音楽を奏でるのは楽しい。自分の出す音がリズムを生み、メロディになっていく感覚は、とても楽しく気持ちがいいものだ。
しかし楽器を演奏するとなると、それは途端に難しくなる。気持ちよく演奏できるようになるには、がんばって練習を繰り返し、上手くならないといけない。
口笛を吹くように、自由に、簡単に音楽を奏でられたならば、どれだけ楽しいことだろう。
でもゲーマーは、そのジレンマへの答えをひとつ知っている。
2004年にリリースされたプレイステーション・ポータブル用ソフト『ルミネス』がその答えだ。『ルミネス』は、まさしく“まるで自分が音楽を演奏しているような気分になれる”爽快なパズルアクションゲームだ。
2018年6月26日、この『ルミネス』が『ルミネス リマスター』として帰ってきた。
『ルミネス リマスター』は、Nintendo Switch、PS4、Xbox One、Steamの4つのプラットフォームで同時にリリースされる。これらはオリジナルの『ルミネス』をベースに、シリーズ作品からさまざまな要素を取り入れた作品となっている。
ここまでを読んで、「“パズルゲーム”で“音楽を演奏”する? それって“音ゲー”じゃないの?」と思った読者もいるかもしれない。
そう、『ルミネス リマスター』は“パズルゲーム”であって“音ゲー”ではない。それにもかかわらず、まるで音楽を演奏しているような気持ちよさを味わえる。
この気持ちよさはどうして生まれているのだろうか?
電ファミでは、『ルミネス』の生みの親にしてエンハンス代表の水口哲也氏、そして『ルミネス リマスター』ディレクターであるレゾネアの石毛英一郎氏にインタビューを実施。
ゲームにおける「気持ちよさ」、そしてゲームという媒体ならではの「体感性」や「体験性」をストイックに追求する両氏に、その狙いを伺った。
『ルミネス リマスター』は「振動」で新しい気持ちよさを味わえる
──初代『ルミネス』の登場から14年。コンシューマとしては6年ぶりのシリーズとなった『ルミネス リマスター』ですが、そもそもどういうところから企画が立ち上がったのでしょうか。
石毛英一郎氏(以下、石毛氏):
今回の『ルミネス リマスター』は4つのプラットフォームで展開していますが、企画としては、Nintendo Switchの振動機能に注目したところから始まりました。
基本的にはオリジナルの『ルミネス』(2004年)にあった要素に加えて、過去のシリーズからさまざまな要素を取り入れ、ひとつの作品として再構成したものになります。振動機能を付けたのは、『ルミネス』シリーズでは今回が初めてですね。
これは「音楽に合わせて振動が変わる」というもので、曲の流れが変わると振動も変わります。
具体的には「Trance Vibration」【※】という名前の機能で、ゲーム進行に合わせて振動が連動し、それを複数のコントローラーにフィードバックできるというものです。
※Trance Vibration(トランスバイブレーション)
操作に使用するコントローラーとは別のコントローラーにも、振動がフィードバックされる機能。『Rez Infinite』でも実装された機能で、DUALSHOCK4コントローラーなどを最大3つまで連動させることができた。
──複数……ということは、Joy-Con2個以上にも振動が伝わるということですか?
石毛氏:
Nintendo Switch版 では、Joy-Conを2個持って遊んでいただく形となりますが、その2個を含めて、最大で8個までJoy-Conが振動します。3つめ以降のJoy-Conをポケットに入れたり、肩や足に触れるように携えることで、全身で振動を体験できます。
水口さんが「足の裏に置くと、より振動が気持ちよくなるよね」とよく言っています(笑)。
水口哲也氏(以下、水口氏):
HDハプティック【※】と呼ばれる振動が新しく、特徴的ですから、体験としての観点からすれば、Nintendo Switch版がおすすめですね。
あとはやっぱり、TVモードやテーブルモードではなく、手もとで遊ぶ携帯モードで体験していただきたいですよね。
※HDハプティック
「HD振動」と呼ばれるJoy-Conの振動機能。あたかも手もとに水が注がれているかのような感覚の再現など、振動による触覚表現がよりリアルに体験できる。
──その最大で8つのHD振動は、すべて同じ振動をするのでしょうか?
