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『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督が怪獣特撮の視点で“ゲームにおける巨大生物“の魅力を語る「見慣れた日常が蹂躙される…そこに感動がある」

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 ディースリー・パブリッシャーから発売されたプレイステーション4用ソフト『地球防衛軍5』は、2017年12月7日の発売から約1ヵ月で、国内販売本数が30万本を突破している。
 本シリーズは以前から息の長い売れ行きを記録しているだけに、今後さらなるヒットが見込まれている。

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『地球防衛軍5』のパッケージ
(画像はAmazonより)

 『地球防衛軍』は当初、プレイステーション2の廉価ソフトレーベルである“SIMPLE2000シリーズ”タイトルとして、2003年に登場した。
 第1作の『THE 地球防衛軍』が高い人気を獲得したことから続編の『THE 地球防衛軍2』も2005年に発売。2006年に発売された『地球防衛軍3』からは独立したフルプライスのゲームシリーズとなっている。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

 本シリーズの魅力は、いくつもの切り口で語ることができる。
 巨大なアリやクモの姿をした巨大生物が地球に襲来し、それをアサルトライフルやロケットランチャーといった兵器でなぎ倒していくという、アクションシューティングの爽快感。細部まで作り込まれたビル街や住宅地といった日常的な風景のマップを自在に移動できることに加え、攻撃を命中させればほとんどの建物が破壊可能という自由度の高さなどが挙げられるだろう。

 『地球防衛軍5』も、さまざまな角度から語られてきたが、本稿では「特撮」というキーワードから、その魅力を解き明かしていきたい。

 宇宙から侵略してくる巨大生物を、全地球防衛機構軍(EDF)の兵士たちが多彩な超兵器で迎え撃つというシリーズの設定自体、特撮的な雰囲気を意識しているのは明白だろう。
 しかも侵略者側にはUFOや巨大怪獣、一方のEDFにはパラボラ兵器に巨大ロボと、特撮作品でおなじみのガジェットがズラリと揃っている。
 さらに言えば、先に説明した作り込まれたマップが戦場になるという点も、巨大なミニチュアセットで撮影を行う、日本独特の特撮制作スタイルを連想させる。

 今回、「特撮」という観点から『地球防衛軍5』について語るのに、うってつけの人物を見つけることができた。
 2015年の『ウルトラマンX』、2016年の『ウルトラマンオーブ』と、巨大怪獣特撮の代名詞とも言える『ウルトラマン』シリーズの2作品でメイン監督を務めた、田口清隆氏だ。

 田口監督は、予算の制約が厳しい現在のテレビ特撮において、ダイナミックなカメラワークを駆使した迫力ある特撮映像と、大人も子どもも楽しめる巧みなキャラクター描写で、特撮ファンから特に注目されている演出家である。
 そんな田口監督はゲームファンでもあるとのことで、自身のTwitterで『地球防衛軍5』をプレイしている様子を明らかにしていた。

 『ウルトラマン』の監督が『地球防衛軍5』をどのように楽しんでいるのか? そして、どこに魅力を感じているのか。

 インタビューでは『地球防衛軍』だけではなく、『モンスターハンター』から『パシフィック・リム』まで、現代のエンタメにおける怪獣特撮のあり方についてまで語っていただいた。

 なお、今回は話の聞き手として、『地球防衛軍』シリーズを生み出した「SIMPLEシリーズ」のファンブログ「絶対SIMPLE主義」の管理人であり、ゲーム実況者としても活躍中のラー油氏に登場いただいた。
 ラー油氏のブログではゲームの話題だけではなく、土曜・日曜朝の特撮・アニメ作品についても取り上げられており、『ウルトラマン』シリーズについても熱く語っている。

 ちなみにラー油氏は、ゲーム実況などの際にはグレイ型宇宙人のマスクという宇宙人スタイルで登場することで知られている。
 そのため今回の企画は、『ウルトラマン』の監督と謎の宇宙人が『地球防衛軍』について語り合うという、かなりシュールな風景となっている……。

文/伊藤誠之介
聞き手/ラー油、伊藤誠之介


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写真左:田口清隆氏、写真右:ラー油氏

膨大な数のアリと隊員とビルの破片が、リアルタイムで「そこにある」感動

ラー油氏:
 映画や特撮のメディアでは、これまでにもインタビューを受けられていると思いますが、田口監督がこういった形でゲームメディアに登場されたことは、今までにあったのでしょうか? 

田口氏:
 『モンスターハンター ダブルクロス』の小嶋慎太郎プロデューサーとは仲良くさせていただいているので、小嶋プロデューサーがパーソナリティを務めていた、『モンハン』のWebラジオに出演したことはあります。でもそれぐらいで、ゲームのインタビューは初めてかもしれないですね。

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 今回は『地球防衛軍』のお話ということなので、やってきました。なにしろ『地球防衛軍』は、プレイステーション2の第1作目からプレイしているので。

ラー油氏:
 えっ、そうなんですか!?

