『グノーシア』デザイナーによる “無償の愛” のお返し
川勝氏:
『エンダー』シリーズのファン層って、男性と女性ではどちらが多いですか?
小林氏:
男性のほうが多いと思います。
川勝氏:
そうなんですね。印象として『グノーシア』は6割くらいが女性で、20代の方が多いかな。
小林氏:
うちは逆に7割くらいが男性で、30代半ばの方が多いですね。
──先ほど「PS Vitaはアドベンチャーゲーム好きのユーザーが多かった」というお話がありましたが、そういう点でも女性ユーザーが多いハードでしたよね。
川勝氏:
たとえば2月のバレンタインデーになると、ファンの方から『グノーシア』の乗員に向けてプレゼントを贈ってくれたり、SNSでイラストやメッセージなどをアップしてくれたりして。
小林氏:
ええっ、無償の愛ですね。
川勝氏:
すごく熱心なファンのなかには、そういったことをしてくれる方もいるのです。
──そういったファンの方々に対しては、SNSなどでリアクションをされたりするのでしょうか?
川勝氏:
ホワイトデーに合わせてうちのデザイナーはだれに頼まれることもなく、毎年記念イラストをアップしていますね。好きでいてくれるすべてのグノーシアファンの方に無償の愛のお返しといいますか。「いつもありがとう」と、そういう気持ちですね。日々、定期的に感じたことは言葉ではなくイラストで伝える。ファンもデザイナーも優しい人たちなんですよ。
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──なるほど、「もの言わぬコミュニケーション」ですね。直接言うというよりは、キャラクターや作品の文脈を通したユーザーとの交流になっていると。
先ほど儚さや危うさを感じると応援されやすいという話があったと思いますが、『エンダー』シリーズにしても『グノーシア』にしても「作品自体のファン」と「スタジオに対するファン」がいらっしゃいますよね。その違いであったり、接し方についてなにか意識されている点はありますか?
川勝氏:
僕らは人数の規模が少ないので、クリエーターの属人性を大切にしています。バンドのようにギターやベースなどそれぞれのパートがあって、個々で動いていった結果として4人がグループになってブランドになっているのかもしれませんね。
小林氏:
会社とゲームでいうと、どうしてもゲームタイトルのほうがファンはつきやすいと思うのですが、そこを超えて会社名を覚えてくれる方というのは、大切にしなけれないけないファン層だと思います。
たとえば『エンダーマグノリア』のXアカウントと、スタジオであるバイナリ―ヘイズのXアカウントではフォロワー数もぜんぜん違ってくるのですが、特にキャンペーンも行っていないのにバイナリ―ヘイズのアカウントをわざわざフォローしてくれている人がいるというのはうれしいことです。
気持ちとしては最後には会社やチームを愛してほしいなと思いますね。
バイナリーヘイズには世界観だけ完成しているゲームが1本ある
──ここからはもう少し具体的なゲーム作りに関してお聞きできればと思います。川勝さんは『エンダーマグノリア』をプレイされてとても感動されたとおっしゃっていましたが、どのあたりが響いたのでしょうか?
