飯田さんに「なんだよこれ(笑)」と言わせたら勝ち
──当時の現場で「飯田さんからこんな指示をされた」というような思い出に残っているエピソードはありますか?
櫻井氏:
僕は文化レベル【※】が上がるときの絵も担当していたんですけど、レベルが上がるので原始人たちが「やったー」と喜ぶ絵を描いたんです。そしたら飯田さんから「そうじゃないんだよなあ」と指摘を受けました。
──レベルが上がって喜ぶのは自然なことですよね?
※文化レベル
『太陽のしっぽ』における成長指標。プレイヤーが操る原始人が狩りをして肉を持ち帰るとほかの原始人たちの胃袋を満たすことができ、集落の人口が増えていく。人口が増えると集落に新たな家が建ったり、武器の開発が進んだり、文明が進化していく様子が可視化される。
櫻井氏:
そのころはまだチームに入ってすぐの仕事だったこともあり、飯田さんが常に言っていた「もっと壊せ」や「やりっぱなし」という言葉の意味を理解できていなかったんです。だからそこは正直に「わからないです」と伝えたら、飯田さんがタブレットとペンを持って「こうだよ」と直々に描いてくださいました。
でも、それでわかる部分と、描いてもらってもなおわからない部分があって(笑)。
飯田氏:
それはたぶん、僕もわかっていないからだろうね(笑)。
櫻井氏:
飯田さんが求めていることのひとつに、「開発経験が浅い新人だからこそ出せるもの」があったと思うんです。だから、「レベルアップしたからバンザイする」といった当たり前の考えではいけないんだなと。

ほかにも、たとえば『太陽のしっぽ』って夜から明け方にかけて星が流れるじゃないですか。あれはプログラマーさんが作っているんですけど、本来の星の動きとは違うんです。北の空だともっと回転するので。
だけど飯田さんが「ビジュアル重視だとこうじゃない?」と、常識を覆していくんです。

飯田氏:
それでどんどん悪ノリしちゃうっていう(笑)。
一同:
(笑)。
櫻井氏:
飯田さんに「なんだよこれ(笑)」と言わせたら勝ちなんです。
飯田氏:
僕が「壊せ壊せ」と言っていた理由は、原点として、(震災で)壊れた世界を見てしまったからなんです。だけど人間には “それでも生きていく力強さ” がある。だから「もっと壊せ」というのは破滅という意味ではないんです。
櫻井氏:
そこを理解することが『太陽のしっぽ』の開発において大事なことでした。
飯田氏:
平ちゃんがチームに参加したのってどれくらいの期間だっけ?
櫻井氏:
10ヵ月間の開発期間のうち、半年強くらいです。
──『太陽のしっぽ』って10ヵ月で作られたんですね。
鈴木氏:
いまでこそ開発に数年かかることは普通だけど当時はそんなもんだったよね。
櫻井氏:
でも短くてよかったです。あの瞬発力は短くないと出せませんから(笑)。
飯田氏:
開発が終わってすぐ僕は辞めているよね。挨拶もろくにしてなかったかも。
櫻井氏:
いやいや、してましたよ。飯田さんが退寮した日も覚えていますから。
飯田氏:
あっ、本当? 挨拶はちゃんとしてたんだね。よかった。
いきなり提案された『太陽のしっぽ』のラジオドラマ
──今日は、1996年に発売された『太陽のしっぽ』の製品版、1997年に発売されたベスト版、2024年に発売されたLP盤のサウンドトラックもあります。
飯田氏:
えーっ! LP盤は数量が少ないからきっともう手に入らないよね。ああっ、これ僕が描いた絵ですよ。
櫻井氏:
ジャングー・キバオもいますね。
飯田氏:
鈴木さんと一緒にサントラのレコーディングに行ったよね。ハードディスクを持ってきてもらってさ。
鈴木氏:
行った行った。
飯田氏:
そのときいきなり、レコーディングディレクターにラジオドラマを提案されたんですよ。でも『太陽のしっぽ』でドラマって、わけがわからないじゃない?
一同:
(笑)。
飯田氏:
いちおう原始人の「あっ」とか「うっ」とか声のデータは持ってたんだよね。それをどうやってドラマにするんだよって思ったんだけど、ディレクターのアイデアで「原始人が狩りをするところ」をドラマにしてサントラに収録することになったわけ。
でも、よく考えたら『ときメモ』にもラジオドラマがあるから、それができると思ったらすごくうれしくて快諾したの。
──(笑)。たしかに美少女ゲームではよくありますよね。
鈴木氏:
それで、急きょブースのなかで原始人が「タッタッタッタ……」と走る音を録ったんですよ。
飯田氏:
そうして当時の疑似3Dの技術で原始人が狩りをしながら走り抜けていくラジオドラマが完成しました。僕ら以上におかしい人がいて、サポートしてくれたんです(笑)。
隠しトラックに仕込まれた “テロ” の真相(?)
──サウンドといえば、“隠しトラック” についても改めておうかがいできますでしょうか。ゲームディスクをオーディオで読み込むと聴くことができるトラックに「飯田さんのオリジナルソング」が仕込まれていたんですよね。しかし、それが発覚したとき飯田さんはすでにアートディンクを退社されていたとか。
櫻井氏:
さっきこの座談会が始まる前に鈴木さんが「思い出した」って言ってましたよね。
鈴木氏:
これは言わなきゃならんでしょうね。飯田さんが辞めたあと、代わりに俺が呼び出されてめちゃくちゃ怒られたんだから。「進退問題だ」って。
一同:
(笑)。
鈴木氏:
でもよくよく聞いたら、会社の上の人たちはこのトラックが入っていたことを「知らなかった」って言うの。
飯田氏:
う、うん……。