田口氏:
 えぇ。“SIMPLE2000シリーズ”のときから。

ラー油氏:
 田口監督のTwitterを拝見したら、『地球防衛軍5』をプレイされているとつぶやかれていたので、特撮作品の監督があの作品にどんな感想をお持ちなのか、ぜひ聞いてみたいと思ったんです。

田口氏:
 Twitterにはなんでも書いておくべきですね(笑)。

 『地球防衛軍』は『1』、『2』とクリアして、『3』はやっていないんですよ。Xbox 360を持っていなかったので。
 それでプレイステーション3の『4』は買ったんですけど、ちょうど仕事が忙しい時期にぶつかってしまって、じつはクリアはしていないんです。『5』はこの間、最後までクリアしましたけど。

ラー油氏:
 スゴイ! 最終ステージまで行かれたんですね。

田口氏:
 本当に楽しかったなぁ。なにしろ毎晩プレイしていましたから。今日は何面まで進められるのか、そもそもこのゲームは何面まであるのかって(笑)。
 100面をクリアしたときはビックリしました。「えっ、100面でも終わらないんだ!?」と。

ラー油氏:
 100面がまた、すごく盛り上がりますからね。

田口氏:
 「ついに来たか、最終決戦!」と思ったら、「まだ終わりじゃない!?」っていう。しかも100面をクリアした後に、いったん物語が落ち着きますよね。それで「まだまだ続くつもりなの?」と思って。あのへんの終わらなさが良かったですね。

ラー油氏:
 そもそも最初に、『地球防衛軍』の第1作目をプレイしてみようと思ったきっかけは、どんなものだったんですか?

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『THE 地球防衛軍』パッケージ
(画像はAmazonより)

田口氏:
 “SIMPLE2000シリーズ”で安かったというは大きいですよね。
 あと僕は、人間が鉄砲を撃つタイプのシューティングゲームが好きなんですよ。

ラー油氏:
 FPSとかTPSですね。

田口氏:
 じつは僕がいちばんプレイしているゲームは、『コール オブ デューティ』なんです。現代戦というか、近代から近未来にかけての戦闘が大好きで。
 未来に行き過ぎちゃうとダメだし、剣とかの戦いもダメなんですよ。『モンハン』もガンランスしか使っていないので(笑)。

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(画像は『Call of Duty®: WWII』公式サイトより)

ラー油氏:
 『地球防衛軍』シリーズをほぼプレイされてきた田口監督から見て、『地球防衛軍5』はいかがでしたか? 今までのシリーズとはココが違うといったところは?

田口氏:
 すごい数の敵が攻めてきて、こちらにもけっこうな人数の味方がいて、さらに逃げ回っている民間人がいて。その中で銃弾を撃ちまくったり、ミサイルをたくさん飛ばしたりしても、ぜんぜんコマ落ちしなかったっていうのが、いちばんの感動でしたね。前作の『地球防衛軍4』でもやっぱり、カクカクっとなっていましたから。敵がたくさん出てくると。

ラー油氏:
 『地球防衛軍4』はけっこう処理落ちしてましたね。プレイステーション4に『地球防衛軍4.1 THE SHADOW OF NEW DESPAIR』として移植されて、ようやく快適になった、というところがありました。

田口氏:
 先ほどお話ししたように、僕は『コール オブ デューティ』も好きですから、出てくる人間だとか風景のグラフィックは、そっちに比べるとやっぱり『地球防衛軍』はちょっと落ちるわけです。

 でもグラフィックは多少落としてでも、この状況でコマ落ちもせずに、ずっと撃ちまくることができるわけですよ。自分の周りをものすごい数の敵に取り囲まれて、しかも今回はアリやクモを撃ったら液体がドバッと飛んで、それが周りのビルとかにビチャビチャついて、どんどん汚れていくわけじゃないですか。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

 しかも、ビルをぶっ壊したら破片が物理シミュレーションで転がっていて、後で消えはするけれど、しばらくの間はその場に残っているわけで。そういったものが全部、リアルタイムでそこにあり続けてくれているということに、とにかく感動しました。「今、オレは感動している!」って、銃でアリを砕きながら思っていましたよ(笑)。

ラー油氏:
 とにかく今回は、爆撃でもぜんぜん処理落ちしないですからね。
 田口監督もお仕事でCGを扱われているので、そういった表現がCG的にどのくらい負荷がかかるかというのは、よくご存じなわけですよね。

