2019年8月、アクション・カードゲーム『Overdungeon』の正式版がリリースされた。リアルタイム性を取り組んだまったく新しいカードゲームを謳う本作は、日本の新興ゲームデベロッパー「ポケットペア」によって開発されたものだ。
2018年11月から開発中の早期アクセスタイトルとしてSteamで販売されてきた同作。発売時に開発者がTwitterで投稿した映像からもわかるように、小規模開発の作品としては整った美麗なビジュアルやUIが印象的である。画面上で所狭しとユニットと攻撃が入り乱れる迫力あるゲームプレイ映像を魅せたそのツイートは、1000件以上もリツイートされるなど広く拡散された。
ゲーム自体も現時点でSteamには800件近いレビューが投稿され、評価は「非常に好評」に区分されている。さらに開発のポケットペアに話を聞けば、本作は5万本のセールスを達成しているという。
インディーゲームとしては、ビジュアルを含めたクオリティ面で、そして評価やセールスの面でも、十二分に成功している範疇だと言えるだろう。実際にプレイしてみると、最初はほかに類を見ないゲームのルールに戸惑うものの、すぐにその爽快感を味わえる良きゲームであることがわかる。
手裏剣のごとくリアルタイムに次々とカードを切れ。爽快感抜群の国産カードアクションゲーム『Overdungeon』Steamで発売開始
しかし実は本作、そのほとんどのグラフィックやUIを「アセット」から作っているのをご存知だろうか? アセットとは、ゲーム開発においてわかりやすく言えば素材のことで、要するに本作はグラフィックスの素材を“ほぼ自作することなく”成り立っているのだ。さらに話を聞けば、本作はコンセプトにおいても、『Slay the Spire』と『クラッシュ・ロワイヤル』という人気作ふたつをかけ合わせるという発想から始まっているという。
概要だけを聞くと、オリジナルの要素をほとんど感じさせないゲーム──もしかしたら、「他人のふんどしを借りてゲームを作っている」と言いたくなる読者もいるかもしれない。だが、インタビューを受けたポケットペアの若き代表である溝部拓郎氏は、臆面もなくそういった話を我々に向かって語る。
加えて、この溝部氏。聞けば30歳でありながら、JPモルガンに入社しながら片手間で「STORYS.JP」や「Coincheck」などのWebサービスを立ち上げてきた過去を持つ。それらを成功に導きながらも、やはりゲームが作りたいからと一念発起し、「ポケットペア」を立ち上げたという、かなり異色の経歴を誇る人物だ。これまでいろいろなクリエイターに取材をしてきた筆者だが、それらと比べても、氏の放つオーラは、なんとも独特の雰囲気がある。
今回、そんな溝部氏が大きく影響を受けた2000年代後半からのWebの世界と、それによって形作られたWeb的な『Overdungeon』の開発手法についてお聞きすることができた。Web黎明期に活躍した人たちの中にいた「特異な価値観やこだわりを持った人」の独特な“匂い”と、既存のものをすり合わせるなかで“オリジナリティ”が生まれていく瞬間を、それぞれお届けしたい。
Web出身のゲーム開発者
──『Overdungeon』は1年未満で5万本以上を売り上げ、評価も非常に高いものを得ており、その上、作品のグラフィックをほとんど自作しなかったと聞いております。今回は溝部さん自身の出自も含め、いろいろお聞かせください。
溝部拓郎氏(以下、溝部氏):
もともと僕は21歳の学生のころ、イラストSNSの「pixiv」でアルバイトをして技術を身に付けていました。ただ、当時はゲーム作りがしたかったので、アルバイトを経て「任天堂ゲームセミナー」という任天堂主催のインターシップに行ったんです。
で、1年のあいだ学んだあとに「ゲーム作りは大変すぎるな」と気付いて、別の道に行きました(笑)
──大学を卒業してからストレートにゲーム業界へは入らなかったんですね。
溝部氏:
インターンシップはとても楽しかったんですけど……お金の匂いがあまりしなかったです。それにプログラマーは周りが優秀な人ばかりで、「単に勝負しても、この業界では勝てないなあ」と思ったんです。
またゲームプログラミングは、個人的にはWebプログラミングより難しいと思っていて、プレイヤーがさまざまな状態を持つので、考えられるケースの数が指数的に爆発するんです。あとは「100人のチームのうちのひとり」というポジションは、あまりおもしろくないのかなとも当時から感じていました。
就職活動中にJ.P.モルガン【※】の内定をもらったので、「もういいか」と思ったところもあります。もし落ちていたら、ゲーム会社に行っていたかもしれません。
──JPモルガンと言えば、外資系の金融機関の超大手ですよね。
溝部氏:
ここならお金を稼げるだろうと思って、金融システムの開発で入りました。ただ、たしかに初任給50万円とお給料はよかったんですけど、証券会社の花形というのは営業やトレーダーで、技術サイドは少なくとも当時、「ガンガン儲かる!」という場所ではありませんでした。
みんな凄い会社だと言っているし、きっとお金も沢山稼げる場所と思って入ったら、そんな単純な話じゃないなと現実を見ました。金融のキャリアを積むという意味では素晴らしい会社だったのですが、自分の今後やっていくことを考えると、自分の資産価値がこのままだと下がりそうだなと思い、別の事を始めた方が良いなと思いました。
あ、JPモルガン自体は素晴らしい会社ですよ(笑)。おすすめです!
