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『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心

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『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心_006
『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心_007

 やはり、この場所は、
 何かがおかしい。

 あんなに不安で、
 あんなに緊張していたのに、
 深夜になると勝手に
 眠ってしまうのは、異常だ。

 あるいは『護符』のせいか?
 眠ってしまう代償に、
 夜も安全に過ごせる……

 そんな隠し効果とか、
 副作用があるのかもしれない。

 ……安全、だと?

 それすら、勘違いだった。

 何かの間違いだ。
 それか罠だ。
 誰かが敷いた、
 途方もない悪意の策略だ。

 でなきゃ、

 こんなこと、あってたまるか。

『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心_008

【ゴニヤ死亡】

【3日目の夜明けを迎えた】

【生存】
フレイグ、ヨーズ、ビョルカ

【死亡】
ウルヴル、ゴニヤ、レイズル

『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心_009

 小さな子供は宝だ。
 希望そのものだ。

 『村』の外を僕は知らない……
 けど、多分どこでも同じはず。

 だから、
 子供が殺されるような事態は、
 悪夢的だし、絶望的だし、
 絶対に許してはいけないはず。

 なのに今、
 子供の無残な死体を、
 3人の大人が囲んでいる。

「これは……
 
 こんな……
 
 どうして、できるッ……!」

 涙。悲しみの叫び。
 不条理を責める言葉。
 あらゆるものを押し殺して、
 ビョルカさんは立ち尽くす。

「……」

 一方で、ヨーズはただ、
 無表情に突っ立っている──
 ように見えるけど、

 真っ直ぐに死を見つめる視線、
 握りしめたままの拳、
 すべて、ヨーズの猛烈な感情を
 表してるように見えた。

『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心_010
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(さあ、楽しい三人旅。
 
 フレイグは、
 どっちを信じる?
 あたしを選んであいつを殺す。
 あたしを選んであたしを殺す。
 どっちもいいな。
 
 『狼』の残虐さで
 水増しされてるけど、
 元からのあたしの望みと
 何ら変わらない。
 
 あたしはいかれてる。
 あんたもそうだろ。
 あいつを選ぶな。)

 ……ふざけんなよ。

 冗談じゃないんだよ。

 こんなに悲痛な
 怒りに満ちた場なのに、

 『狼』はこの中にいる、
 ってことだ。

「……私が埋葬します。
 2人はどうか、見張りを。
 
 血の臭いが獣を集めると
 いけませんから。
 
 その後は、進みましょう」

「悲しみに身を任せ、
 何もかも放り出したい
 気持ちですが、
 もう我らには、
 時間が残されていません。
 
 日没ごろ、
 『ヴァリン・ホルンの儀』
 行います。
 
 終わらせましょう。全てを」

 ……僕とヨーズは、
 黙ってうなずいた。

 これから何時間か続く、
 重苦しい沈黙の行軍。

 それをいっぱいに使って、
 考えるんだ。
 僕が願い得る、最善を。

 そうすべきだったはずだ。

 なのに。

『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心_011

「私を疑ってるでしょ」

 血の気が凍る気分だった。

 正午の休憩を過ぎて、
 行軍を再開した直後、
 僕が転んで雪に埋まった、
 その直後のことだ。

 転倒じたいは何度もあって、
 そのたび自力で抜け出した。
 なのに今回に限って、
 ヨーズが近寄ってきて
 手を差し出して──
 その時に、ささやかれた。

「おまえ、それ、共謀の禁忌──」

「黙って聞け。
 ビョルカは休んでる。
 小声なら起こさない」

 進行方向を見る。
 高い尾根の向こう。
 ビョルカさんの人影が、
 岩陰に腰かけてるのが見える。

 ……目を閉じてる。
 よほど疲れてるんだろう。

「……禁忌。
 『死体の乙女』を信じる道。
 『村』での過酷な暮らしを
 生き抜くための知恵。
 そう習うよね。
 
 気付いてるはず。
 結局それは、
 巫女が生き残るための知恵」

「……ああ、そうだったよ。
 
 禁忌にはふれるな。
 同胞には決して手を上げるな。
 仕方ない場合は『儀』に頼れ。
 心を『死体の乙女』に預けて、
 堅く結束しろ。
 
 『死体の乙女』を代弁する
 巫女様方は、うまくすれば
 絶対傷つかないしくみだ。
 
 考えれば誰でも分かる……」

 でも、だからなんだよ……!

 巫女様方は、色んな儀式や、
 さまざまな薬餌(やくじ)の知識、
 減った人数の『産み直し』
 あらゆる責を負ってる!

 『村』を産み育てる役だ……
 一番大事にされるべきだ……!

「……だから、言ってる。
 
 この状況でも絶対、
 あんたはビョルカを疑わない。
 
 で、私。
 『儀』で選ばれる。
 あんたとビョルカに。
 殺される。
 
 どうする?
 
 あれがビョルカに化けた
 『狼』だったら」

『ギ・クロニクルif』断罪b~疑心_012

 今度こそ、血が凍った。

 ヨーズは僕の心の中を、
 正しく言い当てていた。

 僕が考えていたのは、
 『狼』はヨーズか、
 それとも自分の正体にすら
 気付いていない僕かの2択。

 ビョルカさんが『狼』だとか、
 思うわけがなかった。

 では、ありえないのか?

「あり、えない……」

「そう。言うしかない。
 そう思いたいだけだから。
 
 私が『狼』なら、
 ビョルカを殺して皮をかぶる。
 全員いいなりにできるから」

「……なん、なんだよ、
 なんなんだよ、ヨーズも、
 ウルヴルのジジイも……!
 
 『狼』が誰に化ければ得とか、
 そんなのどうして思いつく!?」

「おかしいんだよ!
 この場所は、この旅は全部!
 
 なんでみんなそんな、卑(いや)しい、
 おぞましい考え方が
 すぐにでもできるんだ!?
 
 『理』『乙女』に預けて、
 傷と痛みで魂を磨く……!
 そうやって生きて来たハズだ、
 なのに……!」

「そう。『村』ではね。
 
 もう、『村』はない。
 
 ……残念だけど。
 巫女ももういないよ。
 フレイグ。
 
 だから切り替えた。
 私も。ウルヴルも。
 
 遅かれ早かれだ。
 生きるには」

「僕は違う……!
 巫女の剣となり盾となって
 死ぬのが僕の役割だ……!」

「だから……
 
 言ってる。
 その役割は終わったって!
 
 思い出せ。
 勇士の、剣と盾の本質。
 
 みんなの前で、
 血と骨と肉を浴びる役だろ」

「汚れろ。考えろ。
 最悪の中から。命を選び取れ。
 
 あんたならできる」

「……
 
 しゃべりすぎ。疲れた。
 
 以上」

「待てよ!
 
 ヨーズ……
 なんで、僕なんかに、
 そんな……」

「……
 
 はあ。
 
 同じ、汚れ役。
 むしろそっちが格上。
 働けよ。と思った。
 
 とでも思っとけば」

 ……最後は不機嫌そうに
 鼻を鳴らし、ヨーズは結局僕を
 助け起こさずに去っていった。

 石でも呑んだ気分だ。

 普段あれだけ
 言葉をケチるヨーズが、
 今日あれだけ
 言葉を尽くして、
 僕の考えを変えようとした。
 事実としては、そうなる。

【ルート分岐:岐路】

ゴニヤが夜に殺され、まだ『狼』がいるとはっきりした。
変わらず高潔で真摯なビョルカさん。
言葉と心を尽くし、僕に立てとうながしたヨーズ。
どちらか、『儀』で指さななきゃならない。

……どっち、だよ。

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