あらためて言いますが、筆者はゲームが苦手です。そしてもう一つ、コワイのが苦手です。なのに今回の題材は、ホラーゲーム『青鬼』。
なぜ!? どうして!? これはもう、人選と企画が間違ってるよ!
無人の館をビビリながら探索していると、不気味な旋律とともに、頭のデカイ真っ青な巨漢が出現! モノも言わずに、追いかけてくる。
慌ててドアを開けて廊下に逃げ出す。青鬼の頭はドアよりデカイから「これで一安心」と思っていると、青鬼はなぜかドアをするりとくぐり抜け、平然と追いかけてくる! でーっ!
この青鬼は、本当に不気味だ。
デカいのが怖い。青いのが怖い。目が大きくて怖い。無表情が怖い。無言なのも怖い。そして何より、巨顔でバランスが悪くて怖い。もうナニモカモ怖い!
これに追い詰められ、接触されると、画面暗転。「GAME OVER」。わーっ! 筆者としては、これも怖くてたまらん。
接触されると、なぜ死ぬの? 食われるの? 踏まれるの? ヒネリ潰されるの? いや、知ったら知ったでイヤだろうけど、死亡理由不詳というのもまことにオソロシイ。
などなど、どこまでも怖い『青鬼』だが、今回は勇気を振り絞って、このゲームを検証しよう。青鬼の能力を科学的に解明できれば、恐怖もなくなるはず……なくなるかな……なくなるといいな。
怖いポイント1:体が青い生物は特異!
そもそもこのゲーム、設定から間違っていると思う。
お化けが出るという無人の館に、4人の少年少女が出かけていくのだ。行かないでしょう、そんなところに! 健全なる少年少女は、家でおとなしく宿題をしているものです! などと恐怖から全否定に走っていないで、マジメに考えてみよう。
青鬼はたいへん怖いが、なぜ怖いと感じるのか。一つには、体色が青いからだろう。
自然界には、体の青い動物は少ない。その理由には諸説あるが、たとえば「青い色をした色素が存在しない」ことが挙げられる。生きたエビやカニの体には、青や紫の部分があるが、あれはアスタキサンチン【※】という赤い色素が、ある種のタンパク質と結びつくことによって青くなったもの。
だから、ゆでるとタンパク質が壊れて、エビやカニは真っ赤になる。赤こそがアスタキサンチン本来の色なのだ。
また、熱帯魚やヤドクガエル、そして鳥の羽には青いものがあるが、これは透明な膜が何層にも重なったもの。薄い膜は、厚さによって特定の色の光を反射する。熱帯魚など、青い光を反射する厚さの膜が何枚も重なっているから、鮮やかな青になる。
つまり「生物の体の色が青」というのは、極めて特異なことなのだ。
青鬼が目の前に現れたら「これは異様な存在だ!」と本能的に恐怖感を抱くのは、人間としてまことに当然。筆者が怖いのも、たいへん理に叶っているわけです。
え? 怖い理由はいいから、青鬼が青い理由を考えろ?
いや、それは、ゲームの画面からはわかりません。まあ、ゆでてみて赤くなれば、タンパク質と結びついたアスタキサンチンの色と判明するから、ぜひ、とっ捕まえて熱湯に叩き込みたいですな。わはははは、絶対ムリ~。
怖いポイント2:頭がデカすぎる!
もう一つオソロシイのは、青鬼の体が大きいこと。とくに頭が異様にデカイことだ。
ゲームの画面で計ると、青鬼のアゴの高さは、プレイヤーの身長とほぼ同じ。肩の高さはそれより高く、プレイヤーの身長を日本人男子の平均に近い170cmと仮定するなら、208cm。この立派な体に、われわれ常人と同じ7頭身の頭部がついていたら、身長は242cmという計算になる。
おお、これは何たることか。古来、わが国では「鬼の身の丈は八尺以上」と伝えられてきた(『世界大百科事典 第2版 スペシャル版』日立デジタル平凡社・2000年より)。八尺とは、およそ242cmだから、上の計算とまったく同じ。
つまり、この青鬼の体は、昔から伝わる鬼そのものなのだ。ひーっ。
そんな体の上に、巨大なアタマがついている!
