「これを組み合わせたらどうなるんですか?」→「わかりません!」──なぜ『クラフトピア』は開発者ですら把握しきれない破綻やバグを乗り越え、売上50万本を達成できたのか

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 2020年9月4日にアーリーアクセスで配信開始されたゲーム『クラフトピア』。ジャンルこそ「オープンワールドサバイバルアクションゲーム」となっているが、クラフトゲームをベースとして狩り、農業、ハクスラ、建築、自動化などの多彩な要素を盛り込んだ欲張りなタイトルだ。

 そんな『クラフトピア』では、TwitterやDiscordなどのSNSが積極的に活用されており、ユーザーが体験したスクリーンショットや動画の共有から、アップデートに対するリクエストからバグ報告までさまざまな交流が生まれている。
 ここまでは普通のゲームでもよくあることだが、『クラフトピア』が特異なのは、開発者が想定していない仕様をユーザーがこぞって発見したり、ゲーム中に実装されていない機能がユーザーによって開発されていたりすることだ。

 公式Twitterではこうした「野生のクラフトピア学会員」によるさまざまな活動が報告されており、あらゆる好奇心が試されている。ユーザーも運営も手探りで進んでいるそのさまは、まるで黎明期のMMOのような活気を感じさせる。
 今となっては珍しい、その勢いのある荒削り感がヒットしたのだろうか。日本のインディーゲームが、Steamで、しかもアーリーアクセスにも関わらず売上50万本を達成したのだというのだから驚きだ。
 
 従来のゲームコミュニティをゲーム会社が先生、ユーザーは生徒というある種の上下関係のある学校のようなものだとすると、『クラフトピア』の運営開発とユーザーの関係はまるで巨大な生徒会や部活動のようにも見える。『クラフトピア』は、どうしてここまでユーザー主体の盛り上がりを生むことができたのだろうか?

 「うちは『ユーザー原理主義』といえるぐらい、ユーザーに委ねます」──そう語るのは、ポケットペア代表の溝部拓郎氏だ。
 2019年にリリースした『Overdungeon』では既存のアセットを主体としたゲーム開発にトライし、オリジナリティ、クオリティ、セールスそれぞれの面で成果を上げ10万本を突破。

 Webサービス出身ならではの視点でインディーゲームに新風を吹き込む溝部氏は、開発チームの代表として何を考え、どのようにして『クラフトピア』というムーブメントを仕込んだのだろうか。
 しかし取材で見えてきた溝部氏の像は、ユーザーの反応を予め織り込む狡猾な策士というよりも、「面白ければいいんじゃない?」で突き進んでしまう野性味あふれるものであった。

 自動化でお金がほぼ無限になってしまっても、調整に時間がかかりすぎるので諦める。絶対にバグが出るのがわかっているから、予めゲーム内にバックアップを内蔵しておく等々。とても現代に現れたとは思えない証言の数々は、これからの時代ならではの、新しい形のゲーム開発のあり方を予感させるものとなった。

聞き手/TAITAI
文/野口智弘
編集/実存

溝部拓郎氏

国産インディーゲームでは異例のSteam売上50万本を達成

──まずは『クラフトピア』の売上50万本達成、おめでとうございます。

溝部氏:
 ありがとうございます。まだアナウンスはしていないんですけど、(インタビュー当時)ちょうど最近超えたところですね。

──日本のインディーゲームが、「Steamのアーリーアクセスのみで50万本突破」って相当な事件ですよね。ちなみに50万本の内訳はどうなっているんでしょうか?

溝部氏:
 たぶん20万本ぐらいは国内ですね。日本のユーザーのみなさんに愛されているゲームだなと感じていて、とても感謝しています。

──日本のSteamユーザーの割合を考えたら快挙ですよね。『クラフトピア』は企画自体はもちろん、それに合わせたストアページやSNSでの情報の出し方も鮮やかだったと思うんですが、いまの数字を目指すにあたっての何かしらの仕込みはあったんですか?

