Epic Gamesの開発するゲームエンジン「Unreal Engine」に関するさまざまな情報や活用事例などを紹介するオフラインイベント「Unreal Fest Tokyo 2026」が、11月3日と4日の2日間、東京・有明のTFTビル西館にて開催された。
本イベントには、Epic Games CEOのティム・スウィーニー氏が基調講演に登壇した。

本講演では、AIが破壊的なまでの進化を見せる中、これにあわせて「Unreal Engine 6」でゲーム開発がどのように変わっていくかが語られた。あわせてEpic Gamesが開発者をいかに支援できるか、『フォートナイト』内でコンテンツを開発できるUnreal Editor for Fortnite(UEFN)が、同社の戦略をどう支えるかにもふれられた。
本稿では、ティム氏とEpic Games Japan代表の河﨑高之氏による初日の基調講演の模様をレポート。あわせて、メディア向けの質疑応答の内容も紹介していく。
「Unreal Engine 6」では「ブループリント」を廃止。ゲーム制作の大幅な効率化を信じ、痛みを伴う決断を下す
とくに大きな話題を集めたのが、「Unreal Engine 5」から「Unreal Engine 6」への移行についてだ。ティム氏は「Unreal Engine 6」でゲームの中身を作る言語をテキストベースの「Verse」に移し、従来のビジュアルプログラミング言語「ブループリント」を廃止すると発表した。
AIを利用した開発においては、人間にとって視認性が高いブループリントよりも、テキストベースのVerseのほうがAIとの親和性が高いことが理由となる。
「これは受け入れがたい決定でしょう。我々のデザイナーもブループリントを愛していますし、皆さんの多くがブループリントを愛用されていることは理解しています。ですので、ブループリントを廃止することについて、ここで謝罪させてください」
と、ティム氏は壇上で頭を下げた。その一方で「これはUnreal Engine 6に必要な決断だと考えている」と述べ、次世代のスクリプティングパイプラインにおいて、ゲーム制作が大幅に効率化されるはずだとも語った。
「Unreal Engine 5」からの移行を自動化するためには、AIを利用した移行戦略にも取り組んでいるという。現在『フォートナイト』でこの戦略が試されており、無数のブループリントや、まだ残っているC++のコードをVerseに移し、AIによる開発の加速を最大化させているとのことだ。
Epic Gamesが目標とするのは、より大きなスケールで、より強い相互のつながりを持ったゲームを効率的に開発できる基盤を築くこと。開発者が望めば自分のゲームとほかのゲームを接続できるようにし、そういったシステムのもと、開発者たちが同僚として動いていけるようにしていく。これがEpic Gamesの目指す未来だ。
ティム氏はこの未来が避けようのないものであるとしたうえで、「ゲームの歴史において最大限のクリエイティビティを発揮してきた日本のクリエイターは、その未来においてもリーダー的な役割を担うはずです」と述べた。
「Unreal Engine 6」が作り上げるオープンスタンダード
次世代のゲームエンジン「Unreal Engine 6」は、「Unreal Engine 5」の優れた機能と、『フォートナイト』で作り上げたオープンなエコシステムとを組み合わせたものになる。一度作ったゲームを全プラットフォームで展開できるようにし、『フォートナイト』などのエコシステム内に持ち込めるものにすることが目標だという。
これは、いち企業による独占的な状況を防ぐための戦略であるとティム氏は語る。『ロブロックス』のユーザーベースに太刀打ちできる企業はないが、各企業が力を合わせ、コンテンツやコミュニティ、経済圏をリンクさせることができれば、かつてないほど巨大なエコシステムを作り上げることができるというわけだ。
その実現に向けて重要になってくるのが、「Unreal Engine 6」が採用する数多くのオープンスタンダードだ。3Dモデルのインポートやエクスポートに使うファイル形式の「glTF」のように、すでにいくつかのオープンスタンダードは存在しており、ゲームやゲームエンジン、ツール間でのコンテンツ移動を容易にしてきた。
