「VR」という言葉が世の中に浸透してはや数年、SIEより今年2月に発売された「PlayStation VR2」の存在やMeta社の「Meta Quest2」の普及によって、いよいよVRゲームが私たちユーザーにとって身近な存在となりつつある。
しかしVRゲーム産業の盛り上がりを俯瞰してみると、やはりまだ「黎明期」であることも事実。今なお成長を続けるVRゲーム産業だが、「VR元年」が叫ばれた2010年代末から今日まで、コンシューマーゲームやeスポーツなどの盛り上がりと比較しても(特に日本においては)、VRゲームは実感としてどこか遠い存在のように映るのが本音ではないだろうか。
そんな中、先日あるニュースが飛び込んできた。VR×メタバースのビジョンを掲げる「Thirdverse」社から、新作VRゲームのプロジェクトが進行中であることが明かされたのだ。
今回は、そんな新プロジェクトの主要メンバーである鳥山 晃之氏、下川 輝宏氏、岡村 光氏の三名にお話を伺った。いずれも『Bloodborne』、『流星のロックマン』シリーズ、『ラストストーリー』など、名だたるタイトルに関わってきた実績を持つ開発者たちだ。
また、彼らの名前を聞いてまっさきに思い浮かぶのは、プレイステーション Vitaで発売され、2023年に10周年を迎えた超魔法バトルアクション『SOUL SACRIFICE』シリーズの生みの親たちだということだろう。
今回のプロジェクトによって再び集うことになった3人。彼らはVRゲームの未来をどのように見ているのだろうか。
インタビューでは、いまだ根強いファンを誇る『SOUL SACRIFICE』の話から、新作プロジェクトの全体像に至るまで、幅広く興味深いお話を聴くことができた。これから生まれる新しいVRゲームのかたちとは? VRゲームはこれからどこへ向かい、どのような姿になっていくのだろうか?
『SOUL SACRIFICE』の思い出
──本日はよろしくお願いいたします。まずさっそくですが、お三方の出会いでもある『SOUL SACRIFICE』のときには、どういう経緯で集まったのでしょうか?
鳥山晃之氏(以下、鳥山氏):
もともと『SOUL SACRIFICE』(以下、『ソルサク』)は、「PS Vitaで、いわゆる『モンスターハンター』的なゲームが作れないか」と考えていた所に、偶然、稲船さんからソルサクの原点ともいえる企画の提案があり、それを元に制作を始めたゲームです。
ですが、当時のcomcept【※】には十分な開発スタッフがいなかったので、マーベラスさんを紹介してもらい、3社で協力して「SOUL SACRIFICE」というプロジェクトを立ち上げました。そこで岡村さん、下川さんにお会いしたという感じですね。
※comcept
元・カプコン執行取締役の稲船敬二氏が2010年にカプコンを退社し立ち上げたゲーム会社。『SOUL SACRIFICE』シリーズ、『Mighty No. 9』などの作品で知られる。
岡村光氏(以下、岡村氏):
なので、当時SIEにいらっしゃった鳥山さんと、マーベラスにいた私と、comceptにいらした下川さんが時を経ていま再集結するという、感慨深い展開になっています(笑)。
──お三方の関係は、10年経っても変わらないですか?
鳥山氏:
横幅がちょっと増えたりしましたけど。
下川輝宏氏(以下、下川氏):
年もとりましたね(笑)。
一同:
(笑)。
鳥山氏:
ただ、ゲームに対する情熱は、当時からあまり変わってないところもあります。僕らもいまだに企画を考えたり仕様書を書いたりする人間なので、イチから現場に入ってちゃんとものを作っていきたい気持ちはずっと変わっていません。いまのプロジェクトを立ち上げたのも、そういった情熱からです。
──『ソルサク』制作時に、お三方がチーム全体の柱として「ここからブレないようにしよう」と掲げていたものなどはありますか?
鳥山氏:
もともと「ダークファンタジーでハンティングをしたい」というのが絶対ブレさせない部分だったんです。そういったファンタジーな世界観のゲームはもちろんあったんですけど、僕らの思う「本来のファンタジーって、こういう暗い世界だよね」というのをやりたかった。
ユーザーに選ばせるシステム、そして「魔法使いが戦う」というテーマ性を守ることも重要でした。そこに下川さんがさまざまなアイデアを出してくれていましたね。
下川氏:
その柱を作ったおかげで、僕らの間に絆が生まれていったんだと思います。そのときにああでもない、こうでもないと話をして、言語化できない共通見解みたいなものが作れていた。だからこそ、いまでも話しやすいベースになってるんじゃないかなと思います。
──今回発表された新作『Project VEGA』(以下、VEGA)でも、構想段階から『ソルサク』のあのチームでやってみたいという思いはあったんですか?
