羊宮さんって、「掴みどころ」がないですよね?
──逆に、お芝居に関しては「ただ楽しかった」とお話されていましたが、そこはもう最初からずっと「楽しい」と感じられていたのでしょうか。
羊宮氏:
実は私、昔の歌の音源も、初めてのアフレコの音源も、全部残してあるんです。その「初めてのアフレコ音源」を聞き返すことがあるんですけど……まあ棒読みで(笑)。
でも、キラキラ輝いてて、楽しそうだなぁとも思うんです。
いま聞き返しても、自信を持って「これを聞いてください」と言えるようなものを作っていたんだなと思います。
──そうだったんですね。それこそ燈や他作品のキャラも含め、羊宮さんは「掴みどころのないキャラ」を演じられていることが多い印象があるんです。そして、あの難しさを的確に演じられている印象もあって……なにか、羊宮さんの中に「掴みどころのないキャラを掴む方法」などはあるのでしょうか?
羊宮氏:
これは、私自身が「燈ちゃんに似てるなあ」と共感した部分でもあるのですが……「なんで?」と拒絶するより、「それはどうしてなんだろう」とスッと受け入れて考えることの方が多いんです。
それこそ、睦ちゃんが二重人格だと聞かされた時に、燈ちゃんはあんまり驚いていないんです。実際に監督からも、「どうしてそうなっているんだろう」ということに対して驚いたのであって、事実そのものには全く驚いていない……というディレクションをいただきました。
私も、その展開そのものには驚きましたけど、拒絶するよりかは「大変だな……」と思えるというか。だから、基本的にキャラクターに寄り添えないことはあんまりないですね。演じるうえでも、「あ、そうなんだ」と、スッと入ってくることが多いです。
──「高松燈」というキャラも、スッと入れた形だったのでしょうか?
羊宮氏:
スッと合わせられましたね。
私と燈ちゃんは、割と共通点が多くて……燈ちゃんは石を拾うことが好きなのですが、私も実は石を拾っていたことがありました(笑)。
他にも、「ばんそうこうを集めるのが好き」とかも、私自身シール集めが好きだったりしたので、「似てるなぁ……」と思っていました。だから、燈ちゃんには本当に「運命」みたいなものを感じていましたね。
──失礼な感じに聞こえてしまったら恐縮なのですが、羊宮さんが出演されている番組やラジオなどを拝見させていただいても、羊宮さんご自身の人柄が「掴みどころがない」ような気がしているんです。
羊宮氏:
えぇっ、本当ですか……!?
──だから、「ご自身の人柄が演技に活きているのかな」という気がしていて……実際にキャラのお芝居を聞いていても、まさに「スッと入られているんだろうな」という印象があるんです。
羊宮氏:
ちなみになんですけど、どうして「掴みどころがない」と感じられたんですか……?
というのも、私自身はそこまで不思議ちゃんな発言はしていないと思うのですが、どのへんに「掴みどころがない」と感じられたのかが気になって。
──「不思議」というより、「ミステリアス」な印象があります。まさにこうしてお話していても、羊宮さんという人の全容が見えないというか、「きっとこういう人なんだろうな」というイメージが想像できないんです。
羊宮氏:
おそらく、このインタビュー記事からだと、「ネガティブな人だな」とか「キャラクターが好きな人なんだな」のような言語化ができるかなと思うんですよね。
でも、「掴みどころがない」ですか……すみません、すごく気になってしまって。もしそれを知れたら、芝居に活かせるのかなって(笑)。
──広い意味で、「羊宮さんが演じているキャラ」にそんな印象があるんですよね。「一言で言い表せないキャラ」を演じられていることが多いイメージがあります。
羊宮氏:
私は、ディレクションをいただかない限りは、あまり決め打ちはせずにセリフをずっとしゃべるんです。他作品のキャラでも、ディレクションがないところは自分自身でも「どう演じていたか」を説明できないくらい、スッと演じることがあります。
実際にインタビューで、「ここはどう演じましたか」「このシーンはどんな気持ちだったんですか」と聞いていただくこともあると思うのですが……私は基本、“ない”んです。もう「その子」として場に立っている感じがあるんですよね。
──そうですよね。まさに「スッと入られている」のが、羊宮さんの演技から伝わってきます。それこそ「MyGO!!!!!」としてステージ上に立たれている時も、スッと入られているからこその雰囲気を感じるんですよね。ミステリアスさと同時に熱さもあって、多面的な印象があるといいますか。
羊宮氏:
そう言っていただけると嬉しいです……!
