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ブシロードの出版会社が本格始動!『魔法使いの嫁』移籍&16本もの新連載を引っ提げ、新たなWebマガジンを立ち上げる ― 『ガンガン』や『アフタヌーン』が好きな人な人はぜひ

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『魔法使いの嫁』は書店員さんの力によってヒットした

──雑誌が売れていた時代は、雑誌の強さとそこから花開く作品の確率って比例するわけじゃないですか。でも、ある一定の時期からメジャー誌じゃないところからの大ヒット作が目立つようになってきた。近年ヒットしたWeb漫画を見ていても、そういう傾向はあると思うんです。

だから個々の作品の中で飛び抜けて勝ち残ったものがヒットするような、いわゆるゲリラ戦の領域が増えていると思うのですが、そういった環境変化のなかでメジャー誌じゃないところから人気作を作るとはどういうことなのでしょうか。

新福氏:
どうでしょう…昔も今もメジャー誌でないところから人気作が生まれるのは外部環境に強く依存しているとは思います。何百万部も毎週刷る雑誌やMAUが1000万超える配信サービス(これは漫画読者としてのMAUになりますが)の元にあれば、後は読者が選んだものが結果売れるものという状態なんだと思います。しかし、マイナー誌や媒体を持たないような編集部発の作品だと外側からの力が大きな力を持つことが多いのではと思います。

手前味噌ですが『魔法使いの嫁』が売れた理由は、ふたつの外部要因がありました。ひとつは、書店員さん方が熱を持って店頭で大きく展開してくれた事。もうひとつは、WEB広告で展開された事です。これは、10年前だからこその両面だったかもしれませんね。

先の質問に、漫画の内容的な意味で答えるなら、咀嚼しやすく飲み込みやすい形に作っていくといった作り方によって人気作は生まれやすくなる可能性はあるでしょうか。この作品が“まさに今この瞬間の私”にとって必要か必要じゃないか、という部分がすごく重要なんだろうなとは感じます。

これが例えば、30ページ以上かけて世界観がしっかり説明されていくような漫画だと、最初に口に入れた瞬間に「咀嚼に時間かかるし、そのコストは重い」という感覚が湧いてしまうのが今なのかなと。

僕はそういう顎が痛くなるような作品が好きなんですが(笑)、何度も再読できる内容が濃い漫画は、今のネット世界では非常に売りにくいし、やりづらいなという感覚はあります。パッと食べてすぐ美味しいと感じられるか、がゲリラ戦という意味では戦い方の一つになっているなと感じます。

ブシロードワークス・新福恭平氏インタビュー_021

──『魔法使いの嫁』の場合、リアルではくネット上の反響や売れ方はどうだったんでしょうか。

新福氏:
漫画の内容とバナーの印象が全然違うものって昔からよくあったと思うんですが(笑)、まほよめも同じようなケースでネット広告の反響はしっかりありましたよ。序盤のオークションのコマが使われていたんですが、ジャンル的なお約束の「これ知ってるぞ」という感覚と人外との関係という「これ知らないぞ」的な感覚で興味を持って貰えたのかもしれませんね。

ただ、ボリュームとしては、やはり書店員さんの「これはすごく面白いからここで売りたい」というところでの展開力は強かったと思っています。

──書店員さんの推薦ってまだ残っているんですかね……?

新福氏:
残っていて欲しいなと思います。我々のような小さい版元は、読者に一番近い書店員さんの熱量からヒットが生まれてきたので。僕としては、まだまだ熱量を持ってやっていただけているイメージはあるんですが、それが連鎖して「書店から売れた」ということは漫画だと昨今は聞きにくくなったような感覚はあります。あくまでも僕の観測範囲での話ですが。

『週刊少年ジャンプ』で売れている漫画の何が面白いのか分からないという人に来てほしい

──さて、ここからはブシロードワークスについて深堀していければと思います。出版部門のメンバーが中心だと思うんですが、スタッフはどういった方々なんでしょうか?

新福氏:
年齢的には若い人たちが多いですね。元々の出版部門で頑張っていた人たちがメインになっています。今は22名程度なんですが、半分は編集ですね。内訳として情報雑誌を作っている部門もあるので、雑誌編集者と漫画編集で半々ぐらいですね。

──スタッフは今後増やされていくんですか?

新福氏:
そうですね、漫画の編集職と紙・電子ともに営業職は絶賛募集中です。漫画編集は経験者はもちろんですが、「作品と向き合える人間を増やす」という目標もあるので、未経験者も募集しています。編集を育てる=作品と作家を育つという風に直結すると思っているので、積極的にやっていきたいですね。

ただ、それは僕だけでできることではないので、社外に入っている鳥嶋さん(ブシロード社外取締役・鳥嶋和彦氏)や、自分の知り合いである方々にご協力いただきたいなと考えています。

──こういう人材を求めているとかはあるんでしょうか。

新福氏:
うーん…難しい質問ですが「『ジャンプ』で売れている漫画の何が面白いのか分からない」という人に来てほしいです(笑)。正確には「何がどう面白いのか、しっかり頭ではわかっているけど、全く腹落ちしていないし、他の作り方でも面白くなるはず」という風に考えたりしてる方がいれば是非お待ちしております。

ブシロードワークス・新福恭平氏インタビュー_022

──(笑)。ちなみにそれって好みの話ですか?

