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ヨコオタロウ氏が聞く「『ドラゴンクエストVII Reimagined』はなぜこれほどすばらしいゲーム内アートを実現できたんですか?」──再現性があれば……と思って話を聞いたらアートディレクターの才気に圧倒されてヨコオさんも「狂気を感じて若干怖い」と言い出す

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30代半ばでヘキサドライブに入社。メガネ屋で働いているときに培った「仮説検証」

ヨコオ氏:
ビデオゲームはプロデューサーのパッとした思いつきから始まって、現場があとでたいへんな思いをしながらカバーしていく、ということがよくありますが、『リイマジンド』は浅野さんをはじめとした現場スタッフが最高の形で最後まで作り切ったのがすばらしいですね。

藤坂氏:
以前所属していたミストウォーカーで、実写のジオラマや人形をモチーフにした『FANTASIAN』を作っていた経験があるのですが。「いろいろたいへんだったなぁ」という思い出があります(笑)。『リイマジンド』はフォトグラメトリの良さを活かしつつ、管理可能な3Dとして再構築している。それらをキッチリまとめ上げた浅野さんは、本当にすごいなと。

ヨコオ氏:
浅野さんは、最初に人形の素材を渡されたとき、どう思ったんですか?

浅野氏:
与えられた材料をどこまで100点にできるかを考えて、シンプルにワクワクしましたね。

ヨコオ氏:
その反応をする人はスクウェア・エニックスさんにいいように使われかねない……まさにクリエイターの鑑ですね(笑)。

今日はいろいろ学ばせてもらって、再現性をたしかめて、自分の仕事にも活かしたいと思ったんですけど……たぶん無理ですね。開幕のお話で、浅野さんが特殊だということがすぐにわかりました(笑)。

──横からすみません。浅野さんにうかがいたいことがありまして。電ファミはインタビュー取材のときに、インタビュイーの情報をできる限り調べるんですね。でも、浅野さんの経歴はどれだけ調べてもぜんぜんわからなかったんです。経歴を教えていただけますか?

浅野氏:
ちょっと特殊なんですけれど、どこから話しましょうか。僕はいま40代前半なんですけれど、30代半ばまでメガネ屋さんで働いていました。それまではゲーム制作経験もなく、30代半ばでゲーム業界に飛び込んだんです。

──え?

浅野氏:
そのときヘキサドライブに入社して現在に至っています。それまでのベースはイラストレーターで、メガネ屋で働いていたときも副業でイラストを描いていて……。ヘキサドライブでもイラストの仕事はずっとやっていました。

──想像以上に意外なお話でした。ゲーム業界に対しての憧れや、ゲーム業界に入るきっかけがあったのですか?

浅野氏:
原体験みたいなところをお話すると、10代のころ、雑貨屋でバイトしていたとき、時計探しに困っているおじいさんが来店されて、そのときはとくに何も考えずにただ時間をかけて親身になって接客したんですが、後日、本社にお礼状が届いたんです。

まず、この「人にお金を払ってもらって何かを与える」という体験が大きかったというのがひとつ。必要なものをお届けしてよろこんでもらえる、ということが自分の中でとてもしっくりきたんですね。

その後、メガネ屋さんでも 「困っていた、ありがとう、助かった」ばかりだったので、「ワクワクした、うれしい、対価を払いたい、楽しい」をやりたいと考えるようになり、インタラクティブに体験できるものを届けられるゲーム業界を選びました。

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──『リイマジンド』が初アートディレクターということですよね。驚きなのが処女作であるにもかかわらず、これまでお話いただいたような、ふつうだとなかなか気づかない考え方、制作手法、チームのまとめ方をされているのが信じられないというか。

浅野氏:
仮説検証するクセがついているからかもしれません。すべての物事というか、いまいる部屋の壁の角の尖り具合がどうなっていて、なぜそうなったのか。そういう細かいひとつひとつに対して仮説を立てて検証するのがクセになっているんです。

