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「頭蓋骨を噛み砕かれる体験」を味わえる、尖った新作VRゲーム──それを開発したのが『ソルサク』コアメンバーという安心感。VRで「死の追体験」を追及した結果、なにが生まれたのか?

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良い意味で“絶対絶命”を感じられるゲーム

──本作のキャッチコピーとして掲げられている「死闘感」について、演出でとくにこだわった点はありますか?

鳥山氏:
さきほどお話したことと被りますが、本作は「死の追体験」をテーマにしているので、「殺されるかもしれない……けれど立ち向かわないといけない」という死に近づくことで揺さぶられる感情を体験してもらいたいというのが、まずあります。

ですので、絶望的な状況を用意したいと思いました。トンデモナイ数の敵に囲まれてしまうシーンもありますし、本当に死んでしまうこともある。

生理的に近寄って欲しくないと思えるデザインを下川さんが考えてくれたのもあり、良い意味で絶対絶命な状況を感じられるゲームになっていると思います。

『ソウル・コヴェナント』開発者インタビュー:「頭蓋骨を噛み砕かれる体験」を味わえる、尖った新作VRゲーム_020

『ソウル・コヴェナント』開発者インタビュー:「頭蓋骨を噛み砕かれる体験」を味わえる、尖った新作VRゲーム_021

岡村氏:
死闘感を感じてもらうために、敵との距離感についてはすごく調整しましたからね。

鳥山氏:
これはゲームデザインのテクニックではあるのですが、プレイヤーがVR内で感じる距離感と実際のゲーム内の距離感は若干違うように設計しているんです。

実際は届かない距離でもゲーム内では届いているように見せて、手触りと心地よさについては最後の最後まで調整し続けました。腕を振りながら「この距離感はチガウ……これもチガウ……」って(笑)。

一同:
(笑)。

『ソウル・コヴェナント』開発者インタビュー:「頭蓋骨を噛み砕かれる体験」を味わえる、尖った新作VRゲーム_022

岡村氏:
「剣を振って敵に当たる距離」というのは実際には近すぎるんですよね。もしリアルと同じ距離感にしてしまうと敵しか見えなくなってしまう。そうなると敵に囲まれている状況を把握できない。絶望的な状況を感じてもらうためにも、敵に囲まれながら戦う際には適切な距離感を保つことを大事にしています。

下川氏:
現場のプランナー達が頑張ってくれて、トライアンドエラーで何度も修正してくれました。

こういうゲーム体験として大事な部分について開発メンバーに嚙み砕いて伝える際、「ごっこ遊び」という言葉は重宝しました。シチュエーションとして、体験として、共通認識を持てるんです。

振り返ってみると、「ごっこ遊び」という体験がゲームを作っていくうえで重要な指標になったかなと思います。

──「ごっこ遊び」といえばじゃないですが、主人公が放つような必殺技もありましたよね。

下川氏:
「デモニックバースト」ですね。

──声に出して放ちたくなりますよね(笑)。

下川氏:
実際にテストプレイをしているとき、不思議と童心に帰ってかっこいいポーズをとっている自分がいるんです(笑)。そういうところもVRならではの良さだと思います。

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自分の中にある子供心をくすぐる要素が盛りだくさんのバトル

──ますます実際にプレイするのが楽しみになってきたのですが、バトルにおいて使用できる武器というのはどのようなものがあるのでしょうか。

下川氏:
剣や斧や槍……それにチェーンソーもありますね。それぞれの武器は片手状態と両手状態で切り替えることが可能で、プレイスタイルもガラッと変わるので、同じ武器でも使用感が大きく変わります。

ご自身のバトルスタイルで選んでいただくのもいいですし、仲間の亡骸から作られた武器ですから仲間へ弔いの想いで選んでいただくのもいいかと思います。

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鳥山氏:
両手持ちだと防御が出来なくなるシステムになっているので、そうしたゲーム的なリスクとリターンの駆け引きもあります。

岡村氏:
片手でシールドを出すのであれば武器は両手で握れないですし、逆に両手で武器を握っていればシールドは出せない……というのは身体を使うVRだとより直感的に理解できますよね。