──なるほど。というか、溝部さんは理系やプログラミング出身の人なんですか?
溝部氏:
いえ。それが実は、「pixiv」に入る前はプログラム経験なんてほぼゼロで、その「pixiv」も「頑張ります!」と言ったところ、何とか許して入れてくれた感じです。プログラムは趣味でちょっとは触っていたんですが、まったく実用レベルではありませんでした。
学生時代は、東京工業大学では情報工学を学ぼうとしていましたが、友達がおそろしく優秀な奴らばかりで、途中で「彼らと競争しても勝てない」と気づいて、経済学専攻に移りました。
──任天堂のインターンのときも「勝てない」と進路転換していましたね。
溝部氏:
たしかに。勝てないと思ったら、すぐに辞めて別の道を模索しますね。JPモルガンを辞めたあとも、プログラミングに執着はしていなくて、その後はキャリア的に起業家です。
──JPモルガンのあとは何を始められたんですか?
溝部氏:
正確にはあとではないんですが、JPモルガンの同僚だったジェームズと、東工大の後輩の和田というふたりと一緒になって、「STORYS.JP」【※】というWebサービスを立ち上げました。
※STORYS.JP
ユーザーの人生に秘められたドラマを共有するWebサービスサイト。2013年に書籍化された『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』こと通称『ビリギャル』が生まれた場所としても知られる。
──え、溝辺さんってSTORYS.JPの開発者だったんですか! それはJPモルガンの在籍時に片手間でやられていたんですか?
溝部氏:
そうですね。
──JPモルガンは副業とかって……。
溝部氏:
もちろん駄目ですね(笑)
そのSTORYS.JPは、ギリギリ黒字か赤字という収益性まで持っていけたのですが、このままではダメということで「ビットコイン面白そうじゃない?」と「Coincheck」【※】というサービスも始めました。
──どちらも有名なWebサービスですね。それぞれ溝部さんが20代のころに立ち上げメンバーとして関わったということですか?
溝部氏:
そうなりますね。STORYS.JPは、「LinkedIn」という世界最大のビジネスSNSの代替えサービスが日本にないと目をつけて始めたんです。
日本人は気質として、転職にポジティブな印象を抱いていないので、みんなに自分のストーリーを語ってもらって、それを履歴書にして売り込んでもらおうと考えました。「名刺に載らないストーリー」というコンセプトでした。これは一緒に立ち上げたジェームズのアイデアです。
──でも、いまのSTORYS.JPを見ると、まったく「LinkedIn」には似ていないですよね。
溝部氏:
欠片もないですよね(笑)。最初の方は欠片も残っていたんですけど、どんどんなくなっていきました。
──もともと、こういったWebサービスはよく作ってこられたんですか?
溝部氏:
任天堂のインターンが終わったあとにひとつ作ったんですが、これはあまり上手くいきませんでした。本格的に作りだしたのは22歳とか23歳のころから。そこからはかなりの数を作ったので、当時は普通の人よりは相当Webに詳しかったと思います。
──溝部さんの世代でいくつもWebサービスを生みだしている人はめずらしいですよね。
溝部氏:
僕は大学に入学したのが2008年で、卒業したのが2012年ぐらいだったんですが、そのころ「あまちゃん」【※】さんたちが実験的にいろいろなものを作っていた時代があったじゃないですか。
※amachang(あまちゃん)
天野仁史氏のこと。2005年からブログ「IT戦記」を連載。JavaScript方面の知識で知られる。
──2010年よりちょっと前とかですかね。IT系のエンジニアさんたちが発言力を持っていた時代ですね。ポッと出てきたようなWebサービスでも受け入れられる、最後の時期だったかと思います。
溝部氏:
「はてなブックマーク」などがかなり盛り上がっていて、iPhone 3GSが2009年に登場して、2011年に「LINE」がリリースされて。Webやアプリが一気に広がっていった時代でした。
──そういた時代を体験していたと聞くと溝部さんはWeb畑からきた人だなと思うんですが、そこからソーシャルゲームなどを経ずに、いまこのタイミングでゲームへと転向した人というのは、あまり聞いたことがないですね。
溝部氏:
そうですね。というか、当時は無料の小規模アプリを作っているような開発者の人もいたけど、個人で大ヒットというのはそうそうなかったですよね。まだスマートフォンも普及していなくて、『Mobage』【※】が大正義だった。
※『Mobage』
2006年からDeNAが『モバゲータウン』としてサービスを開始したSNS。当初は携帯電話向けのゲームプラットフォームだったが、開始1年で若年層を中心に数百万人規模のユーザーを獲得することに成功し、よりユーザー間の交流を促す機能が追加されていった。
──卒業後、その『Mobage』のようなソーシャルゲーム分野に進む気はなかったんですか?
