「このゲーム、応援したい!」と思ったことはないだろうか?
単純にゲームとしておもしろく感じたり、自分好みのジャンルであるという場合もあるが、なんとなく気になって応援してしまうゲームがたまにある。
しかし、そのような感情はなぜ生まれるのだろうか。数あるタイトルのなかから「応援したい」と思ってしまう作品にはどのような特徴があるのだろうか。応援されるゲームと、そうでないゲームの違いとは?
そこで今回は「応援されるゲームの共通点」を探るべく、ふたりの開発者をお呼びした。
ひとり目は『エンダーリリーズ』『エンダーマグノリア』のプロデューサーを務める小林宏至氏。口コミで評判が広がった『エンダー』シリーズはまさに応援されているゲームと言える。
ふたり目はファンの熱量が衰えないことで知られる『グノーシア』を手がけた川勝徹氏。発売から5年の時を経てアニメ化が発表され、再び爆発的な話題を呼んでいる。
本稿では、「応援されるゲームは狙って作れるのか?」という点をテーマに、両氏の対照的なゲーム作りに対する姿勢から応援されるゲームの本質を紐解いていく。

聞き手/TAITAI
文/なからい
編集/柳本マリエ
カメラマン/佐々木秀二
計画的な小林氏と攻めの川勝氏、両氏の異なるゲームづくり
──おふたりは初対面とのことですが、ゲーム制作に対する姿勢に共通点があると思います。小林さんはゲーム作りのために10年かけてIT会社を大きくされていて、川勝さんはたった4人の開発メンバーで6000回ものテストプレイを経て『グノーシア』を生み出しています。いわゆる「普通のゲーム制作」とは違った意気込みがあると感じました。
小林宏至氏(以下、小林氏):
『グノーシア』開発チームの4人はずっと同じメンバーだったのでしょうか?
川勝徹氏(以下、川勝氏):
最初から最後まで同じメンバーで作りました。そう考えると、バンドみたいですね(笑)。
小林氏:
なかなか真似できない制作スタイルだと思います。
川勝氏:
そもそもの話になるのですが、「ゲーム制作だけでごはんを食べていこう」という考えはないんですよ。
小林氏:
それは、いまも同じですか?
川勝氏:
はい。生活のためにと思うと、よからぬ邪念がクリエイティブの妨げになりそうな気がして。お金があろうがなかろうが、僕たちはずっとこのスタンスです。それが結果として尖ったゲームになっているかもしれませんね(笑)。
──たしかに、『グノーシア』は「ひとり用人狼ゲーム」というジャンルからして尖っている作品です。
川勝氏:
プレイヤーに100回以上も人狼をやらせる企画なんて、普通は通らないですよね。でも、そうしないと得られない感動体験があると思って、覇気でゲームを作りました。
──『グノーシア』の開発期間中は、川勝さんご自身が専門学校の講師などで稼いだお金を開発費やイベントなどに充てていたとか。それをうかがったときは正直なところ「そんなことある!?」と思いました。
川勝氏:
開発の終盤は前作『メゾン・ド・魔王』の収益だけではメンバー全員の生活を賄えなかったので。
小林氏:
自分で働いたお金を開発費に充てるって、ものすごい覚悟だと思うんです。しかもそれを何年も続けられていたわけですよね。どのようにモチベーションを保っていたのでしょうか?
川勝氏:
ゲームを発表してからいろいろなイベントに参加をしていたのですが、「おもしろそう!」と褒めてくれる人もいるなかで、「本当にできるのか」と疑いの目を向けてくる人もいたんです。
僕たちとしては完成形が見えていたので、ゲームが完成すればそういったまなざしをひっくり返せる自信がありました。でも、ゲームが完成しなかったら負けたことになってしまいますし、なによりIPを完全保持したかったので、自己資金にこだわったのです。
小林氏:
では、ゲームを作り始めた当初から「これなら勝てる」という確信があったのですね。
川勝氏:
ある程度、「これでいけるだろう」と思っていました。なぜなら、4年の開発期間のなかで「我々はこういうゲームを作ります」と明言していたのに競合となるような作品が出てこなかったんです。
ということは、参入障壁が高いか、だれもできないか、やり方がわからないか。発売まで継続的に『グノーシア』の話題が何年も続いていたので勝ち筋はあると考えていました。
──川勝さんがそれだけの熱量や覚悟で取り組んでいくなか、チームのみなさんはお金をもらう側として開発していたわけですよね。そういった点で温度差のようなものはなかったのでしょうか?
