『Q』は解き方を考えずに作るほうが答えが透けて見えないため良問になりやすい
──『Q REMASTERED』には1280問ほど収録されているとのことですが、すべての問題を解く方っているんですか?
栗田氏:
クリアすると証拠の画面が出てくるんですけど、「#シンQマスター」というタグでSNSに投稿してくださっている方はいらっしゃいます。ほんの数人ですけどね。
「HELL」という難易度の高い問題はSwitch版の新機能として初めて搭載したんですが、そもそも「解けるようにしてあげよう」と思っているわけではなくて(笑)。というのも、これだけ問題数が多くなると、さすがに良問がネタ切れになってきてしまうんです。初期の問題と比べると、いろんなギミックを使った苦し紛れの問題が増えました。
だから『Q REMASTERED』を出すときに、これで「最後にしよう」というフィナーレを飾る意味で「HELL」を搭載したんです。「いつの日かだれかが解いてくれたらいいな」くらいの気持ちで。なので「HELL」には僕も解けない問題があります。
──栗田さんも解けないんですか!?
栗田氏:
はい。「作者も解けない」というキャッチコピーで出しました。でも、発売してから3日後くらいには全問クリアする人が現れて(笑)。
──それは瞬殺でしたね(笑)。
栗田氏:
「解けるもんなら解いてみろ」と煽ったのに瞬殺でした。昔から『Q』のファンでいてくださっている常連の方たちが解いてくださって。「瞬殺されてしまった」という思いはありつつも「本当にクリアできるんだ」という安堵もありましたね(笑)。
──栗田さんはクリアした方の解き方をご存知なんですか?
栗田氏:
はい、動画を投稿してくださっているんです。「HELL」のクリア集を見て「へぇ、こうやって解くんだ」と関心しました(笑)。
──栗田さんも解き方がわからないということは、問題を作るときは解き方を考えずに作っているんでしょうか……?
栗田氏:
解き方は最初に考えないんです。たとえば『Q』の代表的な、コップからボールを出す問題も「コップ」「ボール」「それを出す」という絵コンテみたいなものを描いただけでした。
──最初に解き方を考えないのは理由があるんですか?
栗田氏:
最初に解き方を考えてしまうと、それってもう「あらかじめ解き筋があるもの」に見えてしまうと思うんです。答えが透けて見えてしまう、というか。
なのでシチュエーションだけ描いたものをエンジニアに見せて、まずはその通りに実装してもらうんです。そこで初めて僕も「これはどうやって解けるかな」と触りながら試していく。そうしてプログラマーと調整していく流れです。言われてみれば、少し変わった作り方かもしれません。
──なるほど、『Q』は解き方を考えずに作るほうが良問になりやすいんですね。だから、本当に解けない問題は難易度が高い「HELL」に入れると。
栗田氏:
はい。「じゃあこれはHELLだ」って(笑)。
一風変わったゲームではなく将棋やテトリス級の定番ゲームを生み出したい
──栗田さんの作るゲームってカジュアルな手触りなんですけど、いわゆる「カジュアルゲーム」ではないと思うんです。ブロック崩しとか3マッチパズルみたいな、いわゆるゲーマーではない人も遊ぶカジュアルゲームの枠とは違う魅力があって。
栗田さんはご自身が作るゲームをどのように分析されていますか?
栗田氏:
本音を言うと、僕は将棋や『テトリス』みたいな「定番ゲーム」を生み出したいと思っています。やっぱり定番ゲームは長続きするので。
たとえば『空気読み。』は15年くらい前に作ったんですけど、当時は流行語に「KY」がノミネートされている時代でした。突飛なことして笑いを取りに行くと、瞬発力はあっても長続きしないんです。カジュアルゲームとはいい意味でも悪い意味でも「息の長さ」が大きな違いだと思います。
──なるほど。「将棋を作りたい」という方と出会ったのは初めてかもしれません(笑)。
栗田氏:
(笑)。だって将棋にもゲームデザイナーがいるわけじゃないですか。将棋を思いついたらこの仕事で長生きできるとは思いますけど、まず思いつかないですよね(笑)。
──栗田さんのなかで「定番ゲームを作りたい」みたいな思考は昔からお持ちだったんですか?
