この世のものとは思えない異形かつ巨大な生物で、人間の前に迫り来る“怪獣”──SF世界での存在ではあるものの、「ゴジラ」や「ガメラ」、そして「ゴモラ」や「レッドキング」といった「ウルトラ怪獣」など、日本人にとっては“身近に感じられる”というなんとも不思議な生物だ。特に男子なら、誰もがそれら怪獣の虜になったことがあるだろう。
映画監督・特技監督の田口清隆氏も、怪獣に魅せられた男のひとりである。
田口監督の並々ならぬ“怪獣愛”については別記事に譲るとして──以来彼は「怪獣」が登場する映像作品を精力的に発表し続け、また近頃では「ネオ東京ファンタスティック映画祭」の特撮総大将に就任したという、まさに“怪獣と接すること”を生業にした人間だ。
そんな田口監督が、最近ずっと気になっている“怪獣”作品があるという。
『モンスターハンター:ワールド』(以下『MH:W』)である。
国内外でまたたく間に大ヒットを記録し、今や出荷本数が800万本を超える『MH:W』は、より遊びやすく一新された操作、生態系を強く意識した舞台など、その魅力をすでに多くのプレイヤーが実感していることだろう。
そんな数ある魅力のなかでも、グラフィックとAIの進化によってリアルな姿と躍動感のある動きを見せ、プレイヤーに立ちはだかる数々のモンスターの存在は、今作でもひときわ輝いている魅力といえよう。
『MH:W』の登場モンスターの咆哮に、特撮のプロはいったい何を感じたのだろうか?──そんな疑問を持った電ファミニコゲーマー編集部は、『地球防衛軍5』の対談でも登場いただいた田口監督に再び協力を依頼。
『MH:W』のエグゼクティブディレクター兼アートディレクターの藤岡 要氏から『モンスターハンター』における“モンスター”の魅力を引き出していただいた。
『ウルトラマンオーブ』田口清隆監督が怪獣特撮の視点で“ゲームにおける巨大生物“の魅力を語る「見慣れた日常が蹂躙される…そこに感動がある」
モンスターのデザイン論から、ふたりの深すぎる“怪獣愛”にまで及んだこの対談は、特撮怪獣ファンにとっても『MH:W』ファンにとっても、非常に興味深い内容になったのではないだろうか。
クセのある武器ほど、使うこむほどに味が出る──そこに男のロマンがある
──田口さん、最近は『地球防衛軍5』ではなく、もっぱら『MH:W』を絶賛プレイ中だそうですね。
田口氏:
いやもう、一時期は本当にハマりすぎて、廃人になりかけてました(笑)。
新作『ウルトラマンR/B(ルーブ)』【※】の準備をしなくちゃいけない時期が迫っていたので、本当にヤバかったですよ。
僕は遅くとも朝5時ぐらいまでには寝るんですけれど、それを超えて毎朝7時までプレイしていましたから(笑)。仕事に支障が出るのが怖くて、今は封印しています。
※ウルトラマンR/B(ルーブ)
2018年7月7日からテレビ東京系6局ネットを中心に放映がスタートする『ウルトラマン』シリーズの最新作。シリーズ初の兄弟ウルトラマンが活躍する物語。兄は火のエレメントを宿すウルトラマンロッソ。弟は水のエレメントを宿すウルトラマンブル。田口氏はシリーズ監督のひとりを務める。
藤岡氏:
もはや学生さんのノリですね(笑)。
田口氏:
そういえば……イビルジョーの配信日に、イビルジョー狩猟クエスト「食物連鎖の波に乗れ!」とまったく関係ないクエストで、沼地の近くにいたクルルヤックを追いかけていたんですけれど……突然アイツが、こちらに向かってすごい勢いで走ってきたんです!
藤岡氏:
出ましたか!
田口氏:
『MH:W』では、そのときがイビルジョーと初対面だったから「僕のクエストにも出るの!?」とアセりまくりました。勝手に「僕のクエストには出ない」と判断して安心していただけに、あのときの恐怖感はすごかった(笑)。
イビルジョーは前作からのトラウマが個人的にあって、目撃したときは硬直してしまったのですが……なんと目の前で、今まで倒そうとしていたクルルヤックに噛みついてブンブン振り回している。「あれ? 味方なの!?」と(笑)。
藤岡氏:
あいつは誰にでも噛みつきますから(笑)。
田口さんは、武器は何を使っているんです?
