任天堂の代名詞とも言える世界的な人気キャラクター、マリオ。
そんなマリオのライバルと言えば、誰が真っ先に浮かぶだろう。
おそらくはキノコ王国の平和とピーチ姫を巡って対立する、大魔王「クッパ」が出てくるかもしれない。なにせ、この両者の関係は初代『スーパーマリオブラザーズ』から、30年以上の長きに渡っている。
むしろ、真っ先に浮かばない方が珍しいと言えるかもしれない。
しかしながら、30年以上前はそうとも言いにくい情勢にあった。
いくつかの主演作で、クッパ以外のライバルとも言えるキャラクターが登場し、対立する展開があったからだ。それぞれの名前を出すと『レッキングクルー』のブラッキー、『スーパーマリオランド』のタタンガ、(元は『夢工場ドキドキパニック』という作品のキャラクターだが)『スーパーマリオUSA』のマムーがいる。さらに時を遡れば、『ドンキーコング』のドンキーコング(現:クランキーコング)もそれに当たる。
そんなマリオのライバルの中で、クッパの存在を食いかねないほどの鮮烈なデビューを飾ったキャラクターがいた。
それが30年前の1992年10月21日、ゲームボーイ用ソフトとして発売された『スーパーマリオランド2 6つの金貨』(以下、スーパーマリオランド2)で初登場したマリオそっくりな姿をした男「ワリオ」である。
「俺だよ!ワリオだよ!!」
『スーパーマリオランド2』テレビコマーシャルの締めでそんな決め台詞と共に現れたワリオは、一瞬見ただけでも印象に残ってしまうほど強烈な存在感を放っていた。
主人公のマリオを食いかねないほどである。
そんなワリオ、最初こそマリオと敵対する新たなライバルだったが、2022年現在は『メイド イン ワリオ』シリーズなど、自らの主演作を持ち、その独自の個性から根強い人気を誇るキャラクターへと大きく成長している。さらに言えば、デビュー当初のようにマリオと敵対する展開はほとんど無くなり、悪役だった過去が忘れられつつある。
また、いま改めて彼の主演作のひとつであるアクションゲーム『ワリオランド』シリーズを振り返ってみると、ゲームデザインの面において、驚くべき先見の明があったことに気付かされるのである。
ワリオはどこから生まれ、そしてアクションゲームというジャンルにいかなる功績を残したのか。誕生から30年が経ったいま、改めてワリオ”様”の歴史と彼が主演した『ワリオランド』シリーズの先見の明をひも解き、その”パワフル”で”ワイルド”な魅力を考察したい。
文/シェループ
ネタバレ注意
※本記事には『スーパーマリオランド2 6つの金貨』の最終ボス戦の内容、勝利後からエンディングへの流れを始めとするネタバレに言及しています。今後、いずれかの作品のプレイを予定されている場合はあらかじめご注意ください。
悪役としてデビュー。後にマリオから主演作を奪う偉業(?)を成したワリオ
前述の繰り返しになるが、ワリオのデビュー作は『スーパーマリオランド2 6つの金貨』。1989年4月、任天堂の携帯ゲーム機『ゲームボーイ』と同時発売された横スクロールアクションゲーム、『スーパーマリオランド』の続編である。
ワリオは『スーパーマリオランド2』のストーリーにおける黒幕、最終ボス(ラスボス)を務めた。
『スーパーマリオランド2』は、「マリオランド」と呼ばれる島が舞台。
この島の中央にはマリオの城こと「マリオ城」があり、かねてよりマリオそっくりな謎の男、ワリオに狙われていた。
そして前作にて、マリオが「サラサ・ランド」へとタタンガ退治に行っている留守の隙を狙ってワリオは城を占拠。島の住民たちにも魔法をかけ、自らの手下にしてしまった。
「サラサ・ランド」から帰ってきたマリオは、城を取り戻し、住民たちを元に戻すべく、城の入口を開くのに必要な「6つの金貨」を集める冒険に出る……というのが、大まかなストーリーである。
”自分の大切なものを取り戻すこと”が最終目標のストーリーで、2022年現在の視点で見てもマリオシリーズとしては大変珍しい、ヒロインに当たるキャラクターが全く登場しない独特な設定となっている。さながら”男同士の戦い”とも言える。
このような『スーパーマリオランド2』のディレクター、ゲームデザインを務めると同時に、ワリオというキャラクターを生み出したのは任天堂所属のデザイナーである清武博二(きよたけ ひろじ)氏。
探索型アクションゲームの金字塔として名高い、『メトロイド』の原型を作った”新人デザイナー”のひとりにして、主人公サムス・アランの生みの親だ。
そう、じつはワリオとサムスの生みの親は同じなのである。
ちなみに『スーパーマリオランド2』は清武氏を始め、『メトロイド』、『メトロイドII RETURN OF THE SAMUS』、そして『ドクターマリオ』の開発に携わったスタッフによって作られている(※一部は後発の『ワリオランド』シリーズにも続投している)。
『任天堂公式ガイドブック スーパーマリオランド2 6つの金貨(小学館刊 現在絶版)』記載のインタビューによれば、清武氏はワリオはアメリカの漫画(及びアニメ)『ポパイ』の主人公「ポパイ」のライバル、「ブルート」に当たるキャラクターとして考えられたという。