あと、武器を自分で振る感覚というのは、やはり気持ちよくてですね……たとえば十字に切ると特殊な技が出たりもするんですよ。

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──おお~~。

下川氏:
本当に子供のころに遊んだチャンバラごっこの延長線上のような、子供心をくすぐる要素が盛りだくさんとなっています。開発側も童心に帰りながら作っているので(笑)。

鳥山氏:
その結果、テストプレイで二の腕もプルプルと震えることになってしまうという(笑)。

一同:
(笑)。

下川氏:
良い運動になるんですが、長時間プレイしすぎてしまうと、やはり身体が疲れてはきますね。

鳥山氏:
最終的にはそういうところも織り込んで、プレイの区切りをつけやすいゲームデザインにしてありますので、遊びやすさはあると思います。

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──バトルでいうとマルチプレイも可能と発表されていましたが、どのようなモードなのでしょう。

下川氏:
マップの奥にいるボスを倒す「制圧戦」と、押し寄せてくる敵から拠点を守る「防衛戦」のふたつのモードがあります。

雑魚敵を一掃する武器やボスに強力なダメージを与える武器もあるので、役割分担に応じて武器も選んでもらえると楽しいんじゃないかと思います。

鳥山氏:
「ここは俺に任せて先に行け!」みたいな、燃えるシチュエーションを頑張って作ってくれているので、クリアしたときに「俺かっこよかったね」って思えるんじゃないかなと。

──ちなみに……マルチプレイで仲間から武器を作ることはできちゃったりは……?

下川氏:
武器はストーリーで登場する仲間の遺体から製造される設定なので、今回はそういうシステムではないです。マルチプレイならではの仕掛けはありますが、基本は強大な敵にプレイヤー4人で立ち向かっていくというものになっています。

鳥山氏:
コンシューマーだったら自分が武器になった様を見ている楽しみはあるかもしれませんが、VRだと本当に何もすることがなくなってしまうのと酔いに繫がるので、今回は見送りました。

実装される25曲はすべて『ソルサク』同様に光田康典氏が手がける

──『ソウル・コヴェナント』の楽曲は『ソルサク』同様に光田康典氏【※】が手がけられていますが、やはりプロジェクト始動段階から決まっていたのでしょうか?

※光田康典
1972年1月21日生まれの作曲家。1992年スクウェア( 現スクウェア・エニックス)入社、1995年『クロノ・トリガー』で作曲家デビュー。『ゼノギアス』等の作曲を担当した後、1998年に独立。フリーランスで活動後、2001年プロキオン・スタジオを設立し、同社の代表を務める。『ソウル・サクリファイス』の楽曲を手掛けたのも光田氏。公式ウェブサイトはこちら

鳥山氏:
もともとお願いするなら光田さんしかいないよねという話はしていたのですが、光田さんは非常にご多忙ですので、メインテーマだけでもお願いできないか、とご相談させていただいたんです。

岡村氏:
そうしたら、全曲担当していただけるとのお返事があって……。

鳥山氏:
それじゃあ……ぜひお願いします、と(笑)。

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──まさかの全曲担当という。

鳥山氏:
今回のエレクトロニック・サウンドとオーケストラ・サウンドが融合した楽曲は、光田さんがもともとお好きらしいのです。ただ、これまで作る機会がなかったそうで、どこかで試したいという想いがあったらしく、渾身の楽曲を作っていただけました。

僕らの想像以上の楽曲になりました。いつの間にかオーケストラにもなってましたし(笑)

岡村氏:
てっきり打ち込みベースで、実際の演奏も10何名程度の規模かと思っていたんですが、スタッフロール用にミュージシャンの方のリストをいただいたときに60名くらいの名前が書いてあって……「めちゃくちゃ人数が多いぞ!」と気づいて(笑)。

鳥山氏:
「これは……フルオーケストラなのでは!? 」と。

下川氏:
光田さんはシナリオを読んだうえで曲を書かれる方なんですが、「ゲームのシナリオが壮大だからオーケストラにしないといけない」とチラっとおっしゃっていましたね(笑)。