鳥山氏:
『VEGA』は企画と世界観を考えたときに、僕の中で下川さんしか作れないなこれ……と感じてしまい、直ぐに下川さんに「こういうのを作りたいんので手伝って欲しい」と相談して、一緒に作ることになりましたね。
──企画の立ち上げ自体はThirdverseに鳥山さんが加入されてから考えたんですか? それとも、もともとご自身の中であった企画なのでしょうか?
鳥山氏:
Thirdverseに入ってからです。『ALTAIR BREAKER』という別のタイトルをプロデュースしてたんですが、それを作っている過程で「VRでもう一歩進んだ、チャレンジしたゲームをイチから作ろう」と思ってやり始めたのがこのタイトルです。
10周年を迎える『ソルサク』の根強い人気
──ではそろそろ、今回の新作VRゲームの企画についてお話を伺えればと思います。まず、このたびの新作開発発表の経緯はどういったものだったのでしょうか?
鳥山氏:
『ソルサク』のファンの方の思いに応えたかった、というのがまずひとつありますね。ちょうど3月7日に初代『ソルサク』が10周年を迎えたんです。
それでTwitterでの10周年イベントや、『ソルサク』の海外コミュニティの盛り上がりを見て、何か少しでもお礼にできればと思い、このタイミングで「僕らは新しい何かを始めましたよ」と公表することにしました。
実は、いまも『ソルサク』ファンの人たちが僕らに対してコミュニケーションをいっぱい取ってきてくれているんですよ。アメリカのファンの方から『ソルサク』に感動したというお礼のメールが、わざわざ日本語で届いたりもしていました。
僕がSIEにいたときも、熱烈なファンの方からメールやお手紙をいただいて、なんとか応えられるようなものを作りたいなとは思っていました。ですが僕がSIEジャパンスタジオを退職し、これ以上続編を作ることができなくなってしまったけれども、外で何かできないかなという思いがあったんです。
──たしかに『ソルサク』のファン、コミュニティの熱量はすごく高いですよね。それは同じ時期の『FREEDOM WARS』といったゲームでも同様で、近い年代のコミュニティがいまでも語っているのを目にします。
『ソルサク』の場合、コミュニティのこの熱量はどこからくるのか、どのように皆さんは分析されてらっしゃるんでしょうか。
鳥山氏:
もともと『ソルサク』はユーザー層がほかのタイトルとちょっと違っている部分があると思いますね。自分たちは高校生以上のユーザーを想定して作っていたんですが、意外なことに当時の中学生のプレイヤーも多かったんです。中学生が背伸びしてプレイして、自分たちが経験したことのないゲーム内容だった、というのが理由のひとつだと思います。
あと、PS Vitaで初めて買ったソフトが『ソルサク』だったというユーザーが多かったりします。ハードと一緒に初めて買ったソフトって、やっぱり思い出深かったりするのかなと。
それと、『ソルサク』のファンは女性率が他のタイトルよりも高く、大体3〜4割ぐらいいるんですよ。女性ユーザーの方も長く“推し”続けてくださったので、そういった熱いファンの方々が拡散してくれた結果かもしれません。ほかにもいろいろな理由はあると思いますが、本当にありがたいことですよね。
下川氏:
当時の中学生の方が遊んでくれたってのは特に大きいんじゃないかな。ちょっと背伸びして、初めてこういうダークな世界を体験したのが『ソルサク』だったから、強く記憶に残ってるんでしょうね。
鳥山氏:
もちろん下川さんのストーリーの魅力もあると思います。『ソルサク』は残酷な世界ではあるんですけど、最後はすごくハッピーエンドだし……ハッピーエンドでいいよね(笑)
下川氏&岡村氏:
(笑)。
鳥山氏:
少なくとも、希望が残るようなエンディングではありましたから(笑)。そこに対して、世の中に何かしら不安を抱く若い人たちに、何かしらの希望を提示できていたのかもしれません。そういう人たちの心に響く部分があったんだろうなと思っています。
岡村氏:
『ソルサク』って突拍子もないようなお話に感じるんですけど、結果的に自分のリアルな人生に返ってくるような話というか。それこそちょっと希望をもらえるというか、そういう良さがあるんです。だからこそ、当時その世代だった方に刺さるところがあったんじゃないかなと。
──皆さんとしては『ソルサク』でやり残したこと、あるいは「あのときこうしたかった」みたいなものを今回のタイトルで試したい、という思いはあったりするものですか?
鳥山氏:
僕らとしては初代『ソルサク』でやり残したことは『SOUL SACRIFICE DELTA』でやり切れたかなと思っています。一旦僕らは『ソルサク』と『ソルサクデルタ』で完結しているつもりなんですね。僕らとしては、もう1回あの当時のメンバーがそろって新しいプロジェクトを作りたいというのが、やり残したことではあるのかなと思っています。
岡村氏:
そうですね。新しいものをみんなで作りたいねって言ったまま、10年経っちゃった。
鳥山氏:
ホントに、全員会社は変わってしまうし、よくこれで集まったなとは思うんですけど。
一同:
(笑)。
VRで描く「死」の体験
鳥山氏:
これまで、ThirdverseではVRマルチプレイアクションを作り続けていました。最初は『ソード・オブ・ガルガンチュア』で、2作目が『ALTAIR BREAKER』という作品なんですが、どちらも剣戟アクション重視の体験型のVRゲームで、ストーリーを重要視したゲームではありませんでした。
やっぱりユーザーの皆さんに感動してもらえる体験を作るには、ストーリーや世界観設定もしっかり表現していかなければダメだと。そのために、今回この『VEGA』という企画を立ち上げました。
まだ詳しい発表はできませんが、内容としては、特別な力を持った主人公が圧倒的な力を持った敵に死を顧みず戦いに挑むといった、バトルアクション重視のVRゲームです。
VRならでの死闘感のあるアクションゲームが作れないかなと思ったのが、この企画の始まりです。
物語のコンセプトは「死を体験する」というものなんですが、これは下川さんに語ってもらったほうがいいですね。
下川氏:
「死」って一回きりの体験で、基本的には記憶に残すことはできないですよね。でもVRだったら死の体験──言ってしまえば、臨死体験みたいなことができる。そういったものを味わえるゲームにしたいなという考えがありました。これは鳥山さんも初期のころ仰っていて、意気投合したポイントです。
それと、実際に自分が大きな敵に食べられて、自分の体がぐちゃぐちゃにされていく感覚をVRのゴーグルでやれたらいいなというアイデアもありました。なのでテーマとしては「死を追体験する物語」だと思います。
自分の役割としては、ThirdverseさんのVRアクションのノウハウに、いかに魅力的な世界観を乗っけるか、というところが課されたミッションだと思っています。VRだから映える世界観とか、VRらしい体験ができる舞台がやっぱりいいだろうということを考えていまして、それで「死」をテーマにしてはどうかと。
鳥山氏:
もともとゲームって、死んだらゲームオーバーになってすぐ終わってしまう。それがVRだと、「本当の死ってこういうものなんだ」というのを体験させることができる。そこに踏み込んだ作品にしたいと思っています。
僕は「死」というものは、ダークファンタジーの頂点だと思っていて。となると、それは下川さんにしか書けないだろうと。その結果、こういう方向性に落ち着きました。絵作りに関してはソルサクと変わらず、岡村さんにまとめていただいてます。
岡村氏:
死の体験をどれだけグロテスクになりすぎずに、VRで感じさせるかというのは気をつけたいと思っています。本作の重要なテーマでもあるので、すごく力を注いでいます。
鳥山氏:
読んでいる方は、「何を無邪気に『死』の話をしているんだろう?」と思うかもしれませんが、本気でやってます(笑)。
一同:
(笑)。
──「死の体験」という観点で言えば、たとえば近接武器になると自分を襲う敵に近づかなきゃいけないですよね。死が目の前にあるのに、離れて戦うのではなくて、近づいて戦わなければいけない。
そういう「死に立ち向かう」というなかなか現実では味わえない体験が、ゲームとしてどのようなものになるのかも想像してしまいます。
下川氏:
主観視点のゲームって銃を撃つようなゲームを考えがちなんですけど、ThirdverseさんではこれまでVRの剣戟アクションにトライしてきて、その「近接戦闘」のノウハウがある。それは存分に生かすべきだなと、最初から思っていました。
鳥山氏:
やっぱり、ボタンひとつで剣をふるのと、実際に自分が剣を持ってふるのとでは体感が違います。死の体験を自分自身で回避するには、ちゃんと自分の手を動かして戦わなければいけない。
その辺りのおもしろさは、いままでThirdverseのゲームをやってくださってきたユーザーにはそのまま伝わると思いますし、『ソルサク』ファンの人たちにすれば、「こういう切り口できたか」という新しい提案ができるかなとも思っています。
もともと『ソルサク』も生贄や救済など死に繫がるテーマがあったので、そういった部分を、今度は新しいIPで楽しんでもらえるのではないかと考えています。
──おもしろいですね。『ソルサク』の精神的続編というわけではなく、ところどころに『ソルサク』色があるみたいな。
鳥山氏:
特に意識しているわけではないですが、アイデアの元が近いといった感じですね。
下川氏:
ぜんぜん続編のつもりで作ってはいないです。ただ、ファンの人には、そこに受け継がれた魂みたいなものを感じ取ってもらえたらなと思います。