電ファミニコゲーマーでは、ゲームクリエイターに名作ゲームの製作秘話を聞く取材を行ってきた。
その中で見えてきたのは、一見そのジャンル内だけで自律的に発展してきたように見えるゲームが、実は漫画文化のような他ジャンルの影響を受けながら、作り上げられてきたということである。桃太郎電鉄の背後に、実は週刊少年ジャンプや当時の広告代理店カルチャーの文脈が色濃くあったことは、その良い例だろう。
では、その逆はどうなのか。
つまり、デジタルゲームもまたこの30年以上の歴史の中で、他のジャンルに影響を及ぼしてきたのではないか、ということだ。だが、それを具体的に探り始めてみると、ドラクエのような例外中の例外を除くと、意外と資料が乏しいことに気づく。映画や小説の影響を語る作家は多い。最近では漫画の影響を語る人も、決して少なくない。だが、『るろうに剣心』の漫画家・和月伸宏氏のように、ゲームからの影響を公言している作家は決して多くはない。
そんなわけで、実際に第一線で活躍するクリエイターに取材して、一体ゲームがどういう形で創作に影響を与えてきたのかを考えてみよう――というのが、この企画である。今回はその第一回として『とある魔術の禁書目録』などの作品で人気の作家・鎌池和馬氏に話を聞いてみることにした。
鎌池和馬氏は、2004年のラノベが本格的に盛り上がり始めた最中に発売された『とある魔術の禁書目録』(電撃文庫刊)が大きな人気を獲得。以降シリーズ化されると、驚異的なペースで量産を重ねて、2008年にはテレビアニメ化。いまや、押しも押されぬ大人気の作家である。
そんな鎌池氏だが、実は過去の取材の話を読んでみると、基本的には映画から受けた影響の話をすることが多く、ゲームの話は見かけない。だが、取材を始めてみると、中古屋でプレステのゲームを買いあさっていた過去や『ディスガイア』のやりこみ話などが飛び出してくる。さらに、氏からは、格ゲーやソシャゲが各世代の作家に与えた影響についての独自の論も語られた。
ゲームはいかに他メディアの作家に影響を与えてきたか――風変わりな視点の連載の第一回目として大変に充実した内容となった取材の内容を、ここにお届けしたい。
「私らの世代は格ゲーの影響が一番大きい」
――鎌池さんは最近、どんなゲームをプレイされているんですか?
鎌池和馬氏(以下、鎌池氏):
一応、仕事の合間とかにちょこちょことやってはいます。最近だと、『夜廻』(日本一ソフトウェア・2015)を遊んでましたね。日本一ソフトウェア【※】が好きなんですよ。ただ、あのゲームは最初のほうはすごく怖いんですが、恐怖に慣れてくると重要アイテム拾うために死にに行くプレイスタイルになってしまい、申し訳ないですが……。
※ 日本一ソフトウェア
岐阜県に本社を置く日本のゲーム会社。様々なジャンルのゲームを手掛けているが、同社の代表作である『魔界戦記ディスガイア』シリーズをはじめとしたシミュレーションRPGへは特に力を入れており、2008年には『最も多くのシミュレーションRPGを発売した会社』としてギネス世界記録に認定されている。
――その辺は、2Dホラーゲームの宿命ですけれども(笑)、ホラーゲームがお好きなんですか?
鎌池氏:
結構やってると思いますね。『SIREN』のPlayStation 3(以下、PlayStationの表記はプレステ)のやつとか、『サイレントヒル ダウンプア』もやってます。まあ、あれはぐるぐる回りすぎて吐きそうになってしまって、「これはちょっと一休みだな!」と思う事も多かったですけど。狭い隙間に入っていくときに、いちいちぐりぐりと回っていくじゃないですか。
あとは、やっぱり『バイオハザード』ですね。自分の興味が即死系のアクションからだんだんストーリー性の高いゲームに興味が移っていた時期に、『バイオハザード』の1作目が出たんですよ。
おどろどろしい洋館の中に入ると、なんとなくオカルトっぽい雰囲気がありつつ、ゾンビに襲われる。ところが、調べていくと次第に科学の話になり、ついにはゾンビの正体は「●●●●」だったとなって世界観がぐるりと変わる……もう、あの展開が好きなんですよ。
『バイオハザード』は非常に自分の中で大きかったです。プレステになってポリゴンが出てきて、みんな戸惑いながら玉石混淆の色々なゲームに触れていった中で、ついに「うわ、ゲームが変わったな」と思う作品だった気がします。
――ちょうどゲームの作り手が、ゲームクリエイターという存在としてクローズアップされだした頃で、ディレクターの三上真司さんが明確に作家性を感じる人でしたよね。
鎌池氏:
当時はアクションと言えば、ひたすら弾を撃ちまくるとかだったわけですよ。そこに誰かの日記が出てきたりすると、「ああ、そこに人が生きている」という気がしてゾクゾクしたのはありますね。
しかも、ハードが貧弱だから視点をグルグル動かせないし、ロード時間対策でドアの開け閉めを工夫したりしている(笑)。でも、その一つ一つの制約条件がホラーとして絶妙に効いてるでしょう。
――ポリゴンのあのぼやっとした造形も、ホラーとして不気味でしたよね。
鎌池氏:
そこも面白いところだと思います。
そういう話に感動を覚えたのは、私がRPGのようなストーリー性の高いジャンルを遊んでこなかったのもあるとは思いますが。ホラーゲームがジャンルとして好きかというと……やはり実際にそうだとは思います。一番テキストが少なくてのめり込めて、でもストーリーがジューシーになるものだと思うんです。
――濃密なゲーム体験とストーリーが両立するのがホラーゲームである、ということでしょうか?
鎌池氏:
そうですね。
元々はアクションゲームが好きだったんですよ。私がゲームに触れた頃って、スーパーファミコンが出る前の、ファミリーコンピュータが広まりきったあとくらいなんですね。たぶん、中期から後期に当たる時期じゃないかな。当時は、アクションゲームの中でも、『ロックマン』とか『ワギャンランド』みたいな、何かしら一発で死ぬ要素があるゲームが好きでした。
――なんか一発目で『ワギャンランド』が出てくるのが面白いなと思ったのですが(笑)。
鎌池氏:
たぶん、当時の私にはあの「敵を倒さない」システムが新鮮に映っていたんですよ。結局どれだけデフォルメしても、ゲームには敵を倒すという「記号性」が絶対についてまわる中で、『ワギャンランド』は痺れさせた敵に乗る仕組みだったんです。あと、ボス戦がなぞなぞやしりとりというのも、当時にしては珍しかったです。
――そこに注目する子供も普通じゃない気がしますが……(笑)。
鎌池氏:
ただ、そのずっとあとにはRPGにもいくんですけどね。今になってから、リメイクされた『ドラゴンクエスト』を探しているような感じですよ(笑)。
好きなRPGは……例えば『世界樹の迷宮』のような、自分でポチポチと地図を作って延々と作業をしていくゲームですかね。別に「数独」みたいなパズルが好きな人間ではないんですが、そこにRPGという要素が加わって自分で絵を組み立てていくことになったとき、「あ、この作業ずっとやれるな」とのめり込んだんです。
あと、他にもう一つ好きなRPGを挙げるなら、『魔界戦記ディスガイア』ですね。これも日本一ソフトウェアですけれども。あれもストーリーや世界観もそうですが、単純にやりこみ要素が好きなんですよ。
全部は全部極められる訳じゃないんですけど、やり込むならやっぱりハイスコアか時間短縮を突き詰めている感じですね。バイオハザード3時間クリアとか。学生の頃やデビューしたての頃は、1本のソフトを延々とやってました。
