純粋なメディアアートと、水口氏が作るものとの違いとは?
──そういう意味では、『Rez Infinite』の話で申し訳ないのですが、たとえばあれが純粋なメディアアートだとして、「観るだけのもの」だったとしたら、「体感」や「体験」として成立していたのかな」と考えると、「やはり成立していなかったのだろう」ということは解るんです。
でも、その「観る」ことと「体感する・体験する」ということは、何が違うのでしょうか。「いわゆるメディアアートを作っているような人たちと、水口さんが作っているものの、そこの違いは何だろう?」ということを、不思議に思います。
水口氏:
やっぱりね、「モチベーション設計」の有無だと思いますね。ゲームをアートにする必要はないんです。
アートはたぶん、点を──その瞬間を表現するもの。
エンターテインメントの場合はその点が違っていて、そこにコンテクストというか、「流れ」が存在していて、そこにストーリーがつながっていく。
その流れというものは、始まりから結末へと向かってゆくストーリーの構造がわかりやすい例ですが、一方でゲームという構造に必要なものは、“達成感へと向かっていくモチベーション設計”だと思うんですよね。
その達成感へと向かっていくプロセスを、僕らの作るものには語らないけどいっぱい詰め込んでいるんです。
たとえば、ひとつひとつのアクションに関して言えば、ボタンを押すたびに、操作するたびに音が鳴りますよね。その音は、プレイヤーを達成感へと導くために、ひとつひとつ意味のある音にしているんですよ。
そうするとひとつひとつのアクションが、1ミリずつ、何かちょっとずつ気持ちいいものになっていく。
音楽的な“ハマりかた”と気持ちよさとは、そういうところから生まれるものだと考えています。
ひとつひとつの気持ちいいアクションをつないで、その連続が音楽になっていくということ。
これは人間の本能的な、何かそういう気持ちよさを感じる部分に訴えかけるものがあります。
その“自分が演奏すること”によってインタラクティブに音楽を感じることが、「いい演奏ができたような達成感を得たい」というモチベーションにつながると思うんです。
──そこがゲームとしてのいちばんの気持ちよさになっていると。
水口氏:
それもあるけど、一方でトラディショナルなゲームとしてもけっこう考えています。
たとえば『ルミネス』で言えば、最初は2×2の正方形を作って消すだけなんですが、プレイを続けていると、「次のタイムライン【※】がやってくるまでに、なるべくたくさんの正方形を作って一度に消すといい」、ということがだんだんわかってくる。
なるべくたくさんの正方形を作っては消す、というサイクルを続けていくと、点数が2倍や3倍に増えていくんですよ。
こうした「ゲームとしての気持ちよさ」みたいなものも、実はしっかり入れているんです。
だから、何がいちばん大事な要素かと訊かれると──鶏か卵か、になってしまうんです。
「何が鶏ですか?」と言われても、「全部です」と言うしかない(笑)。「全部の要素が循環している」としか言いようがないんです。
じゃあ結局、「このゲームやって何が得られるの?」と言われたら、「なんか今日はすごくすっきりしたなあ」とか、「ちょっと旅でもしたような気分だな」とか、そういうものになりますね。
──見た目に似たところはあるけれど、最終的に受け手自身の行為が快楽や達成感を生み出しているわけですね。
「僕らが作るものは、伝わるまでに本当に時間がかかるんですよ。だから逆に言うと、1回では諦めない。」
──僕は最近よく食べ物に例えてしまうんですが、わかりやすい商品って、たとえば「ラーメンです」、「チョコレートです」、「甘いです」みたいに打ち出していると思うんです。
たぶん水口さんのゲームって、「ブイヤベースです」という打ち出しかたなんですよね。「濃厚なんだけども、中身はなんだろう?」と(笑)。
一同:
(笑)。
──「すごくおいしいけれども、これは何が入っているんだろう?」という、そういう感じが確かにありますよね。
ただ、一方でそれがゆえに、ユーザーさんがちょっと躊躇してしまうところがあるのかなと。
事前に「甘いものが食べたい」と思って来ることができないので、ゲームメディアとしては、そのおいしさをうまく伝えることが必要なのかなと思います。
水口氏:
それはいつも、悩ませちゃうんですよね(笑)。
僕らが作るものは、伝わるまでに本当に時間がかかるんですよ。
だから逆に言うと、僕らは1回では諦めない。
今回『ルミネス リマスター』を出して、「イェーイ!」と喜んで遊んでくれる昔からのファンの皆さんがいる一方で、『ルミネス』を知らなかった人たちとは新しい関係がここから始まるわけです。
新しく僕らのゲームを知った人たちとは、ここから関係性を作っていくので、あきらめずにやり続けようと思うんです。