田口氏:
僕はガンランス使いです。
リロードのアクション時の、「ガシャン」という音が気持ちいいんですよね。まぁ、あのモーション中にモンスターにやられることも多いんだけど(笑)。
藤岡氏:
わかります。ガンランス、僕は「バキン!」と武器が開くところが好きですね。
ちなみに『MH:W』のガンランスは、クイックリロードで全弾装填できるようになりましたから、旧来からあるリロードに頼らなくても砲撃できるんですよ。
じつは、開発初期の頃はスタッフから「旧来のリロードアクションはいらないのでは」と言われていたんです。
田口氏:
えっ???
※『モンスタハンタークロス』(2015年)でのガンランスのリロードアクション(上記動画 00:15~)。
藤岡氏:
でも、「リロードのアクションはどうしても残してほしい」とキャラクター開発担当のスタッフに頼み込んだんです。結果、わざわざ「竜杭砲」という特殊な弾をリロードするアクションにしてもらいました。
田口氏:
リロードのアクションがなくならなくて、よかった……。
藤岡氏:
ガンランスに限らずどんな武器にもあるんですよね、そういうアクションが。たとえばスラッシュアックスは、意味もなく変形し続ける感じが気持ちいい(笑)。
ヘビィボウガンの半分に折りたたまれるギミックは、出したりしまったりするだけで音が鳴るので、それだけでも気持ちいいかと(笑)。
武器を問わず、そういうギミックやアクションは気持ちがいいから、ユーザーの皆さんにも味わってほしいんです。やると隙ができちゃうけど(笑)。
田口氏:
隙はできるけれど、男のロマンを感じる。
藤岡氏:
チャージアックスとかスラッシュアックスとか、最近のシリーズで追加した武器にはけっこうギミックが多いのですが、海外でも使っている方が多いんですよ。やっぱりガチャガチャするのが好きなんだなぁ(笑)。
田口氏:
男のロマンは、全世界共通なんでしょうね。“モンスターを狩猟する”というだけでもロマンがあるからこそ、それに使う武器もそうあってほしいし。
“便利な武器”ではなく、多少の使いづらさというか、クセがないと愛情が生まれない。
──武器の変形ギミックやアクションは、「Zippoのオイル入れ」とか「バイクのキックスタート」とか、ちょっと昔の道具をヘンなこだわりを持って使い続ける感じに近いような。
藤岡氏:
「使いこなすぜ!」とか「乗りこなすぜ!」みたいな感じですね。クルマでも、ちょっと不便なクルマに乗っているほうが楽しみがあったりするような。
乗りこなす過程や手間が好きな人にはギミック系武器のほうがいいと思うし、乗りやすいクルマが好きな人には手触りの良い武器を……というように、『MH:W』ではご自身の好みに合う武器種を揃えていますよ。
田口氏:
映画の『パシフィック・リム』でいうと、個人的にはロシアのロボット「チェルノ・アルファ」【※】が好きなので、どうしても手間のかかるほうに惹かれますね。
続編の『アップライジング』でも、やっぱりロシアのロボットを応援しちゃう。余計なギミックがついている不器用なヤツっていうのがいい。
ちょっと使いづらそうで重そうだけど、力押しできる感じもいい。まぁ、映画では超弱かったけど(笑)。
藤岡氏:
僕も前作だと、やっぱり「チェルノ・アルファ」が好きですね。最新型機とは造形からして違うのもいい(笑)。
田口氏:
他に比べてアイツだけ「鉄人28号」みたいな無骨なロボットだけど、そこがまたいい(笑)。原子炉を頭にかぶるデザインも酷いんだけど、あれもいい(笑)。
藤岡氏:
そうそう。パンチ一本で押していく愚直な感じが、見ていてワクワクする(笑)。
田口氏:
ロマンですよね。大事です。ところで藤岡さんは、何の武器を使っているんですか?
