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コラム:「攻略法」と「裏技」と「チート」の違いとは

 本編では、ビデオゲームの「裏技」を「コンピューターゲームで、正式には知らされていない効果や現象を起こす方法のうち、通常のゲーム進行からの類推や発見が困難なもの」と説明した。ここからは、「裏技」と比較的近い位置にあり、混同されることも少なくない「攻略法」「チート」、そして「改造」が、「裏技」とどの程度同じで、どのあたりが異なるものなのかを、より詳しく考えてみたい。

考察1. 「裏技」と「攻略法」の関係と違い

 最初に、「裏技」と「攻略法」との関係を考えてみよう。より一般的と思われる「攻略法」を「A」、「裏技」を「B」として、さらに開発者の意図の有無を「1」と「2」という形で分類すると、以下のようになる。

  開発者が説明書やゲームの中で
A-1攻略法意図した明示されている
A-1′意図した明示されていない
A-2意図していない明示されていない
B-1裏技意図した明示されている
B-1′意図した明示されていない
B-2意図していない明示されていない

 まず、開発者が意図した技が、説明書やゲーム中でも手法が明示されている場合、つまり「A-1」と「B-1」について考える。このふたつの大きな違いは、それをプレイヤーに発見されることを、開発者がどの程度期待しているかにあると言える。「A-1」、中でも説明書に記載されているものは、「すべてのプレイヤーが知っていてほしい」と期待されているものと考えられるが、一方で「B-1」は、本編で触れたファミコン用『ドルアーガの塔』のように、上級者などの限られた層に示されるもので、説明書に明記されることは少ない。

 この構図は、「A-1’」と「B-1’」のあいだでもほぼ共通している。「A-1’」、つまり開発者が意図したが、明示されていない攻略法は、おおむねプレイヤーがゲーム中に盛り込まれた規則性を習得し、あるいは何らかのヒントになる現象を手がかりにすることで、導き出せるようになっている。これに対し「B-1’」、つまり開発者が意図したが明示されていない裏技は、本編で述べたとおり、そもそもゲーム内にヒントらしきものがまるでないことも少なくない。

 この「A-1’」と「B-1’」の違いは、たとえばアドベンチャーゲームやストーリー重視のRPGのようにエンディングが用意されている作品や、パズルゲームの一部など、プレイヤーが成功裡にゲームを終わらせることができるものでは、よりわかりやすく現れる。このようなタイプのゲームでは、プレイヤーが成功に到達するために開発者が意図した手順、いわば“解法”があることが少なくない。その手順に不可欠な手法は、基本的に「攻略法」の範疇で、「裏技」とは呼ばれないと考えていい(『ドルアーガの塔』も含め、1980年代前半のゲームには、裏技じみた解法が求められるものもあったが)。

 これらに比べて、「A-2」と「B-2」の違いはかなりあいまいだ。ゲーム中のパターンや規則性から、開発者が意図していなかった攻略法が見出されたビデオゲームは、決してめずらしくない。パズルゲームには“別解”が発見されることもあるが、これは本来期待されているルールの中で実現されているかどうかで、攻略法と裏技のどちらの色が濃いかが変わってくる。

 ここまでを総合して、「裏技」と「攻略法」を比較したとき、「裏技」に該当するものは、多くの場合、次のいずれかの特徴に当てはまると考えられる。

・発見するためのヒントが難解、またはヒントがそもそもない。もしくは、ある程度上級のプレイヤーや、長時間遊んだプレイヤーに対してのみ手法が開示される。

・ゲーム内のルールなどの不備を突くことを含め、常識的な遊びかたからの発想の転換や飛躍がともなう。

・プログラムのバグを利用するなど、ゲーム内で本来期待されているルールを曲げる。

 これらをごく簡単にまとめると、「裏技」と「攻略法」の違いは、見つけるのが難しいかどうかにかかってくるということになる。これが、本編で述べた「ゲーム内の事象を裏技と認識するのに必要な要素」のひとつ目の「希少性」にあたるというわけだ。