しかも、「ワリオ」という名前は適当に付けたもの。あとで他のスタッフがいい名前を付けてくれるだろうと思っていたはずが、結果的にワリオのままで通ってしまったようだ。(以下、前述の公式ガイドブックに記載された清武氏のコメントの引用である)
「ポパイに対するブルートを考えたんです。本当のことを言うと、最初は適当に名前をつけといたら、あとでみんながええのをつけるやろと。悪いヤツだからワリオ。MをひっくりかえしてWでワリオにしとけという発想です。それが意外とみんなにウケてしまったということです。」(清武氏)
(『任天堂公式ガイドブック スーパーマリオランド2 6つの金貨(小学館刊 現在絶版)』:108ページより一部引用)
そんな『スーパーマリオランド2』のワリオは、最終ボスだけあって登場するのは本編の終盤。「マリオ城(ワリオ城)」の玉座の間にて対決する。
ワリオは当時のマリオシリーズでは初めてとなる、踏みつけ攻撃でダメージを与えられる最終ボスだった。それまでのクッパは、容姿から分かる通り、踏みつければダメージ確定。
最初の『スーパーマリオブラザーズ』から当時の新作『スーパーマリオワールド』と、4作続けて踏みつけ攻撃以外で倒すボスとして君臨している。
前作『スーパーマリオランド』のタタンガも、戦闘がシューティングという異例の展開であるため、踏みつけ攻撃自体が不可能。『スーパーマリオUSA』のマムーも、ゲーム自体に踏みつけ攻撃がない都合から、別の方法で倒す形になっていた。
現クランキーコングこと、初代ドンキーコングもゲーム本編に踏みつけ攻撃が存在しないので、別の方法を用いて倒すことになっている。(※なお『レッキングクルー』のブラッキーはそもそもボスではない。ついでにゲーム本編にも踏みつけ攻撃は存在しない)
そういった背景もあり、ワリオとの戦闘には珍しさがあった。
また、ワリオはマリオの姿をしたソックリさん。ゆえに戦闘ではマリオ同様、アイテムによる変身アクションも披露し、それに関連した攻撃も仕掛けてくる。
トドメの一撃を決めた後も小さくなって戦えなくなるという、マリオのソックリさんらしいやられ様である。そして、ワリオは敗北後に城から逃げ出し、それをマリオが追いかける……という形で『スーパーマリオランド2』は幕を閉じる。
まるで、今後のワリオの再登場を予感させるような結末である。
実際、その結末通り、ワリオは1993年8月発売のスーパーファミコン用ゲームソフト『マリオとワリオ』にて再登場を果たす。今度は迷子になったルイージの行方を探すマリオたちに特殊なバケツなどで目隠しさせ、妨害する悪役として暴れ回った。
さらに続く1994年2月、ファミリーコンピュータ(ファミコン)用ゲームソフトとして発売された『ワリオの森』でも悪役として登場。妖精たちの森を占拠するという悪行を働いた。
この『ワリオの森』ではマリオではなく、キノコ王国の住民であったり、ピーチ姫のお守り役でもある「キノピオ」と対立。同作はキノピオの初主演作でもあったのだ。ただゲーム名の通り、キノピオの名は冠していなかったが。
キノピオの名を冠した主演作が誕生するのは、それから20年も後のことである。
話が脱線したが、そんなクッパに次ぐ新たな悪役としての道を歩み始めたワリオ。
ところが、それは『ワリオの森』を最後にあっという間に終わりを迎えた。『ワリオの森』の発売からちょうど1ヶ月前の1994年1月。彼の今後を大きく一変させる、”ターニングポイント”とも言える作品が発売されたのだ。
その作品の名は『スーパーマリオランド3 ワリオランド』(以下、ワリオランド)。
なんと、「マリオ城」の次は『スーパーマリオランド』シリーズそのものを乗っ取り、自ら主演キャラクターとしてデビューしてしまったのである。
マリオシリーズでは当時、『スーパーマリオワールド』で初登場した”スーパードラゴン”こと「ヨッシー」が『ヨッシーのたまご』において、(事実上の)主演デビューを飾っていた。しかし、こちらはアクションゲームではなくパズルゲーム。本編から外れた作品という”配慮を感じさせる”位置づけだった。ついでに言えば、本編で操作するのもヨッシーではなく、マリオとルイージである。
対し、ワリオは事実上の本編を乗っ取るという、前代未聞の暴挙(?)に出たのだった。
そんな『ワリオランド』は前作に引き続き、ワリオ生みの親の清武氏、細川豪彦(ほそかわ たけひこ)氏【※】の2人が共同でディレクターを担当している。
※細川豪彦氏
任天堂所属のデザイナー兼ディレクター。『スーパーマリオランド2』、『ワリオランド』にて清武氏と共同でディレクターを担当。以降の『ワリオランド』シリーズでもディレクター、デザイナーとして参加している。
2003年発売の『メトロイド フュージョン』以降は『メトロイド』シリーズの中核スタッフとして活動しており、2021年発売の『メトロイド ドレッド』でもアシスタントディレクターを務めている。
前作はマリオが主演ということもあって、(一部に異なる仕様はあれど)基本的なアクションゲームとしての作りは『スーパーマリオブラザーズ』シリーズおよび初代『スーパーマリオランド』の基本形を踏襲していた。