川勝氏:
チームのメンバーは冷静でした。僕自身も「精神論や熱血だけではいいものはできない」と考えているタイプなので。
『エンダー』シリーズもそうかもしれませんが、繊細なゲームを作るときはできるだけ「ガラパゴス化」したほうがいいと思っていて。
──つまり、隔絶された環境下で開発をしたほうがいいと。
川勝氏:
はい。チームのメンバーもそういった自覚があって、あまり外部の情報は入れずに、4人とも自身の世界の奥底まで潜って、考え続けて作るスタイルです。そこに邪念はいらない。
──ゲーム作りに対する熱量と、実際の制作スタイルはあくまで切り分けていたということですね。
川勝氏:
イベントでファンの方からプレイした感想などをもらうのですが、そういった意見もチームには小出しに伝えていました。
僕がディレクターとして「こうしてほしい」と言ったことに懸念するメンバーがいたときには、感想を捏造して「ファンがこう言ってるんだけど」と言って伝えたこともあったりして(笑)。
小林氏:
それ、バレてないですか(笑)。
一同:
(笑)。
──往年のマンガ編集者さんのような感じですね(笑)。
小林氏:
川勝さんのお話を聞いていると、僕とは対照的だと感じました。僕は石橋を叩いて渡るタイプなので。
──でも、小林さんの「ゲームを作るためにIT会社を10年かけて成長させる」というのも、かなり変わっていると思います。
川勝氏:
ゲームを作るために何年もかけて会社を大きくするなんて、すごい胆力ですよ。
小林氏:
たしかに、普通だったらそんなやり方はしないかもしれませんね。でもこれは川勝さんも同じだと思いますが、「自分がやりたくてそうなった」というだけなんです。
川勝氏:
そうなんですよ。わかります。
キャラの身長を間違えて等身大パネルを作成してしまう
──本日は「応援されるゲームにはどんな要素があるのか」といったことについてお聞きしていきたいのですが、おふたりは「応援されるゲーム」にはどんな共通点があるとお考えですか?
小林氏:
ひとつ言えるのは、初期についてくれたファンの方ってタイトルが大きくなっても応援してくれますよね。「売れてないときから知っていた」といった感じで。
川勝氏:
そうですね。ずっと作品を大事にしてくれます。
小林氏:
そういえば『エンダーマグノリア』は、リリースしてすぐに敵の弱体化をしたんです。すると、「俺たちは弱体化前に倒したぞ」という方々がいらっしゃって。僕自身も『エルデンリング』で同じことを言っていたなと思いました(笑)。
──弱体化に対して不満を言うというよりは、弱体化前からプレイしていたことに価値を感じてもらえたんですね。
小林氏:
また、『エンダーマグノリア』は長い期間アーリーアクセスをやっていたのですが、改良を重ねた結果、アーリーアクセスでプレイ可能だったパートにも大きく手を入れる決断をしたんです。
製品版では、チュートリアルムービーの追加やアイテムの配置変更、マップ表示の調整、各演出の見直しなどを行いました。そのため、アーリーアクセスを体験された方にも製品版では改めて最初から本作をプレイしていただきたく、セーブデータの引き継ぎを行わない判断をしたんです。
──アーリーアクセスはあくまでアーリーアクセスですから、製品版とは切り離して考えても不思議ではありませんね。
小林氏:
はい。とはいえプレイヤーの皆さまにご不便をおかけしてしまうので声明を出しました。正直なところ怒られるのではないかと思っていたのですが、世界中の反応が好意的だったんです。
【重要なお知らせ】
— ENDER MAGNOLIA【日本語公式】 (@EnderLilies_JP) December 23, 2024
「ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist」アーリーアクセス版をプレイしていただいた皆様へお知らせがございます。
詳細は添付画像をご確認ください。#エンダーマグノリア #EnderMagnolia #エンダーリリーズ #EnderLilies pic.twitter.com/0qxFy9mmbl
