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「夢見りあむ」という炎上アイドルは、アイドルになることはできたのか?

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「変な思い込みやルールをぶっ壊しちゃえー!」

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 あなたは夢見りあむというアイドルをご存じだろうか。

 彼女は『アイドルマスターシンデレラガールズ』という、『THE IDOLM@STER』の世界観をモチーフとして作られたソーシャルゲームで生まれたアイドルだ。その世界では多数のアイドルたちがユニットを組んで曲をリリースしたり、現実の世界でも声優がライブを行っていたりする。

 彼女は2019年2月7日に『アイドルマスターシンデレラガールズ』の「鳥取エリア」ボスとして登場した。音楽ゲームである「スターライトステージ」には、第8回総選挙開催前日の2019年4月15日に実装され、そのまま総合順位で異例の3位を獲得、2019年7月31日には早々とボイスが実装された。

 ドワンゴとpixivが主催するネット流行語大賞では「夢見りあむ」がトップ20入を果たすなど、凄まじい勢いで話題を作り上げてきたアイドルである。

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 そして2020年4月10日にはソロ曲の『OTAHEN アンセム』が発表され、これがまた世を大きく騒がせることになる。

 『アイドルマスターシンデレラガールズ』の代表曲である「お願いシンデレラ」を引用し「お願いタヒんでくれ」と歌詞を替え、さらに「うん CALL──!!」という小学生のシモネタのような過激な歌詞と破茶滅茶な展開を有する曲を歌い上げ、さらにアイドルらしからぬガニ股ダンスなどのパフォーマンスでプロデューサーたちをざわつかせたのだ。

 一過性の炎上人気が危惧された中でも、またもや話題を作り出し、夢見りあむは根強い人気を獲得した二次元アイドルとして焦げ跡ならぬ爪痕を各所に残している。

 しかし、炎上アイドルと言われている彼女は単に周囲の興味をひくために過激な行動を繰り返しているのだろうか。はたして彼女はどのようなアイドルとして描かれているのだろうか。彼女の持つアイドル像や言動を分析して、夢見りあむという存在について考えていく。

文/tnhr
編集/ishigenn


そもそも「夢見りあむ」とは

 夢見りあむのプロフィールや人物像についてはじめに触れておきたい。『アイドルマスターシンデレラガールズ』には実にさまざまなアイドルが存在するが、彼女は「ゆとり世代かつSNS育ちでドルオタ」という設定を持っており、「ザコメンタル」を自称していて精神面が非常にもろい。

 いわゆるコミュ障のような傾向がみられ、言葉の選択も上手ではないためにネットで炎上することが多い。そのため叩かれることに対して怯えているのだが、ときには「炎上でもいい!目立ちたい!」と開き直ることもあるため、非常に情緒が不安定である。

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 趣味は真夜中の意味深ポエムと現場参戦らしく、前者が表しているのはSNS上での病みツイート的なものと推定できる。後者の現場参戦というワードは、アイドルのライブに足を運ぶことを指しており、この要素が彼女を語るにあたって非常に重要なものとなってくる。

 彼女は確固たる「アイドルの理想像」を持っており「アイドルはたゆまぬ努力をしており、その果てに見えるきらめきこそが尊いものである」とも語っている。その真逆として、自分自身のことは努力も根性もないと評価しているため、アイドルでありながら自分は推されないと自己嫌悪に至っているのだ。

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夢見りあむというアイドルの経緯

 そもそもそんな彼女は、どのようにアイドルになって、どのように話題になっていったのだろうか。

 彼女とプロデューサーとの出会いは地下アイドルLIVE会場だ。絶賛炎上中で他のオタクと揉めているところをプロデューサーに声をかけられたところから始まる。プロデューサーには炎上してもいいと言われ、こんな自分を拾ってくれたという喜びからか「Pサマ」と呼び始め、慕うようになる。

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 急にアイドルになってしまったために、テレビ局の収録では空気の読めない発言をしてしまったり、リゾートプールでのLIVEは誰にも相手にされなかったりと、落ち込む場面が多く見られる。

 そんな中彼女は「第8回シンデレラガール総選挙」で登場から数か月しか経っていないのに総合3位という結果を残すのだ。

 この「シンデレラガール総選挙」というものは、毎年行われる恒例行事で、プロデューサーとアイドルひとりひとりにとっては非常に大切な行事となっている。1位を獲得したアイドルは「シンデレラガール」の称号を獲得し、さまざまな公式展開で活躍の機会が与えられる。ほかにも上位のアイドルを集めたユニットが作られたり、声がなかったアイドルには声優がつくなどの恩恵がある。

 夢見りあむが3位を獲得した当時のネットは衝撃に包まれ、惜しくも上位に入ることのなかったアイドルを推すほかのプロデューサーから反感を買うことも少なくはなかった。

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 彼女も「ホントはもっと地道に着々と人気出ていって手応えとかあって そのうちブレイクしてくりあむちゃんのアイドル活動だったのに いきなり大舞台に立たされるのおかしすぎ!笑うしかない!」と語っている。