溝部氏:
 無いですね(笑)。いつもそうですけど、行き当たりばったりで運ばっかりだなと思います。

──インディーゲームってゲームの完成度とは別に、「面白さをどうやってユーザーにアピールするか」も問われるじゃないですか。『Overdungeon』も『クラフトピア』も、「まずユーザーに興味を持ってもらおう」という仕掛けがあって、そのためにゲームデザインが破綻しかねない要素も盛り込まれている。
 「バズる」感覚というか、面白さのトップスピードに重きを置いて、それを成り立たせるために全体をまとめ上げているというか。本作にはそういうノリみたいなものが感じられますよね。

溝部氏:
 はい、普通はもっと整合性を重視していくんですけど、強烈に面白いことがあったら、とにかく入れてしまう(笑)。その上でほかを調整していく作り方ですね。

──「ゲームシステムに全振りしたから、レベルデザインの調整は捨てる」みたいなピーキーな感じですよね。その辺の割り切りは、溝部さんがWeb出身だからなんでしょうか。

溝部氏:
 ユーザーがインディーゲームに何を求めているかを考えると、「安い」かつ「大手ゲーム会社が作らない」かつ「面白い」ゲームという無茶振りなんですよね(笑)。

 ただ、一見すると無茶振りなんですが、安いからクオリティの妥協は許されるし、斬新なシステムには寛容だし、多少説明不足でも面白ければ許してくれる。Steamアーリーアクセスにはそういう文化的な土壌があるので、ユーザーもある程度の割り切りを許容してくれる部分があるかなと思います。
 そもそもアーリーアクセスという考え方自体がすごくWeb的ですよね。ゲーム業界のエコシステムの一部としては非常に健全だと感じています。

 ただ、その分コンセプトを研ぎ澄ませなければならないので、PVはめちゃくちゃ意識していますね。PVだけでユーザーにどのように伝わるかを第一に考えて、開発中期ぐらいまではもはやPVのためにゲームを作っていますね(笑)。
 PVで評判が良かったら、それを元に再度ゲームを組み立て直して、評判が悪かった部分は考え直すという感じで進めていました。

──昔だと『クロノ・トリガー』みたいな作り方ですよね。まず鳥山明さんのコンセプトアートがあって、『ジャンプ』の特報記事に載せるゲーム画面を最初に作って、実際のシステムはそこから逆算でまとめるという。

溝部氏:
 僕もその話は大好きで、ゲームでもコンセプトアートは先に作る事は多いですが、『ジャンプ』と『クロノ・トリガー』の話はその一歩先を行っていたなと思います。

 その辺の話でいうと、最近のハイパーカジュアルでは、広告だけ出してゲームをリリースしないことすら一般的です。CTR(クリック率)さえわかればいいので、動画広告のリンク先がゲームアプリじゃなくてもいい。ゲームのPVになるところだけ作って流して、成果がよかったらゲームを作り始める、というやり方を実践しています。
 そこまで行くと恐ろしいと思う一方で、非常に効率的だなとも思いますね。

「『ゼルダ』と『マイクラ』を組み合わせたら最高じゃね?」という安易な発想で作り始めたら、大変なことになった

──今回はそういう既存のゲーム業界とはちょっと違う、新しい領域の話を溝部さんとできたらいいなと思っています。その部分があるからこそ、『クラフトピア』の成功がありえたんだろうなと。

溝部氏:
 前回のインタビューで『Overdungeon』は既存のアセット(素材)を使って作った話をしましたけど、ゲーム業界としても「全部ゼロから自作するのは大変だよね」という悩みはあると思うんですよ。
 だから『Overdungeon』では、「全部アセットでもちゃんと作れますよ」という形は示せたかなと思っていますね。

 でも、今回の『クラフトピア』は『ゼルダ』『マイクラ』を組み合わせたら最高じゃね?」という安易な発想が出発点だったんです。それで実際に作ってみたら、ゲームバランスは破綻するし、予想外の挙動やバグが無限に出てきて大変なことになったという(笑)。

(画像はSteam:Craftopia / クラフトピアより)

 そもそも「全部ごちゃまぜ」というコンセプト自体が、ゲーム業界的には最もナンセンスなやり方だと思うんですよ。普通のゲーム開発者に見せたら、絶対に「要素を絞れ」と言われますから。それ以前に、こういう企画を出してもまず間違いなく落とされますよね。

──普通のゲーム会社で、企画会議を通して……というやり方だとたしかに厳しそうですよね。それでも、やり切れる目算があったんですか?