田口氏:
 そうですね。あれをたとえば実写の映画でやろうと思ったら、ものすごいことですよね。そういう意味では、あの画質で許されるということが、逆にゲームの利点じゃないですか。

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 実写の世界だと「ゲームのデモムービーかよ」といった言い方を、悪い意味として使ったりもするんですけど。実写の特撮としてのCGであれば、あの画質では許されないんだけど、『地球防衛軍5』はゲームだからこそ、あの画質でも許されるわけで。

──実写の特撮で使われるCGは、1コマごとに長い時間をかけてレンダリングされるものですから、リアルタイム表示のゲームとは、クオリティの基準がまったく違うわけですよね。

田口氏:
 そうですね。でもそれが『地球防衛軍』だと、逆に感動になるんです。ゲームなら十分なクオリティの画質で、これだけの数が全部動いてるんだって。もう至上の喜びですよ(笑)。とにかく「スゴイ!」ってひとりでニヤニヤしながら、全部撃ちまくってましたね。

見慣れた日常の風景に巨大生物が出現して事件が起きることが、特撮の醍醐味

ラー油氏:
 ちなみに『5』では、どの兵科でプレイされたんですか?

田口氏:
 レンジャー【※】です。僕はどの作品でも基本、レンジャーですね。

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※レンジャー……EDFの主力となる特戦歩兵で、あらゆる銃火器を使いこなす戦闘のエキスパート。シリーズ第1作目から同種のキャラクターが存在する、『地球防衛軍』の基本となる兵科。
(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

ラー油氏:
 『地球防衛軍』といえばレンジャー、という感じがありますからね。

田口氏:
 『地球防衛軍』だけじゃなくて、もっと言うと映画であっても、とにかく僕は地上にいる兵士や一般人の視点が好きなんです。それは『ウルトラマン』を作るときでも同じですね。

ラー油氏:
 なるほど。

田口氏:
 自分がふだん日常的に見ている視点で、街が壊れていくのを見るほうが好きなんです。だからヘンな話、『スター・ウォーズ』よりも『宇宙戦争』【※】のほうが好きなんですよ。

※ 宇宙戦争
H・G・ウェルズが1898年に発表したSF小説の古典。3本足の戦闘機械(トライポッド)を操る火星人がロンドンに来襲し、人類と戦いを繰り広げるという、侵略SFの元祖的作品である。この小説の映像化は、1953年のバイロン・ハスキン監督による映画と、2005年のスティーブン・スピルバーグ監督による映画がよく知られている。

 『アバター』【※1】『ハート・ロッカー』【※2】の公開時期が重なって、「どっちが好きか?」という話になったときに、僕だったら「きっと『アバター』のほうが好きでしょ」と思うじゃないですか。
 でも、僕は『ハート・ロッカー』のほうが好きなんですよ。なぜなら地球の兵士の物語だから。

※1 アバター
2009年に公開された、ジェームズ・キャメロン監督のSF映画。主人公ジェイクは人造生命体アバターと神経を接続することで、衛星パンドラに暮らす高等生物ナヴィと交流を試みる。やがて彼はパンドラに眠る地下資源を狙う地球人の軍隊に、ナヴィとともに立ち向かうことになる。現在、続編4本の制作が発表されており、2020年より順次公開される予定になっている。

※2 ハート・ロッカー
2009年に公開(日本公開は2010年)された、キャスリン・ビグロー監督の戦争アクション映画。爆破テロの続くイラクに駐在する、アメリカ軍爆破処理班の緊迫した日々が描かれる。第82回アカデミー賞作品賞を受賞した。ちなみにキャスリン・ビグロー監督は、ジェームズ・キャメロン監督の元妻である。

ラー油氏:
 異世界が舞台になる作品と、国は違っても地球の見慣れた風景が舞台になる作品の違いという意味ですか?

田口氏:
 あくまで“僕にとっては”という話ですけど、地球を舞台にした地球人の話であることが、まず大事なんです。
 現代から近未来までの、地球の地面に足をつけている人の視点が見たいという。

 それは自分の作風に関しても、わりとそうなっています。特定の人物の目線という形のワンカット長回しで撮ったり、手持ちカメラでひとりの人物を延々と追いかけていくという映像が、すごく好きなんですよ。

ラー油氏:
 田口監督の作品だと、手前に人間がいて、その奥で怪獣が暴れているみたいなカットも多いですよね。

田口氏:
 そうですね。ふだん自分の生活で見ている風景に、怪獣が出てきたり事件が起こったりするほうが面白いと思っているので。ほとんどの人は戦闘機に乗ったことがないし、船にもそんなには乗らないですよね。

 自分たちがふだん日常的に見ているのは、街を歩いているときの地に足のついた視点ですから。その状況が、怪獣が出てきたり事件が起こったりすることで壊れていく。
 日常が壊れていく光景として、見ている人がいちばん怖かったり面白かったりするのはそこでしょ、と思うんです。

ラー油氏:
 そういう意味で『地球防衛軍』の舞台になっているのは、ビル街だとか港の倉庫街とかいった、日常的な風景が多いですよね。

田口氏:
 そうなんですよ。隊員が使っている武装は近未来というか、超兵器だとしても、風景は完全に現代の日本じゃないですか。

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 たしか過去のシリーズでは、ロンドンとかの外国で始まるものもありましたよね。『2』でしたっけ?