それで言うと、『ガルパ』に「MyGO!!!!!」のみんなが追加された時、3Dライブモードで燈ちゃんに、他バンドの既存楽曲を歌ってもらえるようになったんです。あの時に、「そっか、燈ちゃんはこういう笑顔もできるんだ」と思いました。
それが、キャラクターとしての成長も見せる必要があるステージ上において、いろいろな表現に取り組めるきっかけになりました。私も、「真顔だけじゃない表情」を出せるように鏡をチェックしていたりします。
燈ちゃんにとってそういう表情をするつもりがなくても、ステージ上では意外な表情に見えている……そういう意外なものをステージ上で見せることができていたら、嬉しいですね。

迷って、苦しんで、壁にぶつかって……それでも、なぜ自分と向き合い続けられたのか
──ここまでの「MyGO!!!!!」としての3年間の活動で、「3年経って、いまだから話せること」などがあれば、お聞きしてみたいです。
羊宮氏:
どこにも出していないのは、さきほども話題にあがった「MyGO!!!!!日記」だと思います。「MyGO!!!!!日記」は、ほとんど雨です(笑)。
(スマホを見ながら)ちょうど「MyGO!!!!!」が始動した、2022年4月29日の日記を見つけたので、ちょっとこれを読み上げます。これを世に出すことで、嫌な思いをされてしまう方もしれないのですが……「その時の私の気持ち」ということで、一部だけ読ませていただきます。
まず、「始動おめでとう」といったことが最初に書かれていて、そのあとに……
「反響は半々で。評価されるのはプロジェクトとしてのものばかりで。はやく燈ちゃんを見てほしいな。でもみんな、いろんな思いでコンテンツや私たちのことに向き合ってくれていて、向き合おうとしてくれているんだね。きっと燈ちゃんの歌も伝わってくれるはず。」
ということが真ん中に書かれています。
そこから……
「決して上手くはないかもしれないけれど、燈ちゃんと一緒に歌を歌い続けたいです。MyGO!!!!!のみんなと一緒に、見てくれている人たちみんなに届けていきたいです。燈ちゃん、MyGO!!!!!のみんな、これからもよろしくお願いします。
燈役 羊宮妃那」
と、日記に書いてありました。
──本当に、その時のリアルな気持ちが綴られているんですね。
羊宮氏:
こうして日記を読み返すと、「あぁ、そうだったなぁ」と思ったりします。
当時は、「『バンドリ!』というコンテンツから、新たになにかが出た」ということが、やっぱり反響としてはすごく大きかったんです。この時に書かれている「反響は半々で」というのも、実際のファンのみなさんの期待と不安が半々で、私としても「そうだよね」と感じていました。
まだこの段階ではキャラクターたちのことに目はいかないかな、「MyGO!!!!!」というバンド自体にはなにか言ってもらえていないな、と。プロジェクトしての動きばかりに、声が上がっている。
でも、いまは『Ave Mujica』までアニメが続き、ライブでも「燈ちゃん!」と名前を読んでもらえたりする。他にも、「MyGO!!!!!の叫びがいい」「Ave Mujicaの世界観がいい」と、『バンドリ!』というプロジェクトだけでなく、いち「バンド」としても認めてもらえていて……。
もちろん、そこには『バンドリ!』で温かく迎え入れてくださり、これまで走り続けてくださった先輩方のお力もあると思います。だから、改めて最初の反響を振り返ってみると、「いまがあるのは、本当にみなさんが支えてくださっているおかげだ」と思います。

──ここまでのお話を聞いていて、羊宮さんの中には「ドライな視点」があるのだと感じました。
羊宮氏:
ええー! ドライな視点ですか!?
──実際「MyGO!!!!!」でボーカルを務める以上、コンテンツを牽引していく立場でもあるから、前向きな姿勢も必要だと思うんです。ただ、羊宮さんの中には、必ず「第三者視点」のようなドライな意見があって、いつも状況を冷静に見られているように感じています。
羊宮氏:
なるほど……たしかに、自分の発言などでも、「嫌な思いをされる人がいないかどうか」は常に考えています。「自分が加害者になるかもしれない」ということは、常に考えているかもしれないですね。
だからこそ、「MyGO!!!!!」の発表も怖かったんです。
始まる前から、「反響が半々」なことを含め、いっぱい想像していました。日記にそういうことが書かれているのも、そこが大きいのだと思います。
──「MyGO!!!!!日記」には、そういうことも多く書かれているのでしょうか。
羊宮氏:
いえ、もちろん嬉しいことも書いています!
でも、7~8割は沈んだ時に書いているかもしれないですね……。
──「ドライ」というと若干冷たい表現だったかもしれないのですが、ものすごくプロ意識が高い方なのだとも感じています。その意識は、どこから来ているんでしょうか?