新福氏:
好みがないとは言い切れないですが(笑)、どちらかというと適性の話でしょうか。出版は、大手と中小では勝負の土台から大きく違いますから。同じ競技のように見えているかもしれませんが、実際は違う競技だなと個人的には感じるので、メジャー誌に対してカウンター的な考え方が出来る人のほうが我々の戦場には向いているかなと。

──メジャーではない媒体どう戦うのか。あるいは、大ヒットがまだない新人作家や、才能はあっても癖が強い作家さんをどう扱うか、どのようにポジショニングを取るべきなのかなど、作家さんとの向き合い方も含めてぜひ聞きたいです。

新福氏:
難しい質問ですね……まず我々がやるべきは作家さん方に信頼されることからだと思います。その為の、取り急ぎひとつは経済条件ですよね。昨今は物価の問題もありますので連載は1p最低1万円以上という形で新媒体からベースアップしました。また印税条件も大手と遜色ない状態に。また、WEB特化!という訳でもなく従前通り、紙の単行本をしっかり刊行し、販売も行っています。月ブシ創刊時からKADOKAWAさんと協力し、発売し続けていますし、10年続けてきていますので、継続性では信頼してほしいなと。

※ブシロードワークスの発行出版物は、KADOKAWAが発売を担っている

その上でどう作家さんと相対するか。僕としてはまだ世に出ない、新しい可能性に賭けるということを後発の企業こそ積極的にしなきゃいけないなと思うんです。そういう意味で目指すものは、新人作家輩出率が業界でもトップクラスに高い雑誌になることかもしれません。「引く手数多」という新人を何人送り出せるかが編集部員の質でもあるかなと。「ここの雑誌って良い新人作家さんがいっぱい出てくるよね」という場所にしたいなと。

──それは嫌かもしれないけど、巣立っても良いという覚悟はあるということですか?

新福氏:
そういう場面に直面した時に、会社や担当編集が最優先に選ばれるべき存在になっているようにする覚悟の方が重要だと思っています。もちろんお金のことや自分が元来憧れている雑誌といった代えがたいものはあると思うんですが、とはいえ、漫画を作るってものすごくハードな作業なので、作品や自分をしっかり理解してくれている人とやりたい、という人も居るかなと。そういった人たちが状況も条件も雰囲気も良いから、残りたいと思われる会社作りをしなければならないのかなと考えています。

逆にそれ以外に一から始める時に戦い方ってあるんでしょうか……? どんなに言葉を飾って威勢の良いことを、こういう場所で言ったところで、ポジショントークは見透かされるだけだろうし。そういう言動はハネますけどある種の前借りで、中長期的には信頼が損なわれるだけな気が個人的にはしています。僕が10年やって感じることは、この道に裏道はないということで遠回りが一番近道である、と個人的には感じます。勿論、何かほかに道はないかと日々模索はしますが。

まずは作家の信頼を得る媒体になる

──泥臭いやり方以外だと、何か戦略だったり戦い方で考えられていることはあるんでしょうか。

新福氏:
どうでしょう……あってもここでは言い辛いです(笑)。物語を生み出すことが出来る作家さん達と二人三脚が出来ること。最少人数で大きな物語を生むことが出来るということ。僕らが持っている、この強みはもっと活かせる場があるんじゃないかなと考えています。それに向けて、出版以外の取り組みも色々考えていますし、電ファミさんが適している話題になるかもしれませんので、話せる段になったらまた取材をお願いします(笑)

──強みという意味では、ブシロードグループだからこそできることもあるのではないでしょうか。

新福氏:
はい、それはあるかと思います。たとえば海外展開でしょうか。ブシロードはアニメエキスポ等の海外イベント出展も非常に積極的に行っていますし、今年はアジア6都市(香港・台北・クアラルンプール・バンコク・シンガポール・ソウル)でBUSHIROAD EXPO ASIAを自社開催し、6都市いずれも盛況でした。今後、作品ができあがった際の出口として、このイベント内から現地のお客様にアクセスしていけることは他の版元にはない強みだと個人的には感じます。アナログに地道な攻め手を作っていく強さがある会社です。

上記のような動きもありますので、外国語への翻訳は連載時よりやることが当然だろうと思っていますね。始めは多少拙くなったとしても広い世界に向けてやっていくべきだろうと。

国内においても、皆さんご存知の通りでブシロードは宣伝力も高いですから、ヒットの予兆が生まれた作品を大きく、ジャンプアップできる力を持っていると思いますね。

ブシロードワークス・新福恭平氏インタビュー_023
(画像は「2023 Bushiroad Expo Asia」ブシロード公式ページより)

──Webtoonや『ジャンプ+』など。今のトレンドに対して新福さんはどう捉えられているかお聞きしたいです。対抗しようという構図はありますか?

新福氏:
ジャンプ+さんについては……すごいですねと(笑)。対抗という軸にはないかなと思いますが、僕らには僕らにしか送り出せない物語があると思っているので、そこはあまり意識していないですね。Webtoonについてですが、届けるものが物語であればなんでもいいと思っているので、Webtoonを作らないぞという意思はないです。ただ、世に放っていく際に、放つ場所が非常に限定的なことや作品売上と広告費の相関関係が気になって前のめりにはなれないですね。もう少し販売できる場所や複数の収益方法が見えてきてほしいな、と小さい我々は思ってしまいますね。弊社はWebtoonスタジオではなく自分たちで出版を行う会社なので、そこに対して全力投球するということでいるという感じです。

──やらないと決めているわけではなく、当面の間はそういった体制があるわけではないということですか?

新福氏:
そうですね。単純にリソースの問題なんです。ただまったく作らないと作り方がわからなくなる訳で、コツコツ作ろうとは思っています。コスト的に会社が傾くほどはやらないように、というだけですね。

──では、取り急ぎ注力するところはWebコミックですか?

新福氏:
そうなります。そのために媒体名もコミックブシロードWEBから「コミックグロウル」にリニューアルしました。

作家さんや読者さんから「ブシロードってオリジナルの漫画が作れる場所なんだっけ?」と見られていると思うので、出来上がったものを見せて「普通に出版社じゃん。面白いのあるじゃん。」とまずは思ってもらう必要があるなと。元々、オリジナルをやらない訳じゃないし、他社のコミカライズもやってるんですけど、強い先入観があるんですよね。弊グループのブランド力が強いが故に、漫画ビジネスとしてはそこが引っ掛っているかもしれないなと。

そういう意味で皆さんの先入観を覆すという点が、一番最初の大きなミッションになった。そこで、何よりも先に掲げる看板名から敢えて「ブシロード」を外すことにしたんです。このまっさらな状況で、他に負けない作品作りができる場であるという証明が大事かなと。

それができない限りは作家さんも集まってこないし、どんなに飛び道具で良いことを言っても、作家さんが我々を信頼してくれない。信頼されないことには始まりません。現時点では、まずそこが他に比べてとても弱いので、まず信頼を得ていきたいですね。そのためにコツコツした努力をやります。

──読者よりは、まずは作家さんの信頼を得る媒体になることを目指す感覚ですか?

新福氏:
いえ、基本的には読者のために作る媒体です。しかし、自分の子供を明日潰れるかわからない学校に預ける親は居ないですよね。だから、この場所は無くならないですよ、ということをきちんと証明するのが何より最初だと思うんです。それはものすごく地味なことだし、あまり大きなことに見えないとは思うんだけれど、それこそが継続して事業を行う為の第一歩であり、必要なことであると僕は認識しています。

──そのためには良いスタッフも必要になってくると思いますが、何を売り文句に呼び込むのかを語っていただきたいです。

新福氏:
弊社は良くも悪くもスタートアップと同じで、なんでもやらないといけない状態です。なので、“編集者として新しい刺激は欲しいけど、でも作品は今まで通り作りたい”という両方を求める人にとっては面白い仕事だと思いますね。

今このご時世に綺麗な嘘を重ねて新しい方に入っていただいても定着しないので、やること多いのは否定しない(笑)。新しい会社というのは、混沌とするしやっぱり地獄はあるので。ただこの地獄の中でしか体得できないスキルや経験があるのは間違いないです。自分の仕事の質を高めたいひとにとっては、有益で貴重な場所だと思います。そういう意味では、地獄はテンション上がって楽しいな〜〜ってなる人は是非入ってきてほしい(笑)。

──ここでいう地獄はどういうイメージで語られていますか?

新福氏:
普段の仕事のルーチンや常識が通用せず、一々道を作らないといけない苦労を“地獄”と呼んでますね。慣れた作業って平和じゃないですか。常にこうなったらこう返って来るという敷かれたレールの上を、非効率だろうと疑問があろうと我慢して歩く。これができないという人にとって地獄はハッピーになるし、対してレールの上を走った方が楽な人にとっては地獄でしょうと。僕は地獄の方が能力も上がるしこの生業に対する解像度が抜群に上がって面白いじゃないかと思っていて。面白くて自分の能力が上がるなら地獄を進んで摂取しに行った方が長い目でみたら良いのではないか、と思っています。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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