溝部氏:
当時、ゲーム分野で行くなら「任天堂だ」と心に決めていました。任天堂のゲームが大好きだったので。まあ、もしいま道を選べるとしたら、逆算してDeNAやGREEの分野に絶対行くべきだったでしょうね(笑)
──そういう方面へ行かずにWebの世界を渡り歩いてきたのに、またこのタイミングで「ポケットペア」という会社を設立して、ゲームへ戻ってきている。
溝部氏:
Coincheckが軌道に乗りそうになって、このままいけばうまくいくだろうなというのが見えてきたのですが、そのときにあらためて「自分自身どうしようかなあ」と思い悩んでいたんですね。
そこでふたたび、「やはりゲームを作りたい」と気持ちが再燃して、2015年にSTORYS.JPやCoincheckから離れて、自分で新しい会社を立ち上げました。
──そのポケットペアではどういうゲームを作ろうと、こころざしていたんですか? 商業的に成功したソーシャルゲームなどと比べると、『Overdungeon』はそういう方向性の作品ではないですよね。
溝部氏:
そこは、とても難しいところですね。たとえばいまも、売れることはつねに念頭に置いて作っているんですけど、結果として売れる市場が狭いものができてしまっている。そこは自分の中ではまだ、咀嚼している最中ですね。
やはり売れるものは正義だとは思います。それ自体は間違いない。けっきょくのところクリエイティブというのは、「自分が作りたいもの」と、「売れるもの」のあいだにあるギャップを解決することですよね。その溝を埋める作業は絶対に必要だと思うんです。
その中で、理想は自分の作りたいものが、そのまま売れてくれるのが一番いい。「どこまで寄せるのか」という話だと思います。
──溝部さんは、いまおいくつなんですか?
溝部氏:
30歳です。
──30歳ですか……。もっと昔の世代のゲームクリエイターの方だと、売れる売れないといったところよりも、コンピュータの可能性に魅せられてとか、ゲームを遊びたいから自分で作るということで業界に入る人が多い気がしますよね。
溝部氏:
ただ、僕はインターネットでダウンロードできるフリーゲームがすごい好きだったので、特殊なのかもしれないですね。小学5年生のころからパソコンがあって、周りの友だちはPlayStationとかで遊んでいるんですけど、僕は「Vector」や「窓の社」【※】にあるゲームを遊びまくっていました。小学生なので、有料ゲームは買えない。
※「Vector」、「窓の社」
どちらも1990年代なかばから続く国内最大級のソフトウェアのダウンロードプラットフォーム。ツールやユーティリティ関連のソフトばかりだけでなくフリーゲームの配布にも利用され、当時のフリーゲーム文化を後押しする要素のひとつとなった。
当時は「Bio_100%」【※】の潜水艦ゲームとか、小学生のころに遊んでいたっけな。当時のフリーゲームでは、かなりクオリティが高かった。2000年にリリースされたMMOの『Caravan』【※】も好きでした。あれはすごかったですね。あとは「WWA」【※】が流行っていたり。
※Bio_100%
パソコン通信時代に活動していたフリーソフトの開発集団。代表作は『SuperDepth』など。当時としてはめずらしく、複数名で開発した作品をアスキーネットなどで公開していた。主催的なポジションであったalty氏は、マイクロソフトでのDirectX開発への参加やドワンゴの代表取締役副社長などを経験した人物だった。
※『Caravan』
2000年から国内で展開されていた無料ネットワークRPG。分数によってインターネットの接続料が増えていった当時、プレイ中にオフラインになりデータの送受信も少なくて済むようなMMOを目指して開発された。現在はサーバーに利用していたGMOクラウドのOS変更にともない、2015年のバージョン1.54を最後に休止している。
※「WWA」
『Caravan』のサークルが開発した、ブラウザ上で動くRPG用の無料ゲーム制作ツール。1990年代から存在しており、正式名称は「World Wide Adventure」。単純なツールであったため制作が容易で、2000年代まで多くの作品が生み出された。現在はNintendo Switchで過去の作品を収録した『WWA Collection』が発売されている。
──ああ、「WWA」。なつかしいですね。
溝部氏:
僕が面白いなと思うのは、当時そういう界隈やインターネット上でアプリやゲームを出していた人たちは、ちゃんと成功しているんですね。そういうのを見ると、なんだかとても嬉しい気分になります。やっぱりあのとき、相当先進的なことをやっていた人たちというのは、自力があり、何をやっても成功するんだなあと。
たとえば、オンライン麻雀の『天鳳』【※】って知っていますか? あれの開発者が出した『エッグマーケット』【※】という、とてもマイナーなゲームがあるんですけど、それも当時プレイしてとてもすごいなと思っていたんですよ。
あの『エッグマーケット』を作った人が、『天鳳』を作って成功しているのかと思うと、本当に嬉しいですよね。
※『天鳳』
2006年からサービスが続くオンライン麻雀サービス。1990年代後半の『東風荘』や2000年代前半のアーケード向けオンライン対戦麻雀ゲームに続くタイトルで、ブラウザ上でプレイできる手軽さで人気が拡大した。なおベータテストが実施されていた当初、名前は『半熟荘』だった。
※『エッグマーケット』
C-EGG氏が開発した無料のオンラインシミュレーションゲーム。さまざまな資源やエネルギーを管理し、市場で売買を重ね、もっとも早く「世界の中心」を建設したプレイヤーが勝利となる。
将棋AIの『やねうら王』【※】を開発したやねうらおさんとかも、僕が小学生のころ、『解析魔法少女美咲ちゃんマジカル・オープン!』【※】という謎の本を出されていましたよね。謎すぎたので買ったんですが、まさかあの本を書いた人が将棋AIをいま作っているなんて、という……。
──そういった方々の中にあこがれの方はいらっしゃるんですか?
