TVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』の#7。
解散したはずのCRYCHICが再集結して、もう一度演奏をする回。
あの回を見て、すごくグッときた。ストーリーや展開、そして何より「人間になりたいうたⅡ」と「春日影」のライブパート……何度見返しても、涙ぐんでしまう。
そこで、率直に「燈役の羊宮さんに、#7の話を聞いてみたい」と思ったのが、このインタビューの始まりだったりする。そして、実際に高松燈役の羊宮妃那さんをお呼びして、あの#7を中心に、TVアニメ『Ave Mujica』についていろいろとお聞きしてみました。
#7のライブシーンは、どのように作られたのか。
あの時、CRYCHICに対してなにを思っていたのか。
CRYCHICファンの方、必見です!
そして、記事後半では、ここまでリアルバンドの「MyGO!!!!!」として約3年間活動されてきた羊宮さんに、「これまでのMyGO!!!!!」を振り返っていただきました。そもそもキャストが発表されていなかった活動初期から、現在に至るまで……3年分、いろいろお聞きしてみました。
そしてある意味、「これまで見せていなかった羊宮さんの思い」に迫った内容にもなりました。
歌が苦手で、とにかくカラオケで練習していた頃のこと。
まだ「MyGO!!!!!」そのものが注目されていなかった初期のこと。
段々と「成長」を見せていく必要が出てきた時のこと。
そして約3年間活動する中で、「努力は必ず報われる」と思えるようになるまで。
正直、私はこのインタビューを通して、「羊宮妃那」という人間の印象が変わりました。後半から、特にそう思わされました。
「MyGO!!!!!」ファンの方も、羊宮さんファンの方も、そうでない方も……羊宮妃那という人間の「強さ」を、ぜひ最後まで浴びてください。
CRYCHIC再集結の舞台裏━「どこで泣くか」が重要だった
──本日はよろしくお願いします。さっそくではあるのですが、羊宮さんはTVアニメ『Ave Mujica』をご覧になられて、どんな印象を受けていますか?
羊宮妃那氏(以下、羊宮氏):
『It’s MyGO!!!!!』の時も、結構衝撃が走っていましたが……『バンドリ!』プロジェクトとは思えない「ギスギス感」といいますか。なんだか「キラキラしていない」ような展開が多かったと思うのですが、『Ave Mujica』はそれを超えるかのように、#1から壮絶なストーリーが始まっていましたよね。
それこそ、CRYCHICがすごく素敵な集大成を迎える#7ですら、ライブ終わりに海鈴ちゃんが歯を食いしばっているような演出があったりだとか……一話一話が、「ただでは終わらせてくれないアニメだな」と思っていますね。
──実際に羊宮さんが高松燈役として『Ave Mujica』に参加される中で、思い出深いシーンや話数などはございましたでしょうか?
羊宮氏:
『Ave Mujica』は一話一話が本当に濃くって……正直、すべて「深いお話だったな」と思います。
それこそ睦ちゃんは表情もコロコロ変わりますし、祥子ちゃんはどんどん辛い思いをしていく。にゃむちゃんにもやっぱりトラウマみたいなものがあって、海鈴ちゃんも後半怒涛の追い上げを見せるかのようにバンドに対する想いが溢れる姿が見えたりする。そして初華ちゃんも初華ちゃんで、衝撃的な事実が明かされるじゃないですか!
とにかく、一話一話が濃いのが『Ave Mujica』だったと思います。
それでも、「燈を演じている身」としては、やっぱり#7が印象的でしたね。
──いち視聴者としても、#7はすごく印象的な回でした。羊宮さんの#7の展開を知った時の所感や感想などがあれば、お聞きしてみたいです。
羊宮氏:
率直に言うと、「嬉しいなあ」って思いました。「みんなの思いがひとつになったうえで、CRYCHICの春日影が聞ける」というのは、私にとっては嬉しいことでした。
『It’s MyGO!!!!!』の時は、そよちゃんがすごく苦しい思いをしながら弾いたり、祥子ちゃんが涙を流しながら出て行ったり……ある意味「望んでいない形の春日影」だったと思うんです。
でも、『Ave Mujica』の#7では、みんながひとつになって春日影をやれる。回想で、立希ちゃん、そよちゃん、祥子ちゃんが言っていた通り、みんながCRYCHICのことを「居場所」だと思っていたことが、身に染みる瞬間だったというか……率直に「嬉しいなぁ」と思いましたね。
──実際に『Ave Mujica』#7の完成された映像を見てみて、いかがでしたでしょうか。
羊宮氏:
いや、もう……言葉が詰まりました!
