【完全3D再現】なぜそれをRPGにしたし。話題の『団地アート・オンライン』制作者が語る「多摩川住宅」愛

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今上天皇も訪れた「多摩川住宅」

――ニコニコ動画にアップされた動画は現在20万再生を超えています。いろいろな反応が来たと思いますが、いかがでしたか。

ミナセ氏:
 団地、しかも特定の実在の団地を、私的な思い入れから3DCGにして歩きまわりたいと考えたときは、家族や知り合い以外の人に興味を持ってもらえるとは全くもって考えもしなかったです。なぜ突然注目をあつめたのか、私にもちょっと不思議な感じがします

――団地の風景は多くの人と記憶の共有ができるので、ゲームを通じてのコミュニケーションが成立しやすいのかもしれませんね。

ミナセ氏:
 そうですね。ロの16号棟は、その大きさと形状から、私は子供の頃から中世の城をいつも連想していました。むき出しのパイプが張り巡らされた廊下の印象から、ある時からは巨大な戦艦も連想するようになっていました。

 団地に人格を付与して想像してしまうこともあります。昨今の擬人化ブームの感覚と同じようなものかもしれませんね。

広大な多摩川住宅マップ。(画像は仙川地図研究所より)

――個人的な思い入れがお強いんですね。

ミナセ氏:
 約50年前に今上天皇が皇太子時代にロの16号棟を訪れ【※】、喜んだ住人は今までそれを語り草にしてきました。多摩川住宅とロの16号棟は半世紀にわたり人々の生活の場としての役割を果たしてきました。

※編集部注:
1969年5月22日、皇太子殿下(現:天皇陛下)が完成したばかりの多摩川住宅を視察に訪れた。団地の中心にある集会場で団地についての説明を受けたあと、浄水場などを見学する予定だったが、伊勢丹の社長がテニス仲間だったという縁で、急遽近くの伊勢丹ストアーの見学に向かってしまったという。
(出典:狛江市役所ホームページ

 今上天皇の生前退位が報道されたのと同じ時期にその建物が消えていくことは、偶然以上の何かを感じてしまいます。半世紀たくさんの人を乗せてきた船が沈む間際に多くの注目をあつめている今の状況は、ロの16号棟が奇跡を起こしているような、そんな感じがしています。

――参考にしたい声はありましたでしょうか。

ミナセ氏:
 多摩川住宅内でゾンビゲームFPSビジュアルノベルをやりたいという声がコメントでありました。団地のあちこちにある清掃用具入れのドア、給水塔のドア、そうしたところを開くと団地の敷地の地下に広がっているダンジョンに降りていって冒険できる。実在の団地とファンタジーが密接に併存しているゲームがどのようなものになるのか、私自身も見てみたいです。

 また、団地内で鬼ごっこをしたいというコメントも多かったですね。私が子供のころはロの16号棟や団地全体を使って鬼ごっこやけいどろをよくやりました。おもしろさは他のどの場所の比ではなく、多摩川住宅でやるからおもしろいという自覚は当時からありました。団地の建物の構造や敷地のレイアウトにそうさせる要素があるんだと思います。

こんな団地全部で鬼ごっこ、してみたくありませんか?

――鬼ごっこ、楽しそうですね!

ミナセ氏:
 現実にやると当時も迷惑だったろうし、ましてや子供でもない年齢になった人はできないですからね。現実にできない遊びを実現して提供するゲーム本来の姿にも最もかなうことです。鬼ごっこ、けいどろ、缶けりあたりはぜひ実装したいです。

望む精度は果てしなく

――おひとりでここまで精緻なものをつくるのには苦労があると思いますが、一番大変なことはなんですか?

ミナセ氏:
 本当は、現実の多摩川住宅をミリ単位で正確に再現するまでやりたいと思っています。努力はしているのですが、自分の望む精度を得るための良い方法が見つからなくて……。より正確に再現したいという気持ちと、実際にはほとんど不可能だという状況の板挟みがつらいですね。

 また、私はいまカナダに住んでいるので、おいそれと現地の様子を見に行けないことも制作を困難にしています。

――今でも十分精緻だと思いますが、まだまだ足りないんですね。

ミナセ氏:
 住宅供給公社に取材を許可してもらって、現地で細かく採寸や測量できないか、というのは考えています。あるいは、Googleが衛星の2次元画像からの視差情報を計算して3DCGモデルを用意し、それをGoogle Earthで閲覧できるようにしているので、その高解像度データをもらえないかな……なども。ただ、どちらも難しそうな気はします。

 最近、「Structure Sensor」というデバイスで狭い範囲なら建物を3Dスキャンできるかもしれないと知り、気になっています。これを買って帰省し、建物や遊具を3Dスキャンできたら、より正確な3Dモデルが作成できるかもしれません。

iPadを3Dスキャナーに変えるデバイス「Structure Sensor」。(画像は公式サイトより)

――現在ウェブサイトではUnity版のビルドとUnrealEngine版のビルドの両方が公開されています。どういった違いがあるんでしょうか?

ミナセ氏:
 周囲では両方使っている人はあまりいないのですが、どちらでの開発も最高に楽しかったです。鳥が初めに会った相手を親と認識するように、初めに触ったほうに慣れると、もう片方には手を出さないみたいですね。

Webブラウザ版「団地アート・オンライン」。

――両方やっている人は珍しいんですね。

ミナセ氏:
 アセットストアで売られている拡張機能や公式に配布されているサンプルプログラムにはいろいろ違いがあって、それぞれの文化が形成されています。なので、両方を使うと、共通点や相違点から、今現在のゲームエンジンの文化の流れが見えるような気がします。両方が同時に取り入れようとしている技術なら今勢いのあるアイディアなんだろう、とか。

――これから使い始める方に勧めるとしたら、どちらですか?

ミナセ氏:
 ブラウザ上でマルチプレーヤーのネットワークプレイを実現することに関しては、大きな違いがありました。UnrealEngineはブラウザゲームのネットワークプレイに対応していないんです。労力をかければやり方はあるようなのですが、今のところUnrealEngineが正式にサポートしてくれることを個人的には期待しています。ただPCソフトの開発に関してはUnrealEngineに利がある部分もあります。

 実は私のパソコンの中にはPC用ビルドの「団地アート・オンライン」があるんですが……。

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