Blenderを使って自分で一度配置を決める。4階調化による「輝度での整理」という発明
浅野氏:
ほかにこだわったのは、さきほどお話した強化遠近法で2階を低くしてるところとカメラです。オリジナルの『ドラゴンクエストVII』はカメラを回す遊びが取り入れられていましたが、カメラを回して遊ぶというのは人によっては酔ってしまったり移動とカメラの操作が煩雑に感じることもあります。
『リイマジンド』ではそのカメラの回転にこだわっていて、「45度ぐらいのカメラ回転」で全部見えるように作ってるんですよ。
グランエスタード城下町でもフィッシュベルでも、建物がマルチプレーン(多層的)にズレて、カメラを少し回すとつぎの入り口がスッと見える。極端な話、カメラを回さなくてもある程度は気持ちよく走れるように、最初から設計しているんです。
テンポ感と手触りがプレイヤーのストレスに関わる部分だと判断して、隠れすぎて90度回さないと見えない、といった場所は作らないように建物の高さを低くしたり、配置調整をしたりしました。
八木氏:
「角度はこうしたい」とか、「もうちょっとこうしたい」という話は、開発中にすごくありました。
ヨコオ氏:
3Dで作っているけれど、ジオラマや人形を「こっちから見る」というデザインを意識されていて、ゲームをプレイしていてもストレスないものになっているんですよね。
……でも、それを1作目で仕上げてくるのはやっぱり怖い(笑)。ふつうは絵ができて、動かしてみて、回してみたら「これ見づらいけど、もうできちゃってるからこれでいこうか」とかなるのに、最初から正解を導き出しているというのが……1作目なのに。
浅野氏:
そういった仮説も検証してスケールや配置を決めたかったので、フィッシュベルのWhitebox【※】は自分で作りました。これでいくという確信を得たかったので。
※Whitebox(ホワイトボックス)……3D空間のレベルデザインやプロトタイプの段階で、立方体や円柱などの単純な図形を用いて、動線や遊びのおもしろさをテストする手法。
ヨコオ氏:
『リイマジンド』はUnreal Engineで作られていますが、WhiteboxもUnreal Engine上で作られたのですか?
浅野氏:
いえ、プロジェクトが始まるまでUnreal Engineをそこまで触っていなかったので、最初はBlender【※】で作りました。いったんBlender上ですべて配置して、動画を撮影し、データを背景アーティストに渡して「Unreal Engine上に、このとおりに建物を配置してください」とお願いして。
Blenderで伝えるのがいちばん早かったので、ダークパレスの外観やラスボス戦周辺のマップも僕が一度Blenderでラフを作りきってから、背景アーティストに渡しています。
※Blender……3Dゲームのキャラクターや背景などの3Dモデルを作るための3DCG作成ソフト。
ヨコオ氏:
聞きそびれていたんですけど、最初にお話のあった「一度モノクロにしてみる」というのは、モノクロで見たときの明暗バランスとか、全体的な認知のバランスを見ていくためにやっていたのですか?
浅野氏:
コントラストのバランスとして「輝度を見る」という感じですね。とくに効果があったのが、白い花や白い皿とかでした。ほかには、地面みたいな質感が伝わりやすいところって、遊んでるとよく目にするので、都度モノクロにして適宜修正を加えていきました。
一度そうやると、現場がそのあとも自分たちが見てくれるようになるんですよね。でも、いちばん効果があったのは「4階調化」です。
藤坂氏:
試したことがないので詳しく知りたいです。
浅野氏:
たとえば、一見すると下から上にかけて黄色のグラデーションがかかっている草があるとします。ぱっと見たらちゃんとした草なんですけど、なんとなくしっくりこない。そのときに、作った草と実際の草の画像を4階調化するんです。
そうやって比較すると、実際の草は4階調化したときにランダム感みたいなのが入っていることが視覚的にわかるんですよね。一方、作った草を見てみると、途中で緑と黄色に切り替わるような絵になっていたりする。そこで「このままだとダメだよね」と気づくわけです。
藤坂氏:
あー、モノクロにした途端にのっぺりしちゃっているのがわかると。
ヨコオ氏:
絵で言うとグリザイユ技法【※】というか。欧米では使う人はたくさんいますが、日本でやってる方はあまりいませんよね。
たしかに色がいっぱい載っていて「何をもって整理するか」というときに、輝度でまず整理するというのはひとつの発明かもしれない。日本人ゲーム制作者が知らない知見として役立つと感じました。僕もほかに類例を知らないので、よくそれを思いついたなと。
藤坂氏:
4階調化はツールでやっていたのですか?
