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膨大なマンガやゲームのデータを使って何ができるか考えたら、未来の「デジタル埋葬」について真剣に議論することになった

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 文化庁が提供する「メディア芸術データベース」には、日本国内のあらゆるマンガ・アニメ・ゲーム・メディアアートの情報が蓄積されている。しかも、誰もが無料でその膨大な情報にアクセスし、活用することができる。

 ここまで聞くとなんだかすごそうだが、実際のところ、そうしたデータの塊をどうやって使えばいいのだろうか?
 その活用案を生み出すため、12月19日に文化庁主催による「アイディアソン」イベントが開催された。本稿では、そのイベントの模様をお届けする。

取材・文/rate-dat


そもそもアイディアソンとは何か

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 「アイディアソン」とは、「アイディア」と「マラソン」を組み合わせた造語だ。あるテーマに対して、どういったことができるか、どういったアプローチができるかというアイディアを、実現可能どうかは置いておいて時間内一杯で出し切る、というイベントである。

 元々は「ハッカソン」(ハック+マラソン)という決められた時間内に一定のテーマに対する解決策を実際の機器やアプリケーションで作り、コンテストの形で勝者を決めるイベントに由来している。IT業界では一般的に広く行われていて、ここからサービス化したものも少なくはない。

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 今回行われたアイディアソンのテーマは「『メディア芸術データベース』を使用して世界が面白くなるようなアイディア」を考えることであった。全参加者54人をチームに分け、A-Fの6チームでのそれぞれアイディアを出し合い、最終的に一つのアイディアをブラッシュアップした物を代表者が発表する形となっていた(筆者はAチームに参加した。)。

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チームメンバーも上記の通りで、非常にバラエティ豊かとなった。

アイディアソンのために必要なヒント

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 とはいえ、いきなりアイディアを出し合うのも難しいため、アイディアを出すヒントとしてゲストからインスピレーショントークという形で、一般社団法人マンガナイト/レインボーバード合同会社代表の山内康裕氏からマンガを軸とした事業例の紹介が為された。

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 「これも学習マンガだ!」の事業例では、マンガとしてのエンターテイメントを楽しみながらも知識を学習できるツールとして紹介するプロジェクトを進めているという。実際に事業として進めていく中でマンガを導入しづらい公共施設(図書館/学校)などでもプロジェクトをきっかけとして導入されるようになったという好例もあり、アイディアを実際に考える中で「何を行うことで現場に届きやすいのか、社会問題を解決できるのかを考えるのが大切」だと述べた。

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 インスピレーショントークを踏まえて15分間、チームでアイディアを出し切ることとなった。挙げられたアイディアは、「キャラクターの容姿をデータベースにまとめ、容姿のデータを販売する」といったものから、「データベースから文献を引っ張ることでデータに沿ったプレゼンの資料を自動で作成する」というような大風呂敷なものまでと幅広い。

 メンバーからは「データベースをどう捉えて良いのかまだよくわからない」という意見があったが、このアイディアトークの後、まさにそんな疑問に答えるかのように再度ゲストによるトークが行われた。

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 以前のインタビューにも参加していただいた大向氏により、メディア芸術データベースのプロデューサーという立場からデータベースの中身の詳しい説明が行われ、アイディアソンに望むものとして下記の点を挙げた。

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 「データが不足していると感じる場合、誰がそのデータを持っているかということや、どういったデータを結び付けると面白くなるのかを考えていただけると良いのかもしれない」と期待の中で語られていたが、「データを個だけでなく、まとまりの一つを俯瞰して見ることで人やトピックの移り変わりも想像の助けになるのではないか。」と提起もされていた。

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 大向氏のスピーチの後、補足する形で茂野氏と渡辺氏を交えたゲスト2名によるクロストークが行われた。クロストークの中では茂野氏は運営の立場から「不足しているデータにとらわれずにアイディアを出していただきたいが、時代とともに機器なども変化しているのでその点を頭の片隅に入れてアイディアを出してほしい。」と挙げた。

 渡辺氏からはデータベースを利活用する立場からヨーロッパとニュージーランドのトラックの運行量から経済指数が的確に読めたという「Trackometore」の事例を紹介。「役所が持っていた街路樹のデータを一般開放した際に、花粉症のコミュニティにおいて重宝された事例がある」のだという。自身の観点ではどう扱うかわからないデータでも他方では有益に働く場合があるということだ。