藤岡氏:
僕は最初の『モンスターハンター』からずっとランスです。あの頃は、ガンランスみたいなギミック武器はほとんどなかったですから。
ランスの大きな一本の槍をドンと背負っている姿が、僕の心に突き刺さったんですよね。
田口氏:
そこがロマンだったんですね。
藤岡氏:
でも、ランスって不自由なんですよ。『MH:W』以前のバージョンは、特にクセが強くて。普通、回避しようとしたら前転するじゃないですか。
でもランスだと、回避は後ろにステップするんです。“回避すればするほど後ろに下がる”という(笑)。ゲームデザインとしてはわかるんですけれど「これを使いこなすには、かなりの上級者じゃないとムリだな」と思っていました。
田口氏:
藤岡さんは達人ですから大丈夫。
藤岡氏:
いやいや。で、『モンスターハンター』の初期の頃、武器の開発担当を数名のスタッフで手分けしていたんですけれど、ランスをずっと続けて担当する人間がいなかったんです。
「じゃあ僕がやるわ」とやっていたら、その操作が染みついてきて。「う〜ん……なんか……ランスって良いな……」と思ってしまい、それ以来ずっと使っています。
田口氏:
やっぱり染みついちゃうと、なかなか変えられないですよね(笑)。
藤岡氏:
理想的には武器を3種ぐらい使いわけたいのですが、全然ダメですね。
ガンランスを調整していたときも、ガチャガチャやりつつ「楽しい!」とは思ったんですけれど、製品版ではランスに戻っちゃいました(笑)。
田口氏:
武器選びは競技みたいなもんですね。サッカーならサッカーでいきたい。武器を変えるのは“サッカーから野球に転向する”ぐらいの違いがありますから。
──確かに、選んだ武器種によってゲームのプレイ感覚が変わるんですよね。そこが面白い。
田口氏:
だからこそ、僕も3種類ぐらいの武器は使いこなしたいけれど、下手なのでダメなんですよ。状況に応じて器用に変えられる人が羨ましい。
藤岡氏:
僕はさっきの『パシフィック・リム』の話でいえば、「俺はチェルノ・アルファで行く!」って決めたら、どこまでも行くほうです(笑)。
たぶん「ミサイルなんかいらんねん」っていう信念で戦うほうですからね(笑)。「いかにチェルノでKAIJUを倒すか」をひたすら考える(笑)。
とはいえ、まずランスの攻略方法を突き詰めてから、余裕が出てきたら次の武器に……とは思うんですけどね。突き詰めるまでが長いので、結局そのままになっている状態。
──今人気がある武器は、太刀でしたっけ?
藤岡氏:
太刀を使っているプレイヤーが多いですね。ただ、新しいモンスターが配信されたときに“大剣使い”が急に増えたりとか、皆さんいろいろな武器を試されるようで、トレンドが変わるんです。
先日、イビルジョーが配信されたときに「歴戦のイビルジョー」という強い個体を配信したら、みんなバタバタ倒されていたんです。
でもそのうち、“ランスに光明がある”と誰かが気づいたようで、それがクチコミで一気に広まって、ランスの使用率が上がりました。
NEW! イベントクエスト「脈打て、本能」
— モンスターハンターワールド:アイスボーン公式 (@MH_official_JP) March 30, 2018
受注可能期間:2018年4月6日(金)AM9:00~4月20日(金)AM8:59まで
龍脈石が手に入り易いクエストが登場。だが、相手はとんでもないイビルジョー!?
クエストLv:★9
受注・参加条件:HR50以上
フィールド:古代樹の森
メインターゲット:イビルジョーの狩猟 pic.twitter.com/gLvmyZTWNs
田口氏:
イビルジョー対策でランスが人気に(笑)。
藤岡氏:
最初は攻撃重視で攻略しているんだけれど、それだけじゃイビルジョーはどうしようもないと気づく。で、次はとりあえず力尽きない方法を考えるようになって、“防御ができるランスで、安定してクリアできる方法”を探すんですね。
ランスなんて、発売当初は下から数えたほうが早かったぐらい不人気だったんですけれど。
──ランス使いのモテ期がきたわけですね。
藤岡氏:
これもオンラインゲームのいいところだと思うんです。何かが配信されたりアップデートがあったりしたときに、“武器の使用率が変わる”といったユーザー側にも変化が起きるのは、面白い現象だと思います。
『モンスターハンター』のモンスターは、“怪獣”と“クリーチャー”の間で生きている
──田口さんは、『モンスターハンター』シリーズのプレイ歴は長いのですか?
田口氏:
『モンスターハンター』デビューは、PSPの『モンスターハンターポータブル 3rd』ですね。
でもそれ以降、シリーズがWiiやニンテンドー3DSなど自分が持っていないハードに移ったので、しばらく新作をプレイしていなかった時期があったんですけれど……そう、『モンスターハンタークロス(X)』のときに、ちょうど『ウルトラマンX(エックス)』を撮っていて。
「『モンスターハンタークロス』と『ウルトラマンX』の“X”が同じようなタイミングで重なるのは、何かの啓示だ!」と感じて(笑)、ハードと『モンスターハンタークロス』を買ってプレイしましたよ。そのあとは『モンスターハンターダブルクロス』をずっとやっていました。
藤岡氏:
田口さんのように、新作が出るタイミングが“新たなゲームファンが遊ぶきっかけ”になっているのかな、と思いますね。タイトルが出るたびに、やってみようと思っていただけているのかな。
──田口さんが、そもそも『モンスターハンター』シリーズをプレイしてみようと思ったきっかけとは?