溝部氏:
 目算というより、「破綻するのはわかってるけど、それでも大丈夫」という感じですね。普通のゲーム開発だと、破綻しそうな部分や噛み合わなさそうな部分を気にしちゃうと思うんですよ。ただ、僕らの場合は噛み合わないとして、本当にそれが問題かどうかが重要かな、と思ったんですね。噛み合わなかったり破綻したとしても、面白ければいいんじゃないかと。

 たとえば『クラフトピア』にもエンチャント(能力付加)ってあるじゃないですか。ハクスラ要素があるゲームだと、拾った武器ごとにエンチャントも違うから、同じ種類の剣でも10個拾ったらインベントリは10個埋まる。
 ただほとんどのハクスラだと、素材にまでエンチャントはつかないんですよね。仮に素材にもエンチャントできると、硬い鉄、柔らかい鉄、ゴブリンの鉄、スケルトンの鉄……とさらにインベントリ上で全部バラバラになっちゃう。
 『クラフトピア』の場合は素材にもエンチャントできるので、当然インベントリがあふれちゃう問題があって、それも破綻するのはわかってたんですけど、「面白いからやろう」と。

──結局どうなったんですか?

溝部氏:
 いまだにインベントリが足りない問題はあって、ユーザーからの要望も届いていますし、少しずつ改善してはいるんですが、やっぱりまだ問題はありますね。
 問題はあるんだけど、同時に面白い部分につながっている部分でもあるので、調整しながら上手く組み立てて行きたいと思っています。破綻というよりは取捨選択の問題だなと。

バグるとわかっているなら、最初からバックアップを内蔵すればいい

──ほかにも「全部ごちゃまぜ」にした結果生まれた不整合や破綻ってどんなものがあるんでしょう?

溝部氏:
 自動化がいちばんヤバいですね。そもそも自動化って、ほかの要素とだいたい噛み合わないんですよ。一度自動化できちゃえば、そのリソースは無限になるじゃないですか(笑)。

(画像はSteam:Craftopia / クラフトピアより)

──たしかに(笑)。

溝部氏:
 そうするとレベルデザインもゲームバランスもあったもんじゃない。自動化を入れただけで、いろんなものを考慮しないといけなくなっちゃって、コンテンツが増えれば増えるほどバランスが取れなくなってしまう。
 だから、自動化ってゲームデザインを知っている人にとっては“見えている地雷”なんですよ。「ここが問題だよね、ハイ論破」で終わりますね(笑)。

 でも、うちは現時点ではそのバランスは捨てていて、わかっている上で「でも面白いからやるね」と突き進むスタイル。「これとこれを組み合わせたらどうなるの?」と、予期せぬいろんなことが起きてしまうわけで、当然バグは出るよねという(笑)。

──(笑)。

溝部氏:
 バグは出るんですけど、深刻なものはちゃんと直すようにしています。わかりやすい例でいえば、お金は自動化を入れたら「絶対増えるな」とわかっていたんですよ。でも調整にも時間がかかるから、あきらめました。結果、みんなのお金はほとんど無限になりました(笑)。

 普通はゲームシステム上、お金はコストとして考えるじゃないですか。だから、お金をコストとして使ってスキルをリセットする、みたいなシステムは実装できないわけですね(笑)。現状はそうしたバランスやデザインを一旦諦めている状態なので、いろんな犠牲はともなっています。

──お金が自動化で無限になったりだとか、そういうユルユルさも含めてユーザーに受け入れられているんですね。ほかにもどんなふうに楽しまれているのかが気になります。

溝部氏:
 みんなそれぞれ違ったところにハマってるみたいですね。建築にハマる人もいるし、エンチャント沼にハマる人もいるし、バグを探すのが楽しいという人もいる。
 あと特徴的なところでは、自動化が好きなユーザーってだいたい変な人なんですよ(笑)。

──なんとなく想像がつきます(笑)。子供の頃におもちゃを分解して壊してそうな人たちですよね。

溝部氏:
 そんなイメージです。少なくとも普通ではない。自動化という発想に至るとだいたい普通じゃなくなりますよね。
 自動化でいろいろ試して「バグった。じゃあ報告するか」みたいな勢いで、みなさん結構いろんなことをやられていますね。最近はとうとうゲーム内で回路を作って計算して「このゲームがチューリング完全だと証明される日も近い」と言っている人がいるみたいで(笑)。

──そういう形で、初期のMMOのような「ユーザーも運営も手探り」なゲームがまさかこの時代に現れるとは、と思いましたね。

溝部氏:
 そこはある種の反動もあると思いますけどね。というのは、ゲーム開発も業界が成熟したことにより、ある程度きちんとしてきているので。テストも自動化されたりとか、まともな会社が作るゲームはQA(品質管理)で許されないことはあらかじめ起きないようになっていると思うんです。
 だからこそ、インディーでこういうめちゃくちゃなゲームが出たら、ユーザーにとっては物珍しく映るのかもしれないです。

