“芸術が好き”というフランス人のアイデンティティが、ゲーム開発にも活かされる。自らの個性を表現するため、徹底的に作品を研ぎ澄ます「職人芸」
──『SHINOBI 復讐の斬撃』、『Expedition 33』ともに、アート全般の素晴らしさが特徴として挙げられます。アートに対してのこだわりというのは、フランス人クリエイター特有のものなのでしょうか?
ギヨーム氏:
アートに関しては、非常に強いこだわりがあります。私は、フランス人の特徴として「芸術が好き」というものがあると思っています。Sandfall Interactiveの場合ですと、ゲームを構成するすべての要素がアーティスティックであるべきだという考えがあります。先ほどのベンさんのお話にもありましたが、職人芸……クラフトマンシップですね。

ギヨーム氏:
さらに、音楽についてはいかにゲームプレイと音楽と自然に組み合わせるかということを、ゲーム開発前の段階からチームメンバーとひたすら議論していました。
ベン氏:
フランス人の傾向として「自分の個性をいかにして表現するか」と神経を尖らせる、個人主義の考えがあると思っています。私自身、美術大学出身ということもあり、アートに対しての意識が強く、それが手掛けるゲームにも現れている気がしますね。
──Lizardcubeの音楽へのこだわりはいかがでしょうか。
ベン氏:
音楽についてはギヨームさんたちが作られた『Expedition 33』ほど、綿密なやり取りはしていません。
ただ、メガドライブの『ザ・スーパー忍』を筆頭に、歴代の『SHINOBI』シリーズに携われている古代祐三さん、そして『ソニックマニア』の音楽を手がけられたティー・ロペスさんといった、セガ往年の名作に参加された作曲家の方々に血が沸き立つような楽曲を提供いただいています。ですので、非常に素晴らしいゲーム体験が確立されたと自負しています。ぜひその仕上がりに注目いただければと思いますね。
──『Expedition 33』と『SHINOBI 復讐の斬撃』には、「操作の手触りが良い」という共通点もあります。ゲームの手触りは、作り手の才能や感性に大きく左右される部分だと思っているのですが、おふたりが「手触りの良さ」を実現するにあたって意識されたことをお聞かせください。

ギヨーム氏:
操作の手触りについては、かなりたくさんのことを意識しましたね。最も意識したのは攻撃がヒットした時の処理です。
具体的には戦闘における格闘周りにおいて、このヒット時の処理が極めて重要な要素だと思っております。ですので、『Expedition 33』ではヒットした瞬間に時間が少し止まり、特殊な音が鳴るような処理を加えることを徹底しました。
ベン氏:
私たちもヒット時の処理については凄く意識しましたので、ギヨームさんの考えには全面的に同意です。あとは、基本的にすべてのボタン操作に、プレイヤーに対する何らかのフィードバックがあることも重要で、望まれることだと思っています。
プレイヤーが起こすすべての行動に対して何らかの反応が返ってくるということこそ、ゲームを遊んでいて気持ちいいと思えることなのでは、と私は考えていますね。
──『SHINOBI』シリーズは30年近い歴史があるタイトルです。日本らしさを表現するにあたり、意識されたことをお聞かせください。
ベン氏:
忍者が主人公ということもあり、『SHINOBI』というゲーム自体が日本的なゲームです。日本に限らず、世界中のプレイヤーが、一度目にするだけで「あ、ここは日本だな」と思えることを意識して制作しています。魚市場、お祭りの風景などはまさに「日本らしさ」が際立っているところだと思います。

ベン氏:
また、私個人として1980年代から1990年代の日本の情景に強い思い入れがありまして、その辺りが自然と滲み出ている部分があるかもしれません。
ジュリアン氏:
背景アートに関しては事前に日本を徹底的に調べ尽くし、そのうえで知ったことや思っていることのすべてを詰め込んでいます。
──シリーズ作としての、“『SHINOBI』らしさ”についてはいかがですか?
ベン氏:
じつを申しますと、『SHINOBI 復讐の斬撃』は当初、メガドライブの『ザ・スーパー忍』に近い内容にする方向で開発を進めていたんです。