鈴木氏:
それを聞いて「えっ!」と驚いて、やばいと思ったわけ。
飯田氏:
あれっ、鈴木さんにも言ってなかったんだっけ?
鈴木氏:
いや、悪ふざけで一緒に作ってるからもちろん知ってるよ。でもそういう隠しトラックって、仕込んだとしても何回もデバッグするからマスターアップする前に気づかれちゃうよね。
飯田氏:
そうだよね。
鈴木氏:
それをすり抜けちゃったら、完全犯罪じゃん。
一同:
(笑)。
鈴木氏:
だから飯田さんが「なにかやった」と思ったの。そうじゃないとおかしいから。本当になにもしてないの?
飯田氏:
うん……。
鈴木氏:
えっ、怪しくない?
飯田氏:
ウソ発見器にかけられてるみたい(笑)。

一同:
(笑)。
飯田氏:
そもそも当時のプレイステーションのガイドラインで「2トラックにしましょう」と言われていたんですよ。1トラックはゲームのデータを入れ、もう1トラックには不具合防止のためにダミーの音声データを入れるというものでした。
鈴木氏:
ああ、あったあった。
飯田氏:
(企む目をしながら)へええ、「音声データ」ね。
一同:
(笑)。
飯田氏:
2トラック目が空いている、ここに「曲」がある。
鈴木氏:
そういうのを見つけると目がピカーってなるよね。
──(笑)。ということは、飯田さんの曲は先にあったということでしょうか?
飯田氏:
そう。いつだったか、すごく疲れていたときに会社の非常階段の踊り場で大きな声を出して歌ってみたら、すごくエコーが効いて気持ちよかったの。だからフォークギターを持ってきて歌ったんだよね。もうジャイアン的な気持ちよさですよ。
一同:
(笑)。
飯田氏:
それでその曲を鈴木さんに「アレンジしてください」と渡して、エフェクトを重ねてもらいました。だから最初は本当に遊びだったんです。
鈴木氏:
でもそういうのって仕込んでも最後まで残らないじゃん。途中でバレるから。だからすごく不思議でさ。
飯田氏:
うん。
櫻井氏:
そのあと鈴木さんがチームメンバーのところに来て「飯田さんの隠しトラックのこと知ってた?」と聞かれたんですけど、みんな「知らないです!」と答えていました。
一同:
(笑)。
櫻井氏:
マスタリングを担当したプログラマーさんは知っていたかもしれないですけど、「知らない」と答えていました。
飯田氏:
よくできたチームだ(笑)。
鈴木氏:
会社からしたらテロみたいなもんだから。本当になにもしてないんだよね?
飯田氏:
うん。
南東の半島に「サーベルタイガーが交尾をしている巣」が存在する
櫻井氏:
飯田さんの隠しトラックは初回プレス盤に入ってしまいましたが、じつはほかに “未遂” もあるんですよ。
──ええっ、まだあるんですか!
櫻井氏:
あるプログラマーさんが「サーベルタイガーの巣」を作ったんです。というのも、そのプログラマーさんいわく『太陽のしっぽ』には、食欲・睡眠欲、そして性欲が “もっと” 必要だと。
飯田氏:
うんうん。
櫻井氏:
それで、分岐する洞窟(巣)のいちばん奥に「交尾するサーベルタイガー」を作ったんです。
──ええっ!
櫻井氏:
でも作ったあとに、「これは発見されてはいけない」と隠し始めました。
一同:
(笑)。
櫻井氏:
サーベルタイガーをガーディアンのように複数配置して、巣を発見させないようにしたんです。サーベルタイガーは足も速くて強いので、うかつにそのエリアに入ると襲われて死んでしまうという。
飯田氏:
襲われたら巣までたどり着けないからね。