まだ業界的なスタンダードがない部分についても、Epic Gamesが新たなスタンダードを作り上げ、それを広く公開することでほかの企業も採用できるようにしていくという。
Epic Gamesがもっとも注力したもののひとつが、プログラミング言語の「Verse」だ。「Unreal Engine 6」では、エンジンコードは変わらずC++で書かれるが、ゲームプレイに関してはVerseでスクリプトを書くことになる。
VerseはC#のように簡単に扱うことができ、それでいてC++と同様のパワーを持ったものになっているという。AIツールを利用し加速していくゲーム制作において、これまでのどのプログラミング言語よりも扱いやすいものになるはず、とのことだ。
Verseは『フォートナイト』で5年かけて開発とテストが重ねられており、じきに「Unreal Engine 6」で制作されるすべてのゲームに向けて、使用可能な状態になるそうだ。
「Unreal Engine 6」で導入されるアーキテクチャのひとつとして、「Scene Graph」も取り上げられた。こちらは「Unreal Engine 6」で3Dシーンを制作する際に、中心的な役割を担うAPI。ゲームプレイやシミュレーション、ネットワークや物理演算など、あらゆる面で関わってくることになるものだ。
AI利用と「Unreal Engine 6」で加速するゲーム開発。作業効率が年内には4倍、来年には10倍になる見通し
ティム氏は「Unreal Engine 6」を使ったゲーム制作が、AI利用によって大幅に加速していくことに期待しているとも語った。すでにEpic Games内の開発では、レベルデザインからアート、プログラミングといった分野で1.5倍から4倍の効率化を体感しているという。
それまではエンジニアが4日かけていた作業を、1日で終わらせることができるのは革命的だ。こうした効率化により、クリエイターたちは量産のためのくり返し作業ではなく、よりコアな部分を突き詰めるための作業に集中できることになる。
Epic Games内では、AIを活用するためのパイプライン(作業の流れ)改修がすでに進められている。年内には、プログラミングやコンテンツ作りを最低でも4倍のスピードでこなせるようになり、来年中ごろには多くの領域で作業効率が10倍に達する想定だという。
作業効率10倍とはすごい話に見えるが、ティム氏は「私たちにとっては大きな驚きではありません」と語る。1年前には、コーディングや3DアートにおいてAIツールは実践的な性能を持っていなかった。しかしこの1年でAIの能力は使えないもの(Bad)からすばらしいもの(Excellent)へと進化し、いまなおすさまじい勢いで成長を続けている。
ティム氏が語った、Epic GamesのAIに対するアプローチは以下の通り。
・ゲーム制作はすべて開発者のコントロール下にあり、あらゆるAIモデルを接続可能にし、好きなモデルを選べるようにする
・Epic GamesがAIモデルを売るための仕組みにするつもりはない
・目的はAIを活用してゲーム開発を効率化すること
現在Epic Gamesはアメリカのモデルプロバイダー4社、中国のトップモデルプロバイダー5社とパートナー関係を結んでいる。「Unreal Engine」のソースやEpic Gamesが持つカスタムデータ、サンプルプロジェクトなどを提供し、各社が最高のモデルを制作できるよう取り組みを進めているという。
混乱するゲーム業界において、なお強く輝く日本
2026年現在、AIのすさまじい成長によってゲーム業界全体に大きな変化が起こっている。しかしその中でも、日本の開発者たちは勢いを落とさず、AAAタイトルやオリジナルIPを世界中で成功させている、とティム氏は語る。
ひとつの例として挙げられたのが、「Unreal Engine 5」で制作されたセガの『ソニックレーシング クロスワールド』だ。本作はリリース後1ヵ月で全世界累計販売本数が100万本を突破。11月4日にはシーズンパス2も登場し、その世界をさらに広げている。