対し『ワリオランド』はワリオが主人公。すなわち、マリオじゃないから『スーパーマリオブラザーズ』や『スーパーマリオランド』の基本に準拠しなくていい。そんな免罪符が得られたこともあってか、『ワリオランド』は独自の工夫を凝らしたアクションゲームへと大きく変貌を遂げた。
その特徴を一言で表すならば”パワフル”。
ワリオの体格を物語る”力強さ”を前面に出したアクションゲームになったのである。
敵に触れても簡単にはやられないアクションゲーム、それが『ワリオランド』
『ワリオランド』の基本的なゲーム内容自体は前作、『スーパーマリオランド2』とほぼ一緒である。ステージクリア型の横スクロールアクションゲームで、ワールドごとに設けられたコースを順に攻略していく。
最終的な目標は、海賊「ブラックシュガー団」によってマリオたちの元から盗まれた「巨大な黄金像」を強奪し、それによって膨大なお金を手に入れ、自分の城を建てることだ。ストーリー設定としては、前作のその後となっている。
前作は「マリオ城(ワリオ城)」以外の6つの「ゾーン」をどこからでも攻略できるという、自由度の高い構成になっていた。一方で、『ワリオランド』は(一部を除いて)順番通りに攻略していく昔ながらのマリオらしい構成へと変更。また、特定のアイテムを取ることでワリオが変身し、新たなアクションが可能になるシステムもそのまま継承されている。
この段階だと、単にマリオをワリオに置き換えた感じである。だが、ワリオはマリオよりも大きな体格を誇るキャラクター。それに見合った個性付けが図られている。
それこそが”パワフル”。別の言い方をすれば、”力強さ”。
ワリオは、マリオのように敵に触れてもそう易々とダメージを受けない強じんな耐久力を持つキャラクターとなっているのだ。そして、攻撃にもその体格を活かした新アクションとして「タックル」(体当たり)を追加。
Bボタンを押すと横方向にワリオがまるでラグビー選手のように突進し、当たった敵を吹き飛ばす攻撃ができるのだ。マリオと同じく、敵を踏みつける攻撃も持っているが、ワリオはそれに留まらない”第二の選択肢”を用意。これによって、マリオ以上に攻撃的なキャラクターとして確立されている。
何より、踏みつけは前提動作としてジャンプが挟むのに対して、タックルはボタンを1回押すだけで繰り出せてしまう。ジャンプせず攻撃できる点でも、マリオとは大きく差別化されていると同時に、体格の大きなワリオ特有の強みが発揮されていると言えるだろう。
こうもパワフルなキャラクターとして表現されたワリオ。しかしなぜ、このような性能を設定するに至ったのか?残念ながら前作とは異なり、本作の公式ガイドブック(『任天堂公式ガイドブック スーパーマリオランド3 ワリオランド(小学館刊 現在絶版)』)に記載されたインタビューにて、そのようなことは一切言及されていない。
強いて言及されていることを挙げるなら、「開発スタッフの9割のメンバーはワリオと清武氏が似ている」と思っていること。清武氏は「ワリオにあった職業は?」という質問に対して「埋蔵金探し(職業になるのでしょうか?)」、そしてサウンドスタッフのひとりである吉富亮二(よしとみ りょうじ)氏は「神」と回答しているぐらいである。【※】
※いずれも『任天堂公式ガイドブック スーパーマリオランド3 ワリオランド(小学館刊 現在絶版)』125ページから一部引用
ただ、後年のとあるインタビューで、ワリオの基本性能に関する清武氏の意図と思しきものを推察できるようになっている。
そのインタビューとは、任天堂公式サイトに掲載されている『ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ』、『メトロイド』の回。このインタビューにおいて『スーパーマリオブラザーズ』について言及している部分があり、その中で『メトロイド』シリーズのプロデューサー、坂本賀勇氏がこのようなエピソードを語っているのである。
坂本:
そもそも『スーパーマリオ』って、敵をよけるゲームですよね。――敵に当たるとミスになりますからね。
坂本:
それを見た清武は「なんでよけなあかんねん」と、文句を垂れていたんです(笑)。――あははは(笑)。
坂本:
そこで、回転ジャンプをすると敵を倒すことができる「スクリューアタック」というワザをやりたいということで、『メトロイド』をつくりはじめたと・・・そうだったよね?清武:
はい、そうでした(笑)。(任天堂公式トピックス 「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第5回「メトロイド篇」より引用)
敵に接触してもそう簡単にはやられない。
ジャンプしてから踏みつけるという、攻撃の合間に”避ける”という動作を挟まない。
前述のエピソードが語られた『メトロイド』は、それをダメージ制や「スクリューアタック」の特殊アクションという形で表現していた。『ワリオランド』はさらに大きく踏み込み、避ける動作を最小限にしたアクションを実現させている。
ワリオの基本性能は、そんな『メトロイド』の時に抱いた思いを『スーパーマリオブラザーズ』、『スーパーマリオランド』というフォーマットの中で表現したもの。そう考えられないだろうか?