栗田氏:
そんなに深く考えてはいなかったんですけど、いまの時代って「作り手が主体ではない」と思うんです。長続きしているゲームは、プレイヤーがコンテンツを作りながらずっと回していけるものかと。プレイヤーが主体になれる「器」を提供できることが重要だと思っています。
たとえば『マインクラフト』はまさにそうだと思っていて。
──たしかに『マインクラフト』は「器」の提供ですね。遊べる環境がそこにあって、あとはプレイヤー次第でどうにでもなってしまう。ツールとして配信にも適していると思います。
一方で栗田さんが作るゲームはいつも一風変わっていて、むしろ作家性が色濃く出ていると思うんですけど、「自分の色を出してやろう」みたいな気持ちはないんですか?
栗田氏:
『Q』を作ったときは「無味無臭のものを作ってやったぞ」という気持ちでした。
──本当ですか? めちゃくちゃ色が出ていると思いますよ。だって無味無臭のゲームにでっかく赤い文字で「憂鬱」なんて単語は出てこないじゃないですか(笑)。
栗田氏:
(笑)。周りからは「これいかにも栗田さんっぽいよね」と言われることはよくあるんですけど、僕としてはそんなつもりはなくて。ただどこかに「シュールな笑いを人に見せたい」みたいなものがあるのかもしれません。
だから今後は、さっき言ったようなプレイヤーが主体になるゲームを作っていきたいです。自分を隠して、自分を出さずに(笑)。
『Q』の「離脱が激しい」という弱点をカバーするために『Q2』を作り始める
──ここからは『Q』の後継作にあたる『Q2』のお話をおうかがいしたいのですが、企画の立ち上がりからお聞かせいただけますでしょうか?
栗田氏:
何年も前に「Switchってどんな機材なんだろう」くらいの感覚で、Switchの開発機にアプリ版『Q』を入れて試してみたことがありました。もともと『Q』は指で操作するため、タッチパネルのあるSwitchとは相性がいいと思ったんです。
当時から『Q』は「離脱が激しい」という問題を抱えていました。最初の方の問題は1200万人くらいの方に解いていただいているんですけど、問題を追うごとにどんどん減っていて。
──先ほどの「問題に詰まると同接が減る」と同じ現象ですね。
栗田氏:
はい。まさにVTuberさんのデメリットになってる部分と同じで、鬼門となる9問目で「もういいや」でやめてしまう人が多い。そこで、『Q』の弱点をカバーするための『Q2』を作り始めました。だから『Q2』は「『Q』を否定すること」から入っているんです。
『Q』はダウンロード数こそ多かったものの、離脱が激しく長続きしない。そこは問題として確実にあるので、Switchにいちばん適した形で『Q』を作ろうと思いました。
──それが『Q2』というわけですね。遊びの部分でいうと『Q』と『Q2』はどのような違いがあるのでしょうか?
栗田氏:
『Q2』は『Q』と同様に物理演算で物が動くんですけど、コントローラーでキャラクターも操作できるようになりました。たとえば坂を描けばキャラクターを高いところに移動させることができます。スロープやシーソーを作って運んであげてもいい。
『Q』はストイックすぎたので『Q2』は胃がよじれるほどの難易度ではなく、だれでも遊べるようにしたいんです。
──このゲーム性でキャラクターを入れる発想がすごいですね。
栗田氏:
『Q』を遊んだ人に「これが『Q』の続編です」と見せたら、最初はみんなギョッとすると思います。「ぜんぜん違くない?」「アクションゲームじゃない?」という印象を受けると思うんですけど、触っていくうちに「たしかに『Q』だ」と思っていただけるかと。
ほかのゲームでたとえるなら『ヒューマン フォール フラット』みたいな感じです。
──なるほど。ということはマルチプレイもできるんですか?
