2018年11月17日、「音楽朗読劇 遙かなる時空の中で3」が東京・世田谷区民会館で開催されました。『遙かなる時空の中で3』【※】は、2004年にコーエー(現・コーエーテクモゲームス)から発売された女性向け恋愛アドベンチャーゲームです。
ネオロマンスのイベントでは、出演者がステージ上でシナリオを読む“ドラマパート”が含まれていることが多く、客席を前にした朗読は珍しいものではありません。とはいえ、それはあくまで“イベントの中のコーナー”として。
今回行われた“音楽朗読劇”は、文字通り最初から最後まで朗読のみ! これはネオロマンス・シリーズとしても新たな試みだったのです。
(画像は2018.11.17,18|音楽朗読劇より)
※『遙かなる時空の中で3』
2004年にプレイステーション用ソフトとしてコーエーから女性向けゲーム“ネオロマンス・シリーズ”の作品として発売された『遙かなる時空の中で』のシリーズ3作目のタイトル。2017年2月23日にはPlayStation Vita用ソフト『遙かなる時空の中で3 Ultimate』としてシナリオがフルボイス化され甦った。源平合戦を舞台に、白龍の神子である主人公と、神子を守護する八葉の物語が描かれる。「遙かなる時空の中で」シリーズは2020年で20周年を迎える。
音楽朗読劇は、楽の音が聴き手を作品世界へと誘い、演者が語る、ときに激しく、ときに切ない台詞をダイレクトに堪能できるもの。身体による動きがないだけに、一瞬の息継ぎからでも、語られるキャラクターの感情が手に取るように感じることができます。
今回の音楽朗読劇では、イベントでは恒例ともいえる出演者の表情をクローズアップしたり、キャラクターを映し出すスクリーンは存在していません。しかし、派手な映像演出がないからこそ、深い底まで物語の世界に引き込まれれていきます。
11月17日 「音楽朗読劇 遙かなる時空の中で3」昼の部で演じられた、至極の朗読世界にじっくり迫っていきます。
【出演者(2018年11月17日昼の部)】(敬称略)
キャスト
三木眞一郎(有川将臣役)、関 智一(源九郎義経役)、井上和彦(梶原景時役)ナレーション
石田 彰(リズヴァーン役)、川上とも子(春日望美役)演奏
中村仁樹(尺八・笛)、田中和音(ピアノ・シンセサイザー)アシスタント
Kan(アンフィニ)
文/かなぺん、まさみ
ステージ撮影/大山雅夫
朗読・演奏・演出効果が、客席を別世界へと誘っていく
開演が近づくと、ざわついていた客席は水を打ったような静けさに包まれていきました。開演を告げる鈴の音が数度鳴り響き、ゆっくりと照明が落ち客席が暗くなると音楽朗読劇の始まり。
舞台上には大きく波打った布が垂れ下がっており、随所に和の世界を感じさせられる角行灯が設置されていました。紺色の光がぼんやりとステージを照らしています。
BGM「遙かなる時空の中で3」はユレのある尺八の主旋律とピアノ音による伴奏。とりとめなく流れる様を表現しているような音色は、これから語られるだろう源氏と平家の争い、怨霊【※】漂う世界の不安定さ、そして、ヒロイン春日望美と八葉たちの運命を予言しているかのようでした。
激しい雨音と学校のチャイム音。有川将臣役の三木眞一郎さんが登場し「なんだよ、望美。教室でしてた話の続き?」と朗らかにひと言。将臣の高校生らしい口調は、時が“現代”であることを聴き手に伝えました。
朗読劇の前半は、クリスマスパーティーや初詣をどうするか悩む、ゲーム『遙かなる時空の中で3』のプロローグと同様に始まり、時空を越えた先で出会った激動と悲劇の連鎖。それらを断ち切るべく、ヒロインの春日望美が運命を変えることを決意するまでが語られました。
【あらすじ】
普通の高校生として生活していた春日望美。ある雨の日、鈴の音色に導かれると、源氏と平家が争う異世界へと時空移動してしまう。
禍々しい怨霊を封じる力を持つ望美は「白龍の神子」として源氏の軍に加わり、神子を守る“八葉”とともに怨霊を封じるべく行動に出るのだが……。
望美と行動を共にしていた八葉のひとり源九郎義経は、源 頼朝の命を請け平家に奇襲をかけるように告げられていた。時同じく、源氏の軍奉行梶原景時は頼朝の命により生田に進軍。
一方、望美の幼馴染であり、異世界へ時空移動した有川将臣は自分を助けてくれた平家に恩を返すため、還内府として平家に与していた。歴史を知っている将臣はその知識を元に、史実では平家が敗北を喫していた“鵯越の逆落とし”や“一ノ谷の合戦”で勝利をおさめていく。
兄・頼朝のために戦に身を投じる九郎。武家の者として己の主君・頼朝の命に忠実な景時。そして、相反する立場になってしまった将臣。
複雑に絡まり合うそれぞれの想い、巻き起こる悲劇の連鎖。それらを目の当たりにしたとき、望美は時空を越え運命を変えることを決意する!