川勝氏:
大きく分けてふたつあるのですが、まずひとつは「徹底的にテストプレイを重ねたんだろうな」と感じる点です。かなりユーザー寄りの目線で作られているゲームだと感じました。
小林氏:
ありがとうございます。続編にあたる『エンダーマグノリア』では特にそれを意識しました。
川勝氏:
プレイしていると、ほしいときにほしいものをくれるんですよ。「ここで新しい武器がほしいな」とか「ここでなにかイベントが発生したらいいな」と思ったまさにそのタイミングで期待したものが出てくる。それがとてもスムーズなんです。
──プレイ中の期待感に合わせてドンピシャでゲーム側からのリアクションがあることから、プレイヤー目線のテストプレイを徹底したのではないかと感じたわけですね。
川勝氏:
あとは「余計なことを語らない」点もよかったです。『エンダーマグノリア』は2行くらいのセリフでテンポよく進んでいきますよね。あれがすごくいいなと思いました。
さらにすごいと思ったのは、ファストトラベルの演出です。ファストトラベルって、普通にワープをするだけで要件は満たしていると思うのですが、『エンダーマグノリア』はそこにあえてストーリーと絡んだ演出を入れているんです。そういった、「ゲームの要素すべてが世界観に則っているところ」に感動しました。
小林さんはもともとデザイナー出身とうかがっていたので、そういったところは徹底されているのかなと思いました。でも、そんなゲームってなかなかないと思います。
小林氏:
ありがとうございます。いまどきのゲームって、同じジャンル内での後発であれば、世界観の部分で興味を持ってもらえないと難しいと思っていて。
雰囲気や世界観を重視したゲーム作りをするというのは、我々が社是として掲げているところなので、そこは『エンダーリリーズ』のころからずっと意識をしていました。そこを川勝さんに感じ取ってもらえたのであればうれしいです。
川勝氏:
キャラクターの絵や動きなどもすごく細かく作られていて、めちゃくちゃいいと思いました。
小林氏:
そのあたりはアニメーターがこだわってくれた部分になります。「そのモーション、もう完成してなかったっけ?」みたいな部分をずっと調整しているんです(笑)。
でもそうやって調整を重ねていくことで「なんだか鎌の振り方が前よりよくなったよね」と、どんどんブラッシュアップされました。最初に掲げていた「世界観を大切にする」というビジョンがチームに浸透してくれた部分だと思います。
川勝氏:
フォントひとつをとっても、世界観ととてもマッチしていますよね。
小林氏:
細かいところまで見ていただきありがとうございます。会話のフォントは、最初はもっとエフェクトがついていたんです。たとえば、かすれた声で話しているのがわかるように、フォントもかすれさせてみたり。でもそれだとあまりに読みづらいのでやめました(笑)。
そういった感じで演出として試してみて、ユーザビリティの観点からやめたものなどもありました。
──川勝さんのおっしゃる通り、世界観をシステムにまで馴染ませるようなゲームって、とくに海外のゲームでは案外少なくて。ゲームオーバーになったらただ「GAME OVER」という表示が出てリセットされるだけのものが多いですよね。「ゲームだから」という割り切り方をしている作品が多いように感じます。
反対に、たとえば『エルデンリング』であれば、主人公が「褪せ人」であるという設定によって、死んでも復活することについて世界観の面から説明づけがされています。そこまで意識して作品を作り込むというのは、日本のゲームの傾向としてあるかもしれませんね。
小林氏:
たしかに日本のゲームはそういった設定周りを気にする傾向があるかもしれません。
『グノーシア』もそうですが、たくさん出ているインディーゲームの中で目立っているものって、やっぱりまず世界観で「おっ」と思う作品な気がしています。
──たしかに。Steamなどのストアでもたくさんのゲームが並んでいる中で、パッと見ただけで遊んでみたくなるような雰囲気づくりはとても大切だと感じます。
小林氏:
僕らはまず雰囲気に興味を持ってもらえるようなゲーム作りから入っています。ゲームデザインよりも前に、先に世界観から作ってしまうので、いまうちには開発に着手していない、世界観だけ完成しているゲームが1本ありまして。世界観は定まっているのに、なんのジャンルにするかも決まっていないんです(笑)。
川勝氏:
でも、そういったところが大事ですよね。
小林氏:
