TCG「カードファイト!! ヴァンガード」や「新日本プロレスリング」などを展開するブシロードが、漫画を作っていることをご存じだろうか。
出版機能自体は10年前の『月刊ブシロード』創刊の時からあり、多くのブシロード関連作品のコミカライズを手掛けてきた。
昨年までグループ内においても一部門に過ぎなかったのだが、なんと同社は出版機能をブシロードワークスとして2023年7月独立させ、新たな出版会社を設立させたのだ。
同社の代表取締役・編集長には、『魔法使いの嫁』や『とつくにの少女』を立ち上げた編集者・新福恭平氏が就任。またブシロードといえば、2022年11月に、『ドラゴンボール』などを手掛けた『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦氏を社外取締役に迎えている。
さらに興味深いことに、ブシロードのWeb漫画媒体『コミックブシロードWEB』が今回のブシロードワークスの設立に伴い、「コミックグロウル」としてリニューアル。従来のブシロード作品のコミカライズではなく、オリジナル作品を世に打ち出していく体制が着々と進んでおり、2024年春より、16作品もの新作が順次連載されている。
また、2023年12月に発表され大きな話題となったが、『魔法使いの嫁』がこの「コミックグロウル」に移籍することも発表されている。媒体のリニューアルは2023年12月21日に行われ、同日22:30から『魔法使いの嫁』の新章がスタートする。
となると、当然気になるのは、なぜブシロードが出版会社を始めるのか、ということだ。そこで電ファミニコゲーマーでは、新福氏にインタビューを実施した。
『月刊少年ガンガン』で育ったという新福氏の来歴はもちろん、今後の漫画の作り方や売り方、非常に興味深い話を伺った。
『月刊少年ガンガン』が今の自分を作った
──まずは新福さんのことを簡単に聞かせていただければと思います。
新福氏:
伯父達が、漫画やアニメや映画を収集する“オタク”第一世代のような感じで。幼少期は祖母の家に預けられることが多かったんですが、その際に伯父達の棚いっぱいの漫画やアニメ資産にアクセスできる環境だったんです。
なので、世代ではない作品……『ガンダム』(機動戦士ガンダム)といえば1stから順序よく観て、格好よくて好きだったのは『パトレイバー』。冒険活劇といえば『未来少年コナン』や『名探偵ホームズ』といった感じで、世代的に少しズレた幼少期を過ごして。そのせいで「自分はここからオタクだった」と自覚がないまま、今に至っています。
漫画は伯父達のアーカイブ以外に、自発的に『月刊少年ガンガン』を買うようになったのはきっかけかもしれません。当時の『月刊少年ガンガン』は飯田さん(飯田義弘氏)達が編集していたのですが、彼が作っていったもので自分が出来上がっている感覚はありますね。その後、そこから『月刊アフタヌーン』や『イブニング』といった講談社の青年向けの漫画を志向して行った感じでしょうか。
──すごくストレートな流れというか、淀みなく……(笑)。そして、その飯田さんが社長を務めるマッグガーデンに入り、『魔法使いの嫁』を立ち上げられたと。一方で、ブシロードワークスはどのようにして立ち上がったんでしょうか。
新福氏:
順を追ってブシロードの出版部門の変遷から説明させてください。始まりは「ケロケロエース」というKADOKAWA刊行の雑誌からですね。この雑誌が休刊する際に、『ヴァンガード』のコミカライズ、この連載媒体を残したいということで、雑誌をお譲りいただくような形で「月刊ブシロード」を創刊したことが始まりと訊いています。それに伴って制作を進める為に出版部門を、ブシロードメディアという子会社に発足させたようです。
そのうえで10年間雑誌と漫画を作ってきたんですが、改めてIPを創出できる環境を作りたい・向き合っていきたいということで、出版機能を単独で分社化することになったんですね。それがブシロードワークスです。
──新福さんは立ち上げに際して呼ばれた感じですか?