田口氏:
これは、いろいろなトコロでよく話すのですが──飲み会で一緒になった『牙狼〈GARO〉』の雨宮慶太監督【※】との会話がきっかけなんです。
雨宮さんは、僕が自主制作の映画で怪獣を撮っているのを知っていて、しかもそれを観ていらっしゃった。その話の流れで、雨宮さんから「田口君は『モンスターハンター』をやっているの?」と聞かれたんです。
藤岡氏:
で、なんて答えたんです?
田口氏:
「やっていないです」と。
藤岡氏:
(笑)。
田口氏:
そう答えたら「ダメじゃないか!」って怒られてしまったんです。
「今の子どもたちは『ウルトラマン』じゃなくて『モンスターハンター』で“怪獣を見ている”んだから、それを知らないで怪獣を作ろうとするのはダメだよ」と。
藤岡氏:
そういう価値観で『モンスターハンター』を見ていらっしゃったんですね、雨宮監督。
田口氏:
「『モンスターハンター』みたいに延々とワンカットでモンスターの股の下をくぐりながら戦う映像が、今の子どもたちにとっては当たり前だから、それを知っておいたほうがいい」と言われて、「それはその通りだ!」と思ったんです。
「特撮を扱う映画監督としてやっておかないといけないゲームだな」と思いました。
でも当時は忙しくて、すぐにはやれなかったんですけれど、その翌々年かな。確か正月に「そういえばあんなことを言われたな」と思い出して、いいタイミングだからと買ったのが『モンスターハンターポータブル 3rd』でした。
藤岡氏:
確かに『モンスターハンター』はTVアニメやCMで観ますから、僕の近くの子どもたちも、そこからモンスターを覚えていたりもしますね。
「ウルトラ怪獣」と同様に覚える、というか。
田口氏:
子どもは本当によく覚えますからね、怪獣の名前は。
藤岡氏:
ウルトラマンよりも怪獣から覚えていく、という感じですよね(笑)。
難しい漢字も怪獣の二つ名から覚えていきますし。「古代怪獣ゴモラ」とか、「宇宙忍者バルタン星人」とか。
田口氏:
子どもたちにとって「漢字を覚える入口」でもありますよね、怪獣は。
──雨宮さんに勧められて『モンスターハンター』をプレイしてみて、実際にモンスターを見たときはどう思われましたか?
田口氏:
『モンスターハンター』に出てくるモンスターは、怪獣とクリーチャーの間くらいだなと思いました。
これは僕が勝手に分けているんですけれど、日本のモンスターは「怪獣」で、海外のモンスターは「クリーチャー」になっていっている。
日本の「怪獣」は「ウルトラ怪獣」に代表される“空想の幅の広いデザイン”で、ちょっと憎めない愛嬌があります。
海外の「クリーチャー」は「リアルな生き物だったらこういう姿だよね」という表現を突き詰めて、しかも醜い存在として描こうとしがちじゃないですか。
つまり、『モンスターハンター』のモンスターは、「怪獣よりもリアルで、クリーチャーよりも気持ち悪くない」──というイメージです。
藤岡氏:
なるほど。
田口氏:
以前、『モンスターハンターダブルクロス』の小嶋慎太郎プロデューサー【※】に、「『モンスターハンター』は“怪獣”と“クリーチャー”のどちらを目指したんですか?」と聞いたことがあるんです。
そのとき小嶋さんから「恐竜と実在する生物が下地にあって、そこに『ウルトラ怪獣』の超能力要素を入れている」と聞いて、「なるほど」と思いました。だから、“クリーチャーではなく怪獣”として捉えてもしっくりくるんですよ。
※小嶋慎太郎
1998年株式会社カプコンにプランナーとして入社。アーケード版『ストリートファイターZERO3』などの制作を経て、モンスター制作担当として『モンスターハンター』チ―ムに参加。『MHP2ndG』『MHP3』の制作のほか、『MH3(トライ)』ではアシスタントプロデューサー、『MHX』『MHXX』ではプロデューサーを担当。
『モンスターハンター』シリーズの他にも『エクストルーパーズ』のプロデューサーなども担当していた。
藤岡氏:
そうだと思います。
田口氏:
『モンスターハンター』のモンスターも、これがただの恐竜だったら、ここまで自分は興味を持てなかったと思うんです。僕は怪獣が大好きなくせに、なぜか恐竜にはそんなに興味がないんですよ。
僕にとって“恐竜”は“カッコよくできあがりすぎた生物”で、“異形ではない”んですよね。だから映画の『ジュラシック・パーク』【※1】を観たときも、そこまで入り込めなかった。