ベン氏:
ただ、アーケードの初代『忍 -SHINOBI-』もそうなのですが、当時のシリーズ作は現代のアクションゲームに比べてプレイヤーのできることが少ないんですね。
テストプレイをしていく中で「これだと楽しくないな……」と感じ、さまざまな改良を加えてゲームプレイを改善し、現代のプレイヤーにも楽しんでいただけるハイペースなアクションゲームに仕上がっています。
ただ、当時のムードやエッセンスはキープしつつ、物語に対しても敬意を払って制作に取り組みました。さらに過去の『SHINOBI』シリーズを制作されたクリエイターの方々、シリーズファンにも敬意を払うことも意識しまして、そこからさらに上を目指すというイメージで臨みました。
私たちは過去にも『ワンダーボーイ:ドラゴンの罠』【※】『ベア・ナックルIV』というクラシックタイトルのリメイクや新作の開発を手がけてきたのですが、そのようなことに取り組むに当たってはたくさんの越えなくてはならないハードルとチャレンジがあります。
どこまで過去作のテイストを残し、どこまで作り変えるか。そのバランスの難しさについては、今回も痛感させられましたね……。

──『ベア・ナックルIV』制作時とは異なるアプローチをされたのでしょうか?
ベン氏:
はい、変えています。ご存じのとおり『ベア・ナックルIV』は、3つのスタジオが協力して開発したタイトルです。そのため、Lizardcubeが関与できる部分は限定的だったんですね。
『SHINOBI 復讐の斬撃』はLizardcubeが単独で作るということで、プログラマーやデザイナーといったゲーム制作を行ううえで必要な人員を新たに集め、チームを組んで臨みました。まさにスタジオ全体を増強するプロセスを辿ったと言いますか、すべてを開発できる体制へと改めたことは大きな変更でしたし、新たなアプローチとなりました。
さらに発売を手がけるセガさんとの協業体制を組ませていただいたことで、大原徹さん【※】という素晴らしいプロデューサーと出会えたことによって、優れたゲームを仕上げられたと実感しています。
※大原徹:『SHINOBI 復讐の斬撃』プロデューサー。過去にセガで『サクラ大戦』シリーズ、『三国志大戦』などのコンソール・アーケードタイトルの開発に携わってきた。『SHINOBI』シリーズには本作が初参加となる。
独立系スタジオの強みはフットワークの軽さ。それを活かせるゲーム作りを今後も続けていきたい
──ギヨームさんとベンさんは初対面ということですので、この機会にそれぞれお聞きしたいことはありますか?
ベン氏:
うーん……ビジネスや開発ラインに関する質問など、聞きたいことは山ほどあるのですが、取材時間内に収まる気がしません(笑)。
ギヨーム氏:
やっぱり開発者どうしで話すと、技術的なことも含めて細かい話などがたくさんありますので、本当に時間内に収まらないと言いますか、てんこ盛りになっちゃうかと思います(笑)。
ただ、お互い同じフランスの独立系ゲームスタジオとして、今後もゲーム作りを続けていきたいという意欲については共通していると思います。
ベン氏:
はい。私たちも同様にゲーム作りを続けていきたいですね。
──おふたりが考える独立系スタジオの強みとはなんでしょうか。
ギヨーム氏:
独立系スタジオの強みとしては、やっぱりフットワークの軽さにあると思います。また、私たちとしてはチームの全員が情熱を持ち、それこそ一心不乱になってゲーム作りに取り組めるというのが強みなのかと思いますね。
ベン氏:
チームメンバー全員にクリエイティブな判断を任せられるのが独立系スタジオの強みだと感じています。個人的には正直なところ、スタジオを作るつもりはなかったのですけど、結果として今の形になりました。
今後、大きな企業へ発展させる方向に行くのではなく、小さなチームでフットワーク軽く、いろいろなゲームを作っていきたいという思いを強く持っています。今回の『SHINOBI 復讐の斬撃』もチームとしての規模は小さく、アニメーションもすべて私ひとりが手がけていますから。
──あのキャラクターの動きを、ベンさんがひとりで作られたんですか!?
ベン氏:
はい(笑)。そのおかげで開発中、右往左往することなく進めていくことができたと思っています。