 最後に2点、質問が行われ「メディア芸術データベース内のデータと外部データの区分けはどのように考えるべきか」という質問に対して大向氏からは「ある意味税金を使って行われているので、著作者名であったり変わらない物で、できるだけ誰が見ても見た目が変わらないデータであるべき物が理想だ。」と返答された。このクロストークの後、休憩時間を兼ねて各自データベースを実際に触ることとなった。

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 休憩後15分間で出したアイディアをさらに発展させる形でメディア芸術データベースや外部データベースと組み合わせ、実現したい目標を挙げることとなった。チーム内では各自がそれぞれのアイディアを発表し、「作品の世界観やモデルデータを用いたメタバース化(第2のセカンドライフ)」「データベースと特許庁のDBをリンクさせることでゲームに使われる特許の横断検索」のような大風呂敷を広げたアイディアから実現的なアイディアまで幅広くチーム内で出そろうことになった。

 個人的にはA氏が挙げた「データベースから合うマンガやアニメをチョイスすることでプレゼンを自動的に作成する」というアイディアが実現すれば、業務が楽になるし、アイディアとしても現実的で一番良いと思った次第ではある。

アイディアソンを実施して出てきたアイディア

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 そして最終的に30分の時間をかけ、実際にメディア芸術データベースのどの領域と掛け合わせて具体的なユーザーなどを考え、それが実現されることで世の中にどういった結果がもたらされるのかを更に煮詰めて企画書を考える時間が用意された。

 筆者のチーム内ではかなり議論が紛糾し、どのアイディアを発表ベースにするべきかという段階だけで20分近く消費することとなった。だが、他のチームが割と現実的なアイディアになりそうだったため、「大風呂敷を広げたアイディアの方が審査員受けも未来的な目測としても面白いのではないか?」ということに。
 元々アイディアで上がっていたデータベース内に存在する作品をベースにした「メタ終活」という「宗教観にとらわれず、個人の意思の共有化が実現できるのではないか」という内容へとブラッシュアップした物がまとまった。

 この後、各チーム3分間で発表時間となり、それぞれのアイディアが発表されたのだが、チームAの発表内容は上記の通りなので割愛させていただく。

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 チームBからは「なんでもなれーる」と言うアプリケーション。高校生や就職間近な学生がデータベースから職業というデータベースを追加することで、今後の視野や職業観を知ることが可能になるというアイディアが発表された。実際の就活の現場にも活かすことで、ゲームやアニメを使用し、堅苦しい雰囲気を崩せるのではないかと提起された。

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 チームCからは「高度聖地巡礼化マップ」と題されたサービスアイディア。作品ごとの聖地データは体系的にまとまったサイトなどがないため、メディア芸術データベースと自治体の位置情報データベースなどを組み合わせることでGoogleマップと結びつけることでユーザーが作品の元となった場所に簡単にたどり着けるというサービスの提起。

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 チームDからは「教科書漫画化計画」と題された、教科書ではなくキャラクター視点から検索を行えるようにできる機能の提案。作者を含めたキャラクターに背番号(ID)を設けることで新旧の違いであったり、多様なマンガを知ることで教科書自体がマンガに変化し、外部DBを取り込むことでDB自体の成長だけでなく、ユーザーはメディアを通じて学習成長を行えるといった提起を行った。

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 チームEからは「タグロス」という実際にサービスインした際のWeb構成まで想定した細かい内容の発表が行われた。メディア芸術データベースから作品を引っ張り出し、ユーザー側から作品に沿ったタグを付けることで作品から派生するような漫画をたどるなど、ユーザーが作品を元に新たな作品などを知ることができるというサービスが提起された。

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 チームFからは「作品の世界観で新しく作品を作って遊ぼう」と題されたサービスで、作品DBと外部のあらすじサイトなどと連携することで、似た世界観の生成や世界観の比較などを行うことで執筆活動の補助が行うようにできるようになるとのサービス提起がまとめられていた。

講評:ベストアイディアに輝いたのは「タグロス」

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 発表後に審査員三人からそれぞれの発表に対して一言づつコメントを行われたので、それぞれ感想をまとめた。また、セレクションの発表も続けて行われたので、それぞれのコメントも併せて併記させていただいている。

チームA

山内氏「デジタル終活という概念は面白い。もう少し話が聞きたかった。」
大向氏「タイムスパンの長いアイデア。DBの更新が止まっても生き残るサービスではないかと思う。」
渡辺氏「現代的な視点。独特な発想にも惹かれた。」

チームB

山内氏「タイトルも若い視点で面白い。人生の分岐点などで役に立つのではないだろうかと思った。」
大向氏「DBは過去を整備するということでもある。そのデータで未来を見せるのは面白いアイディア。」
渡辺氏「作品と人の出会いを違う角度で生み出せると思うが良いと思った。」

