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「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】

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モンスターの動きはモーションキャプチャーを基本に、仕上げは手作業で

──『MH:W』のモンスターの動きは、どのように作られているのでしょうか?

藤岡氏:
 基本はアニメーターが手作業でモーションをつけているのですが、モンスターの重心移動など、場合によってはモーションキャプチャーを利用するときもあります。

 『MH:W』は「これまで以上にモーションに細かいディテールを入れる」ことをテーマにしたので、今作では動かさないといけないモンスターの部位が、めちゃくちゃ増えたんです。
 重心の移動や動きのテンポ感はモーションキャプチャーで得た動きをベースにしつつ、それに手を入れていきました。

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 他のモンスターに噛みついて振り回すような動きも、イチから手でやると大変ですから、キャプチャーで振り回された側と振り回している側のデータを取って、それをベースに手を加えたんですよ。

田口氏:
 振り回されている側は、どうやってデータを取ったんですか?

藤岡氏:
 箱でもぬいぐるみでも、マーカーをつければキャプチャーデータは取れますから、何かボッテリしたものを振り回して取りました。

──振り回すモンスター役は、人間が演じるんですよね。もしくは猫とか?

藤岡氏:
 人間です。演じる人間にも、それなりにセンスは必要なんですよね。

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 そういえば、特撮の怪獣役をよくされるスーツアクターさんって、怪獣役しかやらないんでしょうか?

田口氏:
 ヒーロー役になったりもしますよ。そもそも怪獣役をやっている方は、殺陣というかアクションが、非常に優れた人たちなんです。

 今『ウルトラマン』の撮影現場に入っているスーツアクターさんは、わりと怪獣とかウルトラマン役に特化していますけれど、別件でモーションキャプチャーの仕事も来るみたいですね。

──ゲーム系のお仕事でしょうかね。

田口氏:
 怪獣役の方って、怪獣の頭が自分の頭とは違う場所、たとえば“自分の頭の80センチ上にある”という感覚が染みついているんですよ。

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 スーツの構造上、脇が締められないことも知っていますし。こういった特殊な感覚をつかんだ上でアクションをやってくれるから、クライアントに重宝される、と聞いたことはあります。

藤岡氏:
 クリーチャーやモンスターなどの人型ではないものの動きは、動く人がどのぐらいイメージできているかは大事だと思います。4足歩行のモンスターなのに、ちょっと人っぽくなりすぎても困りますし。

 昔、子どもの頃に怪獣ごっこをして、怪獣の動きがやたらうまい子がいたじゃないですか(笑)。そういう感覚で動ける人が演じないと、データがうまく取れないこともあります。

田口氏:
 巨大感が出せなかったり、関節の位置が違ったりすると、気になりますよね。そういうところまでわかっているかどうかが“センス”なんでしょう。

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ウルトラ怪獣どうしの戦いも、モンスターどうしの縄張り争いも、プロレスを参考に?

──そもそもモンスターの動きを考えるときは、何を参考にされるのですか?

藤岡氏:
 ウチはもともとリアリティのある生物の描写にこだわってきましたから、架空の怪獣みたいなモンスターであっても、なるべくリアルな動きを採り入れようと思っているんです。

 たとえば、このモンスターは鳥に近いから鳥っぽく、犬に近いから犬っぽくと、リアルな生き物は必ず見据えていますね。
 より近い生き物を観察して、動きのテンポ感や移動のときの足の使い方などを研究しまくって、アニメーターがひとつずつ動きをつけています。

田口氏:
 その点も、特撮の現場からするとすごく羨ましい。動物の動きをリアルに再現しようと思ったら、やっぱり関節から考えないといけない。でも、人間と動物は関節の構造が違うじゃないですか、特に鳥は逆関節だから。

藤岡氏:
 人だと、あの動きはちょっとやりにくいですね。

田口氏:
 たとえば“地面から足を上げるときに指が一度曲がって、再び地面に下ろすときに指が開く”という動きとか。じつはハリウッド版『ゴジラ(GODZILLA)』の最初の作品【※】──エメリッヒ版ゴジラの足が、それをちゃんとやっていたんですよね。

※ハリウッド版『ゴジラ(GODZILLA)』
1998年に公開されたアメリカの特撮映画。監督はローランド・エメリッヒ。フランスが行った核実験の影響で巨大怪獣GODZILLAが誕生。上陸したアメリカ・ニューヨークを舞台に、人類とGODZILLAの戦いを描く。

 そこで僕は『ウルトラマンオーブ』で「マガバッサー」という鳥型の怪獣を撮るときに、アクターさんに「上野動物園でエミューを見て来て」と言ったんです(笑)。「エミューの足は、いい感じでハリウッド版ゴジラっぽいから!」と。

田口氏:
 でも、やっぱり難しいんですよ。それを怪獣のスーツでやろうとしても、足が地面に引っかかって倒れるだけ。
 アクターさんに頑張ってはもらうんだけれど、関節の構造も違いますし、結局は歩くための動かし方しかできないですし……。

 『モンスターハンター』では、4足歩行のモンスターも後ろ足がちゃんと表現できて、ホントに羨ましいです。

藤岡氏:
 四足で動く場合は、手足の長さからして人間と動物は違いますし、姿勢がそもそも違いますよね。手足の使い方も全然違う。そういう動きは、近い動きをする実物を見本とするしかないんです。

 CGの良さは“人間ではできないことを実現できる”ことだから、実現のための苦労は厭わない。そんなCGを使えるのは、ゲームを作る自分たちの特権だと思っています。

田口氏:
 そうあるべきですよね。

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 僕も「ハリウッド映画くらいの予算さえあれば……」と歯噛みしつつも、一方で「ウルトラ怪獣」はそういったことが“できないなりの良さ”があると思っているんです。

藤岡氏:
 見ているほうも、映像から工夫や努力している感じが見てとれると、けっこう「おっ!」って思いますよ。

田口氏:
 エミューに限らず、一応、動きが近い生き物も参考にしているんですけどね。「自分は人間じゃなくて熊だと思え!」とか指示を出すときもあります。

 場合によっては「プロレスラーだと思ってやってくれ」っていうときもあるし。

藤岡氏:
 (笑)。動物って、あまり腰を使わないじゃないですか。腕力が強い動物は手をブン回しますけど、それを人間が真似しようとすると、どうしても腰が入ってしまうんです。
 腰が入ると一気に人間っぽくなっちゃうものだから、モンスターっぽい生物感を出すときは、身体から相手に当たっていくような感じで、手だけを動かしてもらうなどの工夫をしていますよ。

田口氏:
 確かに「ババコンガ」みたいなゴリラ系モンスターは、無軌道にぶん殴ってくる(笑)。

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『モンスターハンター2』から登場のモンスター、「ババコンガ」

藤岡氏:
 猿型になると、ある程度の動きのデータを人間でも取れますけれど、その際はあまり腰を入れずに動いてもらっていますね。

田口氏:
 なるほど。“腰を入れないで当たっていくような動き”って面白いな。もっと早く聞いていたら、怪獣の動きに取り入れたのに(笑)。

 というのも、この間撮影が終わったばかりの怪獣の戦いが、完全にパワー系だったんですよ。撮影のときに思いついて、「プロレスラーの高山善廣【※1】小橋建太【※2】だと思ってやってくれ」という指示をしちゃった。

藤岡氏:
 (笑)。そういうおふざけじゃないですけど、ノリでやっている感じがすごく出てきますよね、『ウルトラマン』シリーズって。

田口氏:
 怪獣の属性によりますけれどね。たとえば「あの怪獣は初代からバカっぽい動きをするヤツだったからいいだろう」とか。

 あとは……前半戦は「脇を締めて『平成ゴジラ』の動きでやってくれ」と指示して、王道の大怪獣的に登場させるんですけれど、最後の戦いでは「高山善廣がリングインでロープをまたぐ感じに山をまたいで」とかあえて方向性を変えて、どんどん派手なアクションにしていったり。

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 最新作『ウルトラマンR/B』の僕が撮った回では、そうやってひとつの話の中にも落差をつけて、だんだん演出が壊れていく遊びをやってみました。(笑)。

藤岡氏:
 面白いですね。それは撮影しているときのライブ感なんだろうな。

田口氏:
 怪獣どうしの戦いをどこまで人間っぽくやっちゃうか、どこまで生物感・巨大感にこだわるかというのは、監督の采配なので。

 どっちかばかりをやっているとつまらないから、わりと僕は両方やるようにしています。

藤岡氏:
 確かに、リアルでシリアスな感じの回があったかと思えば、プロレスっぽい回があったりと、回によって雰囲気が違いますよね。

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 そういう演出方法を知っていたら、さらに面白く観られる(笑)。

田口氏:
 しかも、ちょっとやっただけでは視聴者に伝わらないから、「もう思いっきりやれ」と。「絶対わかるようにやってくれ」と指示しています。

藤岡氏:
 たまに、モロにプロレス技が出ますもんね(笑)。完全にバックドロップだなぁとか、あの巨体でドロップキックはすごいな、とか。

田口氏:
 『ウルトラマン』作品のほうが、その辺は自由ですね。たぶん『モンスターハンター』でそれをやると、世界観を壊しちゃうだろうなあ(笑)。

藤岡氏:
 そうとも言えないですよ。『MH:W』ではモンスターどうしの縄張り争いがあるのですが、モンスターの組み技を作っていたとき、開発陣がヘンな燃え方をしてきたんです。

 たとえばディアブロスを戦わせる場合だと、あいつはパワーキャラなので、どうしても相手を持ち上げたくなるんですよ。「じゃあ、持ち上げたあとはどうする?」となって、答えは「ディアブロスに垂直落下やらせてぇ!!」と(笑)。

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巨大な二本角が特徴的なモンスター、「ディアブロス」

田口氏:
  “プロレス燃え”が入ってきたんですね(笑)。

藤岡氏:
 そうなんです(笑)。まぁ一応、人間っぽい動きにはならないようには気をつけたんですけどね。他にも、“プロレス燃え”がちょっとずつ顔を出していますよ。

田口氏:
 わかります。ディアブロスの角を見たら、何かしらしたくなりますもん(笑)。『モンスターハンター』でもやっぱりそうなるんですね。

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ディアブロスは地中に潜り込み、地下からも強烈な突進を仕掛けてくる

 『モンスターハンター』は、放電とか、特撮寄りのほうに来てくれるのも好きなんですよね(笑)。かたくなに「そういうことはしない」というわけじゃなくて。

モンスターも怪獣も、ケレン味が必要だ

藤岡氏:
 ほかにも、イビルジョーは基本的には恐竜の姿勢なんですけれど、特殊な技としてブレスを吐かせることにしました。でも、普通に吐いてウロウロ歩かれても、あんまりカッコ良くない。

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赤黒いブレスを吐くイビルジョー

 そこで、ゴジラが放射熱線を吐くシーンをイメージしながらモーションを作ったんです。吐くときしかその態勢にならないからプレイヤーの印象にも残るし、とても効果的でした。

 こんな感じで、怪獣の記号的なシルエットを参考にすることはありますね。

田口氏:
 観客の意表をついて驚かせる演出──歌舞伎でいう“ケレン”なんですよね。

 僕らもよく撮影中に「ケレンが欲しいんだけど」なんて言い方をしますし、絵コンテのときも「いつもみたいな戦い方でつまらないから、ここらへんにケレン入れない?」といったことを言います。

 わざとらしくなってもいいから、無茶をする要素をどこかに入れるのですが。たぶん、そういうことですよね?

藤岡氏:
 そうですね。ウチもモンスターの個性を出したくなったときに、恐竜っぽい動きばかりを作っていると、どこかで外したくなるんですよ。そのときは「ケレン味を入れましょう」って言いますね。

田口氏:
 必殺技とか?

藤岡氏:
 その感覚は、特撮もゲームも同じだと思いますね。

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 かといってゲームでは、ケレンばかりだと全然違う方向に行っちゃいますけれど。

田口氏:
 特撮のほうは、わりとエスカレートにしがちかも。楽しくなって、「もっとやれ」となっちゃう(笑)。でも、あとで見直して「こいつが何者なのか、わからなくなってしまった」というのはよくありますけど(笑)。

藤岡氏:
 ゲームだとCGで作っているぶん、「ちょっとやりすぎたから抑えよう」と我に返って作り直せますけれど、撮影モノって……。

田口氏:
 その瞬間、撮ってOKを出したら、もう戻れないです(笑)。

藤岡氏:
 そういう一発勝負的な緊張感は、撮影だとあるんでしょうね。

 CGだとやり直しができるんだけど、かといって直し過ぎると、映像は綺麗にはなるけれど面白みがなくなることもあったり……。

田口氏:
 最初の頃の勢いがなくなるんですよね。

藤岡氏:
 そうなんです。だから、客観的に見られる人をチームに入れておかないと、少しずつ面白くなくなっていることに気がつかなくなる。

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 やり直せるからと、作り直すたびに面白いところが削り落とされて、最終的には誰が作っても一緒の内容になってしまうというか。

 やり直せることは、CGの良いところであり、悪いところでもありますね。

──CGの映像といえば、モンスターの初登場シーンは迫力がありますね。

藤岡氏:
 イベントカットは内容が決め打ちですから、CGは演技重視でいけるんですよ。ですので、モンスターの登場シーンは、個性をアピールするために怪獣感バリバリでやっています。
 だから、イベントカットを一度でも見ていただければ、「あーそういうモンスターなんだ」とわかってもらえると思いますよ。

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アップデート第3弾で追加された「ナナ・テスカトリ」のイベントカットムービーより

 昔のゲーム作品は、ムービーとゲーム部分が切り分けられていましたから、プレイヤーは“ムービーはムービーとして、ゲームとは別物だよね”と観ちゃうんです。リアルタイムの映像でないと、感情移入が一旦弱まるんですよね。

 でも『MH:W』も含めて、最近のゲームはそこが全部繋がっているぶん、演出とキャラクターの刷り込みがやりやすくなってきました。

田口氏:
 入場シーンは大事ですよね。プロレスにしたって、リングインするまでにたっぷりとキャラクター性を見せていますし。

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藤岡氏:
 悪いヤツはとにかく暴れて出てくるという。大事ですね。

田口氏:
 モンスターの登場は、それに近いものがありますよね。

怪獣の着ぐるみとモンスターの骨格バリエーションが登場の決め手?