ラー油氏:
 『2』ですね。

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(画像は『THE 地球防衛軍2』公式サイトのスクリーンショット)

田口氏:
 その頃は海外の風景もあったんですけど、今回は徹底的に日本なんだと思いました。

ラー油氏:
 工場なんかも海外の工場じゃなくて、いかにも日本ぽい。工場はステージの作り込みがスゴかったですよね。

田口氏:
 僕は北海道出身なんですけど、『地球防衛軍』の街って札幌だと思うんですよ。テレビ塔もあるし(笑)。
 なぜ地球の運命を賭けた戦いを、札幌で繰り広げているんだろうって、逆に不思議に思っているんですけど(笑)。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

ラー油氏:
 『ウルトラマン』で実際にミニチュアの街を撮影されている田口監督に、『地球防衛軍』シリーズの風景というか、建物や街の作り込みについて、ぜひお聞きしたかったんです。

田口氏:
 多摩川団地のようなところもあって楽しかったですね。僕は多摩川団地の近くに住んでいたので、すごく見知った風景ですから。

 巨大生物と戦いながら、わざと団地の中を走り抜けていって、ゴミ捨て場みたいなところに隠れてみたり(笑)。もう、後はアリ2匹しか残っていないなぁと思ったら、ぜんぜん違うところに走っていって、アイテムを収集しながら、自動車をひたすら吹っ飛ばしたりとか(笑)。

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ラー油氏:
 それはすごくよくわかります。最近の『地球防衛軍』はとにかく街の作り込みがスゴいので、ついつい歩き回ったりしたくなっちゃうんですよね。特に今回の『5』は、店の看板から置いてある自転車まで、とにかく作り込みが細かくて。

田口氏:
 そうですね。それは今回のゲームが楽しかった理由の中で、かなり重要な位置を占めていますよね。多摩川団地と札幌あたりはけっこう散歩しましたよ。軽い破壊活動をしながら(笑)。

ラー油氏:
 田口監督の中では、ステージが地名で呼ばれているのが衝撃ですね(笑)。

田口氏:
 だって、明らかにそんな感じですから。札幌と多摩川団地は僕の原風景のひとつなので、やっぱり興奮しますよね。しかもそこに、トライポッドみたいなのがやって来るわけですから(笑)。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

ラー油氏:
 ビルの壁に巨大なアリが張り付いていたりするわけですからね。

田口氏:
 そこに誘導ミサイルを当てて、ビルごと吹っ飛ばすのが、快感でしょうがないですよね(笑)。とにかく何も考えずに、そうやって戦うだけじゃないですか、『地球防衛軍』って。その割り切りがやっぱり良いですよ。

巨大な昆虫との戦いは、男の子の本能を揺さぶる

ラー油氏:
 『地球防衛軍』シリーズの基本的な部分って、第1作目からずっと変わっていませんから。とにかく敵を全部やっつけろ、というのが基本になっていて。

田口氏:
 むしろ今回は「ちょっとストーリー的な部分が増えちゃったなぁ」と思ったぐらいですからね。それはいいから早く撃とうよ、と(笑)。

ラー油氏:
 他の部隊と一緒についていくミッションが、けっこうありましたよね。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

田口氏:
 最初の1〜2面ぐらいは「これはもしかして、(ゲームデザインが)悪い方向にいっちゃったんじゃないか?」って、じつは思っていました。でも、そこから先はどんどん盛り上がって、楽しいことしかなかったですけど。

 あと『地球防衛軍』がスゴイのは、ハードがプレイステーション4になっても、敵がでっかいアリだったりするのは絶対に変えないという(笑)。今回はとにかく、ダンゴムシが気持ち悪くてしょうがなかったですけど。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

ラー油氏:
 アレはヤバかったですよねぇ。

田口氏:
 子どもの頃、僕の実家は普通の民家じゃなくて、1階がお店で2階が住居だったんです。その1階のコンクリートが割れた隙間から、よくワラジムシが出てくるのを見ていて。