 もちろんこれには例外もある。そのひとつが、「桃太郎電鉄」シリーズの『スーパー桃太郎電鉄II』から導入された「うらわざ」機能だ。これは「うらわざ」と名乗ってはいるものの、誰もが使える便利な機能と位置づけられ、希少性はまったくない。先の表に当てはめれば「B-1」になるが、むしろ、一般化した意味の「裏技」がゲームに逆輸入された形と考えるのが妥当だろう。

考察2. 「裏技」と「改造」の関係と違い

 次は、「裏技」「改造」「チート」の三者について。本編でも触れたが、「裏技」には、そのゲーム本来のルールを曲げる手法が含まれる。しかし、ゲームのプログラムやデータを改造する手法でも、ゲームのルールを曲げることは可能だ。そしてこれらに類似した行為は、最近は「チート」と呼ばれることもある。

 まず、「裏技」と「改造」の関係を見ていこう。パソコンゲームの日本での黎明期にあたる1980年代序盤までは、市販ソフトの流通網はまだまだ整備されていなかった。そのため、パソコンでゲームを遊びたければ、雑誌や書籍に掲載されている、プログラムを文字で印刷した「リスト」を、ユーザーが自力で入力するというのが主流だったのだ。

 このような雑誌や書籍の記事は、読者のプログラム技術の習得を促す観点から、フローチャートなどのプログラムの内部情報や、ゲーム内容の変更のポイントが示されることも多々あった。これらの既存のゲームのプログラムを改造するところから、プログラミングの習得を始めていったユーザーも、決してめずらしくない。なにしろ、『ドラクエ』の堀井雄二氏にも、パソコンを買って間もないころに、改造したゲームを知り合いにやらせておもしろがっていたという逸話があるほどだ。

 こういった事情から、パソコンゲームでは、ユーザーによるプログラムやデータの改造・改変はわりとありふれた手法となっており、市販ゲームソフトの改造情報を売りにするパソコン雑誌も現れた。しかし、RPGの“終了認定証”を送付するという販促キャンペーンを行っていたゲームの発売元が、そのゲームの改造情報の雑誌掲載に抗議し、終了認定を取り止めて物議を醸したこともある。真面目にゲームを最後まで進めたプレイヤーと、改造で終わらせたプレイヤーを、同じ扱いにはできないというわけだ。

 一方、ファミコンなどの家庭用ゲーム機では、カートリッジ内のROMに入ったプログラムを改造するのは通常は不可能だし、RAMのデータを変更するのも容易ではない。このため市販ゲームの改造が、ファミコン雑誌で取り上げられることは、当初はまずなかった。しかしハドソンの『ボンバーマン』など、プレイ経過の情報を盛り込んだパスワードでゲームの続きを遊べる作品が登場すると、そのパスワードを改変する手法が現れた。

 また『スーパーマリオブラザーズ』では、通常のゲームでは出てこない未知の場面で遊べるという噂が大きな話題になった。これは、ROM内の場面データを読み出す位置を示すRAMの値が想定外になった場合に起きるもので、ついには、本体の電源を切らずに別のゲームから『スーパーマリオ』にカートリッジを差し替えることでこの値を変更するという、強引な手法が試みられた。しかしこれはもちろん、本体やカートリッジの故障につながる危険性があるものだった。

 こののち、RPGをはじめ、家庭用ゲーム機のソフトの規模が大きくなると、プログラムのバグを利用してRAMのデータを間接的に変更する手法も登場した。本来出てこないはずのアイテムを出現させたり、1個しかないはずのアイテムを複製したりなどというのがその典型例だ。ただしこれらは、バッテリーバックアップのRAMを使ってデータを保存する作品では、正常なゲーム進行を不可能にする懸念もあった。

 このように裏技の中でも、ハードウェアやソフトウェアに致命的な問題を発生させかねない手法は、比較的マイナーなゲーム雑誌の格好のスクープネタになる一方で、発行部数が多く低年齢層への影響力の大きな雑誌では、説明を自粛する、または読者に実行しないよう注意を促すこともあった。そのためこれらの手法は、裏技の中でも、ややアンダーグラウンドな雰囲気をまとうことになる。