ですので、人形というコンセプトを与えられた時点で、僕の中で仮説検証が始まっていたんですね。「人形を与えられました、これで作ってください」となったときに、「つまりスクウェア・エニックスさんとしては売上をしっかり立てなければいけない」となり、「売上を立てるということは、多くの人に届けないといけない」となる。

そして、多くの人に届けるのであれば、世界中の人に届けないといけないってことだよな、と。でも、ただ作るとなると、物量も多くなるし、好き勝手に作ってもお金が足りませんとなるし……といったことを考えていきました。

そして、最初にお話した『ドラゴンクエストVII』のもともとの構造と、プレイステーション時代に3Dの見下ろしでカメラを回す初めての「ドラゴンクエスト」だったというところから、原体験をテーマにしようと決めていったんです。

──ご自身の中で完成形は最初からもう見えていたと?

浅野氏:
そうですね。ビジュアル体験の完成形は最初の1、2週間で概ね見えていました。だから開発中の監修では、迷うことはほぼなかったです。誰に何を聞かれても、全部答えられたというか。

ヨコオ氏:
アートディレクションとしての1作目で、しかも「ドラゴンクエスト」のリメイクでこれというのは……。最初は「すごいな」と思って話を聞いていたんですけど、いまは若干、浅野さんが怖いです(笑)

ちょっといろんな意味で怖いですね。よくしゃべるし(笑)。八木さんは浅野さんに最初どういう印象を持ったんですか?

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八木氏:
僕も初めてお会いしたときに「めっちゃしゃべるなぁ」とは思いました(笑)。ただ、制作時の細部へのこだわりは当初からすごいと感じていましたね。

たとえば、アイラの踊りのシーンでは「もっとかわいく」と、ずっと調整を続けていて……。僕らから見て「もう十分」だという状態でも「もうちょっとなんです、もうちょっと……」とアイラの肩の調整をされていたんですね。

浅野氏:
お客さんがとても気にされているシーンですからね。

八木氏:
踊りのシーンは原作ファンのみなさんの注目度も高く、絶対に気にされるところですから、気持ちとしてはわかるんですけども、浅野さんはいっさい妥協しないというか。

浅野氏:
踊りのシーンでは、最初のポーズ、カメラ画角を意図的にオリジナルと同じにしています。

藤坂氏:
絵描きというかイラストレーターが出自の方って、ちょっとアート寄りに行く人が多いんですね。でも浅野さんは理屈で組み立ててベストを尽くすやり方をされていて……。

浅野氏:
メガネ屋さんは、お客さんの視力を測って、かけ具合を調整して、メガネのデザインを選んで、というのをすべて一環でやるんですね。その中で「このデザインはかっこいいけれども、この人の頭の形だと外れやすい」とか、「この人はこういうかけ方をしたいと言っているけど、このままだと壊れやすい」とか、「かけ方でピントの位置(アイポイント)をどこに合わせるのか」とか、すべて設計しないといけないんです。

この経験の中で、さきほど話した仮説検証を実体験とともに身につけていったというか。

藤坂氏:
「だからかな」と思ったのが、アート寄りな方がドールルックと向き合うと、おそらく『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』とか、『サウス・オブ・ミッドナイト』の方向に傾倒しちゃうんですよ。でもそうすると色味が暗くなっちゃうんですよね。その呪縛にアート寄りの人は捉われてしまう。

でも、浅野さんはイラストレーターという出自でありながら、シルバニアファミリーとか、ポップなほうに目を向けられていて。だから「ただものじゃない」感がすごくあります(笑)。

感性ではなく計算ずくだった。建物の2階がちょっとだけ低い「強化遠近法」

ヨコオ氏:
藤坂さんが言われたように、ポップなデザインメソッドで完成しているとしても、このクオリティに達するとは思えなくて。やっぱり根っこになんか何かしらのアートへの傾倒がある気がするんですよね。

