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【特別対談】『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang ―「本当に自分が描きたいものかどうかわからない」に、どうやって立ち向かう? 「夢」と「欲望」を具現化する方法

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「Fateシリーズと、TYPE-MOONコンテンツが大好き!」

そう語るのは、『崩壊:スターレイル』のプロデューサーを務めるDavid Jiangさん。どうやらDavidさんは、思春期に『Fate/stay night』などのTYPE-MOON作品に触れ、クリエイターとしての活動に大きな影響を受けたようです。たしかに、TYPE-MOON作品は思春期に触れたら大変なことになる。

そしてなんと今回、そんなDavidさんと、「Fate」シリーズ及びTYPE-MOON作品の生みの親でもある奈須きのこさんの対談が実現したのです! 両タイトルのファンとしては、「ええっ、本当に!?」という驚きを感じずにいられません。まさに国境を越えたスペシャル対談です!

しかも、実は奈須さんも『原神』や『崩壊:スターレイル』などのHoYoverseタイトルをかなりプレイされているとのこと。え、『崩壊:スターレイル』やってたの? マジで? 奈須さんは一体いつゲームしてるんだ? そんな奈須さんから語られる「HoYoverseタイトルの面白さ」も、必見です。

DavidさんがTYPE-MOON作品から受けた影響。『崩壊:スターレイル』とTYPE-MOON作品から迫る、ストーリーの作り方や、キャラクターのデザイン技術。そして「自分が描きたいもの」を形にするためのクリエイターとしての心構え……まさしく「夢の対談」でありつつ、タメになるお話もたくさんお聞きしました。

『崩壊:スターレイル』の開拓者(プレイヤー)のみなさまにも、TYPE-MOONファンだったりマスターだったりするみなさまにもお楽しみいただける、素敵な対談になっています! そして「両方のファン」だという方は……いずれこの対談以上の「夢」を見られるかも? ぜひ、最後までご覧ください!

『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang:特別対談_001
※本対談は、2023年の年末頃に実施されました。

聞き手/TAITAIジスマロック


TYPE-MOONとHoYoverseが出会うのって、実はこれが初じゃない?

──本日はよろしくお願いします。そもそもの質問になってしまうのですが、Davidさんはなぜ今回奈須きのこさんと対談をしようと思ったのでしょうか?

David氏:
私自身、個人的に奈須さんの作品に若い頃からたくさん触れて育っており……やはり、ゲーム制作においても奈須さんの作品からいろいろなインスパイアを受けたところがあります。

実は以前にも一度お会いしたことがあるのですが、さらに「より深く交流ができたらいいな」と考え、今回の対談をセッティングさせていただきました。本日はよろしくお願いします!

そして、奈須さんにひとつお伝えしたいことがあって……。
実は私、奈須さんと誕生日が同じなんです!

奈須氏:
ええ、うっそぉ!? こんなことある!?

David氏:
高校生の頃にゲーム制作者のプロフィールを検索していたら、奈須さんと同じ誕生日であることに気がつきました(笑)。

奈須氏:
なるほど。多分、どっちかが異世界から転生してきているんでしょうね。
余計に親近感が湧きます。こちらこそ、よろしくお願いします。

──いまチラッとお話が出ましたが、奈須さんとDavidさんは以前にも一度お会いされているのでしょうか?

David氏:
実は以前、弊社の社長でもある劉偉(Dawei氏)と共にTYPE-MOONさんを訪問したことがあります。その際に、作品についての考えや会社の運営方法などのいろいろなお話をさせていただきました。

奈須氏:
そうですね。一度、HoYoverseのみなさんとはお会いする機会に恵まれました。
Davidさんとは、その時に意気投合した部分もあります。

こちらもある程度「HoYoverseはゲームが好きな人たちが集まっていて、その情熱で動いている会社なんだろうな」と予想はしていたのですが、その時に返ってきたお話が……本当に想像以上でした。クリエイターの情熱プラス、合理的な企業理念。「うん、これは大きな企業になって当然だ」と。

そんな会社の成り立ちに親近感も覚えつつ、同時に「“好き”という気持ちを燃料にして、自分たちにはできないことをやってのけた人たちがいるんだ」と、憧れやリスペクトの対象になりました。

『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang:特別対談_002

──おふたりの間にそういった繋がりがあったとは、驚きです。ちなみにその際、具体的にはどんなお話をされたのでしょうか?

