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『ソニックフロンティア』の楽曲があまりにもポスト・ハードコア好きに刺さるので、思わず2000年代の「神アルバム」を振り返ってみた! あなたのSaosinは、Cove派?Anthony派? あのころの “エモ” を忘れない

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【大谷氏インタビュー】アナザーストリーのThe END戦は「I’m Here」の3段活用でたたみけるように演出

──第1弾のサウンドトラックCD「Stillness & Motion」が全150曲6枚組であったことにも驚きましたが、第2弾のサウンドトラックCD「Paths Revisited」も全46曲2枚組というボリュームに驚きました。ひとつのゲームに対して約200曲もの楽曲があることは異例なのではないでしょうか。第2弾の経緯についてお聞かせください。

大谷氏(以下、大谷氏):
トータルでCD8枚分ですから、過去に私が手がけたサウンドトラックと比較しても最大規模です(笑)。アップデートコンテンツの仕様や演出するうえで必要と思われる楽曲を作った結果、このようなボリュームになりました。

曲数は基本的にゲームのコンテンツ量に比例していると思っていただいて間違いありません。第2弾サウンドトラックに収録されている楽曲は一部を除き、ほぼ第3弾アップデートのために作られた楽曲になります。

第3弾アップデートの冒頭で「私の何百万回ものシミュレーションの中で成功の可能性が低いものは、これまで考慮してこなかった。もしかしてそこにドクターを救う術があるのかもしれない」というセージ【※】のセリフがあり、そこから ソニックたちはアナザーストーリーを体験することとなります。

※セージ
『ソニックフロンティア』に登場する謎の少女。

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セージはその “If” に成功の可能性を見出すわけですが、音楽面でも本編では採用しなかったアイデアがたくさんあったので、それらを再検討することから始めていきました。私がこのプロジェクトの制作に専念することができたこともこのボリュームになった要因のひとつだと思います。150曲のサウンドトラックを仕上げたあとでもまだまだやりたいことがたくさん残っていることに自分自身驚きました。

──第2弾サウンドトラックのボーカル曲については、Merry Kirk-Holmes【※】が歌うメインテーマの「I’m Here」をKellin Quinnが歌い、「I’m Here – Revisited」として収録されています。オリジナルを知っているからこそアレンジにしびれました。どういう議論のうえ、同じ曲を別のボーカルでアレンジする形となったのでしょうか?

大谷氏:
ここはかなり悩んだポイントでした。Kellinに参加してもらった3曲は、ゲームを遊んでくれた方のリアクションや、Spotifyなどの再生数を見ても圧倒的な人気曲となっています。そのためアナザーストーリーを締めくくる楽曲に再びKellinを起用することはマストであると考えていました。

※Merry Kirk-Holmes
To Octaviaのボーカル。『ソニックフロンティア』ではメインテーマ「I’m Here」のボーカルを担当。

──再びKellinを起用するという時点でかなり熱いですね。

大谷氏:
 しかしそれが新曲であるべきか、あるいは “If” のコンセプトに従い「Kellinが「I’m Here」を歌ったらどうなるのか」を実現するべきかの2択で検討していました。

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悩んだ末、後者に賭けてみることにしたんです。なぜかというと、クライマックスの場面で聴いたことのない新曲がかかるよりも、すでに刷り込まれている「I’m Here」が新しいバージョンで流れるほうがグッとくるのではないかという結論に達したためです。

バトルの進行に合わせて、「I’m Here」(オリジナルのインストから歌入り)→「I’m Here – Orchestral ver.」(オーケストラ ver.)→「I’m Here – Revisited」(Kellin ver.)という「I’m Here」の3段活用で、たたみけるように演出しました。すべての演出が実装されて一連の流れを確認したときには手応えを感じましたね。

──Kellinは楽曲についてどのような反応をしていましたか?