溝部氏:
別のジャンルなのですが、やっぱり一度は堀江貴文さんや孫正義さんのような、偉大な起業家に憧れました。ニコニコ動画の川上量生さんもとても尊敬しています。でも一方で、大学生になったら、当時ニンテンドーDSやWiiの成功で注目されていた岩田聡社長が大好きになったり。Wiiというハードウェアは実装もコンセプトもあまりに革新的で、こういうものを作りたいなと思っていました。
──つまり、最初は堀江さんや孫さんなどの起業家にあこがれてIT業界に入ったという感じですか。
溝部氏:
そうですね。むかしは、少なくともSTORYS.JPを起業していたときは、「ゲームなんて」という感覚もありましたが、恥ずかしながら、人生を考え直したら、一周遅れでまたゲームが作りたくなりました(笑)
──STORYS.JPに取り組んでいるときは、ゲームに戻りたいという感情はまったくなかったんですか?
溝部氏:
まったくなかったですね。ただ……成功した“あと”がどうなるかと考えたときに、普通なら「もっと大きい事業をやろう、社会貢献をしよう」みたいなところがあるじゃないですか。僕は少し、あまのじゃくなところがあって、社会をより良くしたいとかは、1ミリも興味がないんですよね。
起業家の方は、嘘でも「社会のために貢献したい」と発言しますし、私も言うべきだとも思うのですが、人間性の問題なのか、「社会貢献」のような定義の曖昧で、耳聞こえが良い言葉は、本当にどうでもいいと思ってしまいます。
大ファンなんですけど、ドワンゴの川上量生さんみたいに、真実に切り込むのが好きなんです。ポジショントークは必然性があるので仕方ないのですが、それでもやっぱり本音で考え、話す事が好きですね。
──周りがどうこうというより、自分が興味のある分野に貪欲に行きたい。
溝部氏:
そうですね。Coincheckを辞めたときも、やっぱりゲームを作りたいという自分の気持ちが大きな理由でした。
“借りたり真似たり”なWebの作り方
──それで、Coincheckを辞めてポケットペアを設立したのは、いつになるんでしょうか?
溝部氏:
2015年ですね。
──開発メンバーは完全に新規採用したんですか?
溝部氏:
半分は任天堂ゲームセミナーで出会った友だちで、もう半分がたまたま出会った大学の後輩です。ひとりはデザイナーの女の子なんですけど、当時は「会社つまんない」という感じになっていたようで、友達から紹介されました。
もうひとりが大学の後輩で、入った会社を1ヶ月で辞めるような破天荒な人なんですが、問題”発見”能力が異常に高くて驚きます。
問題解決能力が高い人間は沢山いますが、何が問題かに気付ける人間は、あまりいないと思っています。ちなみに、彼は『チルノ見参』【※】という、ローグライクの東方二次創作ゲームを作っているんですよ。
※『チルノ見参!』
同人サークル「クロスロッジ」が開発・販売するローグライクゲームのシリーズ。東方二次創作であり、いわゆる『不思議のダンジョン』タイプの作品となっている。
──『Overdungeon』をプレイしていると、すごく“勘所”がいいなあと思ったんですよ。短期間の開発と聞いているんですが、それと反比例するような作り込みを感じさせる。UIなどは、そのデザイナーの人が担当しているんですか?
溝部氏:
そうですね。基本的な画面の構成要素などだけ、事前に決めます。
──そこで仕様書を作って、チーム内で共有していくような。
溝部氏:
いえ、仕様書はないですね。
──ん? ではラフとかを描いておくわけですか?
溝部氏:
ラフもないですね。
──なるほど……。それって、どうやってUIの仕様とかを決めているんですか?
溝部氏:
初めに、参考とするゲームを決めます。最初はそれを忠実に真似ようとしていくんです。ゲーム性の問題で、真似できる部分とできない部分が見えてくるので、できる部分はそのまま真似てしまって、できない部分は徹底的に議論していく。
──先ほどのSTORYS.JPの話を思い出しますね。ほかのサービスを参考にしてデザインを書いていく。
溝部氏:
そうですね。こんなこと言ったら怒られるかもしれないですけど、基本的にWebの作り方って、とにかくサービスを真似して作っていくんですよ。たとえば「Google+」が公開されたときにグループ機能が話題になったんですが、「Facebook」がこれと同じ機能を一瞬でパクっ……採用したんですよね。
機能に対しては、イラストのような著作権はなくて、問題がなさそうなら一瞬で真似をする。Webはそういうのが大前提の世界で、CSSとかHTMLとかJavaScriptが公開されている。デザインを見てそれを真似るというのが当たり前の世界にいたので、いまでもそのスタンスは受け継いでいるかもしれません。
──ゲーム業界だと、忌避される方もいる考え方かもしれません。
溝部氏:
ゲーム業界はオフレコというか、明らかに似ているものでも「真似しています」とは言わないですよね。文化的に「真似した」と言うことを嫌っているというのが一般的です。
ただ、落ち着いて歴史を振り返れば、ゲーム業界もパクリのオンパレードで、パクリゲームの数が一定の閾値を超えると、それが「ジャンル」となり、パクリが許される雰囲気になっているだけなんですよね。スーパーファミコンのRPGのUIは9割以上が『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』のパクリですし、格闘ゲームなんか、ほぼ100パーセントが同じようなUIですよね。
画面上部に体力ゲージがあり、左右に自キャラと敵キャラがいて、下に技ゲージがある。ソシャゲに関しては言うまでもなく、初期の作品はほとんどが『ドラゴンコレクション』風、スマートフォンに移ってからは『モンスターストライク』や『パズル&ドラゴンズ』風のものばかりでした。
でも、それでいいんです。それこそが文化の発展で、コンテンツの歴史そのものだと私は思っています。違法性があるかどうかは、当事者同士が裁判で争えばいい。
そういうわけで、私はWebの開発文化を取り入れて、使えるものは全部ライブラリとして使うし、共通アセットなどもどんどん利用する。開発姿勢は全く違います。
──『Overdungeon』でも、そういう考えが反映されているわけですね。
溝部氏:
勝手に「アセット・ドリブン・ディベロップメント」と呼んでいます。「ADD」と。
普通のゲーム開発なら、どういうゲームを作るか考えて、「この要素が必要だから作っていこう」となると思うんです。でもADDでは逆にモデルから探して、「このモデルが良いからゲーム内でこう使おう」、「じゃあそれに似合う敵も作ろう」という、逆算の作り方をしています。
貧乏だからコスト削減してるだけなんですけど、でもそのお蔭で通常の3倍ぐらいの速度で開発は進んでいると思います。その分、ゲームのコア部分に力を注げる。
──多くのゲームでは有料アセットは補助的に使うことが多いと思いますが、むしろそれらに合わせてゲームを開発していくという考え方は、なかなか見ないものだと思います。
溝部氏:
なかなか見られないのは、デザインの統一が難しいからなんだと思います。要は、アセットストアなどで販売されているものは、それぞれのクリエイターが独自に作っているわけじゃないですか。それを融合させると、禍々しいクソゲーができてしまうんですよ。テイストがまったく揃わない。
だから、実は逆に難しい部分もあります。クオリティを重視する大手なら、最初から自作した方が効率が良いと考えるはずです。
──『Overdungeon』のゲームエンジンはUnityですが、どれぐらいの割合のアセットを使っているのでしょうか。
溝部氏:
もうすべてですよ。
──すべて、ですか。
溝部氏:
プログラムはさすがに全部自作です。便利ツールみたいなものはたくさん入れていますけどね。ビジュアルはもう、全部アセットだと思ってください。
──ゲームをプレイする限りでは、そうは思えないですよね。
溝部氏:
もう“レゴ”だと思ってください。基本レゴみたいに組んでいます。プログラムだけは自作ですが、それ以外はほぼ組み合わせですね。
──たとえば各カードにはグラフィックが描かれていますよね。
溝部氏:
イラストってかなり大変なんですよ。外注するとしても、発注管理をしないといけないし、ラフを見て彩色して戻してという工程もある。だから、出来る限り全部アセットにしました。カードグラフィックは、それらを組み合わせて作っています。
──それで統一感が出ているのは、どうしてですか?
溝部氏:
別々のアセットを買ってきて、テイストを揃えていくんです。いわば“究極のアートディレクション”ですよね。アートディレクションって、みんなのアートワークを揃える仕事じゃないですか。
──それはデザイナーの方が担当されているんですか?
溝部氏:
そうですね。彼女も、最初は「こんなの無理だよ!」と抵抗したので、ひたすら僕が洗脳して……(笑)
──たとえば、どういう例があるんでしょうか?