『魔界戦記ディスガイア』シリーズの場合は、数字の上限がない感じも好きなんですよ。ダメージ1億とか(笑)。シューティングだと1垓【※】とか1兆とかありますけど、RPGでボンッとああいう上がり方をするのは珍しい。あと、とにかく遊びやすいからずっとやっている感じです。入り口のスムーズさと奥の深さは突出してますよね。
※ 垓
10の20乗を表現する単位。数字で書くと、”100,000,000,000,000,000,000”。
――この特集は、ゲームがいかに同世代の他ジャンルのカルチャーに影響を及ぼしてきたのかを考えていく連載なんです。もちろん、ゲーム風の設定を小説や漫画に取り込むという話もあるのですが、さらに作品のより深いレベルでの構造や創作の姿勢に、ゲームが与えた影響を検証していければと思っていまして……。
鎌池氏:
なるほど。そういう意味では、世代によって変わってしまうと思うのですが、私たちの世代はやっぱり格闘ゲームの影響が一番大きいと思うんですよね。
――なるほど! 確かに、まさにアーケードが格ゲーでアツかった時期を体験している世代ですよね。
鎌池氏:
もうストーリーを読まなくても、そのキャラが何かわかったりする書き方があるんです。例えば、「炎属性」というキャラを作ったら、「見た目は赤で統一しましょう。そして熱血系で」みたいな発想で見た目から性格を考えてしまう。しかも、それが複数の属性のキャラの統一パッケージになっていて、「炎属性」のキャラクターが「氷属性」のキャラクターに挑んでいく展開にしたりする。
こういう発想は間違いなく、格ゲーがラノベ系の作家に与えた影響だと思うんです。実際のところ、『とある魔術の禁書目録』に出てくるキャラはそういう作り方なんですよ。
三木一馬氏(鎌池氏の担当編集。以下、三木氏):
それは確かにわかる気がしますが、……でも、鎌池さんはカプコンよりは『THE KING OF FIGHTERS』(以下、KOF)【※】の路線な気がします(笑)。
あとは『サムライスピリッツ』とか、『ワールドヒーローズ』とか、『豪血寺一族』とかみたいな、要はニッチでキャラが尖った感じのやつがいるゲームですよ。あっち系の匂いを僕は感じるんですけど。
※ THE KING OF FIGHTERS
SNK(現在はSNKプレイモア)より発売されている対戦型格闘ゲームシリーズ。元々は同社の人気格闘ゲーム『餓狼伝説』シリーズ及び『龍虎の拳2』の作中に登場する格闘大会名であったが、両作品をはじめとしたSNKの人気キャラクターが共演するというコンセプトの元、1994年に第1作を発売して以降は独立したシリーズとなった。
――キャラゲーとしての「格ゲー」ですよね。アクセラレータ【※1】なんかは、まさに八神庵【※2】みたいな格ゲーならではのひねた感じのダークヒーローの格好良さがある気がします。やはり、鎌池さん自身もカプコンよりは“KOF派”でしたか? キム・カッファンなんて、削板軍覇みたいな鎌池さんの作品に出てくるキャラみたいですが。
※1 アクセラレータ(一方通行)
「とある」シリーズに登場する主人公格の一人。同作の舞台となる学園都市最強の超能力者で、自分の体に触れたあらゆる「力」の方向を自由に操る能力を持つ。
※2 八神庵
『KOF』シリーズの主人公である草薙京の宿敵・ライバルにして同シリーズの準主人公。赤い炎を操る京とは対照的に紫色の炎を操って戦う。
鎌池氏:
ああ……そういう意味では、私は基本的に家庭用ゲーマーで、ほとんどアーケードを通ってないんです。その意味で、KOFはやはりアーケード向けという感覚があって、実際に触れるのは『ストリートファイターII』の方が多かったです。
ただ、あの頃は実際に触れなくても、友達の誰かが必ずやっていた時代ですからね。たまにしか触れなかったからこそ、逆に変に理想が膨らんでいるのはあるかもしれない。浜面仕上【※】とか、使用キャラとして使ってみたいじゃないですか(笑)。
※ 浜面仕上
「とある」シリーズにおける上条当麻、一方通行に次ぐ第3の主人公格。他の二人とは異なり、特殊な能力等は一切持たない普通の人間だが、知恵や機転を武器に能力者と渡り合う根性の持ち主。
――KOFはKOFで、K´みたいな、めちゃくちゃラノベっぽいキャラもいますからね。