大谷氏:
「I’m Here – Revisited」におけるKellinの収録は、前回と同様にボーカルレコーディングのプロデューサーを務めるTyler Smythと進めていきました。最初に音源と要望を伝え、そこからアレンジを加えるラインをすり合わせていきます。

とはいえ彼らの楽曲に向き合うスタンスを全面的に信頼しているので「TylerとKellinらしく進めてください」とお任せして、私は国内でほかの曲のレコーディング作業を進めていました。

「ソニックシンフォニー」のロサンゼルス公演でKellinに会ったときにTylerとのレコーディングについて聞いてみたところ、「He is a blast!」と言っていたのでレコーディングを楽しんでくれたと思います。実際、オリジナル以上のボーカルトラックが送られてきたので、彼らの熱量に感謝しています。現地ではTylerも含めて3人で写真も撮れました。

──「I’m Here – Revisited」でこだわった点や苦労した点についてお聞かせください。

大谷氏:
オリジナルの「I’m Here」は『ソニックフロンティア』の楽曲コンセプトである「静と動」を1曲の中で表現していますが、「I’m Here – Revisited」は、新たな力を手に入れたスーパーソニックへと変貌を遂げる危うさとアグレッシブさを合わせ持つアレンジにしようと考えました。新たなイントロのフレーズを考え、ベーシックなアレンジを作ったのち、ギタリストやミキシングエンジニアのMEGさんにバトンンタッチして仕上げてもらっています。

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Merry Kirk-Holmesが歌うオリジナルの「I’m Here」は、新境地を前に弱さや不安を抱えながらも強い気持ちをもって前に向かって進んでいくような曲だと思っています。一方でKellinが歌う「I’m Here – Revisited」は、神々しさと洗練されたクールさがあると思っていますが、どう思われましたか?

──おっしゃるとおり、まず神々しさを感じました。とくにイントロのフレーズが緊張感を演出していると思います。Merry Kirk-Holmesのオリジナルはまっすぐな力強さや “ひたむき感” があることに対し、KellinのRevisitedは少し冷静で “どちらに転ぶかわからない危うさ” がある印象です。
第3弾アップデートに伴い新しい楽曲もいくつかあるだろうとは思っていましたが、「そうきたか!」と意表を突かれました。「Kellinが「I’m Here」を歌う世界線」という、ストーリー以外のところにも “If” のコンセプトがあることに完成度の高さを感じます。

大谷氏:
ありがとうございます。

──プレイアブルキャラクターとなった、エミー、ナックルズ、テイルスのBGMも耳に残りました。それぞれの特徴をお聞かせください。

大谷氏:
困難な試練が待ち受けているアナザーストーリーでは、本編と同様にミステリアスで物悲しく、シリアスなBGMとなっています。ただ、“If” のコンセプトを軸にしているので、ここでも本編制作時には採用しなかったアイデアを取り入れることにしました。

そのひとつが「断片的なボーカル(ないしボーカルサンプル)を入れて、俯瞰的にキャラクターの気持ちを歌ってみたらどうか?」というアイデアです。「インストとボーカル曲の中間」といったところでしょうか。

歌詞の内容にも過去作のキャラクターテーマの歌詞からキーワードを引用し、それぞれの “キャラクターらしさ” を加えています。悩めるエミー、ファンキーなナックルズ、知的なテイルスなどキャラクターごとのエッセンスを曲に取り入れながら、ピアノと弦楽器で『ソニックフロンティア』らしいトーンにまとめました。

過去作のキャラクターテーマから考えると音楽のベクトルはだいぶ異なるためソニックシリーズらしくない楽曲かもしれませんが、思いのほか評判がよかったので安心しています。

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──第2弾サウンドトラックでとくに印象に残っている楽曲はありますか?

大谷氏:
それでいうと、エンディングテーマの「I’m with you – Vocal ver.」ですね。「I’m with you」は本編のかなり初期に制作した曲です。本編では、The Endに向かって特攻する際に流れます。

このときの「I’m with you」の意味はどちらかというと「あなたをサポートします」(一緒にはいられないけど)的な意味だったのですが、アナザーストーリーの「I’m with you – Vocal ver.」は紛れもなく「あなたと一緒にいる」という意味の曲になりました。ラストシーンでこの曲が鳴り始めるタイミングは、何度も繰り返し観たくなるくらいお気に入りの場面です。私も開発者のひとりではありますが、この結末にしてくれて本当にありがとうという気持ちです。

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──先ほども「ソニックシンフォニー」のお話が出ましたが、Kellinも登場していたロサンゼルス公演はいかがでしたか? 会場の雰囲気などご感想をお聞かせください。

大谷氏:
Kellinについては、彼のマネージメントと「ソニックシンフォニー」のプロデュースチームを繋いで出演交渉をしてもらい、ロサンゼルス公演にゲストシンガーとして参加してもらえることになりました。決まったときはテンションが上がりましたね。