 北海道ってなぜか、ダンゴムシよりワラジムシのほうが多いんですよ。
 ダンゴムシとワラジムシの違いは、ワラジムシって丸まらないんです。丸まらないほうが気持ち悪いんですよ。丸くなってくれたほうがまだ、ゴロゴロして可愛いんだけど。

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ワラジムシのイラスト
(画像はかわいいフリー素材集 いらすとやより)

 それで僕が中学生のときに、ワラジムシのヤツらがこの下に巣を作ってやがると思って、そのコンクリートの隙間に向かって殺虫剤のスプレーをシューッ! ってブチ込んだんです。
 そうしたらもう、『地球防衛軍』ですよ(笑)。

ラー油氏:
 うわぁ。

田口氏:
 もがき苦しむワラジムシの大群が、その隙間から、それこそ地面を覆い尽くすほど出てきたんですよね。それで「ギャーッ!」となって。

 ウチの実家は自動車タイヤ整備を営んでいたので、ホイールの色を塗るための銀色のスプレー塗料が置いてあって。パニクった僕は、なぜか銀色のスプレーを持ってきて、ワラジムシの大群に吹き付けたんですよ。
 そしたら銀色になって、ワラジムシがメカっぽくなったっていう(笑)。

ラー油氏:
 ますます『地球防衛軍』だ(笑)。

田口氏:
 銀のワラジムシが群れになってて、余計に気持ち悪くなって(笑)。

 しょうがないから今度は、潤滑剤のスプレーの先にライターで火をつけて、火炎放射でワラジムシを焼いたんです。ワラジムシの焦げる臭いがして、もう地獄ですよ。
 そこに親父が帰ってきて、「お前、何やってんだ!」って怒られました。銀色のワラジムシの大群に火をつけている子どもがいたら、それは怒りますよね(笑)。

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 最終的に、ちょうど遊びに来ていた友達とふたりで、焼けた大量のワラジムシをほうきとチリトリで掃除したんですけど。ワラジムシの死骸をほうきで掃くと、バラバラッとバラけるんですよ。そのバラける感じが、『地球防衛軍5』でダンゴムシを撃つと半分にパキンッ! って割れる、あの感じにすごく似ていて。

ラー油氏:
 あ〜っ! あれ、スゴイですよね。

田口氏:
 あれを見て、あのときのワラジムシを思い出したんです。
 あれよりはマシだと思いながら、でっかいダンゴムシを撃ってバラバラにしていたんですけど(笑)。

──特撮物って、子どもの頃のプリミティブな感情に直接訴えかける部分があると思うんです。そういう意味では今のお話は、特撮物の核になる部分と、『地球防衛軍』が確かにつながっているように感じました……。

田口氏:
 たとえば男の子がどんなに騒いでいても、テレビでウルトラマンと怪獣が戦っているシーンが流れたらパッと見るじゃないですか。あれって間の本能というか、オスの本能を揺さぶるものがあると思うんです。
 どんなに可愛い猫でも、目の前にチョロチョロしているものがいたら、手をパンって出すのと一緒で。

 じつはある調査を見せてもらったことがあって。小さい男の子と女の子を均等に集めて、特撮物の作品を見せるんです。それで子どもたちが、いったい何に反応するのかを見るという調査で。

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 そうすると、女の子はストーリー部分をちゃんと見ているんですよ。
 でも男の子はすぐ飽きて、お母さんのほうとかを見ちゃう。ところが戦いが始まると、男の子はそっちに夢中になって、今度は女の子が飽きるんです。こんなに明確にわかるのかというぐらい、ハッキリとわかれていて。驚いたというか面白かったですけど。

ラー油氏:
 そこまで明確にわかれるのは、スゴイですね。

田口氏:
 これは別に男女がどうのという話をしたいわけじゃなくて、『地球防衛軍』にはやっぱり、男の子の本能に直接訴えかける何かがあるんだと思うんです。だから大人になっても、どこかにそういうものが残っているのかなって。特に僕みたいな人間はそうなんだけど(笑)。

 女の子というか、大人の女性でも『地球防衛軍』はやっぱり、気持ち悪いって言うんですよね。なにしろ敵が虫だから。女性にはあまり向かないゲームなんだろうな、とは思っていて。
 それに比べて男性は、子どもの頃にある程度、虫にヒドイことをしているので(笑)。今の子どもたちはどうだかわからないですけど。

ラー油氏:
 田口監督の世代でもまだ、そういう虫との戯れみたいなものはあったんですか?