そしてセガは、『ソニック』を『フォートナイト』にも持ち込んだ。8月20日から10月31日まで展開した同作のチャプター7・シーズン4では、『ロックマン』や『テトリス』などさまざまなゲームが集結。『ソニック』もその中のひとつだ。
この施策は、作品やプラットフォームの枠を越えて、世界中のユーザーにどうIPを届けられるか、その可能性を示したものになったとティム氏は語る。『フォートナイト』のようにオープンなエコシステムがあれば、プレイヤーがいるところならどこにでもIPを届け、幅広い体験ができる。それがEpic Gamesの作ろうとしている未来だという。
つぎに話題となったのが、6月にSteamでリリースされてから一気にSNSを席捲した『めっちゃカメレオン』だ。ティム氏は本作が「今年もっとも刺激的(inspiring)だった出来事のひとつ」とし、わずか2ヵ月で2000万本を売り上げた大ヒット作が、レモリオン氏とはがねいろ氏のたった2人によって作られたことに驚きを示した。
両氏はもともと『フォートナイト』内でUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)を制作しており、そこでプレイヤーの好みを研究したうえでスタンドアローンなゲームを開発した。
『めっちゃカメレオン』は最大同時接続数34万人超えと驚異的な数字を叩き出したが、そのオンラインシステムを支えたのが、Epic Gamesが提供する無料のバックエンドサービス「Epic Online Services(EOS)」だ。
自分たちでサーバーを動かす必要もなければデータセンターを利用する必要もなく、API【※】を使いさえすれば十分だったとのこと。
※API:
Application Programming Interface(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)。ソフトウェアやプログラムなどをつなぐ仕組み。
『めっちゃカメレオン』の前例が示す通り、プロダクションレベルで利用できるツールがあれば、小規模なチームであっても最高に革新的でビッグなゲームを作り上げ、それを一夜で世界中の人々に届けることが可能である──とティム氏は語る。
『ソニック』と『めっちゃカメレオン』は、それぞれエコシステムの異なる動きかたを示している。
『ソニック』は『フォートナイト』という新たなフィールドに飛び込むことで、それまでとはまったく異なるユーザー層を開拓した。一方で『めっちゃカメレオン』は「UEFN」でゲーム作りを始め、そこからSteamや家庭用ゲーム機に展開するヒットを生み出した。
歴史あるIPを取り込むことと、開発者が自身の作品を世界に向けて発信すること。真逆に思えるふたつの展開だが、「Unreal Engine」のオープンなエコシステムは、そのどちらも実現した事例と言える。
Epic Gamesが提供する開発・運営・頒布システム
ティム氏はEpic Gamesが提供するサービスの図とともに、Epic Gamesがゲーム開発者にどう貢献できるかをあらためて紹介した。
「Unreal Engine」を筆頭に、写真から3Dモデルを作成できる「RealityScan」、フォトリアルな人間のモデルを作成できる「MetaHuman」、あるいは3Dモデルやサウンドなどのデジタル素材を共有・販売できる総合プラットフォームの「Fab」など、ゲーム開発を支援するためのソフトやプラットフォームはとくに充実している。
そして『めっちゃカメレオン』の例でもふれられていたように、Epic Gamesはゲームの運営を支えるオンラインサービスも提供。Epic Games Storeではゲームの販売もでき、もはやひとつのエコシステムへと成長した『フォートナイト』でも自作コンテンツの頒布が可能だ。
いま、ゲーム業界ではゲームのエコシステム化が大きなトレンドになっている、とティム氏は語る。『フォートナイト』には月間7600万人のプレイヤーがおり、『ロブロックス』の月間アクティブユーザー数は4億人を超える。AIの登場もあり、プレイヤーがゲームのエコシステム内で過ごす時間は増加する一方だ。
