『ソニックフロンティア』の楽曲が、ことごとく刺さる。
“刺さる”といっても「この曲いいなあ」くらいのレベルではありません。胸が締めつけられるようなメロディー、重厚にたたみかけてくるギター、そしてハイトーンボイスとスクリーム。
心が震えるそれらのサウンドは、ポスト・ハードコア(スクリーモ)と呼ばれるジャンル【※】が大きな盛り上がりを見せた2000年代に引き戻される感覚がありました。ロックシーンを爆発的に彩った2000年代のあのサウンドです。
※ポスト・ハードコア(スクリーモ)と呼ばれるジャンル
ジャンルの定義については本題と離れてしまうため割愛させていただきますが、ここではエモから地続きになっているスクリーモやメタルコアなどもひっくるめてポスト・ハードコア “界隈” とさせてください。
そこで本稿では、2000年代におけるポスト・ハードコア界隈の「神アルバム」(筆者比)を10枚ほど挙げてみようと思います。令和のいま、ゲームメディアの記事で。
「そんなアルバムあったな~」とか「そのバンドなら1stより2ndだろ!」など当時の思い出を重ねながら読んでいただけたら幸いです。
そして少しでも共感いただけたら、そのあとご紹介する『ソニックフロンティア』の楽曲もぜひ聴いてみてください。きっと刺さるはずなので。
本稿の後半では『ソニックフロンティア』でサウンドディレクターを務める大谷智哉氏のインタビューや、同氏が選ぶ神アルバム10選もお届けいたします。好きなアルバムを10枚に絞るという苦悩を味わっていただきました。
よかったらこの記事を読んでいるみなさまの神アルバム10選も教えてください。10枚に絞るなんてできなくないですか……?
文/柳本マリエ
※いまからご紹介する神アルバム10選は筆者の独断と偏見に満ちた10枚です。10枚に絞るまで1カ月くらいかかりました。
あなたのSaosinはCove派?Anthony派?2000年代の「神アルバム」を振り返る
まずはさっそく悩みに悩んだ10枚をご紹介いたします。
・Finch「What It Is To Born」(2002)
・Funeral For A Friend「Casually Dressed And Deep In Conversation」(2003)
・Tooth & Nail Records「The Nail Volume One」(2003)
・Underoath「They’re Only Chasing Safety」(2004)
・Saosin「Saosin」(2006)
・Pleymo「Alphabet Prison」(2006)
・Оригами「И Ангелы Ошибаются」(2006)
・LoveHateHero「White Lies」(2007)
・A Hope For Home「Here, the End」(2007)
・Empyr「The Peaceful Riot」(2008)
※年代順(好きな順だと一生決められないため)
Finch「What It Is To Born」(2002)
まずはFinchの「What It Is To Born」(2002)です。20年以上も前のアルバムだなんて信じられません。それもそのはず、いまでも日常的に聴いていますから。
1曲目の「New Beginning」からもう胸がこみ上げてきてしまうのですが、Finchといえばやっぱり「Letters To You」ではないでしょうか。この曲で盛り上がらなかったところを筆者は見たことがありません。なんといっても「I want you to know that I miss you, I miss you so」というサビが、英語をあまり話せない筆者にも歌いやすくて助かります。
中盤は「Perfection Through Silence」でしょう。まず出だしのギターがとにかくよい。筆者のなかで「この曲が好きな人は、A Change of Paceの「Death Do Us Apart」も好き」という説があります。賛同してくださる方はいらっしゃいますか……?