田口氏:
 なにしろ実家が北海道ですから、自然はありましたよ。裏山に登って、ひょろ長いツタとかが生えていると、必ずそれに自分から巻きついていったりしてましたね。「スフラン【※】だ!」って(笑)。

※スフラン
初代ウルトラマン第8話「怪獣無法地帯」などに登場する吸血植物。

カエルや宇宙人といった知的生命体の部位破壊に驚いた

ラー油氏:
 アリやクモの話がありましたが、『地球防衛軍5』ではこれまでのシリーズにはいなかった、カエルやグレイ型の宇宙人など、生々しい敵が出てきたじゃないですか。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

田口氏:
 飛ぶカエルはヤバかったですよね(笑)。兵隊カエルよりも気持ち悪かったなぁ。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

ラー油氏:
 兵隊カエルは、最初に遭遇したときは「ヤバいな」って思うんですけど、後半はわりとあっさり倒せるようになるので、むしろホッとするみたいなところはありましたね。宇宙人がとにかく強いので。

田口氏:
 あの宇宙人を撃つのは、軽い罪悪感がありましたよね。けっこうエグいやられ方をするので。

ラー油氏:
 カエルはともかく、人型の宇宙人がリアルな感じで部位破壊されていくのは、ビックリしますよね。手足がちぎれても、動いて撃ってきますからね。

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(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

田口氏:
 だからトドメを刺さないといけないので、何も考えずに撃ちまくっていくんですけど。圧倒的に強いので、こっちも本気を出さないとやられるじゃないですか。「気持ち悪いなぁ」とか、そんなこと考えている余裕がない。殺らなければ殺られるという、ある種の戦争感みたいなものがありますよね。

ラー油氏:
 しかもアリとかクモみたいに、ただこっちに向かってくるだけじゃなくて、ビルに隠れて回り込んだりしてきますからね。

田口氏:
 それを見て、他の隊員が「アイツら、頭が良いぞ!」と言うじゃないですか。あのときのザワザワ感がいいですよね。

ラー油氏:
 「アイツら、なんかしゃべってるぞ!」って(笑)。しかも終盤に出てくるアーマーを着た宇宙人が、すごく強いんですよね。固いし、かといって近づくと一瞬でやられちゃうし。

田口氏:
 「ライサンダー【※】を3発当てても砕けないだと!?」と(笑)。

※ライサンダー
『地球防衛軍』シリーズでは第1作目から登場しているスナイパーライフルの一種で、その破壊力の高さからレンジャーを使用するプレイヤーに人気が高い。ただし『地球防衛軍5』のライサンダーは、以前より弱体化してしまったとの声も。

ラー油氏:
 とにかく今回の『地球防衛軍5』は、表現としては今までの集大成的なところもありつつ、新しい要素もかなり入っていて。

田口氏:
 『4』のときはそれまでに比べて、グラフィックがキレイになったぐらいなのかなという印象だったんです。でも『5』はもう、これまでとはケタ違いの進化を遂げたと思いますね。

ラー油氏:
 システム面から、かなり力が入っていますからね。装備のバリエーションもすごく増えていますし、追加装備で能力を強化できる要素もありますし。

田口氏:
 昨日、この取材に備えてウイングダイバー【※1】でインフェルノ【※2】に挑戦したら、あっという間にボロボロに負けちゃって(笑)。でも、フェンサー【※3】とかはちょっとやり込んでみたいかな、とは思います。フェンサーって使いやすいですか?

※1 ウイングダイバー
『地球防衛軍5』の兵科のひとつで、空中を飛行しながら戦うことのできる精鋭部隊。女性だけで構成されている。

※2 インフェルノ
『地球防衛軍』シリーズにおける難易度設定のひとつ。最高難度としてプレイヤーに恐れられている。『地球防衛軍』シリーズでは難度が高いほど、敵が強くなる反面、より強力な武器を獲得できる確率も上がるため、積極的にチャレンジするプレイヤーは多い。

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※3 フェンサー……『地球防衛軍5』の兵科の一種。軍用外骨格「パワードスケルトン」を装着した二刀装甲兵。槍や剣、盾に重火器といった多彩な装備が使用できる一方で、歩行速度が遅く、移動にはスラスターやブースターを駆使する必要があり、操作がやや複雑になっている。

ラー油氏:
 いやぁ、フェンサーはけっこう熟練が必要ですね。

田口氏:
 あぁ、そうなんですね。戦車もそうなんですけど、自分の指が自由自在に動かせないと勝てないゲームは、じつはできないんですよ。僕は『ストII』がぜんぜん強くなれなかったタイプなので。じつはゲームがヘタなんです。

 だから『地球防衛軍』とか『コール オブ デューティ』とか、とにかく敵を狙って連射できれば戦えるゲームじゃないと、クリアできないんです。そういう意味では『モンハン』は、自分としてはよくがんばっているほうだと思うんですけど。

