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麻薬より安全…違法コピーのゲームがマフィアやテロの美味しい資金源に! 21世紀に新興国で拡大、ブラックマーケットでもゲームは大人気【世界は今日もゲーマーだらけ:佐藤翔】

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 ブラックマーケット――という言葉をご存じだろうか。

 おそらく、多くの日本人には馴染みがないものだろう。違法コピーされたゲーム、密輸入されたゲームハード、ジェイルブレイクされたスマホ、さらには日用品や食品……あらゆる違法なものが集まる市場であり、実は世界のあらゆる国に存在している。その中には、大規模に展開しているものもある。

 今回、世界のゲーマー事情を訊く連載「世界は今日もゲーマーだらけ」第二回で取り上げたいのが、この「ブラックマーケット」である。……と聞いても、多くの読者は、「そんな話、知って何か意味あんの?」と思うかもしれない。そこで本文の前に、一つマーケティング用語を紹介したい。それはBOP(Base of pyramid)という言葉だ。

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BOPの人口を示した図
(画像はBOPビジネス支援センターより)

 これは年間所得が購買力平価(PPP)ベースで、3000ドル以下の低所得層を指す言葉である。日本円で言えば、年収30万円以下――という感じだろうか。これが現在、世界の7割以上の人口を占めているというのである。
 彼らの生きる世界は、私たちの知るグローバル社会とは全くの別物だ。比喩的に言えば、彼らが手にするスマホは正規品のiPhoneではなく、root化(iPhoneにおけるジェイルブレイク)されたAndoridの格安スマホである。そして快適な空調の効いたグローバル企業のショッピングモールよりも、安値の怪しい非正規品が並ぶ「ブラックマーケット」こそが生活の中に根付いている。

 だが、このBOPが国民の多くを占める地域こそが、少子化で衰退に向かう先進国とは裏腹に、21世紀を通じて巨大化していくことが予測されているのだ。そして、そんなブラックマーケットにおける一大ジャンルが、実は「ゲーム」だという。
 では、さっそく今回もゲーム専門調査会社・メディアクリエイトの国際部主席アナリスト、佐藤翔氏に話を訊いてみよう。モロッコ、南アフリカ、ウクライナ、中国など……身の危険も顧みず世界のあらゆるブラックマーケットに実際に足を運んできた氏が語る、先進国の人々が知らない濃厚かつデンジャラスなその実態とは?

取材/稲葉ほたて透明ランナー
文/まなべ稲葉ほたて


テロリストの資金源にもなっている!?

――というわけで、第二回は「ブラックマーケット」について語っていただきたいと思います。今回は、テーマがテーマなだけに、だいぶスリリングな話が聞けるんじゃないかと、内心ワクワクしております。

佐藤翔氏(以下、佐藤氏):
 そうですねえ。中南米には、テロリストやマフィアの資金源になっている、ゲームのブラックマーケットがあります。

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佐藤翔氏

――いきなり……(笑)! 資金源って、普通は麻薬とかではないのですか?

佐藤氏:
 もちろん麻薬もありますが……そもそも一つの違法ビジネスに依存すると、いざそのビジネスが取り締まりを受けた時に保険がきかないので、彼らはだいたい複数のビジネスに手を出しているんですよ。
 麻薬はやはり、警察に捕まるリスクが大きいですからね。
そこで登場するのが、海賊版【※】です。

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※海賊版……一般的には、著作権などの権利を無視して製造・アップロードされた非合法な複製品全般を指す。
(画像はいらすとやより)

 海賊版の売買って――麻薬ほど警察が真面目に取り締まらないんですよ。その結果、海賊版ビジネスが新興国でローリスク・ハイリターンのビジネスになってしまっているんです。

 しかも、いざ捕まったときに自分らに害が及ばないよう、どの国でも売り手には周到に、マイノリティに属する人たちを選んでいることが多いです。中南米の場合は、たとえばアルゼンチンのブラックマーケットで雇われているのはボリビアの貧しい移民です。

――完全にヤクザのやり口じゃないですか(笑)。

佐藤氏:
 そうそう、パラグアイのブラックマーケットではPlayStation(以下、プレステ)の海賊版を資金源にしていた組織もありましたよ。

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パラグアイのゲーム中心のモール”Galeria Page”(現在は別の店舗になっている模様)
(画像はReclamando.com.brより)