「春日影」の1音目が聞こえた瞬間に、もう思いが溢れるというか。
まず、『It’s MyGO!!!!!』で燈ちゃんや立希ちゃん、そよちゃんがCRYCHICにどんなことを思っていたのか。そして『Ave Mujica』が始まり、祥子ちゃんがどういう思いでCRYCHICから脱退したのか、睦ちゃんがどういう状況だったのかを知り、そのうえでようやく聞こえてきた「春日影」の音は、あまりに多くの感情が溢れ出す瞬間でした。
だから、#7は……印象的な回でした……。
──「春日影」までの溜めがいいですよね。
羊宮氏:
いっぱいストーリー性があって、書きたいものもたくさんあるはずなのに、「春日影」のシーンは結構静かなんです。祥子ちゃんが行き詰まって、ピアノに手を伸ばすところとか、みんなで行けるかどうかを目くばせするシーンとか……あのリアルな「間」や、綺麗に進んでいない時間が、すごく私たちにも伝わってきますよね。
──#7のCRYCHICのライブシーンで、なにか演技のディレクションや羊宮さんが演技に込めた思いなどがあれば、ぜひお聞かせください。
羊宮氏:
『Ave Mujica』で、ひとつ大きなテーマとしてあったのが、「どこで泣くか」でした。
たとえば、#5のラストで燈ちゃんが祥子ちゃんに「祥ちゃん‼バンドやろう‼」と伝えるのですが……あのセリフは最初、「泣いているシーン」として演技をしていたんです。ただ、そこに対して監督が「ここでは、まだ燈ちゃんは泣きません」とおっしゃられていたのが印象的でした。
これまでも燈ちゃんは、「幸せってなんだろう」「いま何を考えててどういう思いなんだろう」と、ずーっと考えていた子だと思うんです。そして、ようやく祥子ちゃんの事情を知った時に、感極まって叫んでしまう「祥ちゃん‼バンドやろう‼」という言葉には、きっと涙があったんじゃないかなと捉えていました。
ただ、監督としては、「涙を流したのではなく、ただ訴えかけている」シーンだったということでした。祥子ちゃんに対するさまざまな思いを……「バンドやろう!!」という気持ちで、ただストレートにぶつけていると。
──燈の「バンドやろう!」のシーンは2テイクあるんですね。
羊宮氏:
そうです。
そのうえで、#7の「人間になりたいうたⅡ」では、燈ちゃんも感極まっているんですよね。そして歌ったあとの、祥子ちゃんに対して「このうたは、祥ちゃんのことを考えて、書いた、うた」と伝えるところで、燈ちゃんは涙を流します。
あの泣くポイントが、新たに「燈ちゃんのことを知れたな」と思う瞬間でした。
──#7の「人間になりたいうたⅡ」は、羊宮さんの「泣きながら歌っている」ような演技もすごく印象的でした。あそこが、燈にとっての「泣くところ」だったんですね。
羊宮氏:
そうですね。
#7の「人間になりたいうたⅡ」と「春日影」は、アフレコブースで歌わせていただきました。そして、#7の時点では、「人間になりたいうたⅡ」はみんなにとっても「初合わせ」なんです。
燈ちゃんの中でも、音楽ができきっていなかったり、歌詞ハメをすることにも慣れていない。みんなの演奏を聴いて、探しながら歌っているところを表現しつつ……でも燈ちゃんも気持ちが高ぶってくるから、音圧とかも調整できずに崩れていったりする。
それこそ、燈ちゃんのなかでは「歌い方」も定まっていなかったり……あの時の燈ちゃんは「MyGO!!!!!」としてではなく、「CRYCHIC」として歌っているので、実は歌声がちょこっと変わっていたりします。いろんなこだわりが、あのシーンにはありますね。
そして実は、そのあとのセリフにはアドリブがあって、燈ちゃんが「CRYCHIC、CRYCHIC……やれて、よかった……」と、2回「CRYCHIC」って言っちゃうところがあるんです。実はあそこ、台本では2回じゃなくて1回だったんです。
収録時に、私が1回CRYCHICと言ったあとに、詰まってもう1回言ってしまったんですよね。それをスタッフさんにお伝えしたら、「これは燈ちゃんから自然に出たというか、つまずいて出たものに感じるので、そのままで行きましょう」と言っていただいて。あそこは、あのアドリブをそのまま使っていただきましたね。
──思い返してみると、#7で披露された曲で「春日影」の方は完成されている印象があったのですが、「人間になりたいうた Ⅱ」は意図的に崩しているようにも聞こえました。
羊宮氏:
そうですね……!