音楽朗読劇の聴きどころはなんといっても、“生朗読”です。
三木眞一郎さんが演じる将臣からは、源平の歴史を知っているからこその葛藤と決意が、手に汗握るほど伝わってきました。
九郎を追い詰めたものの、景時の思惑を止められなかった将臣。「帝、尼御前……、どうか上手く逃げ延びてくれ」と平家を案ずるシーンでは、ぐっと強く歯を食いしばり、台本を持つ手にも力を加え、悲痛な表情を浮かべる三木さんの姿がありました。
そこには、高校生の将臣にはなかった、守るべきもののために尽力する生き様が映し出されていました。
一方、将臣の戦術によって、敗北を余儀なくされていた源氏の総大将・源九郎義経を演じる関 智一さんは、将臣との雌雄決する戦いでは迫真の演技。くぐもった表情を加えながら、息も絶え絶えとなりゆく九郎の様子を表現していました。
信じていた者に裏切られたにもかかわらず、どこか最後まで人のことを信じ続ける九郎の一途さとそこに見え隠れする悲しみ。
ひとつひとつ、言葉が紡がれるたびに、九郎の感情のゆらぎが手に取るように伝わってきました。
源頼朝の右腕として胸中を隠し続ける梶原景時は、将臣や九郎と違い大きな感情の起伏を見せることはありません。
しかし、景時を演じる井上和彦さんは、ふとした瞬間の目配せ、息の音、瞳のゆらぎで聴き手にその感情を余すところなく伝えていきます。
「ごめんね」と軽く九郎に謝る景時。しかし、その声色はどこか絶望もはらんでいるかのよう……。戦乱の世を生きる男たちの宿命に、客席からは咽び泣きが響きわたりました。
キャラクターを演じる出演者たちの渾身の演技に深みをもたせてくれるのが、生演奏と演出です。
尺八・笛を奏でる中村仁樹さん、ピアノとシンセサイザーを弾く田中和音さんが奏でるのは、ファンにとって馴染み深い『遙かなる時空の中で3』のBGMです。
悲劇の運命を辿る前半では、「暗雲」「剣を取って」「炎上」など重々しい曲が立て続けに流れました。
ゲームでは勇ましく甲高い笛の音がミックス調に鳴り響く「剣を取って」。怨霊とのバトルシーンで流れるこの曲ですが、朗読劇では尺八とピアノのアレンジです。
ピアノの激しい旋律が切迫した雰囲気を伝えてくるものの、低音でユラユラと響く尺八の音色からは、この戦いの先に待っている未来が悲しい結末である……と告げているかのようでした。
ゲームでは聴くことのできないサウンドアレンジが、朗読劇をさらに盛り上げていきました。
舞台演出で驚いたのは熊野川上流の氾濫を鎮静すべく、八葉が怨霊を封じたシーンです。怨霊の出現によりさざめく水面は、天井からステージ上に向けられたライトの模様で表現されていました。
青暗く染められたステージ。しかし、バトル後は一気に白の世界へと変化しました。それはまさに怨霊が“白龍の神子によって浄化”された証拠。
さらに、青く染まっていた舞台背後の布にまだらな白いライトが加わります。それはまるで、青い空と白い雲。たったそれだけの演出ではありますが、川の氾濫が静まったことを伝えてくれました。
ステージ上で誰かが動いた気配はありません。しかしそこは、確実に『遙かなる時空の中で3』の世界そのものと化していました。
前半は、「運命なんて変える、私が変えてみせる!」という主人公・春日望美の凛とした声で締めくくられました。BGM「時空の狭間」が、望美が時空を遡り運命を変える決意したことを告げています。
抗うことのできなかった命運に、頬を濡らしていた客席ですが、川上とも子さん【※1】による望美の声を聴いた瞬間、望美という憧れの存在【※2】が“そこにいる、声が聴けた”という嬉しさに、号泣し嗚咽を漏らすファンの姿も見られました。
※1 川上とも子
声優として活動していたが、2011年6月9日に41歳の若さで死去。ネオロマンス作品では『遙かなる時空の中で』元宮あかね、『遙かなる時空の中で2』高倉花梨、『遙かなる時空の中で3』春日望美、『遙かなる時空の中で4』葦原千尋とシリーズ4作品までヒロインの声を担当している。
※2 望美という憧れの存在