 パラグアイの有力なゲーム販売店に、レバノンの武装組織に献金をしていた店舗があったんですね。その経営者は恐ろしいことに、賄賂かなんかを使って、パラグアイの知財局からプレステの商標登録を取ってしまったんです。
 それで、「海賊版を出すとはなにごとだ。我々の“正規品”を使え」と言って、競合となる海賊版業者を締め出したんですよ。

――……いきなり凄い話が出てきました。

佐藤氏:
 まあ結局、アメリカの財務省からアメリカ大統領令第13224号【※】に基づく指定をパラグアイのその店舗が受けることになって、逮捕されましたけどね(笑)。

※アメリカ大統領令第13224号
大統領令とは、アメリカ合衆国大統領が、連邦政府や軍に対して行政権を直接行使することにより発令される行政命令のこと。第13224号は、テロリストに資金供与を行う恐れのある団体、その下部組織、個人を指定し、それらのアメリカにおける資金の凍結、アメリカ国民との取引の禁止を規定している。

――まあでも、価格帯が高い上に警察は薬物みたいに真剣に取り締まらないとなれば……考えたこともなかったですが、ゲームの海賊版ビジネスはいわば麻薬よりも安全な「最強のシノギ」と言えますね。

佐藤氏:
 なにより海賊版って扱いやすいんですよね。
 単にブランクディスクに焼けばいいので、データさえ手に入れば特別な技術がいらない。そしてブランクディスク自体も、オンライン化が進む先進国では古くなったメディアの需要が減るので安く仕入れられる。

 オンライン化が進めば海賊版DVDを売るようなビジネスはいかにも簡単になくなりそうなものなのですが、現地の様子を見るとマーケットがかえって拡大するところもあったりして、需要は増えているんです。

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 ただ、こうした犯罪組織や反政府組織の中でも、率先して海賊版ゲームビジネスに手を出している組織と、あまり推奨していない組織があるようです。

 例えば、先進国の例になりますが、IRA【※1】の分派組織のいくつかは、イギリスと北アイルランドの国境沿いで、関税や物価の違いなどを利用して密輸を含むビジネスで利益をあげているんです。
 彼らはCD・DVDの海賊版も扱っていたようなんですが、実は彼らのボスが「こうした違法行為で資金稼ぎをするな」という旨の発言をしていた記録が残っているらしいです。

 つまり、どうしても資金作りをしなきゃいけない中で、末端の構成員が勝手に手を出していたようなんですね。【※2】

※1IRA
アイルランド共和軍。対英テロ闘争を行ってきた武装組織。北アイルランドを連合王国から分離させて全アイルランドを統一することが目的であるとされている。特に過激なメンバーが独立して設立した「リアルIRA」という派閥もあり、武器などの密輸に従事していると言われている。

※2 このあたりの事情は、アメリカのランド研究所が発行した「Film piracy, organized crime, and terrorism」(PDF)というレポートが参考になります。ゲームも含めていろんな事例が載ってるので、海賊版対策をしておられる方にとっては必読ですよ。(佐藤氏)

――儲かるけども、「さすがに、みっともないからやめてくれ」と。まあ、ボスが困惑する気持ちも分かりますね(笑)。

佐藤氏:
 ちなみに先程のパラグアイでも密輸ビジネスは行われています。そこではブラジルのゲーム流通業者と関係を持つパラグアイ人の運び屋がたくさんいて、観光客に偽装してブラジル側へたくさんのゲームを違法に密輸してたりするんですよ。【※】

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※主な密輸場所は、ブラジルの国境、イグアスの滝の近くにある「シウダード・デル・エステ」という都市で、ここは自由貿易地区となっているんです。この辺境の町にはたくさんのゲームショップがあり、その形態も露天の海賊版ショップから大型卸売専門店まで様々ですよ。(佐藤氏)
(画像はLos lugares mas horribles del mundo: Ciudad del Este.より)

 というのも、ブラジルはゲームに高い関税がかかっているし、国内で作ろうとしても人件費が高いので、ゲーム機が異常に高いんですよ。

――もう、やりたい放題ですね。

佐藤氏:
 まあ、先進国へのアピールのために、たまに密輸犯を捕まえたりするようですが、目立って大きな産業がないパラグアイにとってこの町のビジネスは命綱なので、なかなかまじめに取り締まろうとしないようです。
 私も現地に行って何度か国境を越えましたが、ほとんどチェックは行われていない様子でした。というか、あまりに適当なので、出国手続きを忘れて通過してしまう観光客もいるみたいです(笑)。【※】

