トレーナーの皆さん、ゴルシウィークお疲れ様でした!
アプリゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』がリリースを開始してから、早一年以上が経ちます。初日から今日まで、盆暮れ正月、ワクチン接種の副反応で寝込んでいるときも、一日たりともプレイングが止まりませんでした。
アニメも素晴らしかった! 2期のトウカイテイオーとメジロマックイーンの友情に胸が熱くなり、祝福されないライスシャワーに涙して……これらが史実を下敷きにしているという事実に驚きます。
同じことは『週刊ヤングジャンプ』で連載中の『ウマ娘 シンデレラグレイ』にも通じます。名馬オグリキャップの歴戦の数々を、擬人化という大きなフィクションで味付けしながら、熱血スポ根モノとして仕上げているんです。
アニメでは食堂で、文化祭で、ひたすらモグモグ食べ続けていた、大飯食らいのギャグ担当だったオグリキャップ……ゲーム版でも、重くなりすぎないポップな味付けがなされています。勝利ポーズでは、毎回お腹がグーって鳴るくらいにはコミカルです。
そんなオグリキャップのコミカルとシリアスの塩梅は、
アニメ版<<ゲーム版<<(越えられない壁)<<シンデレラグレイ
となっています。みんなちがって、みんないい。ここでは、ゲームとともに快進撃を続ける『ウマ娘 シンデレラグレイ』の魅力に迫り、このコミックが目指す頂き(キャップ)はどこにあるのか、明らかにしていきます。
文/かーずSP
凄まじい画力で、オグリキャップの“怪物”ぶりを見せつける
地方の寂れたカサマツレース場に現れた、ウマ娘のオグリキャップ。身なりを気にしないボロボロのジャージ姿で、食堂で皆をドン引きさせるほどの大食漢です。
そんな浮世離れした無名のウマ娘が、レースでは規格外の強さを見せて勝利を重ねていきます。やがて舞台は地方から中央へ、国際試合へ……飛躍していくオグリキャップのサクセスストーリーを描いています。
『シンデレラグレイ』でまずもって驚かされるのが、レースシーンのド迫力です。第1話のデビュー戦。出走に出遅れたオグリキャップが、驚異の脚力で後半ぶっちぎります。その作画が、まるで大砲の弾が飛び出すような見開きの大コマで、読み手を圧倒する超絶作画で描かれています。
そんな最初のレースを皮切りに、派手な演出はとどまることを知らずに青天井で盛り上がっていきます。
オグリキャップがダート(川砂)の地面を、足の指で握りつかむように力強く蹴ると、まるでニトロターボの爆煙のように砂埃が舞うんです。真後ろで邪魔しようとしていたノルンエースが、思いっきり砂をかぶってしまうくらいに。
その踏んばった痕跡が、まるで怪物の足跡のよう……オグリキャップの末脚の恐ろしさを、一枚絵で表現しています。
21話の中央移籍後の初レースでは、ブラッキーエールが一瞬だけ右を振り返るのと、低い姿勢でかっ飛ばす左向きのオグリキャップのポジショニングで、優劣が逆転したことをレイアウトで示して、強い説得力を持たせています。さらに背景を真っ白に抜くことで、それが一瞬の出来事であることも同時に表現しています。
さまざまな見せ方で読者の興奮を煽る、力強い筆致に震えます。
一つ印象的なのが40話の天皇賞(秋)。先行するタマモクロスのすぐ背後に迫ったオグリキャップが黒いベタで塗られてて、片方の目だけがタマモクロスを見つめている、ホラーまがいの恐怖演出。伊藤潤二のマンガに出てきそう。
可愛らしい女の子が、勝負のかかった大事な場面で恐怖の存在として描かれる作品としては『咲-Saki-』の宮永照・宮永咲の姉妹、『はねバド!』の羽咲綾乃などが思い浮かびます。
私は勝手に“魔王化”と呼んでいるのですが、『シンデレラグレイ』のオグリキャップが“魔王化”してタマモクロスの背後から圧をかけるシーンのド迫力たるや。いや、オグリキャップになぞらえるなら、“怪物”化と呼んだほうがピッタリきますね。
どのメディアでも、ウマ娘は勝利に執着する
そうした迫力ある作画はオグリキャップだけじゃありません。54話の国際G1ジャパンカップ。“白い稲妻”と呼ばれるタマモクロスの全身からは電光が走り、画面が白く輝いてまたたいています。さらに、後方から追い抜かんとするオベイユアマスターはドス黒いオーラを身にまとい、底しれぬ迫力が一目で視認できる絵作りになっています。
畏怖すら感じる、ウマ娘たちの雄々しい描写の数々。
TVを見ているとガンガン目にする、スペシャルウィークの可愛らしいナレーションや、ゴールドシップが黄金の船でヒャッハーしているCMの『ウマ娘』と同じコンテンツなの!? ギャップにクラクラしそうです。