石毛氏:
いいえ、手元で操作するJoy-Conの振動と、ほかのJoy-Conに送られる振動がちょっと変わるようにしています。
手もとに送られるフィードバックには、より音楽的に繊細な振動を入れていますが、そのほかに送られる振動は、強いリズムや重低音など、より身体で感じやすいようなものにしています。
いま、『ルミネス』をリマスターした理由とは
──まずは高精細な振動ありきだったわけですね。それにしても14年を跨ぐシリーズというのは息が長いですね。
水口氏:
初代『ルミネス』は2004年のリリースなので、最初に出てから14年ですね。
僕が言うのもなんだけど、そこまで時間を感じさせませんよね。とくに初代の『ルミネス』がみんなの記憶に強く残っているみたいで。
以前から「PSPが壊れちゃって『ルミネス』が遊べないからどうにかしてくれよ」という声は多かったんですが、「作り直すタイミングがないなあ」と思っていたんです。
そこへ来てNintendo Switchが発売された。それが起爆剤となったのは確かですね。
僕らは何か新しいチャレンジや新しいアプローチ、新しい技術が出るたびに燃えるんだけど、今回の場合は、それが「Nintendo SwitchにはHDハプティックがついているじゃないか」ということでした。
「Trance Vibration」という機能も、「シナスタジア・スーツ」【※】を作ったときからずっとやりたいことのひとつだったので、「ちょっとやろうよ」と、Joy-Conを8個まで全身に着けられるようにして、今回は新しい『ルミネス』として打ち出したわけです。
「パズルゲームで人を泣かせることができるか?」
──『ルミネス』だけではなく『TETRIS EFFECT』にも当てはまることですが、「パズルゲーム」と「体感性」の組み合わせというのは、珍しい視点というか、ほかではあまり見られない試みだと思います。
たとえば「VRゲーム」と「体感」の組み合わせはとても解りやすいのですが、これが「パズルゲーム」と「体感」だと、ピンと来ない人のほうが多い気がして……。
けれども、実際にゲームをプレイして「体感」すると、「なるほど」と理解できるんです。その点を水口さんはどう考えているのでしょうか。
水口氏:
僕らがやりたいことの根本にあるのは、音楽や、それにまつわる映像などを「インタラクティブに楽しむ」ということを、ゲームで実現したいということなんです。
それを踏まえて言うと、「パズル」って「体感」とのマッチングとしてはベストなもののひとつなんですよね。なぜかというと、パズルってロジカルなものじゃないですか。人間の脳で言うとどっち側なのかな。左脳かな?
──ロジックは左脳の役割と言われていますね。
水口氏:
人間はどこかでロジックというものを考えていて、そのとき映像や解像度などは別に気にしていないんですよね。
かたや音楽や映像など、そういう美的なもの、快楽的なものというのは、ロジックとは逆のサイドの脳で感じていると思うんです。
その異質なものふたつがゲームという場で混じり合って、新しい感情のようなものを生み出す。
音楽やビジュアルを通じたインタラクティブな体験で、「楽しい気分になる」とか「幸せな気分になれる」。
ロジックで進めていくと、そういう気分になれるパズルゲームという形で実現することに、自分はすごく意味があると思っています。
パズルゲームというものは、極論を言ってしまうと、8bitの時代からゲームの本質は変わっていないんです。けれども、「じゃあパズルゲームには進化が必要ないのか」というとそんなことはなくて、まだまだ進化させる余地があるんですよ。
──単なる映像表現だけだと、コンテンツとしては、受け手は映像を観るだけじゃないですか。一方で、たとえば『Rez Infinite』は映像コンテンツとは違って、操作することに意味がある。
たとえばライブなら、ただ聴くだけでも「体感性」はありますよね。
大きな音の中で、身体全体で感じる振動だったり歓声だったりがそう。さらに、そこに掛け声を入れたり、ヘッドシェイキングするなど、「何かひとつ受け手からの主体的な行為が入ると、より楽しいものになる」というのは理屈では解るんです。
いま水口さんが仰っていたように、綺麗な表現だけではなくて、その綺麗な表現にもうひとつ一歩、ロジカルなものを付け加えるということが大切なんだ、ということも感覚的には理解できますが──「どうして楽しいのか」は、なかなかわかりにくいところではないかと思います。
そういった主体性が──受け手がゲームをプレイするということが、どのような効果をもたらすと考えているのでしょうか?