奈須氏:
それはもう……………国家間の機密ですよ。

一同:
(笑)。

奈須氏:
ちょっと具体的には言えないのですが、やはり両社とも良い意味で「お互いに無視できない存在」ではあったんです。個人的にもお話しできる機会があるなら、ぜひしたいと思っていました。

あと、「クレー」【※1】に関して言いたいことがいっぱいあったんですよ!

──え、『原神』のクレーですか?

奈須氏:
自分の知り合いがクレーの大ファンで。彼はずっとクレー愛で『原神』を遊び続けているんですが、クレーがいつまで経っても強くならないことを嘆いていました。なので自分に、「クレーがいつ強くなるのかホヨバの人に聞いてきて!!」と(笑)。

David氏:
ご期待に応えられるかわからないのですが、一応『原神』チームにも伝えておきます(笑)。

※1「クレー」
『原神』に登場するキャラクター。西風騎士団に所属する「火花騎士」。とても愛らしいデザインのキャラクターで、多くのユーザーから人気を集めている。

奈須きのこが語る『崩壊:スターレイル』の面白さとは

──事前に「奈須さんがHoYoverseタイトルを結構プレイされている」というお話は聞いていたのですが、もしかして割とガッツリ遊ばれてますね!?

奈須氏:
そうですね。『崩壊:スターレイル』も、PS5版が出るまでは我慢していて……。最近やっとPS5版がリリースされたので、少しずつ進めています。

やはり待望のコマンド制RPGでしたし、いちゲーマーとしても「『原神』の次はどんなものが出てくるのか?」と楽しみにしていました。……とはいえ、知り合いがいち早くPCで『崩壊:スターレイル』をプレイしているところを見て、「これ無料で配るのやめてよー!!」と頭を抱えて(笑)。

『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang:特別対談_003

奈須氏:
実は『崩壊3rd』もプレイさせていただいていたんですが……個人的に、スマホでプレイするのがちょっと辛くなってしまって。好きな方向性のアクションではあるんだけど、スマホのスワイプ操作があまり肌に合いませんでした。

「いつかこのアクションをコンシューマーで遊べたらなぁ……」と思っていたところ、『原神』が出てきました。その事もあって『原神』は、サービス開始日から遊び続けています。最初は傲慢にも「日本のオタク文化を土壌にして育ったコンテンツが、どんなものを見せてくれるんだ?」という上から目線というか……マウント的な視点で遊び始めたところはあったんですよ。

それが少しずつ少しずつ、日を追う毎にゲームにこめられた熱量、技術、なにより「こういう世界で遊びたかった」という夢が詰まっていた。長くオタク文化の中で夢物語だったものを現実として出力している。その行動力、完成度の高さに天を仰ぎました。「ありがとう」と。

その時に、HoYoverseの「Tech Otakus Save the World(技術的なオタクは世界を救う)」というスローガンを見て「これを本気で言っている人たちなんだ」と実感したんです。

──そこから『崩壊:スターレイル』をプレイされている中で、なにかDavidさんに伝えたいことなどはありますでしょうか?