浅野氏:
いや、ふつうにスクショを撮って、Photoshopで4階調化しています。
スタッフにも「こっちがリファレンスして出した芝生。で、これがあなたが作った芝生だよ」と実際に比べてもらって。4階調化してみたらこうなる、2階調化したらこうなる、と徹底して見比べてもらいました。
ブラーに関しては、「ブラーを30%かけたときに、あなたが作った芝生は質感が消えてるよね。一方、実際の芝生はジオラマのパウダーみたいな質感がある。ボケてもつぶつぶ感が残るように入れてみよう」とか、「ほら、これが低周波ノイズ【※】だよ」と見比べてもらいました。
※低周波ノイズ……自然界に見られるような「規則性はないが、連続性のあるランダムな模様」を作り出す際に使われる用語。低周波ノイズ(周波数が低く、変化がなだらかなノイズ)はおもに全体の大きな地形の生成に使われる。
ヨコオ氏:
浅野さんは、感性でしゃべっているところとロジックが入り混じっているのがものすごくイカれてて好きですね(笑)。「低周波ノイズ」にも触れているわけですから(笑)。
浅野氏:
ここはもう徹底してやりました。ライトと背景のスタッフをセットで呼んで、「ライトを何十何度で当ててみよう」とずっと検証したり。
トンコハウスのワークショップで培ったカラースクリプトの考え方
ヨコオ氏:
「仮説検証」という話がありましたが、浅野さんは「目がいい」タイプの人なんですかね。要は観察がしっかりとできて、それを落とし込むロジックがある……。絵を見たときに「ああ、いいね」じゃなくて、「どういう理由でこうなっているのか」、「なぜこういう風になるのか」、「再現するにはこうすればいい」ということをすごく上手にされている。
『リイマジンド』からはアートの全体的なクオリティが高いことと、「欧米のクオリティの高さ」を感じたんです。日本と欧米って、美術教育というか作り方のプロセスがだいぶ違いますよね。立体感や輝度を重視したり、ディズニーランドの建築にも使われている技法をシステム的に取り入れたり……。
デザインを「気持ち」じゃなくて「システム」から紐づいて作るのは、欧米のアートの作り方に近いと僕は思っているんですけど、そのあたり浅野さんご自身はどう意識されているのですか? ロジックと美しさが共存しているという意味では、ディズニーとかピクサーの画作りにすごく近いと思ったので。
浅野氏:
イラストレーターとしての目線という部分もありましたが、絵を描く勉強を独学で始めたときに、国内のいろいろな絵の描き方って「アニメの描き方」だったり、「こうすればこの形になるよ」みたいな結果ありきの話が多かったんですね。
頭打ちを感じたことがあったのですが、ちょうどトンコハウス【※1】さんのワークショップに参加できる機会がありまして。ワークショップに参加している中で、カラースクリプト【※2】の考え方とかを学ばせてもらいました。
※1 トンコハウス……ピクサーでアートディレクターを務めていた堤大介氏とロバート・コンドウ氏が2014年に設立したアメリカのアニメーションスタジオ。
ヨコオ氏:
トンコハウスの堤大介さんはすごくきれいな絵を描かれる方ですよね。ピクサー作品でいうと『モンスターズ・ユニバーシティ』とか。
浅野氏:
カラースクリプトは、日本ではまだなかなか……。いまはちらほら聞くようになりましたが。でも、トンコハウスさんのワークショップで学んだ考え方は、とても大きかったですね。
藤坂氏:
そういった、いわゆる日本のオタクアートカルチャーの延長線上ではない感じは、『リイマジンド』から漂っていますよね。しかも、「ドラゴンクエスト」にすごくフィットしている。日本だと任天堂さんもその類というか、さらに特化しているというか。
浅野氏:
『リイマジンド』はイラストっぽく残しているところもあるんですね。ジオラマ的な質感を出しつつも、色使いはかなり意識していて。全体的に通常の「ドラゴンクエスト」よりも彩度を低くしています。
そのうえで青色の彩度は残していて……。「ドラゴンクエスト」は青色で引っ張れるんですよね。この青色をシアンに寄せちゃったりするとかなり印象が変わってしまうところもあって。
「ここで使う青、ここで使う岩の茶色、ここで使う芝生の緑」というのは、最後まで調整しましたが、コンセプトアートでは最初のほうに概ね決めきりました。
ヨコオ氏:
影がうっすら青に寄っていると思うんですけど、その相性もバランスよくまとまっている感じがします。でも、このロジックを聞いて「じゃあ影を青にすればいいんだな、青を強くすればいいんだな」とやっても、絶対に『リイマジンド』のようにならないんですよね。
浅野氏:
影色……影の濃さと色は最後の最後まで描画プログラマーやライティングアーティストと相談して調整しました。すべての機種で表現できなければいけないので、描画プログラマーはすごく苦労したと思うのですが、本当にがんばってくれました。