羊宮氏:
そんなカッコいい言葉に直していただいて……すみません(笑)。
もちろん、最初からキャラクターへの愛はありました。
演じるキャラに対して、「こういう風に愛したいな」という考えはあったんですが……多分、「愛し方」や「大切の仕方」を知っていったのは、これまで生きてきた中での過程があってこそだと思っていて。その「仕方」を学んでいったのは、その過程の中での、壁がいっぱいあったのだと思います。
きっとそれは、「子育て」と同じで……いや、「同じ」と言ったら失礼だと思うのですが! でも、壁にぶつかって初めて、「この大切の仕方は、大切じゃないんだな」「この愛し方は、自分勝手なんだな」と知れるというか。
なにをもって楽しんでもらうのか。なにをもってして仕事だというのか。ひとつひとつ考えていけばいくほど、キリがないくらい、いろいろな視点があって……そうやって答えを見つけては間違えることを繰り返して、いまのお話に繋がっているのかなと思います。いまも、その途中ではありますけど。
──ずっと感じていたのですが、羊宮さんは「自分と向き合う強さ」をハッキリと持たれていますよね。でも、「自分と向き合うこと」は鏡に向かってしゃべり続けているようなもので、誰にとっても辛い行為だと思うんです。
羊宮氏:
えぇっ……でも、私はそうやって気づいてくださる方こそ、きっと自分と向き合ったことがある方だなと思います。
向き合うことができるのって、大事だからだと思うんです。
大事じゃないものって向き合えないし、むしろ向き合うことを避けていけば、段々と大事じゃなくなっていく。好きでもなくなっていくんですよね。私がキャラクターと向き合えるのは、キャラクターが好きでもあり、大事でもあるから……だからこそ、向き合い続けられるんだと思います。
──正直、私は今日の取材で「羊宮さんの印象」がだいぶ変わってきています。もちろん「いい意味で」なのですが、すごく熱くて、なによりカッコいい方なんだと……すみません、なんだかさっきから偉そうで。
羊宮氏:
とんでもないです!
でも、「ドライな視点」と言っていただいた時、「たしかにそうだな」と思いました。
同時に、「それもひとつの甘えだな」とも思いました。
──「甘え」ですか?
羊宮氏:
「辛いもの」や「苦しいもの」をいっぱい感じていく中で、私自身が「いい人であろう」「誰も傷つかないようにしよう」とした先が、その視点なんだろうなと。
これも祥子ちゃんの話になりますけど、「傷つける」って、苦しいじゃないですか。傷つける側も、傷つけられた側も苦しくって……そんな加害者になりたくなくて。だから、ドライなことを含め、いっぱい考えているのかもしれませんね。自分は悪くないように生きていたいから。
でも……役者なので、いっぱい「傷つく努力」もします。
自分から向き合ったりとか、見たりとか。
──いや……決して無理に持ち上げたいわけではなく、羊宮さんがなぜここまでご活躍されているのかを、いま身に染みて理解しています。ちょっともう、ひとりの人間として刺激を受けました。
羊宮氏:
いやいやいやいや、全然そんなことないですよ!(笑)
──最後に全然関係ないことをお聞きしてしまうのですが、「MyGO!!!!!」のキャラと無人島に行くなら、誰と行きたいですか?
羊宮氏:
私は燈ちゃん一択ですね!
ただただ、燈ちゃんがどうするかを見学しておきたいです。
「次はどうするかなー?」と、ついていきたいですね。
──でも、燈と行ったら大変そうじゃないですか?
羊宮氏:
もう、大変でいいっ!
あと無人島だから、きっと誰と行っても死ぬと思うんですよ(笑)。
一同:
(笑)。
羊宮氏:
であれば、私は一番愛したキャラクターと、共に死を迎えたいです。
──あぁ……なんか、羊宮さんって「腹をくくって」いますよね(笑)。
羊宮氏:
「一生」って言ってもらってるんで。燈ちゃんには!
実際に収録中も思っていたことだけど、正直……私はこのインタビューを通して羊宮さんの印象がガラッと変わった。
「自分と向き合う」ということは、本当に辛い。
誰しも自分の弱さや欠点を認めたくはないものだし、それを受け入れて、直していくのはもっと苦しい。ある意味「自己否定」でもあって、それに伴う「成長の痛み」は尋常じゃない。
でも、羊宮さんはこんなにも自分と向き合っていた。
演技にしても、歌にしても、とにかく自分と向き合い続けて、ここまでやってきた。実際にこのお話をされている最中、普段の羊宮さんから受ける印象とは全く違った。そこには、熱くて、カッコよくて……なによりも「自分に真剣」な羊宮さんの姿があったように思う。
正直、同年代として「悔しいな」と思わされました。
声優とかそういうのを抜きにして、ほぼ同世代の人間が、ここまでの意識と強度で作品づくりに向き合っている。本当に、ひとりの人間としてすごく刺激を受けました。私は、ここまで自分と向き合えるだろうか。向き合ってこれただろうか。
次にお会いする時までに、もっと自分も人間としての強さを高めておきたい。
そのくらい、「人間として負けていられない」と思わされるくらい、刺激を受けました。だから、このインタビューも誰かにとっての刺激になっていたら、すごく嬉しいです。