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『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王』は結末までの過程を再度描くことで物語の深みが増す、まさに「理想の前日譚」だ。ダイの師匠である「アバン先生」にフォーカスしたスピンオフ

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 前日譚、それは物語の結末という最大のネタバレを最初から知った上で語られる物語である。

 誰がどうあがこうと揺るがない結末が存在し、それを読者もまた知った上で、それに至るまでの「過程」を楽しむ物語だとも言えるだろう。

 例えば、『STAR WARS』のエピソード1からエピソード3までの、いわゆるプリクエル3部作は、どこでどう頑張ってもアナキン・スカイウォーカーはやがてダースベイダーになってしまうというあらかじめ定められた着地点に向かって突き進む物語なわけである。あれほど強いジェダイの騎士たちはほぼ全滅してしまうわけである。観る側もそれを了解した上で、そんなバッドエンドがきてほしくないけど、こっちが納得せざるを得ないほどのド級の悲劇によって納得させても欲しいという複雑な思いを抱えながら楽しむ物語形式なんじゃないかと思う。そしてやっぱり最後の最後でダースベイダーが誕生した瞬間に待ってましたとばかりに喝采してしまうわけである。

 良い前日譚とは、おぼろげに示唆されていた過去の出来事を改めて語りなおすことによって、既にある物語を再照射し、より深みを増して感じられるようになっているものなんじゃないかと考えている。そしてまた、結末や着地点が明確に決まっているからこそ、ハッタリや引きに頼らない物語の語り手としての手腕が如実に問われるのが前日譚という形式なのではないかとも。

 そういった点において、まさに理想的な前日譚と呼べるのが、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(以下『ダイの大冒険』。)の前日譚である、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王』(以下『獄炎の魔王』。)である。

 元となった『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』において、冒頭のたった7話で退場したにも関わらず(その後かなり後半で再登場)、読者に鮮烈な印象を残したダイとポップの師匠であるアバンが、かつて魔王ハドラーを討伐した時代の物語という、『ダイの大冒険』においても断片的に語られていたエピソードを改めて詳細に語りなおす今作は、前日譚の理想的な在り方を示す、まるでお手本のような物語である。

 今作で印象的なキャラクターは多いが、なかでも出色なのは魔王ハドラーである。『ダイの大冒険』を知っていれば、この時期のハドラーがそこまで強くないことはすでに承知の上なのにも関わらず、ギラギラとした野心に燃えつつも一種の青さすら感じさせる若き魔王ハドラーという、魔王という設定を除けばまるで少年漫画の主人公のようなキャラクター性を付与することによって、物語をグイグイと引っ張っていく見事な悪役になっている。強いとか弱いとか、正しいとか悪いとか関係なく漫画のキャラクターとしてただただ魅力的なのである。そして、最終的には見事に『ダイの大冒険』前半における、魔軍司令こと中間管理職ハドラーに着地して見せるまでの過程は、戦闘能力では圧倒的に劣る筈のアバンを大魔王バーンが最後まで警戒し続けた理由の説明とも相まって、今作の白眉と言えるだろう。

 他にもマトリフの使うあの魔法にこんな使い方が?みたいな妄想はしつつも公式がそれをマジでやるのかみたいな場面や、やはりキャラの最後は……などなど見どころは数多いし、連載もまだ終わってはいない。だが『ダイの大冒険』が好きな人であれば、文句なく楽しめることは間違いないだろうし、『獄炎の魔王』を読むことで『ダイの大冒険』もまたさらに面白く読めるという非常にお得な漫画である。おすすめです!!

ライター
某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ、「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。
Twitter:@hamatsu

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