──“登場”といえば、モンスターがゲームに登場する順番は何を優先して決めるのでしょうか?

藤岡氏:
 ゲームなので、どうしてもゲームバランスやレベルデザインから決まる部分は大きいですね。プレイヤーがまだ操作が慣れていない最初は、もちろん弱そうなモンスターを出しますし、水辺があるから魚竜種を配置しようとか。

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序盤に狩猟する魚竜種のモンスター、「ジュラトドス」

 これはストーリーの構成と同じだと思うんですけど、最初から強いモンスターが出てくるとマズイじゃないですか。でも、最初なので掴みのあるものから入っていきたい。
 この考えは、ウルトラマンを立たせるための怪獣を用意していくのと同じですよね。

田口氏:
 1話目の怪獣は強すぎてはダメだけれど、かっこよくなければいけない。みたいなことですよね。

藤岡氏:
 でも、その調子で続けるとメリハリがないから、どこかでちょっと外れた話を入れたい。
 それなら、このあたりに宇宙人が出る回とか、最後のほうを盛り上げたいから途中で歯応えのある敵を何体か置いて、最後にボスがいる、とか。さらにその先にもラスボスがパッと出るとか。

 そういうバランスは、企画が上がってきたときにモンスターを当てはめながら決めています。

田口氏:
 モンスターの攻撃方法は、そのときに考えるんですか?

藤岡氏:
 そうです。たとえば、そろそろアクション操作に慣れたと思われる頃に、素早いモンスターを出すとか。
 動きの速いモンスターが来ると、アクションのテンポも速くなり、より精密な操作が要求されますからね。

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 「素早く動けそうなモンスター」とはめておいて、企画担当が攻撃内容を考えるんです。たとえば「前方に範囲攻撃をするモンスターが欲しい」となったら、それに合わせてモンスターを作っていきますね。

──特撮の怪獣の場合は、動きや攻撃方法をどういうところから決めていくんですか?

田口氏:
 最近の『ウルトラマン』だと、先に“使える怪獣リスト”があるんですよ。

藤岡氏:
 (笑)。

田口氏:
 具体的に言うと、倉庫に怪獣の着ぐるみがあるやつです。

藤岡氏:
 その考え方、『モンスターハンター』と似ていますね。
 ゲームの仕様としては、モンスターの骨格は無限ではないですからね。骨格を変えるとそのぶん制作コストが高くなるので、なるべく同じような骨格で作りたいわけです。飛竜系のモンスターだったら飛竜の骨格を使いましょうとか。

 でも飛竜ばかりを作り続けると、遊び心地が変わらなくなるから、ちょっと骨格の違うやつを入れる。だからといって違う骨格をいくつも用意していくと、「とてもじゃないけど作れません」となる。そのせめぎ合いのなか、騙し騙し作っていくという(笑)。

田口氏:
 ベースとなる骨格があるんですね。面白いなぁ。

藤岡氏:
 「今作は、使う骨格を3種類にしてください」と言われたりしますよ。「まじか、渋いな」って思いますが(笑)。それで手を変え品を変え作っていくという。

田口氏:
 面白い! ウチもそうですよ。僕も4年ぐらい番組を作っているじゃないですか。すると、“使える怪獣リスト”を見たときに、「またこの怪獣かよ!」ってなる(笑)。
 もうそろそろ新しい怪獣も作ろうよと思ったりもして。でも「しょうがないなぁ、じゃあレッドキングにするか」といった感じで選んでいるんです。

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 もちろん、先にストーリーのプロットがあって話の内容的にどの怪獣でもいいようなら、そうやって選びますし、プロットがまったくなかったら、先に怪獣を選ぶこともあります。「この怪獣でやりたい!」と言って、怪獣の設定からいろいろと想像して話を作ることもありますから。

藤岡氏:
 そうなんですね。

田口氏:
 あとは、僕らが「縦軸回」と呼んでいる、長いストーリーに関わる回になると、いわゆる新怪獣が必要になるんです。

 『ウルトラマンオーブ』のときは、「初回から4回まで中ボスを出せ」というのが上からの命令だったんですよ。1話目の怪獣はそのシリーズの印象を決定づけてしまいますから、かっこよくないといけない。

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 で、『ウルトラマンオーブ』のときだと「鳥の怪獣」ということだけが先に決まっていて、「鳥だから羽ばたくようなイメージで『バッサー』にしちゃおうぜ」という流れで「マガバッサー」という名前がついたんですよ。

 そのような感じで、新怪獣でいい場合はプロットの内容から発想します。特に『ウルトラマンオーブ』は「風・火・土・水」といった属性がありましたので。
 ちなみに「水なら、怪獣はタッコングがいいよね」なんて言っていました。

藤岡氏:
 タッコング、最近出てこないですね。

田口氏:
 タッコングは「もう着ぐるみがないし、商品化もない」と言われて、「じゃあ新怪獣にしよう」と「マガジャッパ」という怪獣が生まれたんです。本当はタッコングがやりたかったんですけど(笑)。

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マガジャッパ
(画像は怪獣 | ウルトラマンオーブ 公式サイトより)

藤岡氏:
 タッコングはもう着ぐるみが存在しないんですか! ショック……。

田口氏:
 ずいぶん昔のものなので。あと、かさばるし。着ぐるみにするとデカいんですよアイツ(笑)。

藤岡氏:
 (笑)。でも、すごく覚えていますよ。僕は、もしタッコングが出ていたら断然燃えたクチですね(笑)。

田口氏:
 ソフビ(ソフトビニール)のおもちゃを出した当時は、あまり人気がなかったみたいですよ。

藤岡氏:
 人気、ですか……。監督としては使いたい怪獣の希望はあるけれど、やっぱり「人気のある怪獣を入れてください」といったメーカーさんからの要望もあるのかな。

田口氏:
 当然。じつは……って、使えない話をしてもしょうがないか(笑)。

──最近はどの怪獣の人気があるんですか?

田口氏:
 最近、皆さんに「使いすぎだ!」って怒られたのはゼットンですね。あとはゴモラも絶対出ますよね。人気のある怪獣のスーツは、使う機会も多いですから、普段からちゃんとメンテナンスされているんですよ。

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ウルトラマンとゼットン
(画像は「ゼットン」の由来 | 思わず「シェアッ!」したくなるウルトラ豆知識50 | 「ウルトラマンシリーズ」放送開始50年記念サイトより)

──メトロン星人も、けっこう出ますよね。

田口氏:
 あれも人気がありますね。しっかりしたスーツがあると、番組で使っちゃうんですよね。
 そうなると、おもちゃも売れる。おもちゃが売れるから番組に出る……というサイクルができちゃうので。

 ゴモラなんかは、『大怪獣バトル』というシリーズで“カプセル怪獣”的に味方側について以来、すごい人気ですよ。元々人気があったんですけれど、さらに人気が出ましたから。不動の人気ですね。

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ゴモラ
(画像は大阪城で大暴れ!古代怪獣ゴモラがS.H.Figuartsシリーズに登場!本日3/1(水)予約受付開始! – 円谷ステーションより)

 僕の世代からすると、ゴモラは強敵のひとりなんだけれど、今の子どもたちからすると「味方の怪獣」的なスタンス。だから、あまりゴモラをとっちめられない(笑)。

藤岡氏:
 『ウルトラマンX』でも、そんな扱いでしたよね。

田口氏:
 主人公の相棒という存在でしたね、ゴモラ。

藤岡氏:
 今にして思うと、すごくゴモラ推しの『ウルトラマン』作品でしたよね。

田口氏:
 ウルトラマンがゴモラアーマーを着ちゃってました(笑)。

藤岡氏:
 僕も好きでしたよ。何が好きって、単純に強いですから、ゴモラ。別に他に“何か”があるわけではなく。

田口氏:
 火も吐かないし。それこそパワー押しですからね。

藤岡氏:
 パワー押しで尻尾がちぎれる(笑)。尻尾切りで逃げるとかね。

田口氏:
 『モンスターハンター』でいうと、僕が一番好きなモンスターはイビルジョーなんです。やっぱり「パワー押しでひたすら強い、怖い」みたいなヤツがいい。そもそも僕はゴジラが一番好きなんです。

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 ウルトラ怪獣で一番ゴジラ的なヤツっていうと、やっぱりゴモラですから。ゴジラのように火炎放射はしないけど、ゴモラはそれがいいんですよね。もう本当にパワーだけ。

藤岡氏:
 僕はディアブロスが好き。初期のデザインをしていたときに、リオレウスのような火を吐くモンスターとは別に、体ごとぶち当たることでプレイヤーとやり取りをするモンスターを、どうしても入れたくなったんですよ。

 ディアブロスは、角でとにかく突進して来る。そういう、他の武器に頼らないような戦い方をするキャラクター性を入れたかったんです。

田口氏:
 飛び道具を使わないやつですね。

藤岡氏:
 そういう戦い方もキャラクター性のひとつかな、と思っています。
 ゲームデザインをするほうからしたら、遠距離にいるプレイヤーを威嚇したいですから、どうしても飛び道具を入れたくなるんです。でも、あえて入れないことも必要。