現にワリオの打たれ強さ、回避が最小限で済むことなど、随所に「なんでよけなあかんねん」という『スーパーマリオブラザーズ』で抱いた不満から派生して設定されていると思しき箇所がある。
同じことは前作『スーパーマリオランド』でも、「バニーマリオ」に「ファイアマリオ」という変身状態でダメージを受けた際、『スーパーマリオブラザーズ』のように「ちびマリオ」へと弱体化せず、「スーパーマリオ」へと戻るというものがあった。ここにも避けることが苦手なプレイヤーを踏まえ、ダメージを受けるデメリットを最小限にしたいとの思いが微かに感じ取れる。
それがワリオになったことにより、さらに思い切ったことができるようになった。
あくまでもこれは筆者個人の考察にすぎない。だが、清武氏が『メトロイド』の開発当時に抱いていたことを踏まえれば、ワリオ(の基本性能)は『スーパーマリオブラザーズ』のゲームシステムに抱いた不満を自分なりに解釈し、反映させた総決算に当たるキャラクターと言えるのかもしれない。それはまさに、マリオのライバルそのものであり、マリオの逆を歩むキャラクターだ。
ワリオの基本性能に限らず、『ワリオランド』では他にも意欲的な試みが見られた。中でも道中に散らばった「コイン」は10枚以上集まれば投てき用の武器として使える、コースごとに集めた枚数が記録され、その合計数に応じてゲームクリア後のエンディングが変化するなど、重要なアイテムと位置付けている。
相応に道中に置かれた枚数も気持ち多めだが、100枚以上コインを集めても残機数は上がらない。逆に「ハート」なるアイテムの合計ポイントが100に達すると1つ増える仕組みにしており、過剰に残機が増えてしまうことによるシステムの形骸化を防いでいる。
さらに特定のコースをクリアすれば地形が変化し、新たな道が発見されたり、エンディングに影響を及ぼす「宝物」が手に入るといった、『メトロイド』のスタッフが作っていることを匂わせる凝った探索要素が存在するのも面白いところだ。ゲーム本編で使用されている効果音の多くが『メトロイドII RETURN OF THE SAMUS』から流用されたものである【※】というのも、その印象をより強くさせている。
※前述の「ワリオにあった職業は?」という質問に対し、「神」と回答した吉富氏は『メトロイドII RETURN OF THE SAMUS』のサウンドコンポーザー兼サウンドプログラマーである(※同作エンディングのスタッフクレジットより)。それ繋がりか、『ワリオランド』でも同作の効果音が使われていると推測される。
とは言え、本作の正式名称は『スーパーマリオランド3 ワリオランド』。マリオの名を冠している。それだけにか、「ちびワリオ」の時に敵に接触するとミスになる、変身するには専用のアイテムが必要、「スター」を取ると無敵状態になるといった仕様や特徴は『スーパーマリオブラザーズ』、『スーパーマリオランド』の基本に準拠したままだった。
それはマリオの冠が外れたバーチャルボーイ向けの新作、『ワリオランド アワゾンの秘宝』でも継承された。
しかし、それから約3年の時を経て誕生した正統続編『ワリオランド2 盗まれた財宝』(以下、ワリオランド2)において、『ワリオランド』はマリオシリーズから完全に独立したアクションゲームとして歩み始めることになる。
同時にアクションゲームというジャンルに一石を投じる、大胆な試みに挑んだのである。
残機なし!ゲームオーバーなし!当時としては意欲的すぎた『ワリオランド2』とその後のシリーズ。そして、いまや……!?
