「……日没。
ヴァルメイヤの刻限(こくげん)です。
皆さん、よろしいですね?」
「僕は大丈夫です」
「別にいい。
最初から決まってるし。
答えも。たぶん、結果も」
「……」
「静かに、ヨーズ。
それでは、参りますよ。
『ヴァルメイヤよ、
ご照覧あれ!』
血と肉と骨にかけて──
みっつ!
ふたつ!
ひとつ!」
……
実のところ、
ビョルカさんとヨーズが
『誰も犠としない』を
選ぶのは、読めてた。
一方、
読めなかったゴニヤだけど、
ヨーズを指さしてる。
明らかに、
怒りと怯えの混じった目で。
「……どういうこと」
「……!」
「ゴニヤ……!」
「やめなさい、ヨーズ。
本来『ヴァリン・ホルン』に
『理由』の表明など
必要ないのですよ。
必要なのは、結果だけです」
結果……
そうだ、結果だけだ。
僕ひとりぶんの指名が
決定づけた、
結果だけなんだ……
断罪(b)
「……とはいえ、結果は……
ヨーズを指さした者は
1人だけ。
誰も犠としない、という選択を
覆すものでは
ありませんでした。
フレイグ、いいですね?」
「はい……僕からも、
特に言いたいことはないです」
「ヨーズも、ゴニヤも。
いいですね?」
「もちろん」
「………………っ………………」
【誰も犠とされなかった】
【2日目の日没を迎えた】
【生存】
フレイグ、ヨーズ、ゴニヤ、ビョルカ【死亡】
ウルヴル、レイズル
疑心
そういうわけで、夜だ。
ビョルカさんはまた、
ゴニヤと話をしようとしたけど
今日ははっきりと拒まれてた。
ジジイの死からずっと
ゴニヤは何かおかしい。
まあ、おかしいと言えば、
もうひとりおかしいのが
いるんだけど……
「……何」
「こっちのセリフなんだけど。
はやく寝れば?」
「ぜんぜん眠くない。
ここの夜は長すぎる」
「それは同意だけど……
僕といるの、嫌だろ」
「……
別に」
「……いや、まあその。
遠回しをやめると、
僕のほうが若干ヤなんですが。
いつ罵詈雑言(ばりぞうごん)と暴力が
飛んでくるか分かんないって
けっこうなストレスですよ?」
「別に」
あ、すでにキレてらっしゃる?
了解黙りまーす。
……
…………
あの、ホントになんで
どこにもいかないの、
この危険人物。
「
嫌とかじゃ、ないけど」
「……はい?」
「あんたと。いるのが」
ほんとに困るんだよな……
会話が成立しないのが一番……
あっ、そうか。もうすぐ
脱出できそうだからかな?
「えーと……まあ、がんばろう?
明日が正念場ってやつだ。
人里に辿り着いて、
『黒の軍勢』を振り切ろう!」
「……」
「えーとえーと……あっ、
今日のクマのやつ?
あれ見事だったよね。
流石ヨーズっていうか。
僕だけだったら、血まみれでも
止められなかったと思う、
あんなバケモノ……」
「……」
どうしろってんだよ。
「あー……の、あー……
……なんていうか、
羨ましいよ。
この旅で、よくわかった。
ビョルカさんも、
ヨーズの猟の腕前には
一目置いてるし……」
「干からびろ。
蟯虫(ぎょうちゅう)」
誰が尻の穴にひそむ寄生虫だ。
ああっしまった!?
その言葉を吐き捨てたのち、
ヨーズはまっすぐな足取りで
去って行ってしまった。
どこでヨーズの機嫌を
損ねてしまったんだろう?
……まあ、これでようやく
落ち着いた……か?
とはいえ、眠れない状況には
変わりはない。
誰かと話をしようかな。
もちろんヨーズ以外で。
……ゴニヤはどうだろう。
ビョルカさんが話して、
それで落ち着いてたらいいけど
ビョルカさんに話しにくい
こととかがあれば、
僕が聞いてあげられるかも
しれないし。
よし、行ってみよう。
「……おかしいな……」
結構探してるのに、
ゴニヤが見つからない。
『護符』の範囲は広い。
ある意味、隠れるために
バラけてるんだから、
見つからなくたって当然だ。
だけど、今日ゴニヤは
日中いきなり、わけもわからず
逃げ出してる……
不安になって、ビョルカさんと
相談しようと思った。
でも、こっちもいくら探しても
会うことができない。
……おかしいな。
こんなに会えないもんか。
また、雪は深くなりつつある。
万一、2人が遭難してたら……
「……おーい!!
ゴニヤー!
ビョルカさーん!!」
「うるさい。
蟯虫(ぎょうちゅう)」
シークレットを見る(Tap)
(危なかった。
とっさに埋めた。
足の裏に、頭の感触。
きっと夜になれば
こいつは『狼』の力で逃げる。
昨日みたく追うのは面倒だから
釘さそうとした。
そしたら、反抗的だから、
こいつは殺して、
明日は三人旅だ。
震えてる。
不快。
ごり、と踏みにじった。)
「なんだおまえ!?
言っとくけどそのスタイル
フツーに好感度激低だからな!
つーかなんで出てきた!
呼んでないんですけどー!」
「傷つく。さすがに」
「アンタ散々僕を傷つけて……
いや、それより!
ゴニヤとビョルカさん
見なかった!?」
「見た」
「見たのかよ!
いや、見たならいいんだけど!
え、2人ともどこいんの?」
「2人で話してた。
だいぶハズレのほうで。
ゴニヤは……
ウルヴルが死んだのは、
ビョルカと私のせいだと
思ってる」
「っ……!
それは……確かに、
指名の結果だけ見たら……
でもそれ言ったら僕もだし、
そもそもジジイも変だったろ。
らしくないっていうか……」
「私らは、そう思えるけど。
ゴニヤは小さい。無理。
まあ、でも。
ヤケになる感じでもない。
もはや拗ねてるだけ。
時が解決する。たぶん」
「……なら、いいのかな。
なんか、嫌になるな。
自分の無力さに」
「珍しいこと言う。
昔は『超無敵戦士トールマン』
とかいって
うんこ刺した木の棒振り回して
暴れ回ってたのに」
「そうだった!!!
いつの昔だよ!!!
忘れろよ!!!今すぐ!!!」
「……
あんたは、あれ。
使われないのが、いいやつ」
「え?
……ああ、『村』のね。
剣も盾も、
使われないのが一番って考え」
「そう。
……誰も……
というか……
私は、思ってない。
フレイグが役立たずとか。
夜は私が見る。
適材適所。
雪が深くなる。
早く寝て」
「……あ、うん、
おやすみ……」
ヨーズがあそこまで、
一方的に喋るのは珍しい。
そういうときはいつも、
有無を言わせない迫力がある。
ヨーズと別れたあと、
僕は少し離れたところで
改めてベッドロールを敷いた。
ヨーズがうまくやってくれると
いいけど。
……雪が深くなってきたな。