ヨコオ氏:
エレメントを取り出すだけでは語りきれないですね。「全体的なアートディレクションを浅野さんが見ていたからできた」というのを今日の結論にします(笑)。
今日聞いたお話、チームに持ち帰ろうと思わないですからね。持ち帰っても再現できない。だからこそ、この記事はデザイン界隈にはすごく学びのある話だと思います。
最初にがっつりと感性が強い人がやらないと、みんなバラバラの方向に向かっていっちゃうというのがよくわかりました。
浅野氏:
「最初に」という話でいいますと、モンスターは固有の質感を個別に作るのはたいへんなので、「この世界で使う質感」を初めにキャラクターモデラーにリストアップしてもらいました。「皮はこれ」、「竜の皮膚はこれ」といったリファレンスをリスト化し、「じゃあ、こいつの体はこれを使おう」というリストをまとめていったんです。
でも、「この質感です」だけで終わらせてしまうとダメなんですよね。「このモンスターはこういう動きをする。ガチンガチンと動く場合は硬質感を持たせ、伸び縮みする動きだったら柔らかい質感」とチームに伝え、そのモンスターがゲーム中にどう動くのかをイメージして作ってもらうことを徹底しました。
背景アーティストにはレベルデザイナーとしての目線を持ってほしかったですし、「できました、渡しました」ではなく、制作するうえで必ずオーバーラップしてもらいました。

藤坂氏:
ちょっと細かいところをお聞きしますが、人形からモデルに移行するときにどうやって作られたんですか?
浅野氏:
大きなところでいうと、スキャンしたテクスチャは使っていません。
まずスクウェア・エニックスさんのほうでフォトグラメトリを全部撮っていただきました。ヘキサドライブにはハイモデル(高ポリゴンモデル)が届いて、そこから先はすべて手作業で作り上げていったんですね。ですので、主人公の服の質感などもすべて置き換えています。
ヨコオ氏:
そのままでは使えなかった理由があったんですか?
浅野氏:
主人公を例にお話すると、フォトグラメトリのテクスチャなのでとてもリアルではありますが、汎用性や制御の面で問題がありました。毛羽立ちもちょっとあったり。
カメラの距離なども考えて立体的な毛羽立ちの表現はなしにして、代わりに表面のファズ(綿毛状の質感)と、回り込んだときにちょっと光って見えるフレネル【※】を疑似的に置き換えることで、あのウール特有の質感を表現しました。
さきほどお話した4階調化とグレースケール化でいちばんチェックしたのはここです。すべてのキャラクターで確認し、置き換えていきました。
※フレネル……物体の表面を見る角度によって、反射の強さが変わる光学的な性質のこと。3DCGでは「正面からはあまり反射せず、斜めや縁に近づくほど光って見える」という効果として実装されており、布や皮膚など現実の素材のリアルな質感表現に広く使わる。

藤坂氏:
主人公たちの立ち姿もきれいなんですよね。肩の落ち具合とか、CGから作るとああはならない気がしていて。「Tスタンス(両手を広げた状態)」から作ると、肩が上がり気味になったり、シルエットが崩れたりしがちなんです。でも、『リイマジンド』はそうじゃないですよね?
浅野氏:
じつは特殊なのですが、Tスタンスから作っていないんです。人形の立ち姿をモデル作成の描画ベースのポーズにしています。ですので、制作中は腕を上げたポーズのときが逆にたいへんでした(笑)。
ヨコオ氏:
それもモーション担当の方が嫌がりますよね。
浅野氏:
いろいろありましたし、たいへんでしたね。リギングアーティストががんばってくれました。
ヨコオ氏:
Tスタンスで作ると動かしやすい。でも曲げるときに干渉がある。モーションスタッフの方は、オブジェクトの埋まりをすごく嫌がりますよね。だから、なるべく隙間を作りたい。だけど、そうすると関節が痩せていく現象がある。
でも『リイマジンド』はTスタンスから作らず、結果的にすごくうまくいっている。電ファミさん、「埋まりは怖くない」と太字で書いてください(笑)。
浅野氏:
あと顔が大事でしたね。人形のままだとどうしても「不気味の谷」が出てしまうので。
ヨコオ氏:
なるほど。本当に繊細なバランスで成り立っているんですね。
世界的に見てもトップクラスの絵柄で、ディレクションがものすごく理にかなっているし、欧米のテクニックも取り入れている。でも、みんながそこに気づかないと売上には直結しないわけで。『リイマジンド』のすごさをどう伝えるのが正解なんでしょうね……。
藤坂氏:
「アートに固執して採算度外視で作ってます」ではなくて、理路整然と作っているからこそできたわけじゃないですか。浅野さんタイプのデザイナーはプロダクト(製品デザイン)分野には多いと思うんですが、ゲーム業界には少ないタイプですよね。