2017年にナンジャタウンで行われた「遙かなる時空の中で3&6 合同総選挙 in ナンジャタウン」。チョコレートをあげたいキャラクター投票では『遙かなる時空の中でUltimate』の並み居る男性キャラクターを抑え、ヒロインの春日望美が1位を獲得した。ネオロマンス・シリーズのヒロインたちは総じてファンの女性たちから、行動や生き方が憧れの存在として愛されている。
運命を変える決意! その先で待っていたものとは……
白龍の鈴の音が鳴り響き、BGM「時空の狭間」が流れ、後半の幕が上がりました。
後半は、望美が「白龍の逆鱗」の力を使い、戦乱前の“京”へ時空を遡ったところから始まり、将臣、九郎、景時が“乱世の終わり”を望んでいく心情が綴られていきました。
将臣と九郎の一騎打ち、安徳帝と二位の尼の命を必死で守ろうとする将臣、頼朝に縛られ続けていた景時の運命からの開放など……。それぞれが持つ、譲れない願いに決着がつき、3人が「俺は、この運命を生きる!」と力強く言い切るまでの物語が描かれました。
和気あいあいとした八葉たちの日常シーンが楽しめるのも、望美が“運命を変えた”からこそ。突然はじまった将臣と九郎の“餅の早食い対決”! 諌める景時に聞く耳を持たないふたりの姿。
餅を食べる様子を関 智一さんが「ハムハム」という擬音で表現すると会場から大きな笑い声が湧き上がりました。
加えて三木眞一郎さん、井上和彦さんもアドリブを繰り広げていきます。長年、『遙かなる時空の中で』シリーズにおいても共演を重ねてきた3人による阿吽の呼吸は、ファンの大爆笑を誘いました。
後半のBGMは「ひととき」「たわむれ」「祝福」「光さす場所」と、明るい曲が多く流れ、各シーンをほっこりさせてくれました。
尺八と笛の音はどこまでもあたたかく、まるで悲劇を経験したからこそ知っている、日常の大切さを表すかのようでした。
一方、将臣と九郎の一騎打ちで流れた「行く手を阻むもの」はゲームではピアノが主旋律のように流されていますが、音楽朗読劇では和楽器が強く鳴り響きます。
凛と鳴り響くメロディーは、ふたりの“戦乱の無い世を目指す”というブレない強い願いのようにも感じとることができました。
音楽朗読劇の幕が降りた後は、出演者たちによる挨拶がおこなわれました。
中村仁樹さんは、演奏者である自身もストーリーに没頭して感動でき、時間を共有できたこと。田中和音さんは、遙かファミリーの一員になれたと、それぞれが想いを語りました。
井上和彦さんは、音楽朗読劇の話を聞いたとき「八葉なのに3人しかいない、どうすんだ!?」と感じたことを告白。
関智一さんは「遙か」シリーズが20周年を迎える2020年には八葉の全員で集合したいという抱負を語りました。
三木眞一郎さんは、ナレーションとしてリズヴァーン役の石田彰さんが入ったことで状況がつかみやすくなったこと、春日望美に対して凛とした素敵な声と想いをコメントしました。
最後は「誠にありがとうございました」の言葉と共にまばゆくライトがきらめき、音楽朗読劇の幕が下りました。
『遙かなる時空の中で3』が発売されてから、早14年。ファンの女性たちは、白龍の神子として、悲劇的な運命を変えるべく何度も……大切な人を救えるまで時空を遡り、運命と戦ってきました。
今回の音楽朗読劇では、これまでにゲームで描かれていなかったシーンも含まれており、同じ作品でありながら……“そういう運命もあったのか”と新鮮な気持ちになれました。
また、朗読、音楽、演出効果によるテージは、ド派手なアクションが繰り広げられるわけではありませんが、登場するキャラクターたちが懸命に生きている姿、戦う一挙手一投足、感情の起伏までもありありと浮かんできました。
それはきっと、聴き手が“朗読”に全神経を注ぐことで見えてくる、キャラクターたちの秘められた想いだったのかもしれません。
音楽朗読劇という新たな試みをはじめたネオロマンス・シリーズ。2019年に迎える25周年! 胸が高鳴るばかりです。
期間:配信中〜12月16日 23時59分まで
中継ページ:https://freshlive.tv/projects/aAl5P
必要pt:3,800pt
詳しくはコチラまで!
※見逃し配信期間中は、何度でもイベントの様子が楽しめる!
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