エコシステム化したゲームの特徴は、プレイヤー同士がゲームからゲームへと移っていく際に、お互いのつながりが途切れず、購入した衣装やエモートがどこに行っても使用できる点だ。
『ロブロックス』がすべてを制御できるクローズドなエコシステムを見事に作り上げたとした一方、『フォートナイト』はEpic Gamesの制御下にあるクローズドなエコシステムとして始まり、いまや完全にオープンなものに成長した。「ここではすべての開発者たちが、同僚として動いている」という。
そして、その進化は今後も続いていく。「Unreal Engine 6」は世界中の開発者たちにオープンなエコシステムを提供するものであり、それがゲーム体験そのものを変化させるものになることを願っている、とティム氏は語った。
「UEFN」でゲームを制作すれば、自動的に全プラットフォームで動作するようになる
Epic Gamesが掲げる将来的な戦略の心臓部となるのが「UEFN」だ。冒頭でもふれた通り、これは『フォートナイト』内でゲームやコンテンツを開発できる無料のゲーム制作ツールとなる。すでに、同ツールを用いて「Unreal Engine 6」の新機能が試験的に開発されているそうだ。
『We’re Cooked!』や『PARANORMAL [HORROR]』など、『フォートナイト』内で制作されたゲームを紹介するとともに、ティム氏は「いったんゲームを作ってしまえば、彼らの作品は自動的に全プラットフォームで動作するようになります」と語る。
ゲームをエコシステムに投げてしまえば、あとはシステムが自動で変換をしてくれるのだ。モバイルからPC、PlayStation 5やNintendo Switch 2、Xbox Series X|Sまで、プラットフォームごとの独自ビルドを作る必要もないのは、なかなか驚きだ。
同時に、Epic Gamesは支払いの処理やサーバー管理といった、運営面のあらゆる手続きもカバーしてくれる。小規模でゲーム開発をするチームにとって、かなりありがたい話だろう。
ここで例として挙げられたのが『Steal the Brainrot』だ。本作は2026年にもっともバズったUGCトレンドであり、開発者のFeRinS氏は『フォートナイト』内でAAAタイトルのようにゲームを運営したという。
デイリーのミニイベントや毎週のライブイベントを開催し、定期的に新しいコンテンツを供給。本作を制作したチームはわずか7名と小規模だが、月間アクティブユーザー数は450万人、ライブイベント中の同時接続数はピーク時で110万人を記録。ベースラインの同時接続数ですら3万人をキープしている。
そして『めっちゃカメレオン』の例と同様に、100万人を超えるユーザーが集まった場合にも開発者たちが何かをする必要はなかった。エコシステムがあらゆる雑務を引き受けてくれたのだ。
「UEFN」のリリース以降、Epic Gamesは開発者たちに10億ドル以上を支払っているとのこと。開発者たちが起業家のような情熱を持ってゲームを開発し、新たなビジネスを作り出していくさまは、1980年代や1990年代のゲーム黎明期を思い出させるという。
『フォートナイト』では、Epic Gamesと収益を分け合うアイテムショップだけでなく、クリエイターが作成した島の中でプレイヤーがV-Bucks(『フォートナイト』のゲーム内通貨)を使ってコンテンツを購入するイン・アイランド・トランザクション(In-Island Transactions)で利益を上げることが可能。
また、Epic Gamesはパートナー企業に働きかけ、各企業が持つIPをエコシステム内で自由に使えるようにもしている。既存IPのゲームを作る場合、これまでは自分たちでIPホルダーと交渉し、権利を購入する必要があった。しかし『フォートナイト』に登録し、IPホルダーに収益の20%を支払うことに同意すれば、即座にそのIPの全コンテンツにアクセスできるようになる。『スター・ウォーズ』のような巨大IPでも気軽に扱えてしまうわけだ。
このことを踏まえたうえで、ティム氏は「Unreal Engine 6がもたらす機会に備えておくためにも、いまのうちに『フォートナイト』の開発環境をチェックし、実際に試して学んでおくことを強くオススメします」とコメントを残した。