※ちなみに、その後、輸入された商品はサンパウロのガレリア・パジェという有名なブラック・マーケットの周辺で集積されたあと、ブラジル全国に流れていくみたいです。ブラジルのキオスクで売られているゲーム雑誌を見ても、ブラジル国内で流通している正規版ではなく、パラグアイから輸入された欧州版やアメリカ版のゲームの広告しか載っていないので、ブラジルの市場を理解する上でこのルートはとても重要です。(佐藤氏)

――まあ、日本の厳重な出入国管理のイメージで捉えると勘違いしがちですが、海外には「ここ、JRの地方の駅かな……」みたいなレベルのものとか、あるんですよね(笑)。そういう中で、密輸というのはなかなか美味しい仕事になっているわけですね。

ブラックマーケットから始まった「アラブの春」

――でも素朴な疑問として、なぜ国や政府は、こうした違法なブラックマーケットを積極的に取り締まらないんでしょうか。

佐藤氏:
 場所によってまちまちですが、まさに海賊版の割のよさが関係しているんですよ。どういうことかと言うと、ブラックマーケットって、新興国の低所得者が食う手段としてはうってつけなんです。

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 雇用創出のいい機会になっていて、それを無理やり取り締まりでもしたら、国によっては彼らの食い扶持がなくなって……下手すると暴動、さらには革命だって起きますよ。

――革命……って、ちょっと大げさに言ってませんか。要は日本で言えば、パチものを売ってる露天商みたいな連中ですよね。

佐藤氏:
 いやいや、「アラブの春」【※1】の原因が、まさにブラックマーケットの取り締まりですから。

 チュニジアのジャスミン革命【※2】の最初のきっかけは、ブラックマーケットの住人を、役人がいじめたことです。
 26歳の野菜の行商人が、役人に「販売の許可がない」と言われて野菜と秤を没収されて、それがあまりに恥だということで焼身自殺してしまった。その映像がFacebookに投稿されて拡散したのが、革命の発端です。

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※2 ジャスミン革命……2010年〜2011年に起きたチュニジアでの民主化運動。2010年の青年の焼身自殺を発端に、反政府デモが全国に波及し、最終的にはベン=アリー大統領が亡命し23年間の独裁政権が崩れることによって終焉を迎えた。名称はチュニジアを代表する花であるジャスミンに由来。
(Photo by Getty Images)

 その後――あっという間に国全体に口コミが広がっていきました。これは北アフリカのブラックマーケットの特徴なのですが、都市ごとに似たような構造のブラックマーケットが存在して、ブラックマーケット間で連絡網のようなものがあるらしいんです。ある場所で何かがあるとすぐ他の都市に伝わってしまうんですね。

※1 アラブの春
2010年にチュニジアで起きた民主化運動「ジャスミン革命」を発端する、北アフリカや中東のアラブ諸国で起こった大規模な民主化要求運動の総称。ここまで大規模な運動にまで発展した背景には、インターネット、特にSNSの普及があると言われている。

――「アラブの春」のそんな裏話は、初めて知りました。でも、こういう貧困層の生活と結びついた現実がある限り、日本やアメリカが現地に行ってもなかなか簡単に取り締まるのは難しそうですね。

佐藤氏:
 そうです。正規のビジネスが十分に雇用を創出できていない国で、こうした弱い立場にある人からビジネスをする手段を奪うと、国ごと倒れかねないわけです。
 ブラックマーケットに根付いて生活している人々がいる――そのことを無視してはいけないんですよ。

 例えばモロッコのデルブ・ガレフ【※】のブラックマーケットはかなり歴史が長いんです。政府が積極的に取り締まらないので、かなり大規模なブラックマーケットになっています。

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※デルブ・ガレフ……モロッコ最大の都市であるカサブランカの地区のひとつ。本文中で言及されている巨大なブラック・マーケットがあることで有名。画像はデルブ・ガレフのブラックマーケットの様子。
(画像:佐藤氏撮影)

 30~40軒ぐらいのゲーム屋さんがひたすら並んでいて、家庭用のゲームを大量に扱っていました。
 北アフリカなので当然対岸のヨーロッパのゲームが多いのですが、日本からもゲームが流れていましたよ。「昔から日本語のゲームをそこで見つけては遊んでたよ!」というモロッコ人も結構いました。そこの話を聞くと、息子に事業を引き継いで代替わりしてるところもありましたね。