ベン氏:
あと、私たちのミーティングではメンバーが自由に発言できる風土があります。みんなが全員の意見やアイデアをいいものであると信じていて、ゲームへの反映を考えてくれているんです。ひとりひとりがゲームをよくしようと考える。これは、人が増えれば増えるほど、難しくなるところだと思います。
私個人としても、自分で手を動かしながらゲームを作りたい気持ちが強いので、人を管理することよりも、自分で作ることを今後も続けていきたいですね。
──ちなみに先ほど『SHINOBI 復讐の斬撃』を作るためにチームメンバーを集められたという話をされていましたが、ベンさんは人材を選ぶ時にどういったことを重視されたのでしょうか。
ベン氏:
今回、同席しているジュリアン【※】は『ベア・ナックルIV』からの付き合いなんですが、彼は私が出した背景アーティストとしてのテストに合格したことが採用のきっかけとなりました。彼とは今後もできる限り長い付き合いをしていきたいと思っています。


あと、もうひとつのきっかけ……これは今回の新しいメンバーもそうなのですが、コミュニケーションスキルです。私が重要視しているのはその部分なんです。

ベン氏:
ゲーム開発自体はとても複雑に展開されていきますから、コミュニケーション能力が凄く大事になってくるんですね。ですので、チームメンバーとしてスムーズなコミュニケーションができるか? チーム全体がどのように動けるかを考えられるか? これらの能力は、ゲーム開発においては欠かせないことだと思っています。
個々人の実力と才能、過去に関わった作品も重要ですが、それ以上にコミュニケーションスキルをポイントとして見ますね。
──最後に、おふたりから日本のファンへメッセージをお願いします。
ギヨーム氏:
『Expedition 33』が日本でも好意的に受け取られていることについて、大変うれしく思っています。私たちの日本のRPGに対するリスペクトが伝わっているのみならず、感想や敬意をキャッチボールのようにこちらへ投げ返してもらっていると感じていて、本当に感謝しています。ありがとうございます。
ベン氏:
日本のプレイヤーの皆さん、ぜひ『SHINOBI 復讐の斬撃』を遊んでみてください。プレイしていただいて、私たちLizardcubeのことを覚えていただければうれしいですね。よろしくお願いいたします。(了)
『Clair Obscur: Expedition 33』と『SHINOBI 復讐の斬撃』。それぞれジャンルから作風、題材に至るまでまったく異なるゲームを手がけたふたりのクリエイターが、セガのゲーム機でゲーマーデビューした者同士だったという話には非常に驚かされたし、その両タイトルの日本におけるパブリッシングをセガが担当しているという事実には、なにか運命的なものを感じてしまった。
また、2作に関しては美術、演出全般へのこだわりの強さも共通しているが、その根底に芸術好きというフランス人特有の持ち味が発揮されているとのギヨーム氏の話には興味深いものがあった。
たしかにほかのフランス製ゲームを振り返ってみても、芸術好きとしての“らしさ”が発揮されていた部分に思い至る。そういった国民性が、個々の作品の印象を強くしていたのだろうかと考えさせられた。
そのようなフランス人としての気質が独立系スタジオという環境で最大限に発揮された結果、『Expedition 33』と『SHINOBI 復讐の斬撃』はこんなにも独創的で、プレイヤーの心に強く訴えかける作品に仕上がったのかもしれない。
Sandfall InteractiveとLizardcubeという新進気鋭の両スタジオが、今後どのような作品を世に送り出してくれるのか。期待に胸は膨らむばかりである。もし、読者のなかにどちらかのタイトルが未プレイだ、という方がいるなら、ぜひプレイして、筆者の期待を共有していただければ幸いである。