開発するうえでも、そのほうがチームにビジョンを伝えやすいというメリットもあります。『エンダーリリーズ』のときも開発初期にチームが迷走していたとき、僕と一緒にファーストルックをきちんと固めるということをしたんです。それからは「こういうゲームを作ればいいんだ」という考えが定まって、リテイクの回数が大幅に減りました。
なので、ファーストルックを含めた世界観にまず取り組むことをいつもやっていますね。そうすると、先ほどのファストトラベルに関しても「犬に乗った方がよくない?」「犬に乗るんだから降りたあとには頭をなでるよね」といった発想で、自然とアイディアが生まれました。

──以前、弊誌で『エンダーマグノリア』ディレクターの岡部さんと『ニーアオートマタ』のヨコオタロウさんの対談を行ったときも似たようなお話をされていました。「昔はゲームシステムのデザインから取り組むことが王道とされていたけど、いまはビジュアルや世界観から作るアプローチもある」と。
小林氏:
そうですね。僕たちは間違いなく後者のパターンで作っています。でも、ゲーム作りにはいろいろな正解があると思うのでそれが必ずしも正しいわけではありません。僕がたまたま絵作りから入るタイプの人間だったので、結果としてそうなったという側面もあります。
──そのときの対談で話題にあがった『ICO』や『ワンダと巨像』の上田文人さんも、まず最初にコンセプトムービーを作り込むんだそうです。小林さんも感覚としてはそれに近いのでしょうね。
小林氏:
そう言われるとうれしいですね(笑)。でもたしかに、ゲームのトレーラームービーはすべて僕が編集しています。
川勝氏:
ええっ、それはすごいですね!
──プロデューサー自らトレーラーの編集をされているというのは意外ですね。人に任せてしまいがちな部分のように感じます。
小林氏:
トレーラーって、ゲームを買う前に最初に注目するポイントだと思うんです。「どういう雰囲気で、どういう情報があって、どう見せたいか」というのが如実に出るので、僕はトレーラーもゲームの一部だと思っています。なので、なかなかまだ人に任せたくない部分になりますね。
あと、トレーラーに関しては「嘘をつきすぎてはいけない」とも思っていて。ゲームを遊んだときに「トレーラーの通りだったね」というものがいいトレーラーだと思うんです。ネタバレを抑えつつ、わくわくしてもらえるように意識しています。
川勝氏:
ゲームを買おうと思っている方がトレーラーを見たときに、「少なくともこれくらいはおもしろいだろう」という想像をするはずなので、最低限それを超えるようなゲームにしないといけないですよね。
その点、『エンダーマグノリア』は本当に見た目以上のおもしろさでした!
小林氏:
ありがとうございます。
川勝氏:
そういえば、『グノーシア』も『エンダー』シリーズにも、キャラクターボイスって入っていないですよね。ボイスがない分、世界観とあいまって想像力が高まります。
小林氏:
そうなんですよ。『エンダーマグノリア』のときには「ボイスを入れるかどうか」の議論がありました。予算的には入れようと思えば入れられたのですが、だれかが声を当てることで「それが正解」になってしまうと思うんです。
──なるほど。プレイヤーのなかで想像する余地を残すために、あえてボイスはなしにしたと。
小林氏:
声優さんの力って本当にすごくて、よくも悪くもキャラクターに命が吹き込まれてしまいます。前作の『エンダーリリーズ』にボイスがなかったことも踏まえて、『エンダーマグノリア』でもボイスはなしにする決断をしました。
なので、予算の問題以外にもボイスがあったほうがいいゲームとそうでないゲームというのはあると思います。
そのぶん、音楽グループ「Mili」さんにご協力いただき、耳に残るBGMをたくさん作っていただきました。
川勝氏:
『グノーシア』もゲームにはボイスがついていないので、今回のアニメ化にあたっては「だれが声優を務めるんだろう」といった期待感で話題になった側面はありますね。
『グノーシア』のアニメ化は3年間ディスカッションを重ねた
──ここからは先日発表されたアニメ版『グノーシア』についておうかがいさせてください。アニメ版は製作委員会に加わり、プロデューサーとして携わっていらっしゃるそうですね。
小林氏:
ゲームの『グノーシア』はプレイヤーさんによって体験が異なるマルチシナリオ的な側面があるため、それをアニメ化するとなると「正史」のような扱いにもなりかねないと思います。映像作品を作るうえで、そういった点にどうやって折り合いをつけられたのでしょうか?