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田口氏:
 そういえば、最近はゴモラも頭から「超振動波」という飛び道具を出すんですよ。レッドキングなんて、まだ頑なに“岩投げ”だけで頑張っていますけど(笑)。

藤岡氏:
 いいですね(笑)。

田口氏:
 現場でも話題になったんですが、プロレスラーの小橋建太さんって、ムーンサルトとかを使っていた時代もあるけれど、基本的には筋肉を叩きつけてくるタイプじゃないですか。

──またプロレスの話!

田口氏:
 もちろん技巧もあるんだけど。あのチョップを使った戦い方が燃えるから、気づいたら怪獣も「あれでいこう」となっちゃいます。

藤岡氏:
 プロレスは鍛え抜かれた筋肉の塊が、そのままぶち当たっている感じが見ていて気持ちがいいというか。昔から怪獣が戦う場面が好きだったからかな(笑)。

田口氏:
 そうですよね。プロレスや相撲あたりは、もはや人間を超えている人たちだから、怪獣に見えてくる。だから、戦い方は参考にしちゃいますね。

怪獣の大きさを表現するための、撮影現場とゲーム開発それぞれの苦悩

藤岡氏:
 テレビ越しで観ていたら伝わりにくいですけれど、実際に試合会場で観ると、選手をすごく大きく感じますよね。
 だからきっと、ゴモラも“僕らが画面越しで見ている感覚”と“現場で見ている感覚”って、たぶん違うんでしょうね。

田口氏:
 違うでしょうね。僕はどっちも見ているけれど。
 芸能人と実際に会ってみたら、TVで観るより小さかったり大きかったりするような感覚に近いのかな?

藤岡氏:
 たまにお店のイベントで「ウルトラマンショー」を見ることがあるのですが、そこで見るウルトラマン、普段は「大きい」と思って見ているから、実際に見ると「意外と小っちゃいな」と思ったりしていました。

田口氏:
 それはしょうがない(笑)。撮影現場では、大きく見えるように“撮っている”んです。だから、実際に見ると意外と小さいヤツもいますよ。

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 撮影現場では、背景の空が描いてある“ホリゾント”という壁の高さがある程度決まっているだけに、怪獣もウルトラマンもあまり背が高いと、背景より上の関係ないところまで映ってしまうんですね。
 だから、あんまり役者さんの背が高くてもいけないんです。

藤岡氏:
 なるほど。そういう制限もあるんですね。

田口氏:
 大きい怪獣を作ってウルトラマンと戦うシーン、やれるならやってみたい(笑)。屋外で撮るならやれそうだけど、予算上ほぼそれはありえないので、ある程度の大きさ制限はどうしてもあるんです。

藤岡氏:
 撮影現場の苦悩ですねぇ。

田口氏:
 ウチは、「人間が入る」という条件がある時点でもう、大きさの限界がある(笑)。

 小さい怪獣と大きい怪獣の戦いとか、ウルトラマンの5倍の大きさの怪獣とか、そういった体格がまったく違う戦いが、『ウルトラマン』にはじつはほとんどないんですよ。
 ときどき劇場版ですごく大きい怪獣が出てくるのはありますけどね。

「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】_065

 そもそも『モンスターハンター』は、同じモンスターですら、毎回大きさが違っているのがスゴイ。

藤岡氏:
 サイズが変わって登場しますね(笑)。

田口氏:
 昔、僕が助監督で金子修介監督【※】が撮った『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』という映画の話になるんですが、あのときはゴジラをなるべく大きく作って、中に入るアクターさんも大きい方にしたんです。
 対するバラゴンは体の小さい女性に入ってもらって、ギリギリで体格差をつけたことがある。

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※金子修介……1955年生まれ。東京都渋谷区出身。映画監督。小学生の頃は自分で怪獣事典を作るほどの怪獣好き。特撮作品では『ガメラ 大怪獣空中決戦」、『ガメラ2 レギオン襲来」、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』などを監督。
(画像はAmazon|ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃 [DVD] より)

 それで結局、1.5メートルぐらいのバラゴンと2メートルのゴジラが戦うことになったわけですが、これが面白かったんですよ。
 本当に熊と犬が戦っているみたいな。撮り方もなるべく気をつけて、サイズの差が大きくなるようにしました。

 僕はそのときの特撮班の撮り方を目の当たりにしていたからか、ずっと「ああいうのがやりたいな」と思っているんですけどね。それぐらいカッコよかった。

藤岡氏:
 人が入る時点で、そういう工夫が必要ですよね。

田口氏:
 中に小人症の方が入ることもありました。昔『ゴジラ VS スペースゴジラ』という映画で、背の低いリトルゴジラに「ミゼットプロレス」のリトルフランキーさんが入っていました。