栗田氏:
最大4人で同時プレイができます。4人でワチャワチャしながら「描いた物を持って投げる」「重い物を引っ張ってくる」など、さまざまなアクションができるようになりました。キャラクターも「ジャンプ力が高い」「火を吹いて燃やせる」「水の中を泳げる」みたいな能力を持っているんです。
難易度も調整しているので、配信の武器として使っていただけたらいいなと。
石井氏:
マルチプレイは、「協力」も「妨害」もできるんです。そのうえでこれまでの『Q』のように問題を解いていくことになるので、プレイヤー同士のコミュニケーションも大事になってくると思います。そこもまた配信に向いているのではないかと。
──『Q』の弱点を、そもそもゲーム性からカバーしているということなんですね。
栗田氏:
「いかに配信としての使い勝手がいいか」というのはひとつの突破口としてあると思うんです。
──『クラフトピア』を作ったポケットペアの溝部拓郎さんも、ゲームを作るときに「撮れ高」をすごく意識しているらしいです。取捨選択をするときに「これは撮れ高になるから残す」みたいな判断をされているそうで。
栗田氏:
すごくわかります。僕も取捨選択をするときは、ちゃんとしているかどうかより「おもしろがられるほうはどっちか?」で判断していますね。
『Q REMASTERED』の配信を見ていて、「いかにボケを仕込むか」を意識する必要があると思いました。構造としては、ゲームがボケで配信者さんがつっこみなんです。だから「こういうふうにつっこんでくるだろう」みたいなボケを考えたいと思いました。
──『Q2』はキャラクターも出てくるので『Q』とは問題の作り方も変わってくるかと思いますが、そのあたりの難しさはありますか?
栗田氏:
先ほど『Q』は解き方を最初に考えないと言いましたけど、『Q2』は真逆なんです。
『Q』のようにコップからボールを出すだけだと、キャラクターが持ち上げて投げるだけで終わってしまうため、ゲームとして成立しづらいと感じました。
──あまりに簡単すぎてしまいますね。
栗田氏:
だから『ゼルダの伝説』的な謎解き要素みたいなものだったり、力を合わせる仕掛けがあるほうがおもしろいと思いました。昔の『マリオブラザーズ』みたいに、プレイヤー同士で喧嘩をしてもおもしろいと思っています。
──喧嘩ができるゲームはいいですね。『ボンバーマン』や『スターソルジャー』みたいに。
栗田氏:
最初から「戦いなさい」って言われてると『スマブラ』みたいになるのかもしれませんが、そうじゃないゲームでも喧嘩ができる余地はあってもいいのかなと。タイトルを『Q 2 HUMANITY』にしたのは、そういう人間性を表しているんです。
あっ、もちろん『ダークソウル』の「人間性」【※】って意味もあるんですけど(笑)。
──繋がってきましたね(笑)。
※『ダークソウル』の「人間性」
『ダークソウル』シリーズにおけるアイテムおよびパラメーター。
勝手に転がって、勝手に落ちて、勝手にクリアになるバグをあえて残している
──『Q2』の調整でいちばん大変なところはどんなところですか?
栗田氏:
これは『Q』のときからなんですが、『Q』は処理が重たいんです。いくらでも描画をしていけるので。
──ああそうか、プレイヤーが描けば描くほど重くなってしまうから。
栗田氏:
そうなんです。どこまで重くなるかはこちらでコントロールができないから、いろんなところを削らないといけなくて。でもそうしていると、オブジェクトがオブジェクトをすり抜けてしまうみたいなバグも起こるんです。
『Q』は物理演算ゲームですから、そういうバグが起こるとゲームとして破綻するので、気をつけなければいけません。
──たしかにそこが破綻してしまうと解けないですからね。
栗田氏:
でもじつは『Q REMASTERED』の配信でバグがおもしろがられているんです。「変なバグが起きてクリアできちゃう」とかは、配信として盛り上がるので。得した気分になるというか(笑)。
なので、一概にバグをすべて取り去ることが正解とも言えないんです。
石井氏:
それこそファミコン時代ってバグを使ってクリアするみたいなことがよくあったと思うんです。話題にもなるし、おもしろい。
栗田氏:
『Q』の配信を見ていると、「ヒーローがぶっ飛んで帰ってこない」という現象はどの配信者さんも目の当たりにするんです。
──思っていた以上にヒーローが飛びますよね(笑)。
栗田氏:
そうなんです。飛んだら帰ってこないんです。
あの現象はアプリ版が出た2015年から認識しているんですが、いまも残しているんです。バグと捉えられればそうかもしれないですけど、おもしろいから(笑)。
──(笑)。ヒーロー以外にもそういう現象はありますか?