川勝氏:
それについては、ゲームを発売してからいままでの5年間で、『グノーシア』はプレイヤーの体験によって作品から得る印象や見え方も異なってくる作品であるということを発信してきました。
アニメ化にあたってひとつのストーリーが示されたとしても、それは数ある世界線のひとつであって、あくまで「あなたが感じたゲーム体験を大切にしてね」ということを伝えてきたつもりです。なので特に心配していませんね。他者のプレイを見ているような感覚で、アニメも楽しんでもらえるかなと。
──アニメ版が「正史」になるわけではなく、それもまた数多ある世界線の中のひとつのお話だということですね。
川勝氏:
そうですね。アニメをそういった位置づけにしてしまうと、これから先の作品としての展開もどんどん窮屈になってしまうので。様々な世界線を共有して拡張するのが『グノーシア』の宇宙なので。
──そういったアニメ化に際しての切り口は、最初から川勝さんのなかに着想としてあったのでしょうか? それとも、アニメ化が決まってからのディスカッションなどでたどり着いたのでしょうか?
川勝氏:
後者ですね。アニメ化のオファーをいただいたときは「本当にできるのだろうか」と思いましたから。でも考えてみたらゲームも同じような状況だったわけで、不安は期待の裏返しと言いいますか、経験済みです(笑)。プロデューサーとしては再び心が燃えるプロジェクトですね。
『グノーシア』をプレイされた方なら「どこまでゲームが再現されてどういった決着になるのか」「アニメの話数で物語を終わらせられるのか」「あんなに展開の変わるゲームの話をどうやって1本のストーリーにするのか」「声優さんはだれが務めるのか」といった疑問はどうしたって生まれると思います。
そのため、アニプレックスのプロデューサーさんを中心に脚本家の方やスタッフの皆さんと3年ほどかけて制作しながら徹底的にディスカッションをしていまして、今回のアニメの続報にワクワクしてもらえると嬉しいです。
<関連記事:3月16日発表予定のアニメ版『グノーシア』続報記事>
小林氏:
ゲームを作る側としておうかがいしたいのですが、『グノーシア』のゲームファンがこれだけいらっしゃるなかで映像作品を作るのはなかなか勇気がいることだと思うんです。アニメ化をご決断されるにいたるまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか?
川勝氏:
きっかけはオファーでした。ただ、小林さんのおっしゃる通り、なにもないところからいきなりアニメ化してしまうと、ゲームファンの方々にとっては違和感が残ると思うんです。
『グノーシア』は2019年に発売されてから5年間、原作のグッズ展開やさまざまなメディアミックスを重ねてきました。しかしながら、原作のデザイナー「ことり」がすべてを担当するのではなく、ほかのデザイナーさんからみるグノーシア世界の表現ということでご協力いただいています。
なので、基本に『グノーシア』の世界観を踏襲したうえで、それを拡張していくようなイメージでこれまでの原作グッズの展開などがあり、その延長線上でアニメ化の実現にいたります。
──なるほど。そもそもこれまでのグッズ展開も「ゲームとは異なる世界線」の布石のようなかたちになっていたと。そのうえで、アニメ化に踏み切った具体的な理由はあったのでしょうか?
川勝氏:
アニメ化は3社からオファーがあり、その時点で本作の需要の高さを知りました。いちばん最初のオファーがアニプレックスのプロデューサーさんで、ものすごいラブコールがあったんです。
これはすごく大切なポイントで、グッズを作るときなども「原作に対する理解度が高い人、そしてなにより圧倒的に大好きでいてくれる人」を前提にしています。
──たしかに、そこはファンがいちばん気にするポイントでもありますよね。グッズ展開や映像化にあたって、原作を愛しているスタッフの方が携わっているかは非常に重要だと思います。
とはいえグッズ展開って、ともすれば同じIPを繰り返し商品化しているだけに見えることもありますよね。言い換えれば「こすっている」というか。川勝さんはグッズ展開を通して「世界観の拡張」を行っているとのことでしたが、「こする」と「拡張」の違いはどんなところにあると思いますか?