そして終盤は「Ender」からの「What It Is To Born」で泣かせてくるから困ったもんだ。2009年の来日公演では出だしの「シェイッ、バ────────────ン!」で泣きました。
Finchは「Say Hello To Sunshine」(2005)の「Ink」や「Miro」も好きなので、絞るのが難しかったです。総合的に「What It Is To Born」(2002)を選びました。
Funeral For A Friend「Casually Dressed And Deep In Conversation」(2003)
つづいてはFuneral For A Friendの「Casually Dressed And Deep In Conversation」(2003)です。もはや、彼らをいつどこでどのように知ったのかを覚えていません。気づいたら当たり前のように聴いていました。
このアルバムで筆者がとくに好きな曲は「Juneau」です。当時この「Juneau」のデモ版「Juno」が限定公開されていた記憶。現在は2013年にリリースされたアルバム「Between Order and Model」に「Juno」も収録されているようですね。ありがたい。
Tooth & Nail Records「The Nail Volume One」(2003)
エモ、スクリーモ、メタルコア系のバンドが多く所属するレコードレーベルTooth & Nail Recordsは、UnderoathやAnberlinを輩出したことでも知られています。そのTooth & Nail Recordsのコンピレーションアルバム「The Nail Volume One」(2003)は歴史に残るアルバムのひとつではないでしょうか。
まずはその収録曲をご覧ください。
Thousand Foot Krutch「Phenomenon」
Anberlin「Ready Fuels」
Spoken「Promise」
Bleach 「Get Up」
Watashi Wa「All Of Me」
FM Static「Crazy Mary」
Starflyer 59「Underneath」
Fighting Jacks「Commons And Robbers」
Emery「Walls」
Mae「Summertime」
MewithoutYou「The Ghost」
Joy Electric「(I Am) Made From The Wires」
Lucerin Blue「Chorus Of Birds」
Dogwood「Faith」
Hangnail「Temporary」
Ace Troubleshooter「Ball & Chain」
Side Walk Slam「Time Will Pass You By」
Slow Coming Day「Pages Yet To Be Written」
Furthermore「 Letter To Myself」
The Juliana Theory「Duane Joseph」
……ッ!!! どの曲もよすぎてどこから書いていいのかわかりません。しかしすべて書いていたら先に進めないので、3曲に絞ってご紹介させてください。
まずAnberlinです。筆者はこのアルバムで彼らを知りました。収録曲の「Ready Fuels」が出世曲だったと思います。そこから「Never Take Friendship Personal」(2005)や「Cities」(2007)がヒットしていきました。2009年の来日公演(TOTALFAT → New Found Glory → Forever The Sickest Kids → Anberlin)は、いまでも鮮明に思い出せるくらい印象に残っているライブです。組み合わせがよすぎませんか……?
つづいてはMaeです。2022年に来日したばかりで、アルバム「The Everglow」と「Destination: Beautiful」を中心としたグレイテスト・ヒットを披露してくれました。もちろんこのアルバムに収録されている「Summertime」も。感染対策により声出しNGのライブだったのですが、Maeの場合はその静けさも楽曲に合っていたように感じます。
最後はSlow Coming Dayです。この「Pages Yet To Be Written」がとにかく儚い。少し寒くなってきたいまの時期に聴いたら胸がキュッとなって震えちゃう。どうやら2017年にリリースされたEP「A Part of Me Died」にはアレンジ違いver.が収録されているようです。どちらもよい。
Underoath「They’re Only Chasing Safety」(2004)
つづいては前述したTooth & Nail RecordsよりリリースされたUnderoathの「They’re Only Chasing Safety」(2004)です。このアルバムは、ポスト・ハードコア入門としてとても適しているのではないでしょうか。激しいスクリームがありながらもクリーンパートの神々しさによって、独特のバランスが保たれていると思います。