映画つながりでいうと、僕は“知らない星の話”よりは“地球”が舞台のほうが興味が湧くタイプ。
SFだったら、遠い星で戦う『スターウォーズ』よりも、地球が舞台の『宇宙戦争』【※2】のほうが好きで、トライポッドが街を歩く絵にメチャメチャ燃えるという、ヘンな嗜好があるんです(笑)。
まとめると、「地球が舞台で、異形の生物が出て来るもの」が好きなんですね。ちなみに、地球上にいる生物なら、「大王イカ」とか、異形な姿の「深海生物」に惹かれるタイプです(笑)。
※1 ジュラシック・パーク
1993年に公開された、マイケル・クライトンによる同名のSF小説を原作としたSFパニック映画。監督はスティーブン・スピルバーグ。バイオテクノロジーによって現代に蘇った恐竜を、放し飼いにしている島が舞台。突然制御不能になった恐竜から逃げ惑う人々の恐怖を描いている。映画公開当時は、まるで実写のように動くリアルな恐竜のCGが話題になった。
※2 宇宙戦争
2005年に公開された、H・G・ウェルズによる同名のSF小説を原作としたSF映画。監督はスティーブン・スピルバーグ。地球に侵略してきた宇宙人とそれを迎え撃つ人類の壮絶な戦いを描く。宇宙人が侵略に使うトライポッドと呼ばれる3本足の巨大歩行兵器は、この映画の象徴になっている。
藤岡氏:
恐竜よりは深海の生物のほうが“異形”というか“怪獣っぽい”かもしれないですね。
田口氏:
そうですね。「なんでこんな厳しい環境で生きているの?」、「なんでその姿なの?」という生物のほうが好きなので。
藤岡氏:
「チューブワーム」とか「イエティークラブ」とか、何百度という熱水が吹き出ている“熱水噴出孔”の近くで生きているヤツがいますからね。
田口氏:
『モンスターハンター』はどちらかというと、「深海生物のような、特殊な生き物のほうに寄せているのかな」と思って、そこにグッとくるんですよね。「異形だけど、こんな生き物ならいるかも」というギリギリの線を狙っている。とはいえ、高圧電流を放電してきたりするヤツがいたりしますが。
藤岡氏:
(笑)。一応ウチの場合は、考え方のスタート地点は「ファンタジー」なんですよ。一般的にいわれる“空想上の動物”ですね。
欧米にはドラゴンをはじめとした空想の生き物の文化が根付いているけれど、我々がそのようなファンタジーを作ろうと思っても、西洋的なファンタジーは日本に根付いていないから、作ろうとしてもなぜかしっくり来ない。
田口氏:
なぜしっくり来ないのか。
藤岡氏:
一応、日本にもドラゴンの代わりになるものはいるんだけれど、そもそも「ドラゴンとは何か」という知識が、日本では深く根付いていないんです。
ドラゴンがどういう存在なのかと聞かれても、「何か喋っているところはアニメや映画で見たことあるなー」くらいしかわからないというか(笑)。
すごく賢いヤツらなんだろうけれど、悪そうなヤツもいるし良さそうなヤツもいるしで、どういう世界観でキャラクターが構成されているかというと、イメージしづらい。だから、あまり深く掘り下げて言えない。
そんな日本の自分たちが“ドラゴンを取り扱う”ことに違和感を覚えたし、そこから強烈なオリジナリティはあまり出せないと思ったからなんですよね。
田口氏:
なるほど。
藤岡氏:
最初に『モンスターハンター』を作ったときに、デザイナーの偉い人から「カプコンとして君たちが作るファンタジーは、どんなイメージなのか」と聞かれたんです。「『ドラゴンが出ます』と言っているけれど、そのファンタジー感をこのゲームの中でどう表現したいのか」と。
それなら、魔法もあればモンスターもいるクラシカルな西洋ファンタジーじゃなくて、独自の価値観でこの世界の生き物を捉え直したほうがいいんじゃないかと思ったんです。自分たちの理解できる範疇に収めたほうがやりやすいですからね。
田口氏:
ファンタジーを再構築したんですね。
藤岡氏:
この“ドラゴン”とか“ワイバーン”とか呼ばれているヤツらを、もっと独自のものに置き換えてアレンジしたほうがいいだろう、と。
たとえば狩猟のスタイルにしても、日本人に知られている“マタギ”のほうが、僕らは馴染み深いですよね。マタギであれば、動物を狩ったり、それをもとに生計を立てたりしていることも想像しやすい。