(画像はYouTube「Craftopia – CM 「IGNITE YOUR CREATIVITY」-003 -」 より)

──そういうライブ感にあふれる体験をいまできるのは貴重かもしれないですね。

溝部氏:
 『クラフトピア』は、僕ら運営が意図してないことが無限にありすぎて、“何をしてもだいたい意図してない”という結果になるんですよ(笑)。

 あるオブジェクトが1個だったら大丈夫なのは確認したとして、「そのオブジェクトが20個あって、他のオブジェクトと組み合わさったらどうなるの?」というテストはしません(笑)。「クラッシュさえしなきゃいいや」という気持ちでやっています。

 プログラムって、ある程度は組む前にバグりそうかどうかはわかるんです。少なくとも複雑度はあって、バグりやすい仕様とバグりにくい仕様があるんですけど、うちはバグりやすくても面白ければ突き進むスタイルなんです。

※α版で発生した「チェンソーマン」バグ。現在は修正されているが、ユーザーからは「むしろ別の形で実装してほしい」「かつてこういうバグがあった記念に、頭に装備できるドリルがあってもいい」といった好意的な反応も寄せられていた

──進行不能やフリーズのような致命的なバグがあった場合はどうしてるんですか?

溝部氏:
 もちろんこちらも完全に無責任なつもりではなくて、必ず問題が起きるとわかっているので、あらかじめゲームのなかにバックアップシステムを内蔵しているんです。ユーザーが何にいちばん怒るかというと、セーブデータが壊れたときなんですね。

 だから、セーブデータだけは消えないようにして「問題が起きたらバックアップから復元してください」としています。そうすると。ユーザーも「また壊れた。まあ、戻せばいいや」ということで(笑)。
 怒られますし、大変申し訳ないとは思っているんですが、ギリギリ許してもらっている……と思っています(すみません)。

──壊れるとわかっているなら、最初からバックアップを内蔵すればいい、と。逆転の発想ですね(笑)。

溝部氏:
 こういう話をすると、「ユーザーを軽視している!」「未完成なモノを売るな!」と怒られることもあるのですが……

 「多少バグっても、万が一セーブデータが消えても、バックアップから復元すれば大丈夫です」なんて、自分でも酷いゲームだと思います。でも一方で、デバッグの工数などを大幅に削減することができているのも事実です。こういう手法のおかげで、荒削りではあれ面白いゲームを最速で作ることができるんじゃないかと思っています。

「これとこれを組み合わせたらどうなるんですか?」→「わかりません!」

──『クラフトピア』って、荒削りであるがゆえに初期のMMOっぽいじゃないですか。当時のMMOで何が楽しかったかって、ゲームバランスとかではなく、とにかく目新しい体験があって「こうしたらどうなるんだ?」という好奇心なんですよね。
 『ウルティマオンライン』で悪いことしても捕まらなくて「これって抜け道だよね?」って見つけたその日は荒稼ぎして、一週間後に同じことをすると修正されてて今度は捕まるわけですよ(笑)。『クラフトピア』の面白さも、そういう感じに近いのかなと。

溝部氏:
 そうですね。とりあえずPVや実況動画を見て、面白そうと思って入ってきたライトな人もたくさんいるんですけど、本当にハマっていく人は自分で何か発見をするタイプの人ですね。
 そういう人たちから「これとこれを組み合わせたらどうなるんですか?」と聞かれることもあるんですけど、僕らの答えは「わかりません」なんですよ(笑)。

──わからないんですか(笑)。

溝部氏:
 僕らも試してないから、本当にわからないんです。やった結果問題が起きていたら「ああ、すいません……」みたいな(笑)。

──とても令和とは思えない……(笑)。バグの指摘でいえば、「野生のクラフトピア学会員」みたいなツイートもバズっていましたよね。

溝部氏:
 しかもこれ、バズったのは『クラフトピア』の画像ですらなくて、メッセージのスクリーンショットなんですよ。SNSでバグをユーザーから教えてもらって、直し方も的確とか、そんなの聞いたことないですから。
 ちなみにこの直し方を教えてくれた人は採用させてもらって、いま一緒に働いています(笑)。

──それはめちゃくちゃいい話ですね(笑)。

溝部氏:
 最初はこんなに的確な指摘をしてくるから、「よっぽど詳しい業界人なのかな」と思いきや、優秀な若い子でしたね。

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