水口氏:
たとえばパズルって、あまりコンテクストやストーリーを考えない種類の遊びですよね。
それは日常生活の中の単純な作業、たとえば「料理をするとなんとなくすっきりする」といったことに似ている。
たぶんパズルゲームも、プレイすると「なんとなくすっきりする」んです。その感覚を、みんな経験的に知っていると思うんですよね。だから、そのすっきり感を求めてたまにプレイしたくなる。
その「なんとなくすっきりする」ということに加えて、『ルミネス』の目標は何だったかと言うと、「パズルゲームで人を泣かせることができるか?」というチャレンジだったんですよ。
だから、初代『ルミネス』を最後まで遊んだことのある人は、なんとなくその感覚はわかると思うんですが、最終面で『Lights』という曲が流れてきたとき、「うるっと涙した」という人たちがいたんですよ。
「パズルゲームにストーリーがあるのかよ?」と思われるかもしれませんが、じつは初代『ルミネス』にはストーリーがあるんです。
夕方、ビーチでパーティーを始めるところから始まり、夕焼けが星空になったあと、夜中の盛り上がりに変わっていく。そこでいろいろなこと、たとえば人生を考えたりとかして(笑)。いろいろな曲とともに、さまざまなストーリーや世界がやってきて。
最後には夜明けになって、その視点がどんどん伸び上がっていって、だんだん地球が見えてきて、宇宙からの視点になっていくという、そういう作りになっているんです。
その流れと音楽を融合させたときに、「ほんとうに泣かせられるか?」と考えました。真面目に泣かせようと思っていたんですよ。
「ゲームをプレイしているはずが、自分は音楽を演奏している」
水口氏:
パズルゲームで人を泣かせることができる。それぐらいの解像度をようやく手にしたのがPSPの時代だと僕は思っています。
当時の久夛良木(健)さんは「PSPは21世紀のウォークマン」と言っていたんですが、それにならって、初代『ルミネス』のコンセプトは「インタラクティブ・ウォークマン」だと打ち出したんです。
音楽が聴けるだけじゃなく、考えずに簡単に、誰でも遊べる。そして気がついたら自分が演奏している。
いつのまにか、「あれ、ゲームをプレイしているはずが、自分は音楽を演奏しているぞ」という感覚に捕らえられて、その感覚の連続がどんどん物語になっていくんです。気がつくと、身も心も沁み入って「何かを見つけた」となる(笑)。
「そういうマジックをどうやって起こせるのかな」というのが『ルミネス』の最初のチャレンジだったんですよ。
──『Rez Infinite』のときもそうだったのですが、水口さんの話を直に伺うと、いかに水口さんのゲームを自分が理解していなかったかを痛感するんですよ。申し訳ないという気持ちになります(笑)。
水口氏:
そんなことないです。それを最初に言うわけにはいかないので(笑)。
──だから『ルミネス』も“落ちものパズルゲーム”として捉えて、少し触ってから「なるほど、こういうロジックで、こういうルールのゲームなんだな」と思って、当時はそこでやめてしまったんです。
いまのお話を聞くと、「『ルミネス』は最後までプレイすることで“体験”が完成するゲームだったんだ」と改めて思いました。逆に、『ルミネス』を遊んだことのない人に対しては、そこを伝えるべきなんでしょうね。
石毛氏:
『ルミネス』はルールを理解して、プレイに慣れてくると、ルールを覚えようという意識がなくなるんです。
そうすると、音楽や操作のフィードバックなど、ロジックとは別の部分がスッと身体に入ってくる。ゲームに一歩踏み込むと、その体感的な領域に入り込み、それがすごく気持ちよくなってくるんです。
一歩踏み込んだその先には、まるで自分がゲームに対して浸透していくような、プレイをやめられなくなってしまうような……そういった「気持ちよさの体験」とでも言うべきものがあるんです。
最初はロジックやルールを覚えようとして、そこに意識が持っていかれがちなんです。
ですから、ゲームプレイの触り心地のところには意外と気がつかないことも多い。でも、プレイするうちに手触りが馴染んでくると、いつまでもやめられないゲームになったりするんですね。
水口氏:
それは僕らのゲームのひとつの特徴かもしれないね。
最初はロジカルなものが勝ってるんですよね。でもゲームに慣れてきたその瞬間に、スッと音楽が入ってきたり、感情が動いてきたりする。
そういうふうに、ゲームをプレイする自分の中の変化を感じられるように作っているつもりです。