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岡村氏:
大げさな表現ではなく、初めてエンディング曲を聴いたときは涙が止まりませんでした。

下川氏:
開発の一番しんどい時期ですよね。ミーティングでの言い合いも激しくてみんなピリピリしていたんですが、光田さんから届いたエンディング曲を流したら、それまでのすべての言い合いがチャラになって……みんなが救われたんです(笑)。エンディング曲は、そのくらい素晴らしいものになっています。

──浄化されたわけですね。

下川氏:
これは物語に救いを与えてくれるような曲なんですが、同時に作り手にも救いを与えてくれたんです。

歌詞もとてもいいんですよ。ボーカルのlasahさんに作詞をしてもらっているんですが、ちゃんとゲームを理解してくれてる歌詞なので、英語の歌詞も日本語訳もすごくグッとくるものになっています。

──今回、光田さんに全曲ご担当していただいたとのことですが、全部で何曲くらいあるんですか?

鳥山氏:
メインとなる楽曲は25曲ですね。

岡村氏:
ボーカル曲含めて全部神曲でした。もともと光田さんの曲は好きなんですが、今回作っていただいた曲は自分たちのゲームだからというのを差し引いても、すごい曲ばかりですよ。

『ソウル・コヴェナント』はVRだからこそ体験できるコンシューマーライクなゲーム

──公式生放送の配信や公式ディスコードの開設など、発売に向けて本格的に展開されていますが、とくにディスコードはコミュニティ運営ということもあり、なかなか大変なんじゃないでしょうか。

鳥山氏:
僕自身、ディスコードについてあまり詳しくはないんですよ。おじさんなので(笑)。

ただ、ゲーム情報へのアンテナの高い方はよく使っていると耳にしていましたし、開発チームの若いメンバーからの提案もあったので、じゃあ挑戦してみようかと。

──若いメンバーもいるチームだからこそのフットワークの軽さですね。

鳥山氏:
正直なところ、僕らもVRゲームでどうプロモーションするのが正解なのかはわかっていないんです。だから手探りで試行錯誤していくしかない。

メンバーがやってみたいことや提案してくれたことについては、1回はチャレンジしてみようよ、というのが『ソウル・コヴェナント』での方針なんです。

公式生放送もプロモーションメンバーから提案があって、岡村さんと下川さんのふたりがメインで進めてくれていて。いつの間にか配信でグリーンバック撮影とかも始めてました。

──えっ。公式生放送は外部の制作会社に依頼して作っているわけではなく、社内メンバーで実施されているんですか?

鳥山氏:
撮影で使用するスタジオなどはお借りしてますが、基本は社内のメンバーで撮影も配信も回してくれています。

岡村氏:
生放送のMCもうちの会社の秘書にお願いしています。画面がおじさんばかりだと華がないので「ちょっとお願い」と(笑)。

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──それをオーケーする秘書さんもすごいですね(笑)。お話を聞いていると、ベテランと若手の距離が近くて、みんなで楽しくゲームを作ってプロモーションもして、会社らしからぬ部活のような雰囲気を感じます。

鳥山氏:
関わっている全員が開発者のひとりであり、そのみんながやりたいことを提案できる、実現できる環境を提供するのが僕の仕事かなと考えていて、そこにみんなが応えてくれたというのが今の状況だと思っています。

スタートアップの新しい会社ではあるのですが、みんなで一丸となってゲーム作りに参加してくれるのがThirdverseのいいところなのかもしれないですね。

下川氏:
社外の立場の僕から見ていてもバイタリティーに溢れている会社ですよね。この活き活きとした雰囲気は立ち上がったばかりの会社の良さでもあります。ただ、作るゲームについてはしっかりいいものを作るという志がある。いいバランスになっていると思います。

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鳥山氏:
僕らはまだ小さいゲーム会社ですが、「Thirdverseは安心して買えるブランド」として認知していただけるとありがたいですね。