溝部氏:
『Overdungeon』には象やアルパカのユニットがいるじゃないですか。これもアセットなんですが、そのまま使うのはダサくて、ファンタジーの世界に合わないので、こうやって盾を背中に乗せたりしています。
ほかにもサイコロなんですが、もとはこういう画像で、赤い色を入れてサイコロみたいにしました。『スーパーマリオブラザーズ』で、実は雲と木が同じパーツを使って表現されていたという話がありますけど、そういう感じの発想でやってますよね。
あと、実は動物のユニットが多いのは、動物のアセットがたくさんあったからというのもあるんですね。
──なるほど、ゲーム内でヒヨコやヒツジなんかが多いのは、そういうことなんですね。
溝部氏:
アセットだとゴブリンなんかもいるんですが、FPS向けのものが多くて頭上から見てもわかりづらかったり、雰囲気が怖くてテイストが合わせづらい。そういう意味でも動物が最適でした。
背景も、ユニットもこの砲台も、すべて当然アセットです。そのまま使うというよりは、こういう工夫を凝らして、ゲームの画面を作っています。どうすれば低コストでより良く見えるか、徹底的に考えてアセットを組み合わせています。
掛け合わせの歪みを直して“新しく”なる
溝部氏:
組み合わせているのは、グラフィックだけでは無く、システムも同じです。たとえば最初は防衛シューターだった『フォートナイト』は、バトルロイヤル要素を取り入れて大ヒットしていますよね。いまは、ふたつのジャンルを掛け合わせて成功するという作り方があるんです。
『Overdungeon』は、最初は『Slay the Spire』【※】と『クラッシュ・ロワイヤル』【※】からヒントを得ているんですね。その『Slay the Spire』系列のジャンルはローグライクとカードゲームの『ドミニオン』を組み合わせている。
※『Slay the Spire』
2017年からリリースされているMega Critが開発したローグライクカードゲーム。プレイヤーは後戻りができない「すごろく」のようなダンジョンマップを進んでいき、最深部にいるボスを倒すことを目指す。ローグライクと同様に死亡すれば一からやり直しとなるゲームシステムやランダムなマップ、戦利品が存在する上で、カードデッキを使ってターンベース制で敵と戦うというのが本作の特徴。道中、さまざまなイベントや商人との売買でカードを追加・削除していくことで、デッキを強化していく。
※『クラッシュ・ロワイヤル』
Supercellが開発し2016年からサービスを開始しているリアルタイム式の対戦ストラテジーゲーム。基本無料。時間経過で増えていくエリクサーを消費して、相手の陣地へと自動操作で攻め入るユニットを召喚していく。最終的に敵陣地の本拠地を破壊するか、敵陣地のタワーをより多く壊したプレイヤーの勝利。戦況や敵ユニットとの相性などを考えて、使用するカードを決定していく。
でも、言葉で語ると簡単そうに聞こえるかもしれないですけど、合わせる過程で絶対に合わないものもあるんですよね。『Overdungeon』もそうでしたけど、それでも、そこでなんとか合わせようとすることで、新しい形が生まれるのかなあ、と思っています。
──その「絶対に合わない」というのは、たしかにわかります。一見すると似通ったゲームですが、そもそもリアルタイムとターンベースですし、対CPU戦と対人戦でカードの効果のバランスも異なる。
溝部氏:
たしかに、『クラッシュ・ロワイヤル』はリアルタイム制ゲームで、『Slay the Spire』はターン制。リアルタイムとターンベースをどうやって融合させようかというのは、ずっと悩んでいました。
──そこは机上で考えるというよりも、やはり実際に組んで動かしてみた感じですか?
溝部氏:
机上でも何度も議論したのですが、実際に組んでみて、というのも多かったですね。とにかく試行錯誤の連続でした。
たとえば、『クラッシュ・ロワイヤル』は1秒ごとにマナが1つ増えていきます。4秒経ったら4マナまでのカードが使える。増えていくマナをいつ使うか、リアルタイムに決断するゲーム。でも『Slay the Spire』は1ターンに3マナがもらえて、この1ターンでどのように使用するか熟考するゲーム。ゲーム性がまったく違う。
当初『Overdungeon』は、『クラッシュ・ロワイヤル』のように自然にマナが溜まっていく方式を採用していたんですが、それでは『Slay the Spire』の魅力が表現できなかったんです。
──表現したかった『Slay the Spire』の魅力とは?
溝部氏:
たとえば、「このターンに1枚カードを引く」という効果や、「このターンにプレイしたカードの枚数だけ10ダメージを与える」というような、ターンによって発生する効果のあるカードがありますよね。でも、『クラッシュ・ロワイヤル』にはそのようなカードほとんどなくて、「ユニットを召喚する」か、「相手にダメージを与える」というようなシンプルな効果のカードばかりです。
そうなると、カード自体に影響を与えるという、ゲームのメタ情報に影響を与えるようなカードが登場しないんですよね。『Slay the Spire』には、『マジック・ザ・ギャザリング』や『ハースストーン』に代表されるようなカードゲームらしい効果のカードが沢山登場します。
僕の分析だと、『Slay the Spire』は『ハースストーン』のような対人カードゲームを対CPU戦にして、なおかつインフレさせたから売れたと考えています。それならば『Overdungeon』は『クラッシュ・ロワイヤル』をインフレさせ、CPU戦にすればヒットするのではないかという仮説があり、「これはイケる!」という確信はありました。あとはどう混ぜるか。
一見すると、パクって混ぜただけみたいに聞こえるかもしれませんが、実際、混ぜるのはかなり難しかったんです。
ほかにも、とくに苦しめられたのは、「ランチェスター法則」【※】ですね。
※「ランチェスター法則」:
第一法則:「戦闘力=武器の質×兵力数」
第二法則:「戦闘力=武器の質×兵力数の2乗」
第一次世界大戦にてイギリス人のエンジニアであるF・W・ランチェスターが提唱した法則。戦闘力を示したふたつの法則のことで、範囲の狭い少数同士の戦いでの「武器の質×兵力数」(第一法則)、広域における集団戦のような戦いでの「武器の質×兵力数の2乗」(第二法則)がある。
このふたつの法則から、弱者は局地戦や奇襲などの兵力差が関係ない戦いで勝利を掴むべきであり、逆に強者はその兵力差をもってして広域戦や物量戦を仕掛け弱者を封殺すべきと考えられる。日本ではビジネス分野でこの考え方が応用されており、「ランチェスター経営戦略」としても知られる。
──「インフレ」して強くなってしまうということですか?
