「ときには嵐のような逆境が人を強くする」とは王貞治の言葉。逆境は人を成長させる。
でも、その逆境が“クソゲー”だとしたら……?
オンラインゲームを舞台にしたコミックやライトノベルも、一大ジャンルと呼べるくらい増えてきた昨今。
その中でも『シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜』というマンガはゲーマーなら必ず共感を覚えてしまうであろう作品だ。
なぜなら、この作品はマンガなのに読んでいるとあたかもRTA(リアルタイムアタック)のような「極まった効率プレイのゲーム配信」を見ているような気分にさせてくれる、「ゲーム体験型コミック」とでも呼べるようなものとなっているからだ。
本作の主人公・陽務楽郎(ユーザーネームはサンラク)は、嬉々としてクソゲーばかりをクリアすることに達成感を見出す偏食高校生ゲーマー。そんな“クソゲーハンター”が、「神ゲー」と称されるMMORPG「シャングリラ・フロンティア」にチャレンジする。
数々のクソゲーで培った理不尽なバグとクソ調整に鍛えられたおかげで、プロゲーマー並の技術と強靭なメンタリティを持つサンラクが、神ゲー「シャングリラ・フロンティア」のベリーハードな難易度にアタックする様を描く。
ゲームスタートから防具を全部売り払って良い武器を買ったり、ステータスを敏捷・スタミナ・技量に全振りしたり、格上のモンスターをクリティカル特化ビルドで攻略したり……。
そんな主人公の不屈のゲーマー魂に、思わず胸が熱くなる本作の魅力を紹介しよう。
文/かーずSP
極まった効率プレイのゲーム配信を観る気持ちよさ
主人公のサンラクは超がつく効率厨。チュートリアルから防具を全部売っぱらって武器に全振り。鳥のお面をつけた半裸のキャラで、俊敏さに特化したプレイスタイル……見た目のヤバさは気にしないでおこう。
たまにオンラインゲームで見かけるじゃないですか。アフロとかガチムチマッチョでゴスロリ服とか、ネタキャラの目立つ格好だけど、めちゃくちゃゲームが上手いアバター。
まさにサンラクがそのタイプ。
でも本人はウケ狙いで半裸になってるわけじゃなくて、「シャングリラ・フロンティア」内に登場するモンスターの呪いで、防具がつけられなくなる縛りプレイのせいなんですが……。
サンラクは常に、呪いで胴と足の装備がつけられないせいで、いつも防御力が最低レベル。だけどシャア・アズナブルいわく「当たらなければ、どうということはない」。
紙一重でモンスターの攻撃を回避しつづけ、アルゴリズムを観察し、自分よりも高レベルのモンスターに会心の一撃を連発する。本来なら複数ユーザーで倒すべきエリアボスを、クソゲーで培った技術を用いて、低レベルのままソロで撃破する。
マンガなのに、RTAを見ているような快感がそこにある。
モンスター同士を体当たりさせて素材をゲットしたり、超効率プレイを極めるところもゲーム配信を見ているようで、ゲームプレイングへの共感が強い作品になっている。
古今東西、さまざまなゲームのネタにニヤリ
さらに『シャングリラ・フロンティア』には、そこかしこにゲーム愛を感じる。
・プレイヤーの首を斬り落としてくるヴォーパルバニーというレアモンスターには、古典的名作『Wizardry』に出現する「殺人ウサギ」ボーパルバニーを連想する。実際、元ネタはそれだろう。
・「おいおい“仲間を呼ぶ”は弱いモンスターの特権じゃねーか」といった、『ドラゴンクエスト』シリーズのマドハンドに代表されるRPGのお約束。
・ウサギの親分に完璧な受け答えをして「パーフェクトコミュニケーション」は、『アイドルマスター』が元ネタかな?
・目撃者を発狂させる、深淵のクターニッドというタコのモンスター。むろんモチーフはラヴクラフト神話の「クトゥルフ」だろう。
そこかしこのゲームネタにニヤニヤさせてくれる。
ちなみにサンラクが装備する「兎月【上弦】【下弦】」。色違いの二刀流はいろんなゲームに登場しますけど、個人的には『斬魔大聖デモンベイン』のロイガー&ツァールを思い出しました(合体形態になるところも)。
ジョブやアイテムや素材に、いちいちコメントが入るのも奥深い。
例えば「喪失骸将の斬首剣」には、「愛すらも忘れた骸は 己の首すらも失った故にこそ 取り残された胴体は 生者のみならず 死者の首すらも狙うのだ」(6巻113ページ)といった解説文が入る。
『モンスターハンター』シリーズで、素材の大仰なフレーバーテキストを読むのが大好きな筆者にとっては大好物。こういうゲーム好きなら“たぎる”要素がそこかしこに用意されている。
そういったゲームの解説や細かい仕様などは、コミックスに「攻略掲示板」という形で開示されている。飛ばしても物語を楽しむことに支障はないが、『シャングリラ・フロンティア』をより深く理解できる情報のちょい出し。
それがあたかもゲーム解説サイトや攻略記事、考察Blogを読んでいるような気持ちにさせてくれる。読者が『シャングリラ・フロンティア』をプレイしていて、そのゲームを研究しているかのような錯覚をさせてくれるのだ。
いわば、“ゲーム体験型コミック”と呼べるような、新鮮な感覚を味わわせてくれる。
ゲーマーよ、『シャンフロ』を読み終えて激ムズゲーに挑戦しよう!
理不尽なクソゲーほど、ワクワクしてゲーマー魂が燃える。サンラクというキャラの濃さは、類友というんでしょうか。
・日本最高クラスのプロ格闘ゲーマーで理論派のオイカッツォ
・刹那主義でスリルと享楽を求めてゲームをプレイする知略に長けたアーサー・ペンシルゴン
・現実には奥手な恋するシャイな女子高生だけど、ゲーム内では「最大火力」の称号を持つ全身鎧に大男アバターのサイガ-0
といった一癖も二癖もあるゲーマーたちを引き寄せる。各々の目的もプレイングもバラバラなメンバーたちが、時には敵対して、時には共闘して、ゲーム内最大の謎である『七つの最強種』(ユニークモンスター)に迫っていく。
なお、『シャングリラ・フロンティア』はつい先日に最新7巻が発売されたばかり。『七つの最強種』の一角「墓守のウェザエモン」を討伐したことで、サンラクが廃人プレイヤーたちの思惑に巻き込まれていく。オンラインゲームにおける情報共有もまた、もう一つの戦い。名実ともに最強であろうサイガ-100とサンラクの駆け引きの緊張感や、したたかなアーサー・ペンシルゴンの交渉術など、見るべきところが多い。
また、本作は現在「マガジンポケット」にて3話まで試し読みが可能となっている。
「ゲームで無茶しないでどうする!」
立ちはだかる困難が高ければ高いほど、燃え上がるサンラクのクソゲー魂。
不条理なバトルを、クレバーな機転と神業のプレイヤースキルで突破するサンラクの姿には、神ゲーとクソゲーは紙一重であることを教えられる。
「もしかして、自分がクソゲー認定して放置していた“あのゲーム”も、今なら楽しめるのでは……?」
「強すぎて手に負えなかった“あのモンスター”も、今なら倒せるのでは……?」
『シャングリラ・フロンティア』を読むたびに、いつもそんな闘志が湧き上がってくる。読後に高難度のゲームを遊びたくなってくる、最高の“クソゲー”コミックである。