 『地球防衛軍』でもフェンサーとかウイングダイバーとか、レンジャー以外の兵科は結局、使えてないんですよ。エアレイダー【※】にも挑戦したんだけど、「これ無理じゃん」となってしまって。

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※エアレイダー……『地球防衛軍5』の兵科の一種。航空部隊や砲兵隊に爆撃を要請できる空爆誘導兵で、自分で戦うよりも支援に特化したタイプ。爆撃の他にも爆弾や回復装置を設置したり、戦車やヘリなどの投下を要請して乗り込むことができる。
(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

ラー油氏:
 フェンサーはブーストを使うタイミングを見極めないと敵に囲まれちゃうので、なかなか難しいですね。『地球防衛軍5』はエアレイダーの空爆がメチャクチャ強いですよ。シミュレーションゲームのような感じで空爆の位置を指定できますから、すごく使いやすくなっています。

田口氏:
 ふたりで一緒に遊ぶときには、支援タイプのエアレイダーは向いてるんでしょうね。あっ、そうだ。『地球防衛軍5』のいいところをもうひとつ、思い出しました。いまだに画面分割で、オフラインでふたりプレイできるのがいいですよね。

 昔のゲームって、ふたりで一緒に遊べたのが良かったと思うんです。最近は本当に少ないじゃないですか、そういうゲームが。『モンハン』も、みんなで携帯ゲーム機を同じ場所に持ち寄って遊べるのが楽しかったですよね、あーだこーだ言いながら。
 でも今度の『モンスターハンター:ワールド』では、据え置き機ゆえそれができなくなったので、ちょっと残念かも。だから『地球防衛軍』は、今後もあの画面分割のモードをなくさないでほしいなと思います。

AIで動く仲間の隊員たちに、いつの間にか愛着を感じてしまう

田口氏:
 あと『地球防衛軍5』で、今までと違ってビックリしたのは、仲間の隊員たちがちゃんと役立つっていうところですね。

ラー油氏:
 今回は協力が大事になっていますよね。

田口氏:
 そうそう。ちゃんとアイツらを生かしておいて、みんなで戦わないと敵を倒せないステージがあるんですよ。でもアイツら、ときどき歌い出すのがウルサイんですけど(笑)。「隠密行動だ」て言っている最中に、なんで歌いだすんだ、しかも工場で! って(笑)。

 ひょっとしたら、アイツらが歌いだすと敵に見つかるんじゃないかと思って、ちょっと撃っちゃったりしましたよ。「歌うなぁッ! ババババッ」って(笑)。でもあの隊員たちって、いるとウルサイんですけど、いなくなると寂しいんですよね。

ラー油氏:
 あぁ、その気持ちは分かります。

田口氏:
 みんなで攻めていったはずなのに、クモの集団が出てきて一斉に糸で絡め取られちゃって。口の悪いレンジャーがひとりだけ生き残って、ひとりしかいないのにずっと軽口を叩いているんですよ。「うるせぇな、こいつ」と思っていたんだけど、後でそいつが敵に殺されると、ものすごく寂しくなるっていう(笑)。

『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督が怪獣特撮の視点で“ゲームにおける巨大生物“の魅力を語る「見慣れた日常が蹂躙される…そこに感動がある」_027

ラー油氏:
 急に静かになっちゃいますよね、味方がいなくなると。いたらいたで「ウォーーッ!」とか大騒ぎしてるんだけど、全員やられると本当に何も聞こえなくなっちゃうので、寂しいですよね。

田口氏:
 さっきまであんなにうるさかったチャラい兵士が、いざ死んでいなくなると寂しくなるっていう。戦争映画とかでたまにあるパターンが、ゲームで実際に起きるんだと思って。

ラー油氏:
 しかも『コール オブ デューティ』みたいにあらかじめ決められたパターンではなくて、偶然にそれが発生しているんですよね。

田口氏:
 僕がそういう風にプレイしたせいでそうなっているわけだから。そう、そこがスゴイなぁと思いましたね。映画らしいことがときどき、偶然の産物として起こる。

 ……そういえば、こんなことがあったんですよ。他の隊員がみんなやられちゃったんですけど、なぜかずっと後ろのほうからウイングダイバーの女性の声が聞こえるんですよ。でもこっちにはぜんぜん近づいて来ないで、声だけが聞こえるんです。

『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督が怪獣特撮の視点で“ゲームにおける巨大生物“の魅力を語る「見慣れた日常が蹂躙される…そこに感動がある」_028
(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

 夜中にひとりでプレイしていたから寂しくなって、なんとなくその娘だけでも連れて行きたいなと思って。女の子だし(笑)。戻って行ったら、なんと立体駐車場の車と天井の間にウイングダイバーが挟まっていて、出られなくなっていたんですよ。