たとえば、背景担当にすごく優秀な方がいらっしゃったというお話でしたが、ジオラマを作ろうとなったときに、スケールを小さくするだけでは成立しませんよね? 当然、デフォルメをかけなければいけないのですが、建物だけならいいんですけれど、自然物とか木、道の縁石もあったりする。

そうなると、感性だけだと仕上げるのは難しくて、いかに人形劇っぽくするかというのはバランスがすごく難しいんですけど、『リイマジンド』はちょうどいいところに落ち着いていて。

浅野氏:
そのアプローチについても、プリプロ開始ごろにはスタッフに伝えていました。たとえばですが、 建物をよく見ていただくとちょっと仕掛けがあって。じつは2階がちょっとだけ低いんです。

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© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX

藤坂氏:
なるほど! 強化遠近法【※】を使っているんですね。

※強化遠近法(フォースド・パースペクティブ)……建物の1階を通常の縮尺の100%、2階を70%、3階を50%といったように、上層階に行くほど比率を小さく設計すること。ディズニーランドで用いられている建築や空間デザインの技術として知られており、実際のサイズよりも建物が高く、奥深くそびえ立っているように錯覚させられる。

浅野氏:
フォースド・パースペクティブ形式にすることで、カメラで見たときに1階の入り口と2階のスケールが合うようにすると同時に、カメラを回したときに建物がジャマにならないようにしています。

あと、石畳の横にある縁石はスプライン【※】で引いていて、そのベースとなる石ブロックのアセットは意図的にランダマイズ(ランダム性を持たせる処理)しています。これにより作業者に依存しない仕組みで自然な印象を生み出すようにしています。

キャラクターモデラーにも背景モデラーにも、とにかく「スケール」と「質感」を徹底的に仕込みました。大前提としてアセットがあって、ライトが当たって影が出る。その陰影が、画面の中の情報量としてどのぐらいコントラストして適切に出るか。

石畳の縁石も、ちょっと隙間を空けることで隙間に数ピクセルの影を作るとか。あとは上を見ている面、地面や屋根に関しては、カメラにいちばん映るので表情豊かにするため明確に質感を出して、一方で垂直面の質感は、カメラからみて角度がきついことにより反射で色が変わって見えてしまうことがあるのでほぼなくしています。

※スプライン……少数の点を基準にして、それらを結ぶなめらかな曲線やアニメーションの軌道を生成・制御するためのデータ構造。

藤坂氏:
浅野さんは本当に頭がいい人なんだと感じました。強化遠近法はデザイナーの中では有名ですが、ゲーム業界で働いていると、アイデア・知識があったとしても理解してもらえない可能性が高く、口に出さない人がほとんどだと思うんですよ。

『リイマジンド』のアートを最初に見たときに、絵にまったく固執がない人か、すごく頭のいい人が作っているんじゃないかと感じていたんですね。変なこだわりが強すぎると「ここはこうしたい」というのが強く出てしまう。でも、そうじゃなくて、まさに「こうするために作っています」という、ある種、ロボットみたいにやっているなと。あ、これ褒め言葉ですよ(笑)。

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八木氏:
浅野さんから理屈じゃない返しをされた覚えがないんですよね。「ここはこうしたほうが良くないですか?」と僕から振ったときに、必ず「なんでこうなっているかというと、こうこうこうで、こうなんです」と理屈をきちんと説明してくださって。「なんとなくこっちのほうがいい」みたいな言われ方をしたことがないんですね。

浅野氏:
「伝えきりたい」という思いが強いんですよね。たとえば「こうしたほうがいいよ」と言って、スタッフがそれに「はい」と返してきたときに、僕はそれを「いや、伝わってないな」と認めないこととかもあって(笑)。「はい」と言ってきたときの、その「はい」がどのぐらいの「はい」なのかを点検したりしていました。