そういったサウンドはポスト・ハードコアにおいて定石ではあるものの、Underoathは激しさと神々しさのレンジが広いため、飴と鞭のような感覚で気がつくと激しいサウンドに対する耐性がついている。Underoathを通ったことにより、聴ける幅が広がった印象です。
また、クリーンパート担当のAaronによる別プロジェクトThe Almostの「Southern Weather」(2007)は、力強さを残しつつもUnderoathとは異なる神秘性がある名盤。音楽性でいうとThe Auditionと近いように感じます。The Auditionといえば「Controversy Loves Company」(2005)の「You’ve Made Us Conscious」が名曲なので、もしまだ聴いていなかったらぜひ聴いてみてください。
Underoathの話をしていたはずなのに、いつの間にかThe Auditionの話にすり替えている自分が怖いです。
Saosin「Saosin」(2006)
Saosinは、ボーカルが Anthony(1代目ボーカル)→ Cove(2代目ボーカル)→ Anthony(再び1代目ボーカル)→ Cove(ASIA TOUR 2023より再び2代目ボーカル)と変わっているため、派閥が分かれるのではないでしょうか。筆者がもしどちら派か問われたら、“ややCove派” かもしれないです。
というのも、SaosinはCove加入後にリリースされた「Saosin」(2006)で大きく飛躍したため、“最初のSaosin” がCoveだった人も多いはず。かく言う筆者もそのひとり。あとからAnthonyがボーカルを務めるEP「Translating the Name」を聴いているので、先にCoveが定着してしまっていたという経緯があります。さらに、アルバム「Saosin」(2006)は「Voices」「Finding Home」「You’re Not Alone」など楽曲そのもののよさもあるため、繰り返し聴いていました。
そのため筆者はややCove派となっています。これが、きのことたけのこだったら「たけのこ!」と即答できるのですが、AnthonyとCoveは即答できません。もちろん、どちらかに絞る必要はないのですが。
それともうひとつSaosinで特筆すべきこととして当時ものすごく衝撃的だったのは、Saosinの読み方が「セイオシン」だったこと。ずっと「サオシン」だと思っていたので国内盤の帯に「セイオシン」と書かれていたのを見たときは驚きました。いまでも心のなかではこっそり「サオシン」と呼んでいます。
Pleymo「Alphabet Prison」(2006)
PleymoをはじめEnhancer、Vegastar、AqMEなどが所属していたニューメタル集団「Team Nowhere」や、彼らと親交が深いバンド(Watcha、Hass Hysteria、Bukowski、The Arrs、Kyoなど)を足して割ったらポスト・ハードコアと言えるのではないでしょうか。……と、無理やりこじつけてでも語りたい。
親日家で知られるPleymoは、1stアルバム「Keçkispasse」(1999)からすでに日本語歌詞の「K-ra」が収録されていました。とくにボーカルのMarcが「AKIRA」や「攻殻機動隊」から多大な影響を受けていることも有名です。
「Alphabet Prison」(2006)では「4 A.M. Roppongi」という六本木を題材とした曲が収録されており、「友だち100人できるわけないだろッ」など日本語の会話から始まるため、その情報だけを切り取ると “トンデモ日本” 的な印象を受けるかもしれません。しかしながら、Pleymoはとにかくセンスがいい。六本木についてこれだけねっとり歌いあげる曲を筆者はほかに知らないです。
またPleymoはアートワークも特徴的で、クリエイターでもあるボーカルのMarcとTeam Nowhere専属フォトグラファーのBERZERKERによるCDジャケットやMVは必見。とくに「Adrenaline」はストーリー性が強くてお気に入りです。
Pleymoについては「Alphabet Prison」(2006)の楽曲だけでなく、Team NowhereなどPleymoを取り巻く周りの環境も含めて選びました。
Оригами「И Ангелы Ошибаются」(2006)
筆者がロシア語を使うのは、この顔文字( ´Д`)かОригамиの話をするときくらいでしょう。Оригамиを知ったきっかけは、前述したPleymoのモスクワ公演でオープニングアクトを務めていたからです。
Оригамиをアルファベット表記にすると「Origami」。おそらくあの折り紙です。彼らに関する情報が少なすぎてバンドについての詳細はあまりわからないのですが、楽曲がとにかくいい。曲名も歌詞もまったく読めないけど、それでいい。
とくに「И Ангелы Ошибаются」(2006)の「Ради Чего」は、キャッチーでありながら激しいシャウトもある曲で聴きやすいと思います。Spotifyでは歴代のアルバムも聴けるので、ご興味あればロシア産ポスト・ハードコアもぜひ。
A Hope For Home「Here, the End」(2007)
A Hope For Homeは、とにかく音が深い。「Here, the End」(2007)は、Maeの「The Everglow」をポスト・ハードコアにしたような音楽性です。曲と曲がつながっているため、入りも美しい。独特の儚さがあり、午前5時くらいの夜明けに聴くと最高に盛り上がります(筆者比)。
Spotifyの再生数を見たら、このアルバムにおいては1曲あたりの再生数が1000から2000くらいだったので驚きました。100万回くらい再生されていい名盤です。とくに「Kyle」という曲は出だしから儚すぎて心が震えました。
ゴリゴリしたいなら1曲目「Casting Light Through Such Thin Shades」や3曲目「(Grace) We Are the Heirs!」ですが、この手のアルバムは1曲目から通して聴くことで完成される気がします。
LoveHateHero「White Lies」(2007)
「White Lies」(2007)は “捨て曲のなさ” からいま現在も繰り返し聴いているアルバムのひとつ。いい意味で浮きも沈みもないアルバムのためずっと同じテンションで聴くことができます。
まったく同じ理由でIvorylineの「There Came A Lion」(2008)も繰り返し聴いているのですが、「White Lies」(2007)は1曲目「Goodbye My Love」のギターリフが耳に残るので選びました。
また、個人的すぎる余談で申し訳ないですが、筆者の結婚式のケーキ入刀でも「Goodbye My Love」を流してもらったので人生においても思い出の楽曲になっています。ちなみに結婚式の入場曲はThe All-American Rejectsの「Move Along」、乾杯はMy Chemical Romanceの「Dead!」、退場曲はFinchの「What It Is To Born」(シェイッ、バ───ン)でした。
Empyr「The Peaceful Riot」(2008)
最後の1枚は、「The Peaceful Riot」(2008)です。EmpyrはPleymoのベーシスト・Benoit、Vegastarのドラマー・Jocelyn、Watchaのギタリスト・Fred、そしてKyoのボーカル・Benとギタリスト・Florianが集まって結成したバンド。重厚なサウンドと軽やかなメロディーが刺さりました。
シングルカットされている「New Day」のMVはPleymoでボーカルを務めるMarcとTeam Nowhere専属フォトグラファーのBERZERKERが手がけているため、先述したPleymoの「Adrenaline」が好きな人に聴いてほしい1曲。
「The Peaceful Riot」リリースの翌年にはEP「Your Skin My Skin」(2009)、その2年後にはアルバム「Unicorn」(2011)をリリースし、現在は残念ながら活動を休止しています。
Sleeping with SirensのKellin Quinnが『ソニックフロンティア』のボーカル曲を担当
以上が、2000年代におけるポスト・ハードコア界隈の「神アルバム」(筆者比)でした。なんとなく傾向をご理解いただけたでしょうか。これらのアルバムのどこかに共感いただけたら『ソニックフロンティア』の楽曲もぜひ聴いてみてください。きっと刺さるはずなので。
なぜかというとまず『ソニックフロンティア』のボーカル曲の多くは、ポスト・ハードコアバンド「Sleeping with Sirens」のKellin Quinn【※】が歌っているからです。ここまで記事を読み進めていただいた方なら、それだけでもご興味いただけるのではないでしょうか。
『ソニックフロンティア』で遊んでいるとスーパーソニック戦(ボス戦)でKellinが歌う楽曲が流れてくるんです。
この曲が流れてきたらゲームの手は止まるでしょう……?
楽曲を手がけたのはサウンドディレクターの大谷智哉氏。そこで、ここからは同氏のインタビューをお届けします。『ソニックフロンティア』の楽曲が多くのポスト・ハードコア好きに届きますように。
※Kellin Quinn
Sleeping with Sirensのボーカル。『ソニックフロンティア』ではスーパーソニック戦(ボス戦)の曲「Undefeatable」「Break Throufh It All」「Find Your Flame」のボーカルを担当。