──「Thirdverseなら間違いない」と。

鳥山氏:
ええ。そこは頑張っていきたいです。

──本日はいろいろとお話をお聞かせいただきありがとうございます。最後に『ソウル・コヴェナント』の発売を楽しみにしているファンに向けてひと言メッセージをいただけないでしょうか。

鳥山氏:
発売から10年以上経った今でもメールやお手紙をくださる熱烈な『ソルサク』ファンの方に応えたい想いで始動したプロジェクトでしたが、ようやく主人公になりきって、ストーリーを楽しめるVRゲームを作れたと思っています

日本はもちろん、海外の方が楽しんでもらえるようなVRゲームになっていますので、ぜひご期待ください。

岡村氏:
今は「やっと出せるんだな……」という喜びで溢れています。

VRだからこそ体験できるコンシューマーライクなゲーム、というのが本作の魅力です。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、それが実現できたのが本作になっています。

下川さんが紡ぎだす物語をVRでしっかり体験できるものになってるので、楽しみにして待ってていただければと思います。

下川氏:
約10年前のゲームをいまだに愛してくださるユーザーの方々がいてくれたおかけで、VRというハードでオリジナルタイトルを作るチャンスをいただけました。

その期待に応えられるよう、魂を削って今作を作りました。「VR機器を今すぐ買ってね」とは言えないですが……今VRを楽しんでいる方はもちろん、「機器は買ったけど最近は埃をかぶっている」ような方にとっても、久しぶりにVRを起動してもらえるタイトルになることを願っています。

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神田スクエア We Workにて撮影

じつは電ファミニコゲーマーでは、本プロジェクトが始動したタイミングでお三方へお話を伺う機会をいただいていた。

その際には、10周年を迎えた『SOUL SACRIFICE』の話から新プロジェクトの展望をお聞きしたわけだが、当時の資料はコンセプトアート数枚のみ……そこからたった1年で発売に至るまでゲームを作り上げたスピード感には驚きのひと言である。

今回のインタビューの中でとくに印象に残っているのは、岡村氏が口にした「10年前の自分と戦っている気持ち」という言葉。

『ソルサク』主要メンバーが揃っての新作ということで、期待している『ソルサク』ファンは間違いなく存在し、それは開発陣にとって嬉しい反面、「期待に応えなければならない」というプレッシャーにもなっている。

だからこそ、細かい演出にもこだわり、VRだからこそ表現できることを追及し、魂を削って『ソウル・コヴェナント』を作り上げていった。そんな本作のテーマとして掲げられている「死の追体験」とはいったいどのような体験なのか。我々にどのような世界を見せてくれるのか、発売が待ち遠しい限りだ。

また、VRゲームとして「重厚な世界観とストーリー」を体験できる本作がどう市場に影響を与えるのか。VRゲーム業界の観点からも発売後の反響に注目したい。

最後に、『ソウル・コヴェナント』の作曲を担当した光田康典氏よりコメントをいただいているので、この場を借りてご紹介させていただきたい。

光田康典氏からのコメント

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2013年にPlayStation Vitaで発売された『SOUL SACRIFICE』の開発に参加してから約10年、再び同じ面々で新作ゲームを作るとなれば参加しない理由などあろうはずがありません。
冷徹でありながら人間味と深い哲学がある下川輝宏ワールドに見合う音楽とはいったいどういったものなのか? そして『SOUL COVENANT』という作品を強く印象付けるにはどういった要素が必要なのか? そんなことを考えながら作り上げました。

今作は人類と機械の戦いがテーマでもあるため、音楽も生楽器と電子音楽(シンセサイザー)の対峙、または共存といった部分を意識しながら自分の作品では珍しいシンセサイザーサウンドをメインに仕上げていきました。一般的なシンセサイザーとは少し違うモジュラーシンセというものを使うことによって、人間が機械をコントロールする部分と、機械が自分で生成して音を作っていく部分があり、唯一無二の作品になったのではないかと思っています。

現実世界でも人類と機械(特にAI)の戦いはすでに始まっています。これから我々はどう生きていくべきなのか、そんな深いテーマを音楽に込めましたので、この作品を通して今一度考えてもらえたら嬉しいです。

光田康典

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
サブデスク
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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