海外では「史上最悪のゲーム」との呼び声も高い『Desert Bus』を利用したチャリティイベント「Desert Bus for Hope 2018」が大盛況の内に終了した。集まった募金額は歴代イベントでの最高額となる73万ドル(約8200万円)。寄付金は全てゲーム業界の慈善団体であるChild’s Playに贈られた。
ドライバーたちは連続160時間、イベント開始の11月9日から1週間、ほぼひとときも休まずバスを運転し続けた。
『Desert Bus』は95年にSega CD(北米版メガCD)で発売予定だったオムニバスゲーム『Penn & Teller’s Smoke and Mirrors』に収録されたゲームのひとつだ。「砂漠のバス」(Desert Bus)の名のとおり、アメリカのアリゾナ州ツーソンからネバダ州ラスベガスまで、約580キロの長い長い一本道をひたすら運転するだけのゲームだ。時折岩や標識が現れるが、ほかの車は一切登場せず、昼夜のサイクル以外に風景の大きな変化はない。
ただまっすぐ進むだけなら進行ボタンを押し続ければいいのではと考えるかもしれないが、このゲームで搭乗するバスは少し壊れており、常に右に右に寄っていく。バスが道路を外れるとゲームオーバーとなりスタート地点のツーソンまで戻されるので、アクセルボタンを固定したまま放置することは許さないゲームデザインとなっている。
なおゲーム内では、最高速度で走り続けてもラスベガスまで8時間はかかる。ポーズはないので、ゲームを始めたらゴールするまでノンストップで走り続けなければならない。あるいは、あきらめて電源を切ってしまうかだ。
最終的に発売されることのなかった『Penn & Teller’s Smoke and Mirrors』と『Desert Bus』だが、レビュワー向けに配布されたソフトが現存していた。2006年ごろインターネット上に流出し、その奇抜で無意味な内容から大きな注目を集めた。
そんな『Desert Bus』を利用して慈善活動をしようとしたのがコメディグループLoadingReadyRunだ。寄付金額によってゲームをプレイする時間を伸ばすというイベントは「Desert Bus For Hope」と名付けられ、2017年までに累計440万ドル以上(約5億円)の寄付を集めた。
1時間バスを走らせるために必要な寄付金は、最初の1時間は1ドル。しかし、このゲームを長く続けることは多大な苦痛となるため、1時間運転するのに必要な寄付金は7%ずつ増えていく。2時間目は1.07ドル、10時間では1.84ドル、4日運転を続ける頃には1時間に必要な寄付金額は1万ドルを超える。
ゲームをプレイし続けるドライバーは単調な画面をずっと眺め続けることになるが、ドライバー以外の他の参加者たちはダンスパーティーをしたり、お酒を飲んだり、ゲストとのトークを楽しんだりと盛り上がる。不注意で事故を起こしてしまったときは、ドライバーもダンスに混ざることになり、今回もそんな一幕が見られた。
また、今年はゲストとして、『Borderlands』シリーズの元クリエイティブディレクターで、映画評論系Youtuberとしても活動中のMikey Neumann氏や、Discovery Channelの「How the Universe Works(邦題・解明・宇宙の仕組み)」にも登場した天文学者のPhil Plait氏らが登場した。年々イベントの規模は募金額と比例するように拡大している。
10年以上続く「Desert Bus For Hope」だが、2018年はついに70万ドルを超える寄付金を集め、寄付総額も500万ドルを突破した。ドライバーは交代制とはいえ、1人には12時間運転のノルマが課せられている。ゆっくり休んで、来年もまた楽しいドライブを見せてほしい。
文/古嶋誉幸