溝部氏:
はい。ゲームをインフレさせていくと、ランチェスターの第二法則で2乗になって効いていくようになるんですね。分かりにくいかもしれませんが、すいません(笑)。
つまり、インフレさせてユニットを沢山出せてしまうと、勝つときは圧勝するんですけど、負けるときは惨敗になってしまうんですよ。で、惨敗になるとユーザーはとても不快になってしまう。
「え? 負けたの?なんで負けたの?」というように、ゲームのフィードバックとして最悪の体験になってしまう。
──でもそういう体験って、ほかのリアルタイムのストラテジーゲームとかシミュレーションゲームでも生じるものじゃないでしょうか?
溝部氏:
ほかのストラテジーゲームは極端なインフレをしないように設計されているんですよね。『Slay the Spire』というか、それ以上にインフレさせようと思っていた『Overdungeon』では、カードを1枚使うとユニット数が2倍になるというような効果がたくさんあるんですよ。
ランチェスター法則から考えると、そんなことしちゃったら、もう終わりなんですね。一発でゲームに勝利するか、それに対抗して敵が膨大な攻撃をしてきて、惨敗する。はっきり言って、ゲームバランスを調整するのが不可能に近かったです。
たとえば1ゲームプレイするのに、『Overdungeon』は20分から30分ぐらいなんですが、最初の敵の体力が100なのに対して、最後は2万とかになるんですね。30分で200倍インフレしている。その200倍のインフレを、初心者から上級者までいろんなユーザーが耐えうるように調整するというのは、非常に困難でした。
──そこは解決したんですか?
溝部氏:
まだ厳密には解決していないんですが、たとえばシューティングゲームの「特定の敵を倒すと画面上の敵弾がすべて消える」という仕掛けから着想を得て、『Overdungeon』では敵をひとり倒すと、画面上のアニマルがすべて消滅するという仕組みを入れました。インフレを一旦リセットする仕組みです。
また、ユーザーが一瞬で惨敗してしまったときの最悪の体験を軽減するために、シンプルなんですけど、コンティニュー機能を付けたんです。
あとから振り返ると、こんなの、いろいろなゲームにあるもので、「当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、ローグライクというジャンルではめずらしいので、その解決法に辿り着くには結構時間がかかりましたね。ゲーム開発は本当に難しい。
──コンティニュー機能は、どのような発想から来たのですか?
溝部氏:
ランチェスター法則を踏まえると『Overdungeon』はバランスが破綻するのはわかりきっている。一方で、インフレの快感は本作の肝なんですよね。
だから、解決策として、破綻して惨敗してしまうようなシチュエーションが生まれた場合には、一旦サクッと負けてもらって、コンティニューしてもらう。そうすると、ユーザーには、反省のフィードバックを行いつつ、速やかにゲームを継続してもらうことが出来ます。
──オンラインゲームをオフラインに落とし込むという発想自体があまり見ないものですが、それゆえに起きている問題ですよね。
溝部氏:
普通はひとり用ゲームが進化して対人モードが追加されるので、逆になっていますよね。
対人ゲームも優れているんですよ。ランク帯に合わせて難易度調整も自動でできて、敵がだんだんと強くなってくれる。でも、これも“波”なのかなと思うんですけど、やっぱり対人戦は疲れるんですよね。
普通の対人ゲームだったら、ほとんどのユーザーは勝率5割以下になり、負け越してしまう。下手な人はとくに負け続けてしまうので、そういう人たちにひとり用ゲームの需要がまた伸びているのではないかなと思います。
──対人戦のオンラインゲームも、よりインスタントになってきていますよね。1対1でガチンコでやっていたものがチーム戦になって、そのチーム戦もバトルロイヤル系のように1vs99になったり、『World of Tank』のように負けたら次のマッチへとさっさと移行したり。初心者とかが負けて罵倒されない環境になっていて、負の感情を抱かなくても済む。
溝部氏:
バトルロイヤル系は自分もかなりプレイして考察しているんですが、あれの本当にすごいところは「表示される順位と本当の順位が違う」ことだと思っています。
初心者からは表示される順位が高い方が良いように見えるのですが、実は最後の10位ぐらいまで生き延びるのは簡単で、ずっと隠れていればいいだけ。本当に上手い人は最後の10人との戦いに備えるために、最初から戦うので、上級者はむしろ最初に戦い、最初に死ぬんです。
初心者は自分の実力以上の結果が得られたと錯覚し、上級者は1位になることで、カタルシスを得られる。本当にクールなメカニズムだと思います。バトロワ、あるいは最近新たに流行している『オートチェス』と、次々に大ヒットするゲームやメカニズムが生まれていますが、無料で最高の体験が出来る、素晴らしい時代になったとつくづく感じています。私達も頑張りたいですね。
ゲームを見てゲームを作る
──こういう風にゲームを作るにあたって、教えてくれるような業界人とか、協力者的な方はいらっしゃったんですか?