チームC

山内氏「明日にでもあると嬉しいと思うくらい今のニーズにマッチしている。メジャーな地区だけではなくマイナーな地区でも人が集まるのではないだろうかと思った。」
大向氏「最近ではツーリズムとも呼ばれる流行にもマッチしている。聖地巡礼のためにDBを使うのであれば我々も整理を徹底してやらなければならないと改めて思った。」
渡辺氏「明らかにニーズがあって、コストやスケールも見えれば事業化に進めるのではないだろうかと思わせるのが凄いと思った。」

チームD

山内氏「キャラクターに背番号をつけるアイデアは面白い。漫画や芸術・メディアアートは世界でも通用するのでアイディアをブラッシュアップすれば面白くなるのではないかと思う。」
大向氏「背番号があればキャラクターに限らず多種多様なサービスが行える。他の物にも目を向けていければと思った。」
渡辺氏「日本はあらゆる物をキャラクター化するのが得意である国ではないかと思うが、突き詰めるとスケールの大きい深い話に繋がっていきそうな可能性を感じた。」

チームE

山内氏「実現可能性が高いと感じた。ユーザー目線からメディア芸術データベースを楽しめるかという視点は凄く良いと思った。」
大向氏「もし存在するとして、メディア芸術データベースのような公共的な物が何をしなければいけないのかというのが切り分けられていて、国がどう組み合って育てて行けるのかという未来を妄想した。」
渡辺氏「作品を遊び倒したい人にはとても良いサービスなのではないかと感じた。」

チームF

山内氏「世界観に着目したのは面白い。いろいろな世界が自動でできたりと作品が作れるのは面白い未来になるのではないかと感じた。」
大向氏「世界観というのは個々の作品を超えて存在するため、その切り口はとても面白い。そのような切り口が可能になるのであればデータベースとしても見せ方を考えたいと思った。」
渡辺氏「世界観というキーワードをここまで広げられるのは面白いと思った。」

山内セレクション

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 山内氏が選出したアイディアはチームBの「なんでもなれーる」。

 山内氏「講評の中でも触れたことだが、若い世代の方々の悩みや人生の分岐点というところで背中を押してくれるところをメディア芸術データベースが担える可能性があるというところに可能性を感じた。幅広い世代の違った視点でマンガ・アニメ・メディア芸術を使用できそうな部分も凄く良いと思った。

大向セレクション

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 大向氏が選出したアイディアは、チームDの「教科書漫画化計画」。

 大向氏「キャラのようなある種内容に踏み込むデータ作りを考えると、中身に愛を持った人という点が重要なステークホルダーになる。我々は中身という観点では専門家を集められてはいないので、実際に中身を作るということになればスタッフに入っていただいて仕事を行えればという期待を込めて選ばせていただいた。」

ベストアイディア

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 ベストアイディアに輝いたのは、チームEの「タグロス」。

 チーム代表A氏「メディア芸術データベースの参加者としても普段から携わっているが、初めて触った方や縁が無かった方からもアイディアを一杯出していただき、チームメンバーからも様々なアイディアが出てきて非常に嬉しかった。今後も様々なアイディアを実現できるよう頑張っていければと思う。」

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 最後にファシリテーターの菊池氏より、データコンテストの開催予告が行われた。今回はアイディアだけであったが、次回はそのアイディアを実現するために、実際にデータを作って応募する形となる。

 筆者は要望があれば次回も参加させていただこうとは思っているが、荷が重い話でもあり、どうしたものかと悩むところでもある。本記事を閲覧していただいた読者の方も興味があれば実際に参加されてみるのはどうだろうか?

 今回のアイディアソンでは筆者も実際に参加しているわけだが、参加前には「メタバースを元に自信の遺言と葬儀の希望を共有する」というアイディアは流石に思いつきはしなかった。このように思いもしなかったアイディアが生まれるのがアイディアソンの面白さでもあり、多種多様なアイディアに触れることで自信の知見も広がる良い体験であった。セッションの中でも「データベースの有効活用」という言葉が何度かフォーカスされていたが、実際に作っても運用しなければ何も意味をもたらさない。
 我々がこのデータベースを用いて何を行うか、どういったビジネスに繋げるかも個々のアイディア次第で更に面白くなっていく。官公庁自らがサービスの有効活用を行ってほしいと手を差し出しているのであれば、そこに乗っかっていくのもビジネスチャンスとして面白いのではないだろうか?

 明日の新しいアイディアを生み出すのはこの記事を読んでいるあなたかもしれない。

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ライター
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