 今じゃそういうのもなかなか難しいかもですね。大小差をガッツリつけた戦いで、小さい怪獣が大きい怪獣をコテンパンにやっつけるような作品をやってみたいですけどね。

藤岡氏:
 面白そう(笑)。

──そう考えると、『モンスターハンター』のモンスターはとんでもなく大きいですよね。

田口氏:
 あの身長差は、やっぱり羨ましい。

──ゾラ・マグダラオスなんて、ハンターが背中の上を走り回れるほどですもんね。

「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】_067
ゾラ・マグダラオス

藤岡氏:
 ゲームだと、どこまでもやろうと思えばできちゃう。

 でも、ゲームも同様に“肉眼で見る”のと“画面越しで見る”のって、なぜかちょっと感覚が違うんですよね。

──と、いいますと?

藤岡氏:
 たとえば武器の大剣などは、最初に「2メートルぐらいの大きさかな」と思って表示させてみると、モニターでは意外と小さく見える。

「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】_068
ハンターの身長ほどもの大きさが特徴の武器、「大剣」

 かといって迫力があるぐらいの大きさに変更すると、「リアルな寸法の造形で武器を作りたい」という方にとっては、大きくなりすぎる(笑)。

田口氏:
 不思議なもんですね。

藤岡氏:
 このように、ゲームでは“大きいぞ!”という空気感を伝えるのは難しいんですが、それでもゲームの中で、なんとか大きく見せる工夫はしています。

「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】_069

 モンスターだと、ちょっとデフォルメしてグンと大きくしてあげないと、あまり画面映えしないというか、「大きい!」という感じにはならないんです。

田口氏:
 近寄って来るときだけ、デフォルメで大きくなったりするんですか?

藤岡氏:
 部分的にでもそういう演出をするゲームもあるかもしれませんが、ウチは、最初からちゃんとボリュームをもたせてシルエットを作りますね。あとは、アニメーションでしっかり見せていく。

 とはいえアニメーションもデフォルメしてあげないと、なかなか狙った演出にはならなくて。リアルすぎてもダメだけれど、やはり根底にリアリティがないと感情移入もできないし……。

田口氏:
 演出の采配が大事ですね。

藤岡氏:
 そうそう、“見た目”と“実物のスケール感”の違いについて、似ている話があるんです。

──どんな話です?

藤岡氏:
 「3Dプリンターで何かを作る」ことについて。最近、よくこんな話をするんです。

 「CGでディテールに凝ったものを作って、それを最終的に立体物として出力するときに、どれぐらいの大きさで出力するかによって、まったく迫力が違ってくる」ということ。

──そうなんですか?

藤岡氏:
 ディテールをいくら作り込んでも、小さく出力するとまったく迫力がなくなるんです。

「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】_070

 だから小さくしたい場合は、ちゃんとデフォルメしてあげないと、ディテールの印象が残らない。逆に、大きくしたい場合はディテールが細かければ細かいほどよくなる。

 出力するときの大きさによって、どの部分に力を入れて作るかを考えないと、単純にいいものをCGで作っただけでは伝わらない、ということですね。

田口氏:
 なるほどね。結局、人間は眼球という同じレンズの大きさでしか物を見ていないから、小さいのと大きいのでは見え方が全然違うんですよね。広角レンズもないわけですし。

『モンスターハンター』のモンスターにビームは似合わない?

──田口監督は『モンスターハンター』に触れた後、映像制作において何か影響を受けましたか?

田口氏:
 受けたと思います。先ほどの「マガバッサー」の足の動きについてもそうですし、火花を出す尻尾を持つディノバルドを見たカメラマンさんが「あのモンスターの尻尾の描写、すごくカッコいいよね」と言っていましたし。

「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】_071
『モンスターハンタークロス』から登場のモンスター、「ディノバルド」

 「ああいうのをやれないもんかね」と言いながら工夫をするのですが、なかなか難しい(笑)。あと、あまり達成できていないですが、“怪獣の股の下を、人物が攻撃しながらくぐっていく”演出とか。

 といっても、残念ながら『ウルトラマンX』以降、防衛隊が出てこないので、股の下に入れないんですけど(笑)。

藤岡氏:
 そういえば最近、防衛隊を見かけないですね。

田口氏:
 いろいろと事情があって、出られないんですね(笑)。まあ、それは置いておいて。
 『ウルトラマンオーブ』第3話の「マガジャッパ」という怪獣が出る回で、ゲームの影響が出ているシーンがありますね。

──どんなシーンでしょう?