奈須氏:
まだ自分はヤリーロ-Ⅵまでしか進めていないので、そこまで深いことは言えないのですが……やはり『崩壊:スターレイル』は、「長期間続ける」ことを前提にした基本のコンセプトや世界観設定がめちゃくちゃしっかりしていると思います。

これは『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』【※2】を立ち上げる時にも意識したことなのですが、運営型タイトルは、「“ユーザーが安心して遊べる場”を提供するための設定」を必ず用意します。たしかにRPGは「無限に広がる世界」を表現できるけれど、キチンとした枠組みはあるべきです。

そして、『崩壊:スターレイル』はその設定がバチッと決まっている。「これは運営型タイトルとして、考え尽くされた設定だな」というのが、一番初めに遊んだ時の感想でした。

※2「Fate/Grand Order」
「Fate」シリーズのひとつとして制作された、スマートフォン向けRPG。2015年から運営が開始された長寿タイトルでありながら、現在もトップクラスの人気タイトル。

David氏:
ありがとうございます……!
『崩壊:スターレイル』は、立ち上げ時の段階で「長期間運営を続ける」という方針を決めていました。たとえば、プレイヤーのみなさんがVer.2.0で訪れる「ピノコニー」に登場するキャラクターは、すべてver.1.0のストーリーや、リリース前の段階で登場の示唆やアピールを行っています。

今作は「明確かつ拡張性に富んだ物語」と「世界観の構造」に関して、さまざまな工夫を施してきました!

『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang:特別対談_004

奈須氏:
そもそもがスペースオペラものだから、冒頭で「この世界にはいろいろな惑星がある」ことは提示しつつも、最初の宇宙ステーション「ヘルタ」でドラマチックなオープニングと、これでもかと高いゲームクオリティを見せつける。本当に「これでもか」と見せつけて!!

一同:
(笑)。

奈須氏:
そこからソーシャルゲームとしての、デイリークエストなどのシステムを提示する。そのままヤリーロ-Ⅵのメインストーリーに突入して、プレイヤーに向けて「この次の惑星も楽しみにしてね!」と伝える。このゲームとしての一連の導線が、すごく綺麗に作られていると思います。

ストーリー・エンタメとしての「先の見据え方」と、ゲームシステムとしての「先の見据え方」が綺麗に融合しているんですよね。だからこそ、「考え尽くされているな」と感じました。

一度この設定を間違えてしまうと、ユーザー的にも「このゲームはどこに向かうんだろう」という不安が生じてしまいます。ただ、『崩壊:スターレイル』はそれが一切なかった。やはりHoYoverseの過去タイトルで培われた技術や経験値もあるとは思うのですが、ひとつのタイトルとして盤石の布陣で始まったなと。

だからもう……「うん、これはやっちゃうな」と。自分がこんなに忙殺されていなければ、1日1時間と言わず1日4時間は遊んでいますね。早く最新ストーリーに追い付きたい!

『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang:特別対談_005
(画像は【崩壊:スターレイル】オープニングムービー「THE SHOW」より)

──逆にお聞きしたいのですが、やはりDavidさんは「Fate」シリーズやTYPE-MOONのコンテンツがかなりお好きなのでしょうか。

David氏:
もちろん大好きです!

たしか2004年くらいに、インターネットを通じてTYPE-MOONの作品を知ったのが一番最初だと思います。初めは「セイバーがかわいい!」くらいのカジュアルなファンだったのですが、『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』(以下、『UBW』【※3】で描かれるキャラクターや世界観に衝撃を受け、自分の人生観にかなりの影響を受けました。

今の仕事をしている時にも、『UBW』からもらったアイデアや考え方を活用することがあります。なんだか言い方がアレかもしれませんが……あの作品から学んだ「愛と正義」というテーマを『崩壊:スターレイル』でも貫いているつもりです。

※3「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」
主に3つのルートで構成された『Fate/stay night』の1ルート。本ルートのメインヒロインとして、「遠坂凜」の物語が描かれている。ufotableによって、テレビアニメ版も制作された。

奈須氏:
なるほど……それは嬉しいですね。

David氏:
『崩壊:スターレイル』の企画を作り始めた段階で「どんなお話を作ろうか」という議題になった時も、具体的な作品像は浮かんでいなかったのですが「英雄(ヒーロー)の物語にしたい」というイメージだけは脳内にあったんです。