櫻井氏:
でも最終的に、プログラマーさんがさんがその巣の入口を閉じてしまったんです。たぶん、怒られたくなかったんでしょうね。なので、南東の半島にやたらサーベルタイガーがいるのは、巣を守っていた名残りです。
飯田氏:
「サーベルタイガーの巣」や「交尾するサーベルタイガー」のデータは存在しているけど、当たり判定で入口を閉じているから確認できないんだよね。
櫻井氏:
ちなみに当時、この件について飯田さんは最後まで「本当に入れるの?」と言っていました。
飯田氏:
あっ、僕は反対派だったんだ(笑)。
──そこは反対なんですね(笑)。
飯田氏:
意外とそういう一面もあるんだね。
櫻井氏:
飯田さんはいつも「制作物の責任は俺が取るから」と言って指示を出してくださるので、チームも「やろうやろう」と熱量高く取り組んでいたんですけど、サーベールタイガーの巣についてはプログラマーさんが最後の最後で入口を閉じるという “未遂” がありました。
──衝撃の隠し要素ですね。
櫻井氏:
2025年12月に発売された復刻版で、僕はサーベルタイガーの巣の入口に再び行ってみました。周辺は草原の地形ですが、火山の噴火口のようにくぼんでいるので、到達すればほかの地形との違いを感じると思います。
行っていただくとわかると思うんですけど、地形の少し高い位置でくぼんでいるためカメラには写りにくくなっていて、「発見されてはいけない」という強い意思を感じました(笑)。
飯田氏:
夢があるよね。
一同:
(笑)。


櫻井氏:
最終的にサーベルタイガーの巣は入口が閉じられてしまいましたが、こういうふうに物怖じせずアイデアをかたちにできたのは、「チームで過ごした時間」がけっこう大きいと感じています。
飯田さんと僕は同じ寮に入っていたこともあり、コミュニケーションが円滑に取れていました。お昼ごはんもチームメンバーと一緒に行って、僕はいつもオムライスをごちそうになっていた記憶があります。
飯田氏:
うんうん。
櫻井氏:
『太陽のしっぽ』チームは長時間の打ち合わせはあまりなかったですが、そうやって一緒にごはんを食べたり、毎朝の『ときメモ』報告会のときに「作業はこういうふうに進めていこうと思います」といった進捗も混ぜながらコミュニケーションが取れていました。
──『ときメモ』報告会で(笑)。
飯田氏:
開発の環境も自分のデスクの背中側にもデスクがあって、なにかあれば振り向いてすぐ打ち合わせをしてね。
櫻井氏:
そうですそうです。
飯田氏:
“逆” 中華料理みたいなことをしていたよね。