何度も細かい調節をさせていただいておりました。
「もっと崩しましょう」「ここはもっと歌いづらい感じで」といったディレクションをいただきました。「春日影」では、歌い慣れてはいるけれど、感情が溢れてしまうからこそずれてしまったり、涙が溢れてしまうところを歌に込めたりと、別の形で崩しながら歌っていました。
──率直にお聞きしてしまって恐縮なのですが、あの2曲をアフレコブースで収録されている時、羊宮さんご自身も泣きながら歌われていたのでしょうか?
羊宮氏:
「ここを目立たせたい」「ここは清々しい気持ちで」といったディレクションをいただいているので、それを表現するために気持ちはいっぱい動かすんですけど……「身体は泣かないように」というか。
もう心は泣いていて、いろいろなものを感じている。それを口(身体)では表現できるように……という感じです。「身体と心を別々にする」イメージですね。
──やはりその「あえて崩しながら歌っている」ところは、監督からのディレクションが強めにあった感じなのでしょうか。
羊宮氏:
たくさんありました。
気持ちの微妙な表現具合も含めて、何回も撮り直しましたね。
やっぱり一番難しかったのは、「初合わせであること」でした。
いつも歌っている「MyGO!!!!!」ではなく、本当に一度解散してから、初めて居合わせているメンバーであること。そのうえで、燈ちゃん自身もたくさん考えて書いた歌詞であること。そこに乗っていく感情もあること。そして、感情があるということは、「嗚咽」などもある。
これを全部組み合わせて、表現していく……だいぶ繊細というか、どれかに偏りがあってもよくないんです。だから、意識することはすごくいっぱいありましたね。
──「初合わせを歌で表現する」という時点ですごく難しそうに感じるのですが、実際に「初合わせだから、ここはいつもと違う」と意識していたポイントなどはあったのでしょうか?
羊宮氏:
初合わせって、まずバンドのみんなが「楽器をどういう風に弾くか」も知らないわけじゃないですか。
その意味で、祥子ちゃんはピアノで「人間になりたいうた」を弾いたシーンがあったのですが、睦ちゃんとそよちゃんと立希ちゃんはアニメ本編で演奏しているシーンがなかったと思うんです。
ちなみに、初合わせで言うと『It’s MyGO!!!!!』#10の「詩超絆」も初合わせになるんです。あの時も、みんな弾いたことのない曲を初合わせで披露しています。でも、あそこはどちらかというと「音楽の爆発力」に寄ったシーンだったと思います。
だから、#7のCRYCHICに関しても、本当は自然体で歌いきれた方が、かっこよくて、心に刺さるものがいっぱいあると思います。でもそうじゃなく、CRYCHICが解散して、各々いろんなことがあって、CRYCHICに対する思いとかがいろいろありつつ……あの音楽になった。
そのために、探り探りで調整していくところが一番大きかったかなと思います。
羊宮氏:
でも、ずっと探り探りで歌っていると、結局「乗せられない気持ち」が出てきてしまうんです。そこをどのくらい調整するのかを、スタッフのみなさんとすり合わせていきました。
撮り直しをするたびにイチからリセットして、初合わせをしていくので……「口元は勉強しつつ、心はずっと初合わせ」みたいな気持ちでした。
「春日影」は、もう歌詞の意味とかじゃなく
──「春日影」についてもお聞きできればと思います。実際の作中でも「春日影」は唯一無二の楽曲だと思うのですが、羊宮さんの中で「燈はどんな思いでこの歌詞を書いたのか」「どんな気持ちで歌っているのか」といった解釈があれば、お聞かせください。
羊宮氏:
『Ave Mujica』の#7で言うと、あの「春日影」は燈ちゃんも感極まって泣いているところからのスタートで……耳を澄ましていただいたら聞こえてくると思うのですが、本当にずっと泣いています。
だから、もう歌詞の意味とかじゃなく、「思い」がそこにあって。
燈ちゃんの中で、いっぱい向き合ったと思うんです。考えたと思うんです。
『It’s MyGO!!!!!』の時は、「……誰も悪くないなら……なんで解散したの?」と、そよちゃんに言って逃げたりとか……燈ちゃんが他人に鋭い言葉をかける瞬間って、なかなかないと思うんですよね。そのくらい追い詰められたり、考えたりして、『Ave Mujica』では「これが終わりだ」って、最後に思いながら歌っている。
だから、歌詞の意味なんか考えながら、歌えないと思うんです。
そうじゃなくて、思いがあふれるから、ここが詰まったり、ここが勢いよく言葉として出たりする。「上手さ」は本当に関係なく、そういう思いを歌っていました。
──実際に燈を演じられる中で、作中の「MyGO!!!!!のメンバーと接している時」と「CRYCHICのメンバーと接している時」とで、なにか演技や心情の違いなどは込められているのでしょうか?