しかし、華やかさと闘魂が同居するのが『ウマ娘』の本質なんです。その証拠に、アプリゲーム『ウマ娘プリティーダービー』は“プリティ”を謳っていますけど、レースムービーのラストスパートでは全員が、鬼気迫る形相で勝ちにいってます。
天真爛漫、いつもニコニコ笑顔いっぱいのハルウララですら、瞳孔を見開いて、歯を食いしばる本気の形相を見せるんです。
アニメでも同じです。2期ではトウカイテイオーが、メジロマックイーンが、顔をしかめて苦悶の表情を浮かべています。いつも自虐的で勝利への諦めすら感じさせるナイスネイチャですら、菊花賞レースでは
「言わせない言わせない言わせない言わせない! 『テイオーが出ていれば』なんて絶対に言わせないっ!!」
と絶叫。レースに負けた後「くっそー!」と悔しさを隠そうともしないナイスネイチャの姿は、めったにみられない貴重な本音の吐露です。
勝つことを宿命づけられた競走馬。その名と魂を受け継ぐ存在だからこそ、ウマ娘はみんな、『負けられない』アイデンティティを持つんです。
『シンデレラグレイ』は、オグリキャップの名勝負を現代に蘇らせて、読み手に追体験させる作品である
話を戻して『シンデレラグレイ』におけるレースシーンの力の入れようは、“当時のオグリキャップ伝説を、後世の今に語り継がせたい”──そんな志を感じます。
幼少期に脚が悪い・大食漢・体が柔らかいといった特徴から、デビュー戦のレースで出遅れたことを“靴の紐がほどけた”という解釈にするなど、細かいところまで再現しています。
史実のオグリキャップのレースはどれもドラマチックでした。熱血マンガにふさわしい、王道の主人公像としてピッタリのモデルです。そんなオグリキャップが、ライバルたちと切磋琢磨して成長していくストーリーにグッときます。
13話。カサマツ競馬場でオグリキャップと競っていたフジマサマーチは、オグリキャップが地方競馬から中央競馬へ移籍することを知ってビンタ一閃。
「バカに…しやがって……ッ!」
「一緒に東海ダービーで走ろう」と誓ったライバルとの約束を反故にされたことで、怒鳴り散らします。しかしこの時は、なぜマーチが怒っているのか、オグリキャップにはピンときていませんでした。
時は流れて64話。タマモクロスから、自身の引退を告げられたオグリキャップは拳に力を込めて
「まだ私は…やり返せていない…!」
と静かに怒ります。その刹那、かつて自分がフジマサマーチに同じことをしていたことに気づかされるんです。
こうしたオグリキャップの精神的成長を通じて、ライバルとの友情関係を濃密に描く『シンデレラグレイ』。『週刊ヤングジャンプ』連載ですが、あえて書かせていただきますと「努力、友情、勝利」の少年ジャンプイズムが凝縮されている、王道のスポ根ドラマに仕上がっています。
ガチな真剣勝負が続く『シンデレラグレイ』ですが、ギャグパートも最高に面白いです。海外のウマ娘と競うジャパンカップ。ガタイの良い海外馬にラフプレーされて言葉で煽られても、「英語わからない!!」で済ませちゃうオグリキャップ、彼女らしいなー!
英語といえば67話の有馬記念。出走前のオグリキャップに、シンボリルドルフが激励をかけます。
「Take it easy」
史実の1988年、有馬記念(GⅠ)。シンボリルドルフの主戦騎手・岡部幸雄氏が「一度だけ」という約束でオグリキャップの騎手になりました。その岡部氏の座右の銘をここで持ってくる、ニクい演出!
こうした実在する元ネタが大量に盛り込まれている『シンデレラグレイ』ですが、もちろん競馬の知識を知らなくても、まったく問題なく楽しめます。
むしろ『シンデレラグレイ』でオグリキャップたち名馬を知った読者が、史実を深掘りすることで、現実の競馬に興味を持つ流れもあるでしょう。
実際、4月29日に笠松競馬場にてコラボ企画「ウマ娘 シンデレラグレイ賞」が実施されて、数多くのファンでひしめき合ったばかり。ウマ娘という擬人化によって、より広い層へと訴求できている証拠です。
「『シンデレラグレイ』を通じて、オグリキャップが活躍した1987年〜1990年のレースの熱狂を感じてほしい。当時の興奮を感じてほしい」
そんな制作者たちの本気が、元ネタへの限りないリスペクトとともに、妥協を許さない圧倒的なレース描写に込められていると感じます。
タマモクロス編が完結して、最終回みたいな雰囲気がぷんぷんしてますが、雑誌では新シリーズに突入! 史実に準じる形ならば、ここからオグリキャップ怒涛の2年間の活躍が、さらに濃く描かれることは間違いないでしょう。
当時の競馬ファンと同じ気持ちで、『ウマ娘 シンデレラグレイ』のオグリキャップを見守り、応援していきたいと思います。