だから、イメージをもっと自分たちの文化に近いほうに寄せて、モンスターにも動物的な感じを採り入れたほうが理解しやすく、またアレンジもしやすいんじゃないかと思ったんです。
でも、ゲーム的にはモンスターが派手なビームを出したり、急に火を吐いたり電気をバーンと落としたりしないと、記号が少なくなってしまう。そういった記号については、昔からイメージを積み上げてきた「ウルトラ怪獣」のテイストを入れています。
怪獣だったら“とりあえず、何でもできる感じ”があるじゃないですか(笑)。
田口氏:
ペスターもいるしタッコングもいるし、懐は広いですよね、怪獣(笑)。
藤岡氏:
『モンスターハンター』は、空想の生物をより生物らしくすることを目指していますから、単なる荒唐無稽な生き物ではなくて、ちょっと科学的な理屈を入れるようにしています。
その結果“リアルな姿だけど電気を落とす、怪獣みたいな存在ができた”と考えています。
ですので、モンスターを作るにあたっては、根底に“怪獣”というものがすごく染みついているなと感じていますね。怪獣のおかげで、自分たちなりのドラゴンなりワイバーンを表現することができた、と思っています。
田口氏:
さじ加減が絶妙だったんでしょうね。
「『MH:W』が全世界で800万本以上出荷している」ということは、ファンタジーを再解釈したような独特のアレンジが、ちゃんと海外の人たちにも理解されたんでしょう。
オリジナリティ、ユーモアがあるものとして受け入れられたんですね、きっと。「これは他にはないぞ!」という意味で。
藤岡氏:
ユニークなものだというのは、いろいろなメディアの方が取り上げてくれました。
特に『MH:W』では、リッチな表現をしているので、それが“海外の方々から見ても受け入れられやすくなった”というか、“間口が広がったぶん、深掘りして見てもらえるようになった”と感じています。
その結果、今回は世界観もうまく伝わったのでしょう。
“気を抜けない空間”が、多くのドラマを生み出している
──『MH:W』をプレイして、特撮と比べて“羨ましい!”と思った表現はありますか?
田口氏:
僕は、映画だとワンシーンワンカット【※】の撮影が好きなんですよ。そういう意味で『MH:W』は、ひとつのクエストをクリアするまでがワンシーンワンカットの映像じゃないですか。それがたまらないんですよね。
たとえば、逃げながら木陰に隠れて回復薬を飲もうとしたら、「え! まだ来るの?」ってくらい、しつこくモンスターが追いかけてくるじゃないですか。「ここに隠れてもダメ!?」と(笑)。
過去作だったら、隣のエリアに逃げれば回復薬を飲めたのに、『MH:W』はどこまでも逃げないと落ち着いて飲めない(笑)。このキツさがまた楽しい。
モンスターから逃げていると、そこに違うモンスターが現れて「お前は今お呼びじゃないから!」とさらに逃げるような、破茶滅茶な展開になるのもすごく楽しい。
※ワンシーンワンカット
映像作品の撮影技法。1つのシーンを複数のカットに分けて撮影し、編集してつなげるのではなく、カメラを回したまま一連の芝居・現象を1カットとして撮る方法。長回しとも呼ばれる。
藤岡氏:
あれを「映像でやれ」と言われたら、確かに無理かもしれませんね。
田口氏:
映像では無理だから、『モンスターハンター』が楽しいんですよ。逃げていたら滑って下に落っこちる、みたいな展開もありますし(笑)。
ちなみに、『モンスターハンター』で唯一“トンデモないぞ?”と感じることがあるんです。
藤岡氏:
え? なんです?
田口氏:
それは……モンスターに攻撃されたら力尽きるのに、すごく高いところから落ちても力尽きない(ミスにならない)こと(笑)。
僕は高所恐怖症のつもりはないんですけど、『MH:W』で高いところから落ちるときに、シリーズをやっていて初めて“怖い”と感じました。
今まで3DSの画面でプレイしていたときには気にならなかったことが、テレビの大画面になると怖くなるんですよね。落ちるとき一瞬、股間が“ふわっ”てなるんで(笑)。
藤岡氏:
ふわっとね(笑)。力尽きるかどうかはさておき、「高所に立つ」といったことを実際に体験したことがあれば、ゲームの映像がリアルになればなるほど没入感が増すでしょうね。
そのように、ゲームの映像をリアルな方向に突き詰めて作れば、没入感を増すことはできるのですが、それだけではダメなんです。
田口氏:
リアルな映像のほかに、没入感を増すためには何が必要なんでしょう?