ゲーム画面で頭の大きさを測ると、頭頂から顎までが、なんと255cm。アゴから下は前述のように170cmだから、つまり身長は425cmということになる。で、で、でかい!
こういうヤツが人間を攻撃してくるとなると、気になるのは体重だ。身長170cm、体重80kgという、かなりガッシリした体つきの人を元に計算すると、青鬼の肩から下の重量は220kgになる。体だけで、常人の体重の3倍!
頭部の重さは、そんなレベルでは済まない。筆者の計算によれば、なんと4.1tだ!
これはすごい。この青鬼、身長は4m25cm、体重は4.32tという恐るべき体格。ただし、その体重の95%は、アタマである。
青鬼のおそるべきパワーを検証してみた
このような体形だとしたら、ちょっと光明が見えてこないだろうか。220kgの体に、4.1tもの頭が載っていたら、重くてとても動けないだろう。4.1tというのは乗用車4台分。ヨタヨタして、とてもまともに走れまい。逃げるのはカンタンでは?
いや、青鬼が逃げるプレイヤーを的確に追ってくるのは、ゲーム内の事実。するとどう考えればいいのだろうか?
科学的に考えれば、答えは一つ。青鬼は、筋力がとてつもなく強い!
日本人男性の平均体重は67kgで、青鬼の体重4.32tはその64倍だ。にもかかわらずプレイヤーより速く動けるということは、筋力は64倍を超えるはず! これは恐るべきことだ。平均的な男性は30kgのバーベルを持ち上げられるというから、青鬼は2tをリフトアップ!
握力は推定3.2t! こんな力で頭などつかまれたら、豆腐のように握り潰される!
青鬼は口も巨大だが、人間の咬筋の力を元に計算すると、噛む力は7.7t! 現実世界の動物で、最も噛む力が強いのはイリエワニで1~2tといわれるが、青鬼はそれより何倍もすごいのだ。
手で掴まれようが、口で噛まれようが、要するに触れられたらゲームオーバーとなって当然なわけですな。うーん、ナットク……。
『進撃の巨人』の巨人と比べてみた
どこを切っても恐怖の青鬼だが、すると、あのヒトたちと比べたくなる。
『進撃の巨人』の巨人たちだ。
この作品には、3m級や15m級など、さまざまな大きさの巨人が登場するが、ここでは青鬼と同じ身長425cmの巨人がいたと仮定して比べてみよう。
巨人の多くは、人間とほぼ同じプロポーションをしている。そこで青鬼と同じように、身長170cm、体重80kgの人間を元に計算すると、身長425cmの巨人の場合、体重は1.25t。青鬼は4.32tだから、その3.5倍も重い!
また、巨人も人間と同じように行動できる。この場合、前述のように、筋力は体重に比例すると考えられるから、体重が巨人の3.5倍もある青鬼は、腕力や握力も3.5倍も強いことになる。たとえば握力は、青鬼の3.2tに対して、巨人は930㎏だ。
しかし青鬼がデカいのは頭だけで、肩から下は巨人のほうが圧倒的に大きい。筆者の手のひらの大きさを元に計算すれば、手首から指先までの長さは、青鬼が28cm、巨人が48cmである。
あなたなら、どちらがいいですか。大きな手に3.2tの力でつかまれるのと、もっと大きな手に930kgの力でつかまれるのは? まあ、どっちも死ぬんだケド。
さらに巨人は、肩から下が大きいので、手足が長い。歩幅も大きいから、走るスピードも速いだろう。常人が100mを15秒で走れるとしたら、青鬼の100mのタイムは12秒56。身長4m25cmの巨人は9秒49! おお、ウサイン・ボルト(9秒58)より速い!
力の青鬼か、スピードの巨人か。
ハッキリしているのは、どっちに狙われても、まず助からないということですな。ああ怖い。(了)