その大胆な試みとは「不死身」である。
ついにワリオは敵の攻撃を受けようがトラップに触れようが、絶対にやられなくなったのである。
とは言え、完全に無敵という訳ではない。敵に接触すると「横に吹っ飛ばされ、集めたコインを落とす」といったペナルティは設けられている。
しかし、やられない。絶対にやられることはない。ゲームオーバーにもならない。そもそも、ゲームオーバーなんて『ワリオランド2』にはない。
ゲームオーバーがないなら、残機制だってない。
まさにマリオシリーズどころか、アクションゲーム全体にも反抗するがごとき作品として『ワリオランド2』は誕生したのである。これを”イレギュラー”と言わずしてなんと言おう。「なんでよけなあかんねん」の思想はここに極まれりだ。
そんな挑戦的な仕様でありながら、『ワリオランド2』はアクションゲームとして確かな手ごたえも感じられる作品に仕上げられている。
前述の通り、やられることはなくても、攻撃をくらえば吹っ飛ばされてしまう。たとえば高い場所を目指して登っていくコースで攻撃をくらうと、一気に下へと戻されて登り直しだ。一応、不死身ゆえ穴に落ちることによるミスはないため、重大な結果に至ることはない。ただ、そう言った”巻き戻し”は発生するため、プレイヤーには何らかのストレスがかかるようになっている。
ミスになって途中からやり直しにならない分、手間をかけさせるといった感じだ。こういった工夫を凝らすことによって、『ワリオランド2』は独自のやり応えを演出している。残機制、ゲームオーバーという従来のシステムに捉われない手法というものを提示したのだ。
また、「リアクション」なる新要素の存在も見逃せない。前作や『スーパーマリオブラザーズ』シリーズなどで言うところの変身アクションだが、本作では特定の敵の攻撃を受けることで、ワリオの姿が変わるようになった。
しかも、何らかのデメリットが付く。「ケーキ」を食べさせられて”太る”と、ジャンプ力が大幅に低下すると同時に基本攻撃の体当たりができなくなる、鉄の塊を落とされて”つぶれる”と、身体がペッシャンコになって移動速度が大幅に低下する……などだ。
だが、”太る”なら敵を接触するだけで倒せるようになる上、画面全体に影響を及ぼす地震攻撃が可能になるほか、”つぶれる”もジャンプした時にヒラヒラと空中を舞えるようになるなど、メリットも大きい。そして、これを活かして難所を突破するという場面を用意することによって、アクションゲームとしての動かす楽しさとステージの起伏を表現している。
プレイヤーキャラクターがやられないとなると、「楽々クリアできちゃうのでは?」との先入観を抱きやすい。しかし『ワリオランド2』はそんな先入観をいい意味で裏切る試みが満載で、残機制やゲームオーバーと言った既存のシステムに頼らずともアクションゲームの遊び応えは表現できると証明したのである。
同時にワリオの打たれ強さがさらに際立つと同時に、「避ける」という動作に苦手意識があっても楽しめるアクションゲームというものも確立している。最終的にゲームをクリアするならば避けることは必須になるが、そうなっても”戻されるだけ”なので、ペナルティは大きくない。何より残機の減少、それによるゲームオーバーへの懸念を一切考えなくていい。
当時は異端の極みだった『ワリオランド2』のシステムだが、今やアクションゲームにおいて、「残機制」とそれに伴う「ゲームオーバー」は時代錯誤と見なされる要素になっている。
それどころかワリオの後に続くかのようにピーチ姫、ヨッシーも自らの主演作で残機制、ゲームオーバーを廃止(※前者は『スーパープリンセスピーチ』、後者は『ヨッシー ウールワールド』)。
ついにはマリオも2017年発売の『スーパーマリオオデッセイ』で残機制、ゲームオーバーを廃止した。それどころか、ワリオとは多少仕組みが異なるが、体力が尽きたり、穴に落下してミスになると、手持ちのコインが減るペナルティまで採用されるに至っている。
こうした後年のマリオシリーズの作品、そしてインディーゲーム界隈にて好評を博しているアクションゲームのことを思えば、『ワリオランド2』ことワリオは、まさに時代を先取りしていたといってもいいだろう。当時のアクションゲームのお約束に反抗する試みだったはずが、結果的に時代がそれに寄っていき、ついにはマリオまで行き渡った。それを思うと、改めてワリオの先駆者ぶりを思い知らされないだろうか。
そんな不死身システムは、続編『ワリオランド3 不思議なオルゴール』(以下、ワリオランド3)にも”ちょっとした仕掛け”も含めて継承されている。
『ワリオランド3』はリアクションを駆使した謎解き、探索要素がさらに増えたほか、特定の宝物を手に入れるとステージの地形が変わるといった初代『ワリオランド』の要素が装いも新たに復活を遂げている。さらにステージクリア型でありながら隠された「カギ」を探し出すこと、一部の宝物を手に入れるとワリオの身体能力が上昇するなど、探索型アクションゲーム的な遊び応えも強化されている。横スクロールアクション版3Dマリオ(『スーパーマリオ64』、『スーパーマリオサンシャイン』など)と例えると想像しやすいだろうか。
筆者個人としても『ワリオランド3』は、シリーズ屈指のボリュームとやり応えを誇ることから、アクションゲーム好きにはお薦めしたい1本だ。