川勝氏:
まず原作のキャラクターや世界観があったうえで、そこで語られていない部分を補完するかたちで情報を提供するのが「拡張」だと思います。
──原作では見られなかったキャラクターの姿などを提供することが「拡張」になると。
川勝氏:
たとえば「キャラクターがカフェの店員をしている」といった姿は、原作の『グノーシア』ではあり得ないですよね。そのうえで、「もしそういった世界線にキャラクターが行ったとしたら、どんな表情をして、どんな服を着るだろうか」といった姿を開示する。
そうすることで、たとえば「こういった二次創作をしてもいいんだ」といった受け皿の拡張になる側面があると思うんです。そんな『グノーシア』の宇宙を目指しています。
──なるほど。二次創作まで考えているのはめずらしい気がします。それにしても『グノーシア』のアニメ化は爆発的な熱量を持って受け止められましたよね。5年前のゲームともなると、普通だったらだんだん忘れられていって「ああ、アニメ化するんだ」くらいのリアクションもあり得たと思うのですが、すさまじい反響があったと思います。まったく熱量が衰えていない。その理由はどのように分析されていますか?
川勝氏:
電ファミさんって、毎週ゲーム業界のニュースで話題になった記事を数値化してランキングを発表していますよね。『グノーシア』のアニメ化を発表した週で1位の『グノーシア』が1100万ポイントとかで。数値がおかしくなっていて(笑)。
小林氏:
ええっ、すごいですね(笑)。
川勝氏:
あそこまで盛り上がるとは思っていなかったのですが、そのとき気づいたのは、「潜在的に『グノーシア』を知っている人がめちゃめちゃ多かった」ということなんです。
4カ月前に立ち上げたばかりの『グノーシア』公式Xアカウントの約3万人のフォロワー数に対して、あれだけの反響になるわけがないので。SNSのフォロワー数と実際に反応してくれた人の数が一致していないと思うんです。アニメ化をきっかけに、そういった潜在的なファンの方がいらっしゃったことが本当に嬉しかったです。
小林氏:
そこの数字は蓋を開けてみないとわからないですよね。
──ひとつの理由として、『グノーシア』という作品のアニメ化にそれだけの期待があったというのがあると思います。たとえば電ファミの記事も、読者の皆さんは実際に読むまでその記事がおもしろいかどうかというのはわかりません。つまり「実際に記事がおもしろいか」というより「記事がおもしろそうか」という期待で記事を開いているということだと思うんです。
川勝氏:
ああ、たしかに。「あのゲームをどのようにアニメ化するのか」といった期待感はあったのかもしれませんね。

──アニメ化が発表されたときはパルコで行われていた5周年記念ポップアップショップの開催期間中でもありましたよね。そういったところも狙って仕掛けたのでしょうか?
