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やはり、この場所は、
何かがおかしい。
あんなに不安で、
あんなに緊張していたのに、
深夜になると勝手に
眠ってしまうのは、異常だ。
あるいは『護符』のせいか?
眠ってしまう代償に、
夜も安全に過ごせる……
そんな隠し効果とか、
副作用があるのかもしれない。
……安全、だと?
それすら、勘違いだった。
何かの間違いだ。
それか罠だ。
誰かが敷いた、
途方もない悪意の策略だ。
でなきゃ、
こんなこと、あってたまるか。
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【ゴニヤ死亡】
【3日目の夜明けを迎えた】
【生存】
フレイグ、ヨーズ、ビョルカ【死亡】
ウルヴル、ゴニヤ、レイズル
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小さな子供は宝だ。
希望そのものだ。
『村』の外を僕は知らない……
けど、多分どこでも同じはず。
だから、
子供が殺されるような事態は、
悪夢的だし、絶望的だし、
絶対に許してはいけないはず。
なのに今、
子供の無残な死体を、
3人の大人が囲んでいる。
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「これは……
こんな……
どうして、できるッ……!」
涙。悲しみの叫び。
不条理を責める言葉。
あらゆるものを押し殺して、
ビョルカさんは立ち尽くす。
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「……」
一方で、ヨーズはただ、
無表情に突っ立っている──
ように見えるけど、
真っ直ぐに死を見つめる視線、
握りしめたままの拳、
すべて、ヨーズの猛烈な感情を
表してるように見えた。
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シークレットを見る(Tap)
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(さあ、楽しい三人旅。
フレイグは、
どっちを信じる?
あたしを選んであいつを殺す。
あたしを選んであたしを殺す。
どっちもいいな。
『狼』の残虐さで
水増しされてるけど、
元からのあたしの望みと
何ら変わらない。
あたしはいかれてる。
あんたもそうだろ。
あいつを選ぶな。)
……ふざけんなよ。
冗談じゃないんだよ。
こんなに悲痛な
怒りに満ちた場なのに、
『狼』はこの中にいる、
ってことだ。
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「……私が埋葬します。
2人はどうか、見張りを。
血の臭いが獣を集めると
いけませんから。
その後は、進みましょう」
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「悲しみに身を任せ、
何もかも放り出したい
気持ちですが、
もう我らには、
時間が残されていません。
日没ごろ、
『ヴァリン・ホルンの儀』を
行います。
終わらせましょう。全てを」
……僕とヨーズは、
黙ってうなずいた。
これから何時間か続く、
重苦しい沈黙の行軍。
それをいっぱいに使って、
考えるんだ。
僕が願い得る、最善を。
そうすべきだったはずだ。
なのに。
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「私を疑ってるでしょ」
血の気が凍る気分だった。
正午の休憩を過ぎて、
行軍を再開した直後、
僕が転んで雪に埋まった、
その直後のことだ。
転倒じたいは何度もあって、
そのたび自力で抜け出した。
なのに今回に限って、
ヨーズが近寄ってきて
手を差し出して──
その時に、ささやかれた。
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「おまえ、それ、共謀の禁忌──」
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「黙って聞け。
ビョルカは休んでる。
小声なら起こさない」
進行方向を見る。
高い尾根の向こう。
ビョルカさんの人影が、
岩陰に腰かけてるのが見える。
……目を閉じてる。
よほど疲れてるんだろう。
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「……禁忌。
『死体の乙女』を信じる道。
『村』での過酷な暮らしを
生き抜くための知恵。
そう習うよね。
気付いてるはず。
結局それは、
巫女が生き残るための知恵」
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「……ああ、そうだったよ。
禁忌にはふれるな。
同胞には決して手を上げるな。
仕方ない場合は『儀』に頼れ。
心を『死体の乙女』に預けて、
堅く結束しろ。
『死体の乙女』を代弁する
巫女様方は、うまくすれば
絶対傷つかないしくみだ。
考えれば誰でも分かる……」
でも、だからなんだよ……!
巫女様方は、色んな儀式や、
さまざまな薬餌(やくじ)の知識、
減った人数の『産み直し』、
あらゆる責を負ってる!
『村』を産み育てる役だ……
一番大事にされるべきだ……!
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「……だから、言ってる。
この状況でも絶対、
あんたはビョルカを疑わない。
で、私。
『儀』で選ばれる。
あんたとビョルカに。
殺される。
どうする?
あれがビョルカに化けた
『狼』だったら」
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今度こそ、血が凍った。
ヨーズは僕の心の中を、
正しく言い当てていた。
僕が考えていたのは、
『狼』はヨーズか、
それとも自分の正体にすら
気付いていない僕かの2択。
ビョルカさんが『狼』だとか、
思うわけがなかった。
では、ありえないのか?
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「あり、えない……」
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「そう。言うしかない。
そう思いたいだけだから。
私が『狼』なら、
ビョルカを殺して皮をかぶる。
全員いいなりにできるから」
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「……なん、なんだよ、
なんなんだよ、ヨーズも、
ウルヴルのジジイも……!
『狼』が誰に化ければ得とか、
そんなのどうして思いつく!?」
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「おかしいんだよ!
この場所は、この旅は全部!
なんでみんなそんな、卑(いや)しい、
おぞましい考え方が
すぐにでもできるんだ!?
『理』は『乙女』に預けて、
傷と痛みで魂を磨く……!
そうやって生きて来たハズだ、
なのに……!」
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「そう。『村』ではね。
もう、『村』はない。
……残念だけど。
巫女ももういないよ。
フレイグ。
だから切り替えた。
私も。ウルヴルも。
遅かれ早かれだ。
生きるには」
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「僕は違う……!
巫女の剣となり盾となって
死ぬのが僕の役割だ……!」
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「だから……
言ってる。
その役割は終わったって!
思い出せ。
勇士の、剣と盾の本質。
みんなの前で、
血と骨と肉を浴びる役だろ」
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「汚れろ。考えろ。
最悪の中から。命を選び取れ。
あんたならできる」
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「……
しゃべりすぎ。疲れた。
以上」
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「待てよ!
ヨーズ……
なんで、僕なんかに、
そんな……」
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「……
はあ。
同じ、汚れ役。
むしろそっちが格上。
働けよ。と思った。
とでも思っとけば」
……最後は不機嫌そうに
鼻を鳴らし、ヨーズは結局僕を
助け起こさずに去っていった。
石でも呑んだ気分だ。
普段あれだけ
言葉をケチるヨーズが、
今日あれだけ
言葉を尽くして、
僕の考えを変えようとした。
事実としては、そうなる。
【ルート分岐:岐路】
ゴニヤが夜に殺され、まだ『狼』がいるとはっきりした。
変わらず高潔で真摯なビョルカさん。
言葉と心を尽くし、僕に立てとうながしたヨーズ。
どちらか、『儀』で指さななきゃならない。……どっち、だよ。