『十三機兵防衛圏』……間違いなく傑作。同時に間違いなく「狂気の作品」である。
そして、これこそがまさに「クリエイティブの結晶」だ。
ゲームをプレイしていて、ここまでの感想を抱くタイトルは、数年に一度あるかないかだと思うが、本作は、明らかに“そういう類のなにか”である。よく出来ているとか、ストーリーが良いとか、単純にそういった言葉だけでは片付けられないなにかが、本作をプレイしていると、ひしひしと感じられる。
いや、ヤバいですよ、これは。マジで。
というわけで、本稿では、そんな『十三機兵防衛圏』の魅力を、その凄さを、なんとか解説してみたい。また同時に、その「凄味」の正体がなんであるのか。
なぜこれが「狂気の作品」で、「クリエイティブの結晶」だと言えるのか? そんなところを説明できればと思う。
なお、できればこの記事をキッカケにいろいろな人に作品を知ってもらって、少しでも売上に貢献できればとも思っているので、今回はネタバレはなしでいきます。
文/TAITAI
尋常ならざる“こだわり”を貫き通した作品
まずは、本作の概要を簡単に説明しておこう。
『十三機兵防衛圏』は、『オーディンスフィア』や『朧村正』『ドラゴンズクラウン』など、職人芸の域まで研ぎ澄まされた美麗な2Dグラフィックスで知られるヴァニラウェアが開発を手掛けた、SFアドベンチャーゲーム。古くは『プリンセスクラウン』などで名を馳せたクリエイター・神谷盛治氏がディレクターを務める最新作である。
主な舞台は、1985年の日本。突如出現した“怪獣”によって崩壊していく世界を救うため、13人の少年少女たちがそれぞれの視点&立場で、大型ロボット兵器である“機兵”に乗り込み、怪獣との戦いを繰り広げていく。
本作は、全部で3つのパートで構成されており、ゲームのメインとなるのは、各キャラクターを操作して物語を進めていくアドベンチャーパート“追想編”と、シミュレーションバトルパートの“崩壊編”の二つ。
もうひとつのパートである“究明編”は、追想編、崩壊編ふたつを進めることで開放されていく、アーカイブ的なパートとなっている。
特筆すべきなのは、アドベンチャーパートである“追想編”が、ヴァニラウェア謹製の美しいサイドビューのビジュアルで描かれている点だろう。背景の美しさはもちろんだが、各キャラクターのアニメーションも非常に丁寧に作られており、主人公たちが繰り広げる“演技”を見ているだけでも、かなり面白い。
というか、アドベンチャーパートだけで30時間近くになるであろう本作の重厚な物語を、このスタイルで描き切っているのが、もう凄いと言わざるを得ない。
なぜなら、普通のアドベンチャーゲームだったらテキストだけで表現するような箇所も、すべて2Dのキャラクターたちによる“動き”で表現しなければならないからだ。それを「ヴァニラウェアらしい滑らかなアニメーション表現で」ともなれば、作るのに相当な手間暇がかかることは想像に難くないだろう。
しかも、恐ろしいことに、各シーンの演出──画面のカメラワークだったり、キャラクターの細やかな動き(演技)──のいっさいを、ディレクターである神谷氏がほぼ一人で、しかも制御スクリプトを手打ちすることによって作り上げているというのだから、本当に驚きである。
この21世紀に、Unityなどのゲーム制作ツールが普及しているこのご時世で、だ。業界人であればあるほど、「いや、おかしいでしょ。その作り方は…」と思わざるを得ない(いや、業界人でなくてもか)。
もちろん、そうしなければならない理由や経緯【※】はあったにせよ、ここだけでも、ヴァニラウェアの、神谷氏の尋常ならざる“こだわり”が伺える話ではあるだろう。
とんでもない「挑戦」をしでかしている本作のアドベンチャーパート
物語が断片的なエピソードの集まりによって描かれていくのも、本作の大きな特徴だ。
プレイヤーは、13人のキャラクターたちの視点を自由に行き来しながら、10分程度の短いエピソードを読み進めていくのだが、エピソードの時代も時系列もてんでバラバラ。その断片的なシナリオをプレイヤー自身が頭の中で整理し、つなぎ合わせていくことによって、徐々に物語の全貌が分かってくるという構造になっている。
これは、「アドベンチャーゲームの進化の歴史」という観点から見ても、かなり新しいし、異質な形だろう。もしかしたら、アドベンチャーゲームのまったく新しい「新種」なのでは?と思うほどだ。
どういうことか? 簡単に説明すると、小説や映画などの物語が「直線」だとすれば、『かまいたちの夜』以降のサウンドノベルは、それを「フローチャート型」にする──横に広げる──ことによって、物語のありように革新をもたらした。小説や映画では絶対できないストーリーテリングの可能性が、ゲームという媒体の登場によって発明された……という話である。
一方で、本作の物語は、直線型でもフローチャート型でもない、多層型(立体的)とも言うべき構造になっており、その各層が密接に絡み合うことによって、物語を理解していく楽しみ、深さを作り上げている。これはおそらく、今までのゲーム……というか、他のあらゆる媒体の事例を踏まえても、なかなか例がない形なのではないだろうか?