──ネガティブに捉えられかねない情報も、「おもしろいゲーム」を追い求める開発の姿をきちんと発表したことでかえって信頼を得たと。
小林氏:
変に取りつくろったりするより、きちんと正直に発表したほうが応援してもらいやすいということをそのときに感じました。
川勝氏:
それでいうと前に電ファミさんのインタビューでもお伝えしたのですが、『グノーシア』は「人狼を100回以上も繰り返しプレイする」というクリアしたときのカタルシスを感じてもらうため意図的にループ体験をするようなデザインになっています。そのうえで「いかに信頼してもらってゲームを遊んでもらうか」ということを意識しました。
それと同じようなことを、ゲームの外側でも行っているということですよね。
小林氏:
まさにそうですね。
川勝氏:
「きちんと発表」というところでひとつ思い出したエピソードがあるのですが、昨年『グノーシア』のポップアップショップを開催したときに、キャラクターの等身大パネルの展示も行ったんです。しかし、人気キャラクターである「沙明」の身長を5センチほど低く間違えて展示してしまって……。
小林氏:
それはかなり大変なミスじゃないですか(笑)。
川勝氏:
SNSなどでも「沙明ってこんなに身長が低かったんだ」「かわいい」といった反応が見られて。アニメ化の発表も控えていたため急いで修正してもらいました。そのうえで、身長のミスについて謝罪をしたのですが、
【お詫び】
— グノーシア公式 (@gnosia_off) November 30, 2024
沙明の身長表記ですが、168→173センチの間違いでした。本日中にPARCO様に修正頂く予定です。本当にごめんなさい(めづかれ)
「沙明なら身長の数字も適当に答えていそう」とか「沙明が公式アカウントで謝罪をさせている」といったように、原作の沙明のキャラクター性と一緒に享受されるような受け取り方をしてもらえて。
これって、僕たちクリエイターがどうこう言っているわけではなくて「キャラクター自身がプレイヤーのなかで生きている」ということだと思いました。
小林氏:
なるほど。そういう意味だと、開発者はあまり顔を出さないほうがいいかもしれないですね。
川勝氏:
いや、でも代表の顔を出すのも一理あります。「だれが責任者なのか」をはっきりさせるのも重要なことかと。
僕も最初は「めづかれ」というハンドルネームで活動していたのですが、途中からフルネームを公開するようになりました。メディアなどに出たときに「謎の素性の知れない人物」と思われるのが性に合わないなと。
顔と名前を出すことで、作品に対しての責任感が出ますしね。あと、僕の好きなクリエーターはフルネームの方が多かったですし。
小林氏:
そうですね、それに関しては僕も同じ考えです。僕も当初は顔出しをしていなかったのですが、昨年から顔を出すことにして、イベントなどにも積極的に参加するようにしました。
顔と名前が一致してシンボルとして認識されないと、会社にとってもゲームにとっても責任の所在がわからない状態になってしまいますから。その状態で露出を増やしてもあまり意味がないと思いました。
「心配されがちなポジション」が応援されやすい?
──『グノーシア』はPS Vita本体の出荷終了後に発売されたにもかかわらず、ファンの方の熱量がすごかったと思います。そのあたりはどのように分析されていますか?
川勝氏:
そもそもハードが出荷終了しているので、なかなか遊べないという状況でしたね(笑)。
小林氏:
本体の出荷終了後のPS Vitaで発売したのは、なにか理由があったのでしょうか?
川勝氏:
それに関しては、単純に開発に時間がかかりすぎてしまったんです(笑)。PS Vitaというハードはアドベンチャーゲームが好きなユーザーさんが圧倒的に多かったので、その層に向けて開発していたのですが、結果として時間がかかりすぎてしまいました。
ですので、このネガティブな状況を逆張りにできないかと戦略を見直し、ユーザーさんにとって興味深いポジティブなプロモーションに変えていきました。
──ちなみにPS Vita版の『グノーシア』って、どれくらいの本数が売れたのでしょうか?