藤岡氏:
「プレイヤーがその世界にインタラクティブに干渉すれば、物事が何かしら展開していく」ということを丁寧に作ることです。これができるエンターテインメントは、ゲームしかないと思っています。
で、それを踏まえて『MH:W』では、要素が濃縮されたフィールドを作って、“気を抜けない空間”を作るようにしたんですよ。
──気を抜けない空間?
藤岡氏:
少し進むと何かが起こったり、何か気になるものがあったりする空間、ですね。
冒頭の“イビルジョーがどこまでも追いかけて来る”という話も、そういう意味では田口さんには、すごくいい体験をしていただいたと思います(笑)。
田口氏:
“クルルヤックを狩ろうとしている僕がイビルジョーに追われる”というのは、ウチのモニターでしか展開しなかったストーリーですからね(笑)。
あのシームレスなフィールド内で、内容が常に更新されながらドラマが作られていくのはスゴイ。
藤岡氏:
そこに他のプレイヤーが入ってくると、また違うドラマが展開されますよね。
『MH:W』では救難信号が出せるので、まったく見ず知らずの人でも助けてきてくれます。「あ! ヒーローが来た!」みたいな、ね。
一時期、一部の海外のプレイヤーの間では「ゲームに詰まったら、とにかく救難信号を出せ」と言われていたそうです。「そうすれば、スゴい日本人がどこからかやってきて、2~3分でモンスターを片付けてくれるから」と(笑)。
田口氏:
クレイジージャパニーズが来てくれる(笑)。
藤岡氏:
そういう展開もドラマチックだなと思いますね。
日本人プレイヤーって、誰かひとりでも“危ない”と思ったら「生命の粉塵」【※】をガブ飲みしてくれるじゃないですか。でも海外の方って、発売当初は“お互いをサポートするプレイ”がまだあまり浸透していなかったんですよ。
※生命の粉塵
回復アイテムのひとつ。クエストに参加しているハンター全員の体力を回復できる。回復薬よりも効果の出が速いが、3つまでしか持てない。
田口氏:
お互いガン無視で黙々と狩る感じ。
藤岡氏:
そうそう。お互い助けあう日本人のようなプレイスタイルが浸透していない頃は、プレイヤーが各個撃破されてバタバタ倒れていた(笑)。
それを見たウチのディレクターが、いろいろなところに救援に入って、“「生命の粉塵」を使ってみんなを守る”というプレイを延々とやっていたんです。そうしたら、「だんだんと海外でもそういうプレイをする方が増えてきた」って。
田口氏:
「この日本人プレイヤーのように戦えばいいのか!」と。「協力プレイとはなんぞや」という道を伝導したんですね。
藤岡氏:
そうなると、みんなの生存率も上がって、ゲームの理解がさらに進むんですよね。
そういったプレイスタイルの変遷を、リアルタイムで感じることができるのは面白いですね。
“四肢切断はご法度”の時世で試みる、それぞれの表現
──『MH:W』はプレイステーション4となり、モンスターの造形も細かくなっていますが、田口監督から見てデザインや造形の部分で惹かれたところはありますか?