 炎上の原因のひとつである、ぽっと出であるのに上位に入ってしまう場違い感や実力のついてこなさを理解している。普通であれば総選挙上位は快挙であり喜ぶべき出来事であるはずなのに、夢見りあむというアイドルは、さらにメンタルをこじらせてしまうことになるのだ。

ステレオタイプのアイドル像

 とはいえ、アイドルとしては大きな成功を収めつつあるにも関わらず、夢見りあむはなぜ単純に喜ぶことができず自己嫌悪におちいるのだろうか。

 彼女は、アイドルに救われたと言うほどのアイドルオタクだ。そしてはじめに述べたように彼女には確固たる「アイドルの理想像」が存在している。彼女にはそれが、呪いのように付きまとってしまっているのではないかと考えられる。たとえば彼女はあるシーンで、以下のようなセリフを吐き出す。

アイドルはダメじゃいけないしダメなやつはアイドルじゃない!
それは他の何百人ものアイドルが証明してるじゃん!
ぼくのダメさはこの人生じゃもう直らないからやむんだよう…!

 彼女は客観的にみれば、アイドルとして評価するに値するビジュアルやキャラクターを持っているし、それが評価されて総選挙で話題を作った。それでも自身を否定してしまうのは、自分が好きなアイドルとのギャップがあまりにも大きすぎるからである。つまり、彼女は自分が理想とする尊いアイドルになることを挫折してしまっているのだ。

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 夢見りあむを受け入れられない人たちは、『アイドルマスターシンデレラガールズ』という世界観の崩壊を危惧したり、アイドルらしからぬ行為を指摘している場合があるが、夢見りあむも同じメンタリティで、自身のことを客観的に見つめている。ざっくり言ってしまえば、夢見りあむ否定派と夢見りあむが守りたいものは一致していると考えることができる。

 また、自分に投票してくれた人々に向けても「結局、ぼくが求められてるわけじゃなかったんでしょ?ただ飽きるまでオモチャにできれば良かったんだよね?」と悪態をついてしまうのは、「推し変するしオタクは信用できない(ソースは自分)」という言葉から分かるように、自己反省のためだと捉えることができる。

 ここまでを読めばわかるように、夢見りあむのキャラクターを作り上げているアイドルオタクという要素は、単にキャラクターに与えられるスパイスのような味付けに終わっていない。アイドルをテーマにしたゲームに登場するアイドルでありながら、彼女の言動は本来は反対側にいるはずの「アイドルオタクの鏡」の思考や言動を表現している。

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脱アイドル

 ただ、ここで単純にアイドルオタクの危うさを表現するようなニヒリズムにおちいるだけで終わらない「ザコメンタル」が、夢見りあむというアイドルだ。彼女の魅力は、ある種の泥臭さとアイドルへの絶対的な信用であり、彼女はここから自分を作中で肯定していく。

 まずは選挙後の葛藤を乗り越えた彼女の言葉を見ていただきたい。

だからぼく、決めたんだ。みんなのアイドルなんかに
なってやらないって!ステージの上から笑ってやるって!
アイドル失格のダメダメ子としてステージに立ちたくないから!

アイドルって尊いよな?推せるよな?救ってほしいよな?
でもぼくはそれができるほど人間できてない!尊くなんてない!
だからアイドルになれない!だからアイドルにならない!

ぼくはアイドルじゃない、りあむとしてここに立ってる!
ぼくはぼくのまま、「いま」を楽しんでやるって決めたんだ!
さぁ、りあむのりあむによるりあむのためのステージ、始めるぞ!

 自身で「アイドルじゃない」と言い放つ彼女を見て「開き直りだ」と捉るかもしれないが、これは呪いのように夢見りあむに付きまとっていたアイドルの理想像からの脱却だと捉えたほうが自然だろう。

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 彼女は「だから(ステレオタイプの)アイドルになれない! だから(ステレオタイプの)アイドルにならない!」と主張しており、この考えは既存の概念にとらわれない自分自身が目指すべきアイドル像を作るという表明でもある。

 実際に彼女は、「女の子がアイドルを目指すシンデレラストーリー」から、「オタクがアイドルを目指すシンデレラストーリー」という新たな表現の拡張を起こしている。

 これは「内なるステレオタイプによって苦しむ人間」が新たなタイプでいることを見出すという、夢見りあむによる夢見りあむのための救済の物語となっている。じつに現代社会的なこのテーマの中で、夢見りあむは普遍的な人間のあり方である方法のひとつを提示してくれているのだ。

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 『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』内で手に入る夢見りあむのポスターには、以下のような説明文が付いている。

夢見りあむのポスター。
自分のためであってもステージを楽しむりあむの姿は
誰よりアイドルらしい。りあむはまだ、それを知らない。

 この説明は、「アイドル」という概念についての新たな可能性を示唆していると思うのは私だけではないはずだ。この記事を読み終えて、新たに『OTAHEN アンセム』を聴いたり、夢見りあむのコミュを見たりすると、新しい見方ができるかもしれない。

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ライター
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メイプルストーリーで人との関わり方を学び、ゲームのゲームらしさについて考えるようになる。主にRPG、アドベンチャーゲーム、アクションゲームの物語やシステムに興味のある学生。
Twitter:@zombie_haruchan
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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