鎌池氏:
ちなみに上条当麻なんかは、そういう発想のアンチテーゼに走らせているんですけどね。つまり、「あらゆる能力を打ち消してしまうキャラ」が存在していたら、どんな最強キャラでも元の普通の人に戻ってしまう、という理屈です。
三木氏:
確かに、そういう見方もありますね(笑)。
鎌池氏:
あと、やっぱり特殊な能力を持った人同士で戦わせるときに、まずデカい剣とかではなくて殴り合いを意識しているのは格ゲーの影響かもしれない。だって、『とある魔術の禁書目録』の戦闘シーンにおける間合いって、明らかに『GUILTY GEAR』【※】以前の格ゲーなんですよ(笑)。まあ、女の子を殺してしまわないラインの戦闘となるとデカい武器は扱いが難しく、落としどころは拳の殴り合いにならざるを得ない事情もあるんですけどね。
※ 『GUILTY GEAR』
アークシステムワークス製作の対戦型格闘ゲームシリーズ。1998年に第1作が初代PlayStationにて発売されて以降、ファンタジー系の世界観やキャラクター、ハードロックやヘビメタの要素を取り入れたBGM、斬新なコンボシステム等の、従来の格闘ゲームには見られなかった要素が人気を博し、シリーズ化された。
――なるほど。それにしても、キャラゲーとしてのKOFのような格ゲーが、いわば鎌池さんのようなラノベ現役世代のトップランナーに影響を与えている……というのはかなり鋭い指摘かもしれないです。個性のぶつかり合いのバランスで物語がドライブする感覚は、確かに「格ゲー」そのものですね。
鎌池氏:
他レーベルでも、1対1のトーナメント制の舞台をモチーフにした作品群がウケているじゃないですか。時代劇や西部劇のように、舞台装置の一つとして「格ゲー、分かるよね?」という共通認識みたいなのもあるのかなと。
三木氏:
そういえば、鎌池さんと僕は漫画の話が全く合わないんですよ。これは世代的に仕方ないのですが、僕が青春時代を過ごした、一昔前の週刊少年ジャンプの作品をたくさん挙げても、「読んだことないです」なんです。僕が「やっぱりここで男は立ち上がる! これは“友情・努力・勝利”だよ」と言うと、「そこまで詳しくないのですが、頑張ってみます」って(笑)。
――三木さんは著作で、あんなに「週刊少年ジャンプ」を例にして話をされていたのに(笑)。でも、ああいうトーナメント制の直接的な影響が、「ジャンプ」よりも「格ゲー」だったというのは、一つ見立てとして面白いですね。
三木氏:
もちろん、格闘ゲームの中にも「男らしい」とか「負けても立ち上がる」みたいな理念はあるし、鎌池さんの場合は単純に人々が求める欲求として汲み上げているとは思うんですけどね。
だから、それぞれ違うルートから登っていって、山頂で「こんにちは」した感じかもしれないですね(笑)。
ちなみに、僕的には鎌池さんの作品とちょっと似てるなと思うのが『鉄拳』なんですよ。というのも僕が以前、原田勝弘さん【※】とお会いしたときに、「どうしても一つ聞きたかったんですが、なんでプレイアブルキャラで、只のクマを出したんですか?」と質問したんです。
※ 原田勝弘
バンダイナムコエンターテインメントに所属するゲームクリエイター。3D対戦型格闘ゲーム『鉄拳』シリーズのプロデューサーとして知られる。
一同:
(笑)
三木氏:
だって、変じゃないですか!
強い化け物を出すなら、恐竜とか、宇宙人だとかでいいんですよ。なぜクマなんかに、3Dのリソースを食わせるのか、と。そうしたら原田さんの返答が凄くて、「格闘家はクマを倒したいと思ってるからだ」と言うわけですよ(笑)。
――大山倍達【※】からの伝統ですね(笑)。
※ 大山倍達
実在の格闘家。国際空手道連盟極真会館の創立者として知られる。1970年代には氏の武勇伝や弟子達の活躍を漫画化した『空手バカ一代』が大ヒットし、日本中に空手ブームを巻き起こした。1994年没。
三木氏:
もう、「なるほど!」と納得しちゃいました。
しかも、最後にクマと仲良くするエンディングもありますからね。『鉄拳』はクマで感動させたり、パンダに強さを求めてみたり、色々とおかしい(笑)。でも、この面白さって、鎌池さんの作品の「え、こんなやつが活躍するの!?」みたいな面白さと一緒だと思うんです。何かマインドに共通するものを凄く感じるんですよ。