そんな不死身システムだが、アクションゲーム特有の緊張感が弱くなってしまうという難点も抱えていた。そのことから次作『ワリオランドアドバンス ヨーキのお宝』(以下、ワリオランドアドバンス)では廃止。ダメージ制に改められた。アクションゲームとしても、”行きと帰り”の二部構成が特徴のステージクリア型になっている。
しかし、残機制廃止とゲームオーバーがない特徴は変わることなく踏襲されている。
続く外伝に当たる『ワリオワールド』、『怪盗ワリオ・ザ・セブン』の2作ではゲームオーバーが復活しているのだが、いずれもそうなることによるペナルティは驚くほど低い。
特に前者『ワリオワールド』は、手持ちのコインを支払ってコンティニューすれば、やられた時の場所からそのまま続きができてしまうという”ユルユル”ぶりである。しかも、ボス戦ですらこれが通用し、与えたダメージがそのままの状態から再開できるので、(コインが不足する事態に陥らなければ)大きくやり直されるということがない。
その後発売された『ワリオランド シェイク』は、行きと帰りの二部構成を始め、『ワリオランドアドバンス』の続編的な作りをしていることから、ゲームオーバーも残機制もない。ごく一部ながら「チェックポイント」も配置し、より気負わず遊べるようになっている。
こうした残機制、ゲームオーバーのない(あってもやり直しやすい)アクションゲームというイメージが『ワリオランド2』を発端に固められていき、独自の魅力を獲得するに至った。それも全てはワリオという、見た目からして”強い”キャラクターで、マリオのライバルであるからこそ成し得たもの。端的に言えば”反抗”だ。
そして、気付いた頃にはマリオたちよりも先の未来を歩んでしまっていた。
「なんでよけなあかんねん」との不満から設計されていったと思しきワリオ。それが最終的にアクションゲームにおけるゲームオーバー&残機制なしの先駆者にして、マリオの一歩先を歩む存在になってしまったというのは、改めて考えてみると非常に面白い話だ。
実際はワリオの影響というよりも、2010年発売の『Super Meat Boy』といった快適なコンティニュー(高速リトライ)を特徴とするアクションゲームがいくつか誕生しては支持され、時代が残機制なし、ゲームオーバーなしの風潮へと寄っていったことも大きいのだろう。
しかし、それが結果としてワリオの先駆者ぶりを際立たせることになってしまったのであるから、本当に未来とは何が起こるか分かったものではない。
そのことからも、『ワリオランド』シリーズとワリオというキャラクターは、アクションゲームの歴史において欠かせない存在にまで、2022年現在は格上げしているように筆者個人としては思うのである。ワリオは未来を歩むヒーローだったのだ。
そんなワリオシリーズをほぼリアルタイムで追いかけてきた筆者個人からすれば、『スーパーマリオオデッセイ』で残機制とゲームオーバーの廃止が実施された時、次のようなことを思うのも無理はなかったのである。
「いまになって残機制とゲームオーバー廃止とは、ワリオに後れを取ったね……」と。
実際はワリオどころか、(前述にて少し触れている通り)ピーチ姫とヨッシーにも後れを取ってしまっていたのだが。
ゲームシステムだけじゃない。マリオどころか、時代までも先取りしていた要素は他にもあった。
そんな『ワリオランド』シリーズだが、実は2022年現在の視点で見ると、他にもライバルのマリオの先を歩んでいたり、時代を先取りしていたと思える要素があった。その中でひときわ印象的なものを挙げるなら、以下の5つだろう。
女性の大ボス(黒幕)
マリオシリーズにおける宿敵は言わずもがな大魔王クッパ。その性別は『スーパーマリオサンシャイン』で初登場した息子「クッパJr.」の「おとうさん」という台詞から明らかな通り、男性(オス)である。
クッパ以外のライバルたち、ブラッキー、タタンガ、マムー、そしてワリオも男性。ワリオの後に初お目見えした『スーパーマリオRPG』の大ボス、「カジオー」も男性だった。
そんなワリオの宿敵は海賊「ブラックシュガー団」の首領「キャプテン・シロップ」(以下、シロップ)。なんと人間の女性である。
当時のマリオシリーズにも「コクッパ7人衆」(現:クッパ7人衆)の「ウェンディ」、『スーパーマリオランド2』のボスの一体で魔女の「サバーサ」、『ワリオの森』のボスの一体で人魚の「メイドー」(※『ワリオランド』後に登場したキャラクターだが、あえて取り上げる)といった女性のボスは存在していたものの、黒幕ポジションに当たる大ボスはいなかった。
その意味でもシロップは人間という設定も相まって、異彩を放っていた。
マリオシリーズにも、2003年発売の『マリオ&ルイージRPG』で「ゲラゲモーナ」なる女性の大ボスが初登場している。その後もマリオシリーズには女性の大ボスが数名出ているが、ワリオはその9年も前から女性の大ボスが登場し、何度も対決を演じていた。それを思うと、マリオの先を歩んでいたと言えるかもしれない。
なお、シロップは『ワリオランド』での初登場後、『ワリオランド2』、『ワリオランドシェイク』の2作に登場している。『ワリオランドシェイク』ではワリオに協力する味方という位置づけになっているが……?
