス。
全然徒歩一分じゃないじゃん!日本あるある!(海外の人と一緒にいるからスケールが大きくなるわたし)
さすがにホテルまで案内するのはやりすぎかな、と思ったので、わたしの役目はここまでとすることにしました。
彼にマップアプリの画面を見せながら、なんとか言葉を発します。
「Go straight. turn left.」
「left side… around…APA HOTEL!」
おぉ…今までの中で、一番いい感じに喋れた気がします。
全ての英語力を母校に置いて来た…と思っていたけれど、中学で学んだ道案内英語だけはほんのりと残っていたみたいです。
ありがとう、Ms.Green…。【※1】
彼はまた、わたしの言葉を繰り返した後「Thank you!」と手を振って颯爽と歩いて行きました。
迷いなく進む大きな歩幅の後ろ姿に、目的地へと確実に到着できるであろうという確信を得たので、わたしも踵を返しました。
彼は何かの仕事のために、日本に来ているのかなぁ。
とても堂々としていたから、プレゼンとかうまそうだ、なんて勝手な想像をしながら、わたしも仕事場に向かうために階段を降りて行きます。
うーん、珍しくテンプレート的ないいことをした。名も知らぬ彼が、日本の人は優しい、って思ってくれるといいな…!
なんてほくほくとしていたわたしが、「follow me 結局使えてないじゃん!」とガックリ膝を折るのは、恵比寿にある事務所のインターホンを押した後のこと…。
※1…Ms.Greenで思い出したんですが、わたしがユニット活動時の自己紹介パートで長年使っている『ほのけ わんつー?\ほのけー!/』というコールアンドレスポンスの『わんつー?』は、高校時代にクラス担任だった英語の先生の口癖から拝借したものです。
その先生は『repeat after me』の代わりに『one two?』と言って合図する人で、その話を聞いたうちの母が気に入って、黒木家でも使われるようになったんですよね。(日常生活で『リピートアフターミー』を使うタイミングなんて無いのにね。当時はどうやって使ってたんだろうか…肝心なところを忘れてしまいました。)新人時代にやっていた生配信でこの先生の話をしたことから、わたしの自己紹介に組み込まれた…んだったかな?と思います。多分。黒木ほの香古参オタクの方、わたしの記憶が間違っていたらご指摘下さいね。
編集:川野優希
企画協力:スターダストプロモーション