新福氏:
そうですね。僕がアサインされている以上いわゆる“出版”に該当する事業を直近では行っていきますが、それだけに限定した会社という定義もしていません。僕はすごく漫画に助けられてきましたが噛み砕いていくと、厳密には “物語に助けられてきた”と思っていて。
なので、物語自体をどうやって物語っていくかは限定して考える必要はないなと……それは別に紙でも良いし、歌でも良い。そしてゲームでも良い。
そういう意味では、作家さんと一番近い距離に居られる人間を育てる、そういう人間が集まった会社にしたいなと思っています。
──なるほど。
新福氏:
後、業界の中にたくさん出版社があるというのは、多様性を維持するという意味では非常に良いことだと思っていて。新しい資本が投下されて作家さんにとって悪いことはあまり無いというのもありますが(笑)。真面目な話、ここ最近、すべてが大きいものに吸収されていく流れがあってそれってどうなんだろうなと。それによって多様性が残れば構わないんですが、基本的にはそうならないでしょう。なぜなら、各社に“編集方針“とそれに紐付く成功体験があるから。
僕は、漫画は「もう生きたくない」「学校や集団が辛い」と思ってるひと達が「次も読みたいから仕方ない。来月まで生きるか。」と思って貰う為に送り出したいと思っています。漫画は、明日誰かをサバイブさせるものと。言いかえるとマイノリティのために作ってきました。
本来、漫画は多くのひとに安価で提供する作りになっているので、マジョリティのために作らなきゃいけない商売なのかもしれないんですが、でもマイノリティのために作ったものがメジャーなものになるのも漫画だったんですよね。
そういう作り方って、大きな会社だけになった時に出来るのかなと。端的にいうと『魔法使いの嫁』が当時のマッグガーデン以外で出たのか?というところです。大きな版元の賞にも引っ掛からない作品が1000万部出すことがあった訳ですから。新しくできた弊社もそういった部分を担っていければと思っています。
配信プラットフォームやSNSの時代だからこそ、自分たちの媒体は必要
──ただ、ここまで漫画の配信プラットフォームとSNSが発展してくると、極論を言うと“漫画媒体”ってなくても成立するわけじゃないですか。そこに対して、新会社を作り、さらに既にある媒体をリニューアルまでするのには、相応の理由があると思うんです。
新福氏:
現在の状態だけでいえば、なくても成立はしますね。ただ、それは今だけかもしれないなとは考えます。未来が不確定である以上、自分たちの考えを発信し、作品を送り出していける場所はしっかりと維持する必要はあるんじゃないかなと。我々が媒体を持つ理由はそこですね。
今日の「正しさ」が明日も同じく正しいとは限らないし、混沌していても自由なものづくりが出来る環境である方が、ひとの感情を動かす作品が生まれやすいのではと個人的には思っているんです。なぜなら人間がそもそも混沌としているので。ルールや道徳を軽視している訳ではありませんが。
──昔から雑誌は作品を載せる媒体としてあればよくて、雑誌そのもので儲ける必要はないという考え方がずっとあったと思います。とはいえその効率性や雑誌の売上不振に耐えられない点がどんどん大きくなって雑誌が潰れたりして、今があるとは思うのですが……その臨界点というものは超えてしまっている状況なのでしょうか。
新福氏:
漫画に限った話として、臨界点は超えているという言説には首肯します。ただ紙の漫画誌が売上以外に持つ役割は幾つかあって。それらはまだ機能しているように見受けられます。なので、雑誌発の単行本が売れ続けていれば、その機能している役割が売上の為にどれだけ有用かどうか、赤字以上の価値があるかどうかが今の継続判断になっているのかなと思います。
──いまなお残っている役割には、どのようなものがあるのでしょうか?
新福氏:
雑誌に残った役割のひとつとしては、例えば、身も蓋もないですが原稿を定期回収する装置ですよね(笑)。紙のほうが回収しやすいなと個人的にも感じます。もうひとつが新人作家さんが媒体を選ぶ際の優先順位として。紙の雑誌で掲載されれば、親御さんが安心したり、他人に説明できたりするでしょうから、新しい才能を安心させられる装置としての機能はまだあるんじゃないかなと個人的には思いますね。