また、シロップ以外でも女性の大ボスとして、『ワリオランドアドバンス ヨーキのお宝』に登場する金の亡者「ヨーキ」がいる。さらにもうひとり、女性の大ボスがいるのだが……こちらについては言及を避けたい。
ちなみにヒロイン勢でもショコラ姫(『ワリオランドアドバンス』)、クイーン メルフル(『ワリオランドシェイク)』)という2人がいる。
特にショコラ姫は故人という異例の設定かつ、アニメ調の可愛い容姿(+衝撃的な罠の存在)も相まって、強烈な印象を残す存在となっている。
ついでに付け加えるなら、ワリオシリーズに限らず、マリオシリーズ全体における筆者の推しである。(力説)
ボーカル楽曲
マリオシリーズのボーカル楽曲と言えば、2017年発売の『スーパーマリオオデッセイ』における『Jump Up, Super Star!』。マリオ初のボーカル楽曲との触れ込みで、大きな注目を集めたが、ワリオはその16年も先んじてボーカル楽曲を起用していた。
それが『ワリオランドアドバンス』である。タイトル画面のほか、「ヤシのきじま」のコース用楽曲としてボーカル楽曲が採用されている。しかも「ヤシのきじま」の歌詞は日本語である。さらにエンディングでも僅かながらボーカル楽曲が流れる。
ワリオのボーカル楽曲と言えば、瞬間アクションゲームにして2022年現在、シリーズの最前線を走る『メイド イン ワリオ』が真っ先に連想されるかもしれない。その発端にして原点は『ワリオランド』シリーズなのである。(なお、『ワリオランドアドバンス』以外に『怪盗ワリオ・ザ・セブン』でも、日本語歌詞のボーカル楽曲が採用されている)
ただ、マリオシリーズ全体で見る場合、ボーカル楽曲を採り入れた本当の先駆者は、時系列的に見ればドンキーコング(※クランキーコングではなく、現在の2代目)だったりする。とは言え、共にマリオと敵対したことのある【※】キャラクターが先行していたのを思うと、『Jump Up, Super Star!』に対する印象もほんの少し変わってくる……だろうか。
※2代目ドンキーコングとマリオは、『マリオvs.ドンキーコング』(ゲームボーイアドバンス、2004年発売)にて初めて敵対。『ドンキーコング64』の発売当時はそのような展開が描かれることはなかった。
酔いにくいカメラ
シリーズの中では外伝で、唯一の3Dアクションゲーム『ワリオワールド』は、”酔いにくいカメラ”を最大の特徴としている。基本的に視点は特定の位置に固定され、プレイヤーは最低限操作すればそれで十分というお手軽設計。(さらに動かせるのも四方向に限定されていたりと、アナログ仕様ではない)
これにより、3Dアクションでありながら2Dアクション感覚で遊べる作りを実現している。
これにほぼ似たカメラを採用したマリオシリーズと言えば、『スーパーマリオ3Dランド』と『スーパーマリオ3Dワールド』だ。
別の任天堂作品になるが、『星のカービィ ディスカバリー』もその種のカメラを採用している3Dアクションゲームとして記憶に新しい。『ワリオワールド』ことワリオは、それらに先んずる形で酔いにくいカメラというものに挑み、形作っていたのである。
さらになんと、3D空間内での吸い込みアクションもカービィに先んじて挑戦していた。もっとも、吸い込めるのはコインだけ。敵は吸い込めない。当然、コピー能力も獲得できない……って、そんなことができたら、カービィの面目丸つぶれだ。
しかし、コインを吸い込んで回収という点では、カービィというよりは『リングフィットアドベンチャー』の「リング」がある意味、その継承者……と言っていいのかどうか。
なお余談だが、『ワリオワールド』は『罪と罰 ~地球(ほし)の継承者~』のほか、『ガンスターヒーローズ』に『エイリアンソルジャー』、『斑鳩』などを代表作とするゲーム開発会社、トレジャーが開発した外部制作作品である。
2004年7月6日発売の『Nintendo DREAM vol.116』(毎日コミュニケーションズ 現在絶版)84ページ記載の『アドバンス ガーディアンヒーローズ』(ゲームボーイアドバンス、2004年発売)のインタビューにおいて、トレジャー代表取締役社長の前川正人氏は、「元々はオリジナルのアクションゲームとして提案したものだった」との発言を残している。ワリオの新作になったのは、任天堂からの提案だったようだ。
シュール要素
特に『ワリオランドアドバンス』以降は、グラフィック周りで精細な描写が可能となったことから、元のデザインに縛られない試みを積極的に行うようになった。
前述のボーカル楽曲の採用を始め、グロテスクで不気味なキャラクター、演出がそれに該当する。(さらに『ワリオランドアドバンス』には、ワリオが「シュールなヤツ」とまで称するキャラクター「黒い人」もいる)
数あるシュール要素の中で、『ワリオワールド』に登場するボスキャラクターの一体「カンタロウ」はひときわ突き抜けていたといっても過言ではないだろう。特に戦闘前の登場シーンは、誇張抜きにトラウマモノである。(目を赤く光らせる攻撃も不気味)
マリオも『スーパーマリオオデッセイ』にて、デザイン的な見た目に縛られない試みをするようになった。しかし、ワリオが先んじてそれをやっていたことを思うと、前述の残機制も含め、その後を追った……ように若干見えてしまうところがある。
フルアニメーション仕様のグラフィック
2022年現在における最終作『ワリオランド シェイク』は、キャラクターから背景に至るまで、手描きのアニメーションによって描写されたグラフィックを最大の特徴としている。
このようなグラフィックに挑んだゲームには『時と永遠~トキトワ~』(PlayStation 3)、『クレヨンしんちゃん 宇宙DEアチョー!? 友情のおバカラテ!!』(3DS)、そして『Cuphead』(Xbox One、PC、Nintendo Switch、PlayStation 4)などのタイトルがある。ワリオは、それらのタイトルに先んじて挑んでいたという点で、このグラフィックの先駆者に当たるのかもしれない。
ちなみに作中のキャラクターアニメーションとデモムービーは株式会社プロダクション・アイジー(※代表作:『攻殻機動隊』シリーズ、『PSYCHO-PASS サイコパス』、『ULTRAMAN』など)、背景は株式会社草薙(※代表作:『鋼の錬金術師』、『機動戦士ガンダム00』、『GRANBLUE FANTASY The Animation』など)が担当している。
2022年現在も本作の開発エピソードが語られているインタビューは、任天堂公式サイトのリンク先より閲覧可能だ。
シリーズ展開が止まって10年以上。”ワイルドな”ヒーロー・ワリオはどこへ?