田口氏:
 特捜チームの柳沢慎吾さんたちが、武器を持ちながら走って一生懸命怪獣を追いかけているシーンです。

 もともと僕は『モンスターハンター』をプレイする前から“人間たちが先制して怪獣を攻撃してダメージを与える”という描写が好きなのですが、あのシーンはゲームの見せ方を意識しています。

藤岡氏:
 昔は隊員も武器を持っていましたもんね。

田口氏:
 かなり攻撃的な武器を持っていましたからね〜。バズーカ砲を撃ち込んだりとか! 最近は、バズーカ砲を持っている人間を出せないので、ちょっともの足りない(笑)。

藤岡氏:
 いろいろ事情があるんですねぇ。

「いまの子どもたちは『モンハン』で怪獣を見ている」──特撮のプロが見た『モンスターハンター:ワールド』【カプコン藤岡要×『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督対談】_072

 『ゴジラ』とか『ガメラ』だと、自衛隊が出るじゃないですか。ああいう“リアルな兵器と怪獣の激突”、田口さんはお好きなのでは?

田口氏:
 もう本当に大好き! だから、僕はそれがやりたいんですよ。

 『ウルトラマンX』では、なんとか防衛隊を出せましたけど──だいたい『ウルトラマン』作品の防衛隊って、拳銃しか持っていないじゃないですか。でも、怪獣と戦うわけだから、その装備はありえないと思うんです。

藤岡氏:
 初期装備としてそれはないだろう、と(笑)。

田口氏:
 おもちゃが発売されるから「拳銃を持たせなくてはいけない」という事情もありますが、持たせるならせめて「アサルトライフルじゃない?」と思うんですよ(笑)。

 だから『ウルトラマンX』ではゴリ押しでお願いして、女性隊員だけバズーカを持たせるようにしたんです。

──兵力アップできてよかった。

田口氏:
 なぜバズーカかというと、ゲームの『地球防衛軍』の影響が強いんです。僕が『地球防衛軍』を遊ぶときは、だいたいアサルトライフルとバズーカを持っているので(笑)。

 あと、『ウルトラマンX』では戦闘機と戦車がなんとか出せましたけれど、基本的に『ウルトラマン』作品には自衛隊が出せないんです。

 本当は自衛隊に協力してもらって、“架空兵器と「10式戦車」を並走させる”とか、“自衛隊の兵器としてメーサー戦車【※】を出す”なんてことをすごくやりたいのですが……。

藤岡氏:
 その田口さんの想いは、僕らがファンタジー世界にリアルな要素を少し入れることに似ているかもしれない。

 架空の世界に“現実で見たことがある何か”を入れることで、ファンタジー要素をより際立たせることができるんですよ。
 全部がファンタジーだと、かえって印象が弱くなってしまうから──たとえばモンスターが攻撃するための方法やエネルギー源を、誰もがわかりやすい火や氷にすることで、熱さ・冷たさの“温度”が伝わるんです。

 でも、ビームを使った攻撃だと“温度”が伝わりにくいし、そもそもエネルギー源がわかりにくくてファンタジー寄りになってしまうから、なるべく使わないようにしています。

田口氏:
 本当は“ビームを出してみたい”という願望はあったり?

藤岡氏:
 じつは、けっこう割り切ったモンスターが一体いるんですよ。
 多くのプレイヤーなら「アイツだ」とわかると思いますが、田口さんにとってはネタバレになるので、控えます(笑)。

田口氏:
 さっそく『MH:W』を再開しないとダメだなぁ自分。

藤岡氏:
 そのモンスターは、とにかくよくわからないエネルギーをため込んで吐き出すという設定で、あえてビームっぽい攻撃にしました。

田口氏:
 重要なモンスターが、ついにビームを出す! というのは燃えますよね。

藤岡氏:
 たとえば“ビームが当たった岩が、じわじわ燃えて溶けてきて、最後に破壊される”という演出は、ちょっとやりたいじゃないですか(笑)。

田口氏:
 演出で力が入るところですもんね(笑)。

 映画の『シン・ゴジラ』で「上手いことやってるなあ」と思ったのが、“ゴジラが最初は火を吹いていて、それがだんだん収束してくる”ところ。

 あのシーンを見た瞬間に「うわっカッコいい!」とすごくびっくりしましたよね。「収束してプラズマ化したのかな?」といったことを勝手に想像できちゃう。

藤岡氏:
 最初に、収束するようなところをしっかり見せると、すごく伝わりますね。あのシーン以降は、ゴジラがビームをずっと撃っていても、まったく気にならなくなった。

田口氏:
 「神は細部に宿る」ってヤツですね。あのシーン以降は、何が出ようが平気。背ビレと尻尾ビームは「ムチャクチャだな」とは思ったけれど(笑)。

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