田口氏:
シリーズを何作かやっている自分からすると、やっぱりモンスターに限らず、そこらへんにいる虫とか、うねうねと飛んでいる生物とか、全体的に何かしら動いているのがいいな、と思いますね。
ただ、いまだに“高いところにぶら下がっている虫”をどうしたらいいのか、わからないですけれど(笑)。
藤岡氏:
それは「楔虫(くさびむし)」かな? 光っているヤツですよね。
田口氏:
ええ。何をすればいいのかがわからなくて。
藤岡氏:
あの虫に向かってスリンガーを撃つと、フックが掛かってショートカットできるんですよ。だから、高低差がある場所によく置かれていて、それを使えば、すぐに上まで行けるんです。
田口氏:
たまに、「ススッと簡単に行く人がいるなあ」と思っていたのですが、虫に引っ掛けていたわけですね。
藤岡氏:
ゲームでは、フックを引っ掛けられる場所はよくあるんですよ。『MH:W』はフィールドの高低差も大きくなるし、地形も複雑になるから、遠回りすることが多いでしょう。だから、ショートカットできる手段が欲しいな、と思ったんですね。
ゲームの試作段階では、単に天井からフックが垂れ下がっていたんです。でも、あの世界にフックが垂れ下がっているってイヤじゃないですか。ゲームの仕様的にはわかるんだけれど、この絵面を何とかしたい。
そこで、「『モンスターハンター』だったら、そういう生き物がいる」という表現にして、「その虫にフックを掛けるようにした」んです。
楔虫は鉄球みたいな形の、体からトゲが出ている昆虫です。普段は羽根を広げているのですが、何か刺激が加わると羽根を閉じて固まります。要は、楔虫の硬いトゲにフックが引っかかっている、ということです。
田口氏:
なるほど。早速利用しないと。
……って、すっかり虫の話になってしまったのでモンスター寄りの話に戻すと、『MH:W』はモンスターの部位破壊も派手でよかったです。あれもロマンですよ。
藤岡氏:
角が折れるとか、尻尾が切れるとかですね。
田口氏:
角を折ったときの気持ち良さと、折れた跡のグラフィックの綺麗さがたまらないです。とにかく、戦っていて気持ちがいいですよね。綺麗であればあるほど良いというか、没入感も増すわけで。
藤岡氏:
大きな角を見たら「これ壊れるかな?」と思いながらずっと攻撃したりしますよね。尻尾がふわふわ動いていたら切りたくなるし。
田口氏:
まぁ、とりあえず切りに行きますよね、長い尻尾だったら(笑)。
藤岡氏:
そうですよね。でも、単にひょろっとした尻尾だと「これは切れるのか」と、みんな不安になるんですよね。
でも、その先に何かついていたら、「これ切れるな」という確信に変わる(笑)。で、「じゃあ切ろう!」となるんです。
破壊できる箇所に、破壊できそうなものをくっつけることで、プレイヤーが自然とそういう行動をしてくれるんですよ。逆にそれがないと、プレイヤーは攻撃しようとなかなか思わない──不思議なもので、デザインひとつでプレイヤーの心理も変わるんです。
田口氏:
プレイヤーの心理を踏まえて、デザインされているんですね。遊び方とデザインが、ちゃんと結びついている。
藤岡氏:
とはいえ、四肢切断といったグロテスクなほうには行きたくないですから、壊れてもいいようなモノにしています。爪とかトゲなら、折れてもそんなに痛くなさそうだし。
田口氏:
最近は『ウルトラマン』作品でも、そういうグロテスクな表現はダメなんですよ。「角・尻尾・トゲなら壊して良し」っていうルールがあって。
藤岡氏:
最近は、怪獣の身体がバラバラになることはないですね。
田口氏:
昔はビックリするぐらい切っていましたね。でも今は「四肢切断は絶対にナシ」なので。
藤岡氏:
昔は怪獣が真っ二つになると、観ているほうにも変な高揚感がありましたよね。
ウルトラセブンがアイスラッガーを飛ばしたら、だいたい切れていた(笑)。
田口氏:
基本的に首を切る武器ですからね、アイスラッガーは(笑)。僕はやりたいんですけれど、あれはもう許されない。
今の『ウルトラマン』作品の撮影でギリギリ許されるのは、相手がロボットのときですね。生き物ではないから切断してもいいんです。
僕が監督した劇場版『ウルトラマンオーブ』のときは、最初から切ることを目的に、敵をロボットにしたんですよ。
ロボット怪獣をやりたいからじゃなくて、「最後は八つ裂き光輪でトドメを刺したいから、ロボット怪獣にしましょう」と言って。ちなみにもっと言うと、ロボットよりギリを狙って半分生き物の「サイボーグ怪獣」で。
藤岡氏:
そうだったんですね(笑)。
田口氏:
だから、久々に敵が真っ二つになりました。しかも、表現的に怒られるであろうギリギリまで身体を切り離して、分かれた身体の間にビリビリビリと放電の視覚効果を入れつつ、切れていない感じを出しながら派手な攻撃で倒す、と。
今の規制内で表現できる、ギリギリの線を目指していたんです。
藤岡氏:
あとでもう一回ちゃんと観てみよう(笑)。
とはいえ、ウチもモンスターの尻尾を切るのは、表現的にギリギリなんですよ。一応、実際の生物では「トカゲの尻尾切り」があるので、尻尾なら生理的に気持ち悪くないだろう、と判断しています。
だから、あっさり切れるというか、あまり痛そうにしないのも大事かなと思っていますけどね。
その辺の表現の悩みは、特撮でも同じなんですね。