栗田氏:
じつはいま「ボールが勝手に右に転がる」という現象が起きているんです。だからそのままにしておけば、0手でクリアできてしまうという。
──なにもしないでクリアできるんですか!?
栗田氏:
はい。勝手に転がって、勝手に落ちて、勝手にクリアになるんです。
──(笑)。
栗田氏:
僕は嫌な汗をかきながら配信を見ています(笑)。それで、エンジニアに右に転がるという現象を直すようお願いしたら石井に止められました。「右に転がるほうがおもしろいから」「よろこんでくれる人がいるから」って。
──なるほど。
石井氏:
先ほど話題に出た難問の9問目はすごく苦労するのに、一方で「0手でクリアする問題」もあるってすごくおもしろいと思うんです。実際にその問題になると視聴者の方から「そのまま見て」みたいなコメントがたくさんつくんです。配信者さんも「覇気でクリアした」みたいに言っている方もいて(笑)。
栗田氏:
そしたらもう残すしかない【※】と思いました。僕は嫌な汗をかいてますけど(笑)。
※編集部注釈
開発に使用しているミドルウェアのバージョンによって起きていた不具合だったため、最新バージョンで開発したSteam版ではこの現象が起きなくなってしまったそうです。
──作者としては、配信を見ていて嫌な汗をかくことは多いですか?
栗田氏:
多いですよ(笑)。『Q』はイライラするゲームでもあるので、マウスをガンガンされたりすると「うわうわどうしよう」と思います。だって僕がその方を怒らせているんですよ。
──(笑)。そこまで真剣に配信を見て汗をかいていたんですね。
栗田氏:
これだけ多くの方に遊んでいただいている姿を見ることはいままでなかったので、汗をかく機会も増えました。
──ここまで『Q REMASTERED』が広く遊ばれているのは、ゲームのおもしろさに加えて、配信向きだったということが改めて証明されたのではないでしょうか。さらに『Q2』は『Q』の弱点をカバーしているわけですから、もっと配信向きになるかもしれませんね。
栗田氏:
そうですね。ただ、『Q』をカバーするために作っている『Q2』というところに、『Q REMASTERED』の盛り上がりがあったので「あれ?」という気持ちはあります。
──(笑)。
栗田氏:
「いま『Q』否定のコンセプトで『Q2』を作ってるけど『Q』のほうがよかったの?」「難しいほうがいいの?」という疑念が生まれました。
石井氏:
『Q2』はもう止められないですからね(笑)。
栗田氏:
大丈夫ですよね?
──『Q REMASTERED』が盛り上がれば盛り上がるほど不安になるという(笑)。ユーザーさんにどっちがいいか選んでもらいましょう。今日は貴重なお話をありがとうございました。(了)
Switch版を売りたいのにアプリ版のダウンロード数が前月比1000%になってしまう。『Q』の弱点をカバーするために『Q2』を作り始めたのに『Q』が大ブレイクしてしまう。
想定外の展開に困惑する栗田氏が印象に残るインタビューだった。
一風変わったゲームを作る栗田氏は、作り手が主体となるゲームではなく『マインクラフト』のようにプレイヤーが主体となる「器」を提供できるようなゲームを作りたいと語っている。『Q』は配信者にとってまさに「使い勝手がいい」ゲームだろう。
しかしながら『Q』のゲーム性は諸刃の剣だ。問題をクリアできたときは盛り上がる一方で、9問目のように難しすぎると露骨に同時接続が下がるという。その弱点をカバーするために後継作となる『Q2』が発売を控えているのだ。
果たしてそれがどのように受け入れられるのか。その反響を見届けたい。