ラー油氏:
 あぁ、たまに起きますよね、そういうことが。

田口氏:
 なんとか助け出そうと思って車を撃っても、そんなときに限って壊れないんですよ、背景だから。仕方がないので、車の上に乗ってウイングダイバーを体当たりで押しても、いいトコまでは行くんだけどまた戻ってきて。

 最終的に、車をとにかくぶっ壊そうと思ってライサンダーで車を撃ったら、その娘に当たって死んじゃったんですよ。あのときの絶望感ったらなかったですね。「オレは今、ひとりの女の子を殺めてしまった。しかもゲームの中で」と……。

『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督が怪獣特撮の視点で“ゲームにおける巨大生物“の魅力を語る「見慣れた日常が蹂躙される…そこに感動がある」_029
※写真は「NP3-A」です。
(画像は『地球防衛軍5』公式サイトより)

ラー油氏:
 なんというか、哲学的な話ですね(笑)。

田口氏:
 なんで『地球防衛軍』で、こんな思いをしているんだろうって(笑)。あのAIの隊員たちに、それなりに愛着を持ってしまうという不思議な感覚は、『5』ならではだよなぁと思うんです。

ラー油氏:
 そうですね。『5』は仲間と一緒に戦うことを、けっこう前面に押し出しているというか。ゲームバランスもそういう形で取られていますね。

田口氏:
 そうやって一緒に戦って、少しずつ愛着を感じるようになるのを積み重ねていったあげく、最終面では仲間がいないと倒せないステージが待っているわけですから。思わず感動しちゃうんですよね。

 悪く言えば、けっこう雑なAIなわけじゃないですか(笑)。アイツらみんな同じことしか言わないし。それがわかっていても、なんでこんなにアイツらが愛おしいんだろう、って。
 ちゃんとみんなで戦い抜いて、仲間の隊員たちが「よっしゃー!」とか言っているなかでステージをクリアしたときの、あの気持ちよさ。自分ひとりだけでクリアして、最後にあのアイテムだけ取ろうと走っている最中に画面が暗くなって終わるのとは、ぜんぜん違いますよね。

『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督が怪獣特撮の視点で“ゲームにおける巨大生物“の魅力を語る「見慣れた日常が蹂躙される…そこに感動がある」_030

 他のみんなが生きていると、アイテムなんか別に拾わなくてもいいからみんなと一緒に喜びたい、といった気持ちになるあの感じ。「スゴイな、このゲーム」って思いましたね。

ラー油氏:
 やっぱり雰囲気作りが上手いんですかねぇ。そういうAIの雑なところも含めて。

田口氏:
 たとえばアニメには、ある種の省略の美学がありますよね。女の子の顔の細部が省略されて美化されているから、その子に萌えるわけであって。

 人間は省略されているものを補完するのが上手いので。『地球防衛軍』も、ある種の余計なことは最初から諦めて省略されていて。その省略されている部分に関しては、こっちが勝手にドラマを作って補完しているんですよね。だからきっと、あのAIの隊員たちが同じことしか言わなくても、その隙間を自分で勝手に埋めちゃっているんでしょうね。

ラー油氏:
 先ほどのお話にあったように、建物や風景がものすごく作り込まれていたり、ものすごい数の敵が同時に出てきたりという部分にリソースがつぎ込まれている一方で、今言われたように大胆に省略されているところもあって。そのバランスの取り方というか、割り切り方が絶妙ですよね。

田口氏:
 ゲームがどんどん進化していくに従って、逆にファミコンの頃の良さがなくなっているというのを、僕も感じていて。だからこそ『地球防衛軍』が好きなのは、とりあえず撃ちゃあいいんだと。
 ファミコンの頃の、ABボタンさえあればなんとかなるゲームの雰囲気が、『地球防衛軍』にはいまだに残っていると思うんです。そういうゲームがどんどん淘汰されているなかで。

 しかもファミコンの頃のゲームのリバイバルやリメイクじゃなくて、ピカピカの新作なのにまだあの空気が残っているっていうところが、たぶん好きなんですよね。

──2Dのドット絵でそれをやるのとは違うと?

田口氏:
 そう、ちゃんと進化しているんですよ。ファミコンの頃みたいな遊び方を、プレイステーション4じゃないとできない表現で今やっているという、そういうスゴさがあるのかなと。

 僕が『コール オブ デューティ』を好きなのは、あのゲームも別に、そんなに細かいことはいらないから。もちろんグラフィックとか、デザインのカッコ良さとか、ストーリーの面白さとかも含めて、『コール オブ デューティ』が好きなんですけど。

 でも「とにかく撃ちまくれる」という意味では、ある意味『地球防衛軍』と一緒なのかなと。だから好きなんでしょうね。

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