溝部氏:
いや、いないですね。パブリッシングはまた別になりますが、『Overdungeon』に関しては、完全に僕と例の後輩がひたすら話して作っています。そのふたりだけです。
──なるほど。溝部さんがそうやって作る作品は、べつに完全にオリジナルである必要はないんですよね。一方で、大きく成功することが絶対条件というわけでもない。
溝部氏:
そのとおりですね。
──となると、溝部さん自身は「何をやりたいのか?」というのが気になりますね。
溝部氏:
いやあ、難しい質問ですね。ぼくは、やっぱりそれを探すことが、「制作」なのかなあとは思っています。ただ、要件を挙げると……少なくともある程度は売れること。あと、自分がプレイして面白い事は、できれば満たしたい条件。ここから先は、まだわかっていないですね。
──自分がおもしろいというのは、わりと条件に入っている?
溝部氏:
必須ではないんですけど、まあ、おもしろいとやっぱりテンションはぜんぜん違いますよね。『Overdungeon』はもう最高のゲームができたと思っています。「最高オブ最高!」、「こんなゲームが作りたかった!」という感じです。こうだといいですよね、いつも。
あ、ただ正直、『Slay the Spire』や『クラッシュ・ロワイヤル』には敵わないです(笑)。セールスの観点から比べるのはおこがましいですが、ゲーム性に関しても、ゲームシステムの洗練さは圧倒的ですし、どちらも偉大なゲームだと思います。ただ、ゲーム初心者の方や、スマホゲーマーの方は、『Overdungeon』の方が楽しめるのではないかと思っています。
あと自分の中で、もちろん目標とは言わないですけど、トップが何かというのは考えています。起業家で言うなら、AmazonやApple、Microsoftとかじゃないですか。
ゲームにおける目指すべきトップはなんだろうというのは考えていて、僕の中での現時点での結論ではスクウェア・エニックスとか任天堂とかいう会社よりも、『マインクラフト』が近いかなと思っています。少人数のチームで作っていて、約30億ドルもの額で買収されていて、いまから目指せるものとしては、ゲームのトップはそれだと思っていて。
ただ、そういった『Slay the Spire』や『マインクラフト』といったゲームを作るには、いまの作り方は変えなければならない。いまの状況から一足飛びでそれは、ほぼできないだろうなと思っています。
──いまの作り方は、あるゲームからインスパイアされて作っているという感じですよね。ゲームじゃないものから持ってくる、といったことはしていない。
溝部氏:
ゲーム業界に初期から関わってきた方々は、ゲームがない時代に、過去の原体験からゲームを作るという事をやっていますよね。たとえば『ポケットモンスター』なら、田尻さんが野鳥や虫を探して野を駆け回って冒険していた思い出が原体験になった、という話があるじゃないですか。
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でも僕たちの世代は、みんなゲームを見て育っている。ゲームからゲームを作っていると思うんですね。それが良いのか悪いのか、考えたこともあったんですけど、「そこから新しい物を作るのが、僕たちの世代の使命なのかなあ」と。
──おっしゃるとおりだと思います。いまの世代は競争が非常に激しく、ベースのレベルが高くないと、そもそも戦うフェイズにすらならない。その戦いに参加するために、解析や分析というのは当然必要になります。
溝部氏:
漫画は「漫画を見て書いてはダメ」とか、アニメは「アニメを見て作るな」とか言ってる方も多いと思いますが、僕はむしろ、いろいろなゲームを見て、組み合わせて、そこから新しいゲームを作るのが、コンテンツの進化の仕方として、正統派のアプローチなのではないか、と思っています(了)。
気がつけ数時間があっという間に過ぎ、ICレコーダーを止め記事に収まらない状況でも話が続く中で、溝部氏はさまざまな流行や業界への鋭い見識を見せつけた。従来のゲーム開発、特にオリジナリティ溢れるインディーゲームが大きな潮流をすでに生みだしている昨今、「小規模開発で真似て、借りて作る」という氏の開発手法は、もしかしたら異質なものとして映るかもしれない。
しかし、そういった真似て借りた複数の要素は、綺麗なパズルのピースではない。人気作の一要素や他人が作ったものをそのまま合致させようとすると、噛み合わない凹凸が発生する。溝部氏の開発者としての長所は、その凹凸──つまりはハレーションを鋭い分析と試行錯誤で収めようとする点ではないだろうか。そして『Overdungeon』がそうであったように、その精錬作業によってオリジナリティが生まれていく。
ポケットペアが大成し、溝部氏がその能力を『マインクラフト』のようなオリジナルの作品へと向けたとき、どのようなプロジェクトが生まれるのか? 今後を期待せずにはいられない。
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