ヨコオ氏:
さきほども言いましたが、今日の取材で再現性を学んで今後の仕事に活用したいと思ったんですけど、やっぱり無理ですね(笑)。

体制やシステムが功を奏しているのではないかと思っていたので、結論として「そのシステムを使って今後の「ドラゴンクエスト」を作ってほしい」という、システム的な成功の継続を望んで終わるのかと予想していたんですけど、今日のお話を聞く限り、浅野さんの「狂気」で成り立っているのがわかってしまった。

アートディレクターの人って「俺が全部やった」みたいな大きいことを言う人が多いんですけど、僕と藤坂さんが話を聞いて「本当にこの人が全部やったんだな」ということが細かなディテールまで含めてロジカルに説明してくださったので納得しかないというか。

だから結論としては、「こういうことをやりたいときは浅野さんに発注するのがいちばん」ということですね(笑)。

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浅野氏:
(笑)。ただ、決して僕だけの力ではなく、チーム全員、そして本当にリーダー陣がみんながんばってくれました。「こういうロジックなのでこうやってくれよ」という結果だけ伝えるやり方はまったくしていなくて。

最初にいろいろ伝えたときに、「なぜか?」というのを必ず加えていました。その「なぜか?」の答えを考えて出してもらうよう意識していました。スタッフに対しても「「なぜか?」のこの部分はよくできている。でも、ここがちょっと違う伝わり方になっているから引いて見てみてよう」と返したり。本当にずっとそのサイクルを繰り返しました。ですので、開発の最後のほうではツーカーで回るようになっていたんです。

スタッフそれぞれの得手不得手とか人材マネジメントみたいな話になっちゃいますが、そこを適切に言い続けるというのは、みなさんもやってもいいんじゃないかなと思います。

ヨコオ氏:
手段が真っ当すぎて逆に「狂気」を感じます(笑)。

──(笑)。ルックだけではなく、テンポ感や触り心地など、ゲームとしての手触りもすばらしい仕上がりじゃないですか。初のアートディレクションでそこまでできているのも異質だと思うんです。

浅野氏:
最終的なテンポ感などは八木さんや開発ディレクターにしっかり仕上げてもらっていました。そのうちフィールドや町を走る体験の基礎は最初の村であるフィッシュベルで作りました。

スケールって自由にできちゃうじゃないですか。コンパクトにしてテンポをよくすることもできますし、広くして時間をかけさせることもできます。そこで基準としたのは「プレイヤーが俯瞰の状態で走っていったときに、カメラに何も映ってないと疲れてしまう」ということです。
たとえば、「走っていたら町の人がひとりカメラに入ってくる」、「町の人に話しかけたいなと思って移動したら、階段が見えてくる」といったものを1スケールの基準として作りました。それを賑やかな町とそうじゃない町で調整していったんですね。そうすることで、テンポ感は高いけれども、広すぎず狭すぎず、となる。

一方でフィールドマップはめちゃくちゃコンパクトにしているのですが、ここはディレクター時代にプロデューサーと話して割り切ったところなんです。往復が多い本作なので、広大なフィールドを走り回るのは最小にして、「レベル上げはダンジョンでやろう」と。

フィールドは「拠点間の移動」と割り切ったんですね。もちろん、「ここまで小さくしちゃうと、ポイント移動でいいんじゃないか?」とか、「「ドラゴンクエスト」における移動とは?」という議論をたくさん行ったうえで決定しています。ですので、当初から移動距離とか動きみたいなところのテンポ感はかなり意識していました。

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© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。元ファミ通.com編集長。1990年代からゲームメディアに所属しており、これまで500人以上のゲーム開発者、業界関係者、著名人インタビューを手がける。1970年代後半からアーケード、PC、コンシューマーゲームにのめり込み、『ウィザードリィ』のワイヤーフレームで深淵を覗き、現在に至る。
Twitter:@Famitsu_Toyoda

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