これは、単純にストーリーテリングのあり方だけをとってみても、本作がとんでもない挑戦をしている作品だということを意味している。
加えて、この多層的な物語構造と、細かいエピソードの集まりで展開されるというシステムが、なんとも相性がよくマッチしているのも奇跡的である。
10分程度で展開される各エピソードを見るたびに、新しい発見や驚きがあり、それでいて、多くのエピソードの終わり方が、続きが気になるような「引きのある終わり方」をしており、テンポよくどんどんと先に進めたくなってしまう中毒性を生み出している。
複雑に絡み合う人物、事件をいったいどうやって整理してまとめていったのか? どういう脳みそをしていたらこんなものが作れるのだろう? と不思議に思えるくらいなのだが、この仕組みも神谷氏が構想して、自身の手で作り上げていった(文字通り、自分でシナリオを書きながら)というのだから、いろいろな意味で驚嘆せざるを得ない。
さらに、改めていうが、この複雑で多層的な物語を、全編(手間のかかる)サイドビューの2Dグラフィックス&アニメーションで表現しているのだから……なんともはや。本作がいかに狂気的な作品か、お分かり頂けるだろうか。
正直な話を言うと、最初の数時間は、物語がやや複雑で全体の輪郭が見えにくく、ちょっと戸惑ったところはあるのだが、それが中盤ともなると、次から次に出てくる驚きの展開、気になる謎の数々に、一気にのめり込んでしまった。
ストーリーの中身については、ネタバレになるので多くは語れないが、「とても面白い」とは明言しておきたい。この時代に、ゲームでここまで本格的なSFを楽しめるとは! というのが素直な感想だ。
それでいて、あらゆるSFネタのオマージュも散りばめられており、ちょっとした小ネタにいちいちニヤニヤしてしまうし、80年代の空気感の表現も秀逸。そこにさらに、青春ジュブナイル群像劇という甘いクリームをたっぷり盛り付けた! ──そんな内容に仕上がっている。
……うんまぁ、自分で書いていても「なんだかよくわからない説明だな」とは思うわけだが、実際に「好きなものてんこ盛りな闇鍋」な内容なのだから仕方がない。
いやでも、これがなぜかとても美味しいから説明に困るわけだけど。
物語を「体験」できるからこそのゲーム表現
バトルパートである”崩壊編”は、まるでロボットのコンソールモニタ画面を彷彿とさせるような、抽象的なグラフィックスのRTS(リアルタイムストラテジー)となっている。
アドベンチャーパートに比べると、こちらはかなり割り切って作られているという印象で、自キャラも敵キャラも、簡易的なポリゴンで描かれているのが特徴。見た目的に言えば、正直、昨今のゲームの中では見劣りするところもないとは言えない。
しかし、じゃあ「つまらないのか?」といえば、答えはノーで、これがなかなかに面白い。アドベンチャーパートの出来が秀逸なせいもあるのだろうが、抽象表現になっていることで逆に脳内再生がバッチリというか、無数の怪獣が押し寄せる絶望的な状況! というシチュエーションに、存分に没頭できるものに仕上がっている。
細かいシステムの解説はここでは割愛するが、圧倒的な物量の敵が押し寄せる絶望感を「体験」させる表現として、本作のバトルパートは大変よく作られており、加えて先ほど説明した物語の多層構造のうちの“一つの層”を、このバトルパートがきちんと担ってもいる。
そのせいか、アドベンチャーパートと交互に遊んでいてもあまり分断された感じがしなかったのは、個人的にはかなりの高評価である。
随所に見られる本作の「ゲーム」としての質の高さ。テンポの良さについて
ちょっと脱線気味となるが、随所に見られる「ゲームとしての質の良さ」についても、少し触れておきたい。
物語や映像の美しさに目が奪われがちな本作だが、それをストレスなく楽しめる配慮、工夫が随所に散りばめられているのも、この『十三機兵防衛圏』という作品の見逃せないポイントだからだ。
一番大きなところでいえば、アドベンチャーパートとバトルパートを完全に分離させたのは英断と言わざるをえない。こちらのインタビューを読むと、当初は物語の合間にバトルが挟まる形を想定していたようだが、もしそのような形だったら、ゲームのプレイ感は大きく違ったものになっていただろう。
また、細かいところで言えば、セリフやボイスの短さ(区切りの良さ)も、本作の中で光る配慮の一つだろう。というのも、例えば、フルボイスのADVなどで、面倒で音声を聞かずにスキップしてしまうような経験を、皆さんはお持ちではないだろうか? その煩わしく感じて思わずスキップしてしまう感覚が、本作にはあまりないのである。
セリフ自体が非常に短いセンテンスでまとめられていることはもちろんだが、おそらくは、その短い中でもさらに音声を細切れにして、ボタンを押してスキップするときの間隔を短くしていることで、この小気味よさやテンポの良さを演出していると思われる。
どんなものかが想像しづらいという方は、『ドラゴンクエスト』のテキスト表示(音も含めた)や、『逆転裁判』における効果音と共に演出されるテキスト表現を想像してみると分かりやすいかもしれない。それらの作品は、ただ文字を読むだけではない、ボタンを押して次に進めていく気持ちよさやテンポ感を、ああいう形で作り上げているわけだが、本作にも、それに近い配慮がなされているという話だ。
ゲーム全体を見渡してみても、1エピソードが10分程度、バトルパートもせいぜい数分で終わるなど、とにかくゲームの「テンポ感」「プレイするリズム感」みたいなところは、ヴァニラウェアがゲームを作るうえで、かなり重視していることが見て取れる。
これは、細かいところかもしれないが、「デジタルゲーム」の本質的な気持ちよさをきちんと分かっていないと、なかなかできない配慮の一つ。基本中の基本かもしれないが、なればこその部分でもある。
ただ物語が面白い、映像が凄いというだけではない。本作は、そういうベーシックな「ゲームとしての質の高さ」に支えられている作品でもあるのだ。
「クリエイティブ」の結晶がここにある!