――親子2世代に渡ってブラックマーケット……もはや“家業”ですね。

佐藤氏:
 こうした状況になっているのは北アフリカだけではありません。治安が悪いことで有名なメキシコシティのテピート地区【※】にあるブラックマーケットでは、商人がロビイング団体を作っていました。
 その名前がすごくて、「合法的市民商業連合」って名乗っていたんですよ。

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メキシコシティの南部にあるウルグアイ・ストリートの電気街
(画像:佐藤氏撮影)

※テピート地区
メキシコ中央高原部に位置する首都メキシコシティの地区のひとつ。貧困層によって一部がスラム化している。日本の外務省では「危険レベル1」と発表されている。画像はテピート地区にあるブラックマーケットの様子。

 歩いていると、警官が見回りをしているんですが、海賊版ゲームを路上で堂々と売っている人がたくさんいるのに、見て見ぬふりをして通り過ぎているんです。

 これがかつてのメキシコの政権与党との結びつきが強くて、集票能力も高いので見て見ぬふりをせざるをえなかったみたいなんですよ。その後、もう一方の政党が勝ち、この団体も勢力を失ったと思いきや……すぐに同じようなロビー団体ができたみたいです(笑)。

GoogleMapで見える巨大ブラックマーケットも!?

――なんかブラックマーケットって、小規模に薄暗い場所でひっそりと存在しているイメージでしたが、もっとかなり大々的に存在していて、新興国の生活と大規模に結びついてるんですね。

佐藤氏:
 ええ。先日行ってきた、ウクライナの西側にあるオデッサ【※】という都市のブラックマーケットなんて、実にとんでもなかったですよ。
 ちょっと、Google マップでオデッサ郊外の、ある場所を拡大してみてもらっていいですか? ……何やら変な文字が見えてくるはずです。

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(画像はGoogle マップより)

 ここに「7km」って書いてありますのがわかりますか?

※オデッサ
ウクライナ南部の黒海に面した湾岸都市。2015年現在、人口は101万ほどで、ウクライナ第3の都市である。

――近くにある空港の2~3倍はありそうな広大な敷地ですね。これは、一体なんなのでしょう?

佐藤氏:
 この「7km」というのが、まさにブラックマーケットの名前なんです。つまり、ブラックマーケットが衛星写真に向けて巨大な広告を出してるんですよ!

――隠すどころか、むしろこれ以上ないくらい大々的にアピールしてる(笑)。よくこんなものが成立してますね!

佐藤氏:
 ここはとにかく巨大でして、おそらくヨーロッパで最も大きいブラックマーケットだと思います。もちろん、海賊版ゲームも扱っています。

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「日本の施設で言うと、東京ドーム16個分、埼玉のイオンレイクタウン3個分に匹敵します」(佐藤氏)
(画像はGoogle マップより)

 現地の人に聞いたところ、この名前は「オデッサの中心部から7kmだから」ということらしいです。
 そもそもソビエト連邦時代末期の1989年にオデッサの都市にいた行商人が訴えられて、「オデッサから7km以内では商売をしてはいけない」という判決が下ったことがきっかけでこの名前になった、と(笑)。

 しかも、空港からタクシーに乗ると、「7kmはこちら」みたいな広告まで出ているんですよ。近隣諸国から7kmマーケットへのバスツアーまで出ていて、もはや、現地では公然の秘密という状態です。

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オデッサの港
(Photo credit: dmytrok via VisualHunt / CC BY-ND

 オデッサは黒海に面した港湾都市ですが、昔からソビエト連邦など共産圏における物資の集積地だったんです。おそらく、こうしたマーケットが公然と存在するのも、そうした歴史性からくるものでしょう。
 実際、オーナーが自前で消防車などを持つような自治を行っていて、個々の店屋が直接に国に税金を収めることはありません。原則、何を売ってても、現地の警察は踏み込めないはずです。

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「ちなみに、ウクライナ政府の以前の大統領、ヴィクトル・ユシチェンコも7kmマーケットに訪問しオーナーに会ったことがあるらしいですよ」(佐藤氏)
(画像はヴィクトル・ユシチェンコ氏 by Muumi.  Licensed under the terms of cc-by-3.0.)