その時に思い浮かべた「英雄像」が、「Fate」シリーズに登場するサーヴァントやキャラクターたちでしたね。

──やはり「キャラクター」に影響を受けた部分があるんですね。

David氏:
もうひとつ影響を受けたとすれば、作品全体の「理想主義」な姿勢です。

やはり会社の規模が大きくなるにつれ、「利益を基準に考えなければいけない」瞬間が来る時があります。ただ、そんな時でも「自分の理想とはなんだろう?」と改めて考え直すことが大切だと思っています。もちろん利益も大切ですが、自分の心の中のニーズや、利益以外のさまざまな選択肢を考えるようにしています。

そして、こういった決断をする時には「自分が学生時代に見ていたアニメのキャラクターたちだったら、どんな判断をするだろう?」と考えることが多いですね。それこそ、私は『stay night』のアーチャーが大好きなので、「アーチャーだったらこんな時どうするだろう?」と考えたりします(笑)。

奈須氏:
あのCV諏訪部順一のイケボで、Davidさんの後ろから囁くわけですね!?
あのイケボで!(笑)

自分もその葛藤はよくわかります。運営タイトルとしての利益と、作り手として譲れない誠実さは、いつも開発上の問題になってきますから。

『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang:特別対談_006
©TYPE-MOON・ufotable・FSNPC ©TYPE-MOON

David氏:
幸い、HoYoverseのこれまでの経験上「理想主義を取ったとしても、長期的な利益にはなってくれる」ことはある程度証明していると思うので、間違った選択ではないと信じています。

そしてユーザーのみなさまもそんな作品に触れてきた方々が多いと思いますので、きっと理解してくれるだろうと考えています。

奈須氏:
これは我々にも言える話ですが、やはり「キャラの性能」を売っているわけではないんですよ。もちろん「性能がいい」に越したことはないんですが、キャラクターのデザインや内面、そしてプレイヤーがそのキャラクターからどんな感情を得るかを大切にしたい。

そういう「自分(ユーザー)の人生の推しになるかどうか」を、まず先に判断します。個人的にそこが我々とHoYoverseさんの共通点だとずっと思っていました。実際に今の話を聞いて、「やっぱりそうだよね」と。

David氏:
とても光栄です……!

──少し気になったのですが、Davidさんが先ほど話題にしていた「Fateから学んだ愛と正義」とは、具体的にはどういったものなのでしょうか?

David氏:
そこもやはり「アーチャー」の話になります。正直、最初に『stay night』を見た時には「なんかカッコつけた人」という認識だったのですが……そこから『UBW』に触れ、彼の重い過去や「正義」を求めるその姿が思春期の私にすさまじい衝撃を与えました。

あとは、「ランサー(クー・フーリン)」もすごく大好きです。あの言峰神父に「自害しろ、ランサー」と命じられながらも遠坂凜を守る姿に「すごく男らしい」と感じていました。だから、当時は「自分もランサーのような人間になりたい!」と思っていました(笑)。

奈須氏:
えっ、じゃあHoYoverseの社長が「自害しろ」って言ったら……。

一同:
(笑)。

『Fate』奈須きのこ ×『崩壊:スターレイル』David Jiang:特別対談_007
公式SNSより

──今回の対談があるとお聞きした時、どうしても聞いてみたかったことがあるのですが……やはりクラーラとスヴァローグは『stay night』のイリヤとバーサーカーをオマージュ、リスペクトしたキャラなのでしょうか?

奈須氏:
すごいことを ききますね?

David氏:
「参考にしなかった」とは言えないですね……(笑)。

やはり、「少女と強大な存在」にはロマンがあります。そしてこの組み合わせを考えた時、多くの方が「イリヤとバーサーカー」を思い浮かべるのではないでしょうか。そういった「みんなの好きなもの」を参考にしつつ、独自性のある新たなキャラクターを生み出すようにしています。

奈須氏:
同感です。オタクが大好きなものですし、さまざまな作品でずっと試行錯誤されてきた王道デザインだと思っています。一作品につき必ずひとつある、みたいな(笑)。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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