川勝氏:
そうです。本来であれば、パルコさんで行うポップアップショップとアニプレックスさんで進めているアニメ化の企画は直接的な関係はありません。
ただ、ポップアップショップで盛り上がっている最中にアニメ化を発表するのがタイミングとしてもいいだろうと考えたので、パルコさんの担当者とアニプレックスさんのプロデューサーを僕が引き合わせて、3人で半年前から事前に準備を重ねていました。
そうした連携が取れていたので、アニメ化を発表した瞬間に、ポップアップショップ側でもアニメ版の等身大パネルを展示したり、アニメのPVを流すような施策ができたのです。
──本来であればそれぞれ関係のないふたつの企画を、両社を巻き込むことでプラスになるようなかたちに持って行ったわけですね。お話を聞いていると、スタジオジブリの鈴木(敏夫)さんのエピソードを思い出しました。鈴木さんは、他社の人間をどんどん巻き込んで「チーム鈴木」とすれば一丸になれるというようなことをおっしゃっていたんです。
川勝氏:
まさに僕も鈴木さんのやり方を参考にしていますね。要は、ひとつのコンテンツにみんなが関わることで、全員が得をすればいい。
今回の例でいうと、アニメ化を絡めることでパルコさんも得をしますし、アニメのプロモーションにもなりますよね。みんなが得をするかたちに持って行くことを目指しました。
これまでグノーシアの原作グッズに関わったすべての方々にとって、作って、売って、買って、みんな嬉しい三方よしを目指してますし、現在も継続的にサービスが続いていまして、ありがたいことですね。企業間の垣根を超え、『グノーシア』の一点において、ファンと企業群の共同コミュニティなんだと勝手ながら感じています。また原作とは異なり、アニメ版では意外な展開まで大きく拡張できたらと思っています。
『エンダーリリーズ』の販売予定のない特注の指輪
──最後になりますが、本日の対談を通した感想などをうかがえればと思います。
小林氏:
応援してくれるゲームやスタジオを作るという点では、まずそもそもの作品がいいものであるということ。そのうえで、開発チームが本当に作品が好きで作っているという危うさの要素があるという事でしたよね。
それは計算して狙うことはできないし、再現性があるわけでもないのですが、こういったポイントについて自分の中で整理がついた感じがします。
──言い換えると、「愚直にやる」ということが大切なのかもしれませんね。
小林氏:
ああ、そうですね。愚直にやりつつ、かつそれがいいものでないといけないのかなと。そういった「嘘のなさ」が刺さるのかなと思いました。
川勝氏:
「当たり前のことを、当たり前にやる」ってことでしょうか。作る狂気、ひとに伝える執念、成し遂げるための図太さ、そして作品のための奴隷になれるか。
グッズに関しても、ユーザーさんのご期待に添えるよう原作ゲームに関わるものはきちんと企画や監修したかったですし、大切なことだと思っています。
小林氏:
……グッズの話で思い出したのですが、そういえば以前『エンダーリリーズ』の指輪を作ったんですよ。
──指輪ですか?『エンダーリリーズ』のグッズにそんな商品ありましたっけ?
小林氏:
いえ、販売するつもりはなくて。どこにも発表していないんですけど、作品の記念にと思って特別発注で10個だけ作ったんです。純銀製で、リリーと仲間たちが彫ってあるんですよ。
川勝氏:
なにこれ……! 高そう……! 本気のプロダクトですね。
小林氏:
シリアルナンバーも彫ってあって、それは7番です。よかったら差し上げましょうか?
川勝氏:
ええっ!? 嘘!? 本当に!? いいんですか!?
──世界に10個しかない指輪が川勝さんの手に……!
川勝氏:
うわあ、ありがとうございます。今日の対談、来てよかった~(笑)。『エンダー』シリーズ、これからも応援しています。(了)
まず興味深かったのは、ゲームづくりにおける両氏の異なるアプローチだ。「ゲームを作るために会社を成長させる」という計画的な姿勢の小林氏と、「いつ潰れても大丈夫」という攻めの姿勢で作品をとにかく尖らせた川勝氏。結果として両氏は熱狂的なファンを獲得している。
手法は違えど、どちらも本気でゲームに向き合い、その熱がプレイヤーに届いたからこそ、応援されるゲームになったのではないだろうか。
「応援されるゲームは狙って作れるのか?」という問いに対して導き出した答えは、意外なほどシンプルだった。愚直にやる──つまり、クリエイターの信念と熱量が、ゲームを通じてプレイヤーに伝わるかどうか。それは、努力をアピールすることではなく、真摯に作品と向き合うこと。
言われてみれば、ゲームづくりに限らず、目の前に愚直にがんばる人がいたら素直に応援してしまうだろう。そんな当たり前のことに気づかされた対談だった。