――やはり自治が行われるわけですね。

佐藤氏:
 しかも、現地の写真を見ればわかりますが、この中の構造が面白いんですよ。物資を運ぶためのコンテナを上下二段に並べて、二段目を倉庫にして、一段目にお店が入ってるんです。

 コンテナって、薄くて頑丈だし、スペースも取らずに安く増やせるんですよ。コンテナ一つでいくら、と賃料が決まっていて、その賃料を毎月オーナーに払う仕組みです。とても合理的な構造ですよね。

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「余談ですが、オデッサって実はタイトーの発祥なんですよ。タイトーの創業者はミハエル・コーガンという方で、「太東洋行」という個人営業の輸入会社を始めたのがその元祖にあたります。彼は、ウクライナ系のユダヤ人なんですが、紆余曲折があって満州を経て日本に渡るんですね。ロシア文学者などとも交流があって、そこでロシアからのウォッカの輸入をする貿易会社を作ったんです。それが、ピーナッツベンダーとかを扱う会社になり、アーケードに展開した……という経緯らしいです。なかなか面白い話ですよね」(佐藤氏)

 ちなみに、ウクライナ繋がりで、首都キエフにある「ペトロフカマーケット」にも行ってきました。ここは元々、本のマーケットだったのですが、拡大するにつれてゲームも扱うようになったみたいです。

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「広告を見ると『Grand Theft Auto V』とか『The Sims 4』とか『FIFA』とか人気があるみたいですが、明らかに海賊版ですね」(佐藤氏)
(画像:佐藤氏撮影)

 面白いのが、近くにアニメオタク向けショップもあって、中国製の偽物商品やくまモンのぬいぐるみ、そしていわゆるおっぱいマウスパッドなんかも売ってるんですよ(笑)。

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取り扱われていたおっぱいマウスパッド各種
(画像:佐藤氏撮影)

 しまいには、日本のお菓子まである。どうやら彼らは、お菓子もこうした日本コンテンツの一つとして捉えているみたいなんです。だからポッキーとか、辛子明太子なんちゃらみたいなものが、たくさん売ってましたね。

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ペトロフカマーケットで取り扱われていた日本のお菓子
(画像:佐藤氏撮影)

――そんなものまで(笑)。

そもそもブラックマーケットって?

――さて、ここまで世界各国のブラックマーケットの話を聞いてきましたが、ここでちょっと、「そもそもブラックマーケットってなんぞや?」ということを伺いたいんです。というのも、やっぱり日本に住む私たちには、あまり馴染みのない存在だと思うんですよ。

佐藤氏:
 ええ。ブラックマーケットを一言で言うなら……正規のマーケットやショッピングモールではない海賊版や非合法な商品を扱っている市場全般のことです。

 ただ、やっぱり線引きは難しくて、ショッピングモールや百貨店にブラックマーケットが入っていたりすることもあるし、最初はブラックマーケットだったけれど正規化が進んだマーケットなどもたくさんある。定義は難しいし、その姿は実に多様なんです。

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 取り扱っている商品も、アディダスとかのパクリ商品とか、プリンタのインクの非正規品、モバイルの山寨機【※】……と、実に様々ですしね。

※山寨機
中国で流通している、メーカー不詳だったり零細メーカーによる品質の悪いコピー品を指す。「山寨スマートフォン」や「山寨携帯」と呼ばれることも。

――ゲームを扱うブラックマーケットは、あくまでもその中の一つというわけですね。ちなみに、ゲームを扱うものは世界にどのくらいあるのでしょう?

佐藤氏:
 規模にもよりますが、弊社で把握しているのがだいたい100か所くらいです。そのうち私が実際に行ったことがあるのは数十か所くらいですね。表立って存在しているわけではないので、探し出すだけで大変です。

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バンコクに存在していたブラックマーケット・サパーンレックの廃業前の様子
(画像:佐藤氏撮影)

 それに加えて、ブラックマーケットは移り変わりも激しいんですね。急に規模が拡大したり、いつのまにかゲームも取り扱っていたりして……一方、場所が変わったり、廃業することも珍しくないです。
 タイの首都バンコクにあった有名なゲームマーケットだったサパーンレックなんて2年ほど前に閉鎖されましたし。だから、たびたび現地に足を運んで情報をアップデートし続けなければならないんです。

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