 また一部のマニアのあいだでは、ファミコンブームの盛り上がりにつれ、自作のハードウェアや改造したゲーム機本体を介して、ゲームソフトをパソコン上に複製して改造することが話題になった。さらに1990年代に入ると、ゲームジニー【※】などの改造ツールが海外で話題になり、日本にも輸入された。しかしこれらのハードウェアや、ゲーム機本体の改造は、当然ながら任天堂をはじめ、ゲーム機本体の発売元が公認しないもので、これもやはりアングラな雰囲気を帯びていった。

※ゲームジニー
1990年代初頭に登場した、家庭用ゲーム機向けデータ改造ツール。最初に発売されたものは、NES(北米版ファミコン)の本体とカートリッジのあいだに咬ませて使用するものだった。アメリカで任天堂によって提訴されたが、この場合の私的改造は著作権を侵害しないとの判決が下り、以後他ハードの姉妹品が登場する。

 いずれにしても、ゲームソフトのプログラムやデータの改造は、裏技と完全に別個のものとは言いがたく、とくにデータの改造は、部分的には裏技に含まれると考えられる。しかし、ゲームソフトの中だけでは操作が完結しないものについては、カートリッジやディスクを入れ替えるようなごく単純な手法を除けば、裏技と認識されることは多くないと言っていいだろう。

考察3. 「裏技」と「チート」の関係と違い

 一方「チート」は、ファミコンブームよりもずっと後、1990年代中盤に英語圏から持ち込まれた呼びかただ。英語でのそもそもの意味は「ズル」で、ビデオゲームでは基本的に、日本で言う「裏技」や「改造」によってゲームを易しくすることを指した。かの有名な“コナミコマンド”などは、英語で分類するならチートということになる。

 日本でゲームに「チート」という言葉が使われるようになったきっかけとして考えられるのは、ネットワーク上などで配布され、登録料を支払うことで全機能が利用可能になるソフト、いわゆる「シェアウェア」への注目が高まったタイミングだ。日本では1992年末以降、海外で主流のIBMの互換パソコンを日本語対応にするOS、つまり“DOS/V”を採用した機種が安価に出回り始めた。さらに1993年にはWindows3.1の日本語版も発売され、インターネットがまだ一般に普及していないこの時代、これらの環境で利用できる海外製のシェアウェアを、フロッピーディスクで添付した書籍が続々と刊行された。

 海外製のシェアウェアのゲームには、登録の特典としてチートが利用できるようになるものが多く、先のような書籍では「裏技」と説明されたり「チート」と書かれたりしていた。その中で日本でも大きな話題になったのが、1993年末に登場した『DOOM』だ。開発元のid Software公認のガイドブックが日本語に翻訳されて、1995年初頭に発行されたが、そこには「チートコード」と書かれていた。

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『公式DOOMサバイバルガイド』(インプレス・1995年)より
(画像:編集部撮影)

 このように見ていくと、「チート」は「裏技」や「改造」を、その目的あるいは効果から分類した呼びかたのひとつと言える。ビデオゲームの裏技や改造の主要な目的のひとつが、攻略をより有利にするためなのは疑いようがない。したがって、「チート」が「裏技」や「改造」のかなりの割合を占めるという考えかたもあり得る。だが日本では、2010年代中盤の現時点では、オンラインゲームでのプレイヤー間の公平さを損なう行為、あるいはアンダーグラウンドな手法でのプログラムやデータの改造を除くと、これらは「チート」とは呼ばれにくいように見受けられる。それだけ、「裏技」が広く定着していると言えるだろう。

 ところで昨今、オンラインゲームのチートにまつわる刑事事件が発生しているが、そのようなチート用のソフトや情報を販売している側は、「チート」という言葉はあまり使わず、「裏技」などの表現で代替しているようだ。これはもちろん、「裏技」のほうが通りがよいということもあるはずだが、事件の報道を通じ、「チート」という言葉に法に抵触するというイメージが付け加えられていることも無縁ではないだろう。

 本編で述べたように、ビデオゲームにおける「裏技」という言葉は非合法な「裏モノ」の影響を受けて誕生した可能性があるわけだが、それが現在では逆に、違法行為の隠れミノとしても使われていることになる。皮肉な話ではあるが、これもまた、日本語の「裏」という言葉のふところの広さを示す一例ということになるのかもしれない。

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