そして、『スーパーマリオランド2』でのデビューから30年を迎えた2022年現在。時代とマリオに先行するかのような挑戦をし続けた『ワリオランド』シリーズは、実に10年以上、その展開を止めてしまっている。
今や、ワリオの代名詞にして、シリーズの最前線を走るのは『メイド イン ワリオ』。
『メイド イン ワリオ』もまた、アクションゲームというジャンルに新境地を開拓すると同時に、ワリオ独自の世界観を大きく広げた作品として幅広い支持を得た。
一方、『ワリオランド』シリーズは『メイド イン ワリオ』誕生以降、その影に隠れるようになっていき、2008年の『ワリオランド シェイク』をもって、ワリオが主人公のアクションゲームは発売されなくなってしまった。
それは『メイド イン ワリオ』のニンテンドーDS向け完全新作、『さわるメイドインワリオ』が100万本以上を売り上げる大ヒットを記録し、力関係が大きく逆転する事態になったのが影響しているのかもしれない。
他に筆者個人の視点として、『ワリオランド』シリーズは”人を選ぶ作品”としての印象が年々、強化傾向にあったことも響いたのではと推察している。
『ワリオランドアドバンス』以降がそうだが、下ネタが前面に出されたり、前述の「カンタロウ」などに象徴される不気味かつグロテスクなキャラクターが登場するようになったことで、その印象が徐々に強化されるようになっていった。
実際にそれらが宣伝などで強調されたり、遊んだプレイヤーの間で話題になることから、ワリオシリーズにはマリオシリーズとは異なる近寄りがたさ、直球で言えば”汚い”印象を抱いている人も少なくないと思われる。
特に外伝作のひとつ、『怪盗ワリオ・ザ・セブン』は十字キー(もしくはボタン)とタッチペンを用いる操作性に象徴されるシステム全般の癖の強さ、『コロコロコミック』的な下ネタの数々など、人を選ぶ作品としての極地だったと筆者個人は感じている。
その次の『ワリオランド シェイク』ではそれらがほぼ封じられ、近寄りがたい雰囲気は緩和された。だが、(主に売上面で)『メイド イン ワリオ』の人気に勝れなかったことが響いてしまったのか、これが2022年現在の最終作になってしまっている。
ワリオの強欲さ、品のなさといった個性が最も活きるのは、確かに『メイド イン ワリオ』シリーズだろう。
現に『メイド イン ワリオ』は、そこが大きくクローズアップされ、掘り下げられている。この影響もあってか、ワリオに対し、マリオと同じヒーローという印象を持つ人というのは少ないかもしれない。(「ワリオマン」なんてのが一部シリーズ作に居たりするが、あれは……)
だが、あえて大きな声で言いたい。
ワリオはワイルドで”漢(おとこ)らしい”ヒーローなのだ、と。
その魅力を最も堪能できるのが『ワリオランド』シリーズでもある。
基本的には「お宝を手に入れて一攫千金を狙い、私利私欲を満たす」というのがどの作品にも共通するワリオの行動理念である。そのような行動を取った末、危機に瀕していた世界を救ってしまったり、呪いをかけられていた姫君を救い出してしまったりもするが、そんなことが起きようともワリオはお宝第一【※】。
例え自らにとって最悪な結果を迎えたとしても、懲りずに次のお宝、もしくは欲を満たすために行動へと出る。
※ただ『ワリオランドアドバンス』のショコラ姫には、以降のシリーズにも珍しい反応を見せる一幕がある。
そういった自分の欲が全てな姿勢は実にワイルドで、マリオには真似できないカッコよさがある。それぞれのシリーズ作終盤で、大ボスとの壮絶な戦いを繰り広げるのも、怪力なワリオだからこそ描ける迫力とアクションゲームとしての臨場感がある。
なにより、ライバルのマリオはコイン集めに奔走する冒険に出たり、残機制を廃止するなど、いまやワリオが辿った道を歩んでいる。それを思うと、「実はワリオって本気を出せば普通にマリオに勝てるもの凄い男なのでは?」とすら思えてくるのだ。
『ワリオランド』シリーズの展開こそ止まっているものの、2018年発売の『メイド イン ワリオ ゴージャス』からはついにテレビコマーシャルに限らず、ゲーム内でも日本語音声で喋り始めるようになるなど、マリオの先を歩み続けるワリオ。
今後も恐らく、シリーズの最前線は『メイド イン ワリオ』が走り続けるのだろうが、いつかはお宝第一で、ワイルドなカッコよさを味わえるアクションゲームの新作が現れることを祈って、本稿を締め括りたい。
これからもマリオに反抗し、ひと足お先に未来を歩み続けろ、ワリオ様!