食べ物で言うと、「チョコレートです」、「ミカンです」、「カレーライスです」という分かりやすいものを作っているわけではないんです。それがやりたければそれをやるんですけどね(笑)。
──最高においしいものを求めた結果、ブイヤベース的な、裏ごしをしているような感じになったと(笑)。
水口氏:
しっかりダシは取るよ、という(笑)。ダシのない味噌汁はやっぱり飲めない。
「どうやって作ったんですか?」とか、「これをどうやって作ればいいのかさっぱりわからない」といったことをよく言われますが、そういった疑問は褒め言葉だと思うようにしているんです。
石毛氏:
僕たちの作りかたは、「ただのアートで終わらない」というか、「映像屋さんが映像を作って終わり」というものじゃないんですね。
操作したときに鳴る音のひとつひとつが、しっかり音楽に絡んでいないといけないし、それに加えて演出にも絡んでいないといけない。
「ボタンを押したときに光る」というようなごく単純なインタラクションも、全体的なビジュアルの演出に繋がっている必要があります。
僕たちが音楽をゲームに構成するときは、その音楽を一度すべてバラバラに分解して、「この音は効果音に使いましょう」、「この部分はBGMに使いましょう」というふうに、音のひとつひとつを細かに計算して作っているんです。
その結果、操作したときに、なんとなく自分が演奏しているような感じになったり、あたかもプレイする自分が演出をしているような気分になったり……いわば、魔法を使ったような気持ちになる。そういうところに着地しているんだと思いますね。(了)
音楽を聞くとき私たちは、ドン、ドン、ドン、ドン、という4つ打ちのキックに合わせて、足踏みをしたり、頭を揺すったりする。
そのとき、私たちは音楽を体感している。まさしく文字どおり、音楽を「体」で「感」じているのだ。
そうすることによって、音楽をただ耳で聴くよりももっと気持ちいい気分になれたり、「なんとなくすっきり」したりすることがある。
『ルミネス リマスター』はそういった気持ちよさをパズルゲームの形にすることで、その気持ちや感情を増幅し、心地よいエンターテインメントに仕上げた作品だと言える。
「音楽や映像をインタラクティブに楽しむこと。そのこととパズルゲームはじつに相性がいい」と水口氏は語る。
ボタンを押す、レバーを動かす、ブロックが動く、ブロックが消える、振動する。プレイヤーとゲームがインタラクティブに織りなすアクションのひとつひとつが音となり、それが魔法にかけられたかのように音楽となっていく。
そして音楽は映像と手を取り合って、物語を紡ぎ出す。
「この物語はどこへいくのだろう?」そのようにして、プレイヤーはゲームにモチベートされる。
パズルを解いているだけだったはずが、いつのまにかそれはひとつの物語となり、プレイヤーをクライマックスへと連れていく。
そこで私たちは感動してしまうのだろう。感情は極まって、涙が流れるかもしれない。その感情は、険しい山を登りきって、山頂から夜明けの光を見たような気持ちに似ているだろうか。
ゲームをクリアしたということ、それ以上のものが──「何か」を達成したということが、そこには含まれているのだろう。
『ルミネス』、そして14年の時を経て帰ってきた『ルミネス リマスター』が目指したものとは、そのようなものだった。今回の水口氏・石毛氏へのインタビューを通じて、そのことがいくらかでも伝わればと思う。
ところで取材同日には、エンハンスより今秋発売予定の新作『TETRIS EFFECT』も体験させていただいたのだが……。
『TETRIS EFFECT』による圧倒的な「体験」を目の当たりにして──あたかも『Rez Infinite』の衝撃が甦ったかのように──またしても、私たちは語るべき言葉を失ってしまった。
そちらの記事も後日掲載予定なので、ご期待いただきたい。
【『ルミネス リマスター』発売キャンペーン情報】
『ルミネス リマスター』PS4版とSteam版では、期間限定で「デジタルデラックスDLC」が無料でバンドルされるキャンペーンが実施中。「デジタルデラックス DLC」に含まれるコンテンツは次のとおり。
【PS4版】
・オリジナルサウンドトラック(20曲)
・アバター(5種類)
・ダイナミックテーマ(1種類)
・オリジナルサウンドトラック(20曲)
・アバター(5種類)
・4K Wallpaper/壁紙
発売キャンペーンの実施は7月9日までなので、欲しい方はお早めに。
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深夜の電ファミニコゲーマー編集部の社内チャットに、そんな“どうかしている”書き込みが行われたのは、2016年末のPS VR発売直後の、とある夜のことだった。本記事は、いわばそんな編集部の異様な興奮のまま昨年末に勢いで行われた、VRコンテンツ『Rez Infinite』についての7時間にわたる「狂気の」インタビュー現場の記事化である──。