羊宮氏:
そこはないです。
「相手に対してどう思っているか」が違うだけで、話し方などが明確に変わることはないです。
ただ、『It’s MyGO!!!!!』から『Ave Mujica』にかけてひとつ変わった点は、「祥子ちゃんのことを思って書いた歌詞がある」ということです。
「MyGO!!!!!」の曲は、誰かのことを思って書いたんじゃなく、燈ちゃん自身で感じたものを歌詞として書いています。たとえば、愛音ちゃんに対する応援歌でもある「碧天伴走」でも、燈ちゃん自身の「頑張っているよ、大丈夫だよ」という愛音ちゃんへの思いを書いています。
でも、「人間になりたいうたⅡ」は祥子ちゃんのことを考えながら書いているんです。つまり、「人間になりたい」という気持ちを、祥子ちゃんがどう考えているのかを書いた歌詞です。だから、「燈ちゃんが、初めて誰かのことを考えながら書いている」というのが一番の違いですね。
──言われてみればそうですね。そこは気がついていませんでした。
羊宮氏:
私も監督に言われて、「そうだったんだ!」と思いました。
──若干話が変わってしまうのですが、羊宮さんがバンド「Ave Mujica」の5人の中で一番好きなキャラを挙げるとしたら誰になりますか?
羊宮氏:
私、もう本っ当にみんなのことずっと応援してて……!!
アニメを見ていても、「そんなに傷つかなくていいよ……」と思っちゃうんです。
だから一番は決められないのですが、やっぱり祥子ちゃんのシーンで、心が痛かったり、泣いたりしていました。たとえば、#6で「自分は睦ちゃんのそばにいない方がいいんだな」と、自分のことが嫌いになっていく流れに、すごく「わかるなぁ……」と思ったんですよね。
自分がやったことが、誰かを傷つけていたりするのって、とても辛いことだと思うんです。さらに、自分のことが嫌いになるのって、だいぶ生きてて苦しいことなはずで……そういう意味では、祥子ちゃんのシーンがかなり印象に残っています。
──あぁ、なるほど……割と暗いシーンに……。
羊宮氏:
そうなんですよ……。
だから、#7の「春日影」の時に、祥子ちゃんがみんなのほうを見て、ようやく弾き始める流れにグッとくるというか……あそこ、1回止まるんですよね。
──ちなみに、『Ave Mujica』を収録した時に印象深かったエピソードなどがあれば、ぜひお聞かせください。「なんか覚えてること」といいますか。
羊宮氏:
#5で、愛音ちゃんが「と・が・わ・グループ♪」と言っているシーンがあったと思うのですが……収録現場で監督が「こんな感じです」と何度か歌っていて、それを愛音役の(立石)凛ちゃんが頑張って真似をしているところがかわいかったです(笑)。
一同:
(笑)。
──羊宮さんの「TVアニメ『Ave Mujica』の推しポイント」などがあれば、ぜひお聞かせください。
羊宮氏:
きっと、「視野が広くなる」アニメだろうなと思っています。
普段何気なく過ごしていて、「理不尽だな」と感じることは、いっぱいあると思うんです。なにも悪いことをしていないのに嫌な態度を取られたり、なにも悪いことをしていないのに肩をぶつけられたり……きっとすごく嫌な気持ちになりますよね。でも、蓋を開けてみたら、そこにはその人なりの行動の意図や気持ちがあったりする。
極端な話、本当にどん底になるまでいっぱい考え抜いた人が、コンビニでバイトをしていても、ずっと笑顔でいられるわけがないじゃないですか。「ずっと笑顔でいられる」って、すごく大変なことなんです。だからって、悪いことをするのは変わらず良くないことですが、でもきっと、どの視点に立って物事を考えようとするかでは見え方は変わってくると思います。
みんな完璧じゃないし、一見かっこよく見える人も、完璧じゃないところがあったり、完璧じゃないからこそ感じる魅力があった。
『It’s MyGO!!!!!』と『Ave Mujica』も、たくさんの感動があった裏に、惨めなところだっていっぱいあったと思うんです。完璧ってなんだろう。かっこいいってなんだろう。そう考えているうちに、「自分が生きる中でどう過ごすか」いろいろと視野が広がるんじゃないかなと思っています。