さて。ここまでの稿で、本作がいかに挑戦的かつ素晴らしい内容かを解説してきたわけだが、この作品の真の凄味は、それらの要素すべてが開発者の異常なまでの情熱──もとい“執念”でもって作り上げられているという点であろう。
実際にゲームを遊んでいれば感じられるのだが、このタイトルの凄さは、本当の意味で「全部盛り」であるということだ。一切の出し惜しみなし。
本作は、神谷盛治氏というクリエイターが好きなもの、良いと思うものをすべて詰め込んだ、溢れ出さんばかりのおもちゃ箱のような作品である。
プロデューサーを務めたアトラスの山本晃康氏も、ファミ通によるインタビューにおいて、以下のように答えている。
『十三機兵』は、神谷盛治というクリエイターがこれまでに出会って惹かれてきた、さまざまなコンテンツが織り込まれたモザイク画のような作品です。
まさに、まさに。
本作は、神谷盛治氏というクリエイターの人生を詰め込んだゲーム、といっても過言でない。
商業のタイトルで、しかも集団制作物であるゲームというメディアで、ここまで作家性が溢れ出ている作品が、いったいどれほどあるだろうか? こんな作品が、この時代にこの完成度で出てきたこと自体、かなり奇跡的なことだと言わざるを得ない。
企画段階からすると約6年。実制作期間も実に4年以上と、昨今の商業タイトルのなかでもかなりの時間と手間暇をかけて作られているタイトルだ。
2017年の時点でTGSに出展していたことから考えても、それほど大規模な開発体制ではないにせよ、開発コストも当初の想定を遥かに上回るものになっていたことは想像に難くない。
ただでさえ、家庭用ゲーム機はビジネスが難しいこのご時世である。
開発中には、あらゆるプレッシャーやストレスが、ディレクターである神谷氏を襲ったことだろう。正直なところ、筆者としても、その経過を傍から見ていて、本作がここまでの完成度で仕上がってくるとはまったく思っていなかったことを、いまここで白状する。
しかし。そんな数多の困難を乗り越えて、本作は「傑作」といっていい内容で完成した。
本作はいま、セールス的にはちょっと苦戦していると聞く。80年代の日本が舞台? ハードSF? 重厚なストーリー? 青春ジュブナイル? 昨今のマーケティング目線で見れば、これら本作の売りとなる要素は、必ずしもプラスの要素ではない──ヘタをしたらニッチなイメージを持たれてしまう要素であるのかもしれない。
売れ線という意味では、確かに少しハズれているのかもしれない。
でもね。一方で、さまざまな取材を経てきて、筆者が確信をもっていることがある。
それは、「本当に素晴らしいもの」は、そんなマーケットイン的な発想からは出てこないということである。クリエイターが「作りたいもの」「作れるもの」に真剣に向き合ったときにこそ、煌めくような作品は生まれてくるのだ。
その意味でも、『十三機兵防衛圏』は、神谷盛治氏というクリエイターの、そしてヴァニラウェアというゲーム制作集団の作り上げた、まさに“結晶のような作品”である。
このような作品がちゃんと評価されて、もっともっと売れてほしいと、一人のゲーマーとしても願うばかり。というか、そもそも自分がゲームメディアで仕事をしているのも、「こういうゲームを、クリエイターを応援したいからだった」と、自分自身の原点を思い起こした次第。
そんなわけで、本稿を勢いに任せて書いてみました……! というところで、今回は筆を置きたいと思う。
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