川勝氏:
PS Vita版は当時の累計で約1万5000本ほどですね。
小林氏:
その時期のPS Vitaでその本数はすごくないですか?
──発売時期に対する本数としてすごいのもそうですが、逆に「1万5000本の売り上げに対して、あれだけ大きなファンの熱量があったのか」とも感じます。すごく純度の高いコミュニティですよね。
川勝氏:
2025年で例えると、いまこのタイミングでニンテンドー3DS向けにゲームを出すようなものですからね(笑)。「これはちょっとおかしいぞ」ということで、一部のユーザーさんが盛り上がったというのはあるかもしれません。PS Vita版での熱狂が翌年のNintendo Switch版リリースで一気に爆発した印象です。
──こういった「応援される」というニュアンスは、小規模開発やインディーゲームでは非常に重要なことだと思うんです。大作ゲームを遊ぶときなどはハリウッド映画を見るような期待感で購入すると思うのですが、インディーゲームを買うときはそれとは違った「応援する気持ち」のようなものが乗っていると感じます。
小林氏:
たしかに。AAAのゲームなどを買うときはハリウッド映画を見に行くような感覚で買うかもしれません。
──そういった「応援する気持ちになるゲーム」や「応援してもらうためにはなにが大切なのか」といった点について、川勝さんはどうお考えですか?
川勝氏:
う~ん、それはやっぱり “儚さ” ではないでしょうか。
──えっと、儚さですか……? それはどういうことでしょう……?
小林氏:
もしかして、会社が儚げということですか?
川勝氏:
そうですね。「ゲームを作る組織そのものが、いつ終わってもおかしくない」という感覚です。『グノーシア』もプレイヤーさんからすると「えっ、このゲームたった4人で作ってるの?」や「この人たち、こんな作り方をしていて生きていけるの?」というような見え方をしていたと思うんですよ(笑)。
一同:
(笑)。
──なるほど、はたからみて「この人たちはこんな開発体制で大丈夫なんだろうか」と感じる危うさというか。そう思わせるほど深くこだわることが、ゲームを通してプレイヤーにも伝わるということですね。
川勝氏:
はい。そういったクリエイターの資質や思想のようなものが、ゲームの中にもリンクしてくると思うんです。こだわりの狂気と異常性みたいな作り手のパーソナルな部分が「こいつらは危ういから、もうちょっと応援してあげようかな」といった気持ちになってもらえたのかもしれませんね。
小林氏:
心配されがちなポジションみたいな(笑)。
川勝氏:
そのうえで「アニメ化するなんてここまでの応援が実ったんだな」と、ファンの皆さんとここまでたどり着いた喜びを分かち合いたい。
──お話を聞いていて、ヴァニラウェアの『十三機兵防衛圏』が思い浮かびました。いまでこそ100万本以上を売り上げているタイトルですが、発売当初はその完成度に対して奮わなかったと思います。川勝さんのおっしゃる「応援したくなる儚さ」があったかもしれません。
小林氏:
それでいうと応援してもらいやすいゲームの絶対条件として、「本当にその人たちが好きで作った作品」というのはあると思います。
川勝さんのゲームもそうですし、まさにヴァニラウェアの神谷(盛治)さんもそうですし、うちもそれを目指しているところではあるのですが。
「この人たちは本当にこういったゲームが好きなんだな」という雰囲気がトレーラームービーなどから漏れ出していて、思わず心配になってしまうくらいのこだわりみたいなものがあると「応援したくなる」ということなんでしょうね。
──それでいうとヴァニラウェアは「成功しているにもかかわらず儚さを感じる」というのも特徴的ですよね。出しているタイトルは成功しているのですが、そのうえで作品毎に狂気的なチャレンジを重ねているので、毎回「外したらやばそう」という危うさを感じるんだと思います。
小林氏:
たしかに。すでにヴァニラウェアのブランドは強固なものになっていますが、毎回本当に真剣勝負をしていくという。しかし、あの姿勢が応援されるポイントになっているのだとしたら、計算して真似できるものではないですね。