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撮影:Ivan Chopik

『ソニックフロンティア』からは、「Undefetable」と「Break Through It All」の2曲を歌ってもらったのですが、かなり盛り上がりました。サビ前の「“It’s time to face your fear!” でオーディエンスの合唱が起きたら熱い!」と思っていたところ、曲の始めから終わりまで大合唱でした(笑)。

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撮影:Ivan Chopik

キャパ3000人以上の会場(Dolby Theatre)で演奏するのは初めてだったのですが、欧米ファンの方のノリがよく、シンフォニーバンドのメンバーもみんな楽しい人たちなので、ホームのような気持ちで取り組むことができました。Kellinもこのライブに対してとても前向きに取り組んでくれて、シンフォニーバンドでリードシンガーを務めるDave Vivesと声の相性もよく、最高のパフォーマンスで華を添えてくれました。こんな表現でいいのかわかりませんが、かなりいいやつでした(笑)。みんなKellinのことが好きになったと思います。

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撮影:Ivan Chopik

──楽曲制作とライブはまったく異なることだと思いますが、「ソニックシンフォニー」ならではの見どころ(聴きどころ)や強みはどんなところでしょうか?

大谷氏:
「ソニックシンフォニー」は、歴代シリーズのインスト曲もボーカル曲も楽しめる、オーケストラ × ロックバンドのコンサートです。第1部となるAct1はリッチなオーケストラの演奏を堪能していただきますが、第2部となるAct2からはバンドが加わり、ロックバンド with オーケストラの編成になります。

繊細なオーケストラの演奏で始まったと思ったら、最終的にはオールスタンディングでメタルコア曲「Undefeatable」を大合唱しているような、そんなコンサートです(笑)。その振れ幅こそがソニック楽曲のポテンシャルであり、「ソニックシンフォニー」最大の魅力です。これまでゲームを遊んでくれているソニックファンの方はもちろんですが、音楽ファンの方にも楽しんでいただきたいと思っています。日本公演も成功させるべく準備をしていますので楽しみにしていてください。

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撮影:Ivan Chopik

──ここで完全に個人的な質問をさせてください。今回の記事の前半でアルバムを10枚ご紹介させていただきましたが、大谷さんが選ぶ「神アルバム」10選も教えていただけますでしょうか!

大谷氏:
10枚に絞るのはかなり難しいですね(笑)。私はどちらかというと、古くはパンク、ラップ、ミクスチャーロックに始まり、オルタナティブ、エモ、メロディック・パンクを中心に聴いていました。近年はポスト・ハードコアやメタルコア方面に少しづつ歩み寄り、『ソニックフロンティア』で満を持してあれらの曲を作るに至ったという感じです。泣く泣く外したアルバムも多数ですが、そんな変遷を感じていただける10選になっているかもしれません。

ソニックシリーズで最初に作った曲がヒップホップ系の楽曲だったこともあり、Beastie Boysから入れてみました。

・Beastie Boys「ILL Communication」(1994)
・Rage Against the Machine「The Battle of Los Angeles」(1999)
・LINKIN PARK「Hybrid Theory」(2000)
・The Mad Capsule Markets「010」(2001)
・ELLEGARDEN「RIOT ON THE GRILL」 (2005)
・My Chemical Romance「The Black Parade」 (2006)
・FACT「FACT」 (2009)
・A Skylit Drive「ASD」 (2015)
・Bring Me The Horizon「Post Human: Survival Horror」 (2020)
・Sleeping With Sirens「Complete Collapse」 (2023)

──ありがとうございます! かなり悩まれて選ばれたと思います。それでは最後に、この記事を読んでいるポスト・ハードコアファンに向けてメッセージをお願いします。

大谷氏:
ソニックファン、ゲーム音楽ファンだけにとどまらず、音楽ファンも唸らせるクオリティの楽曲に仕上げたいと思って作っています。この記事を通して「ソニックのゲーム音楽はこだわっているな」と感じてもらえたらうれしいですね。(了)


『ソニックフロンティア』のサウンドトラックCD第1弾「Stillness & Motion」(全150曲6枚組)と第2弾「Paths Revisited」(46曲2枚組)は現在発売中。Spotifyをはじめ各種音楽配信サービスでも再生・ダウンロード可能です。

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編集部
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちでレベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著「デブからの脱却」(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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