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『行方不明展』は、誰かを捜す張り紙や異常な量の文字が書き込まれたハガキなど、リアルで不穏な断片の数々で「日常のすぐそばにある異常」を感じさせる。本展で紹介した行方不明者を捜索する必要はありません

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東京・中央区の三越前にある福島ビルにて、『行方不明展』が、7月19日から9月1日まで開催されている。本展を手がける株式会社闇とホラー作家の梨氏は、昨年3月に考察型展覧会『その怪文書を読みましたか』を開催。SNSなどで大きな話題となった。今回は新たにプロデューサーとしてテレビ東京の大森時生氏が参加し、さらにパワーアップした内容となっている。

本展は、それまでそこにいたであろう人たちが失踪や失跡、蒸発、神隠し、家出など、あらゆる理由で姿を消してしまった際の残留物などを集めた「完全フィクション」のイベントである。

会場内では何が行方不明になったのか明確にするために、大きく分けて身元不明の 「ひと」、所在不明 の「場所」、出所不明 の「もの」、真偽不明 の「記憶」というふうに4つの展示ルートが用意されており、それぞれの作品をとおして考察をめぐらせるようなものとなっていた。

本稿では、開催に先駆けて開催された本展をレポートする。また、後半では本作の企画を担当した、プロデューサーの大森時生氏と梨氏、ホラーカンパニー株式会社闇の代表でクリエイティブディレクターを務める頓花聖太郎氏に本展に際してのコメントなどもいただいているため、そちらもあわせてご覧いただきたい。

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▲会場の入り口付近に貼られた、失踪者たちを探すビラ。フィクションのはずなのに、リアルな展示物が背筋を凍らせる。

取材・文/高島おしゃむ


「身元不明」「所在不明」「出所不明」「真偽不明」をそれぞれ展示。ぽつんと立った電話ボックスと携帯電話の山に何を見るか

会場の1階では「身元不明」と「所在不明」、地下では「出所不明」と「真偽不明」がそれぞれ展示されていた。

まずは“身元不明「ひと」の行方不明”のコーナーから見ていこう。

会場入り口から不穏な雰囲気が漂っている本展。受付を済ませて真っ先に目に飛び込んできたのは、ぽつんとそびえ立った電話ボックスや、高く積み上げられた携帯電話だ。公衆電話には10円玉が積み上げられたまま残されており、「一体何が起きたのか」と鑑賞者の想像をふくらませる。そしてそれは、不穏な方向へと傾いていく。

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▲展示自体は程よくスペースが取られており見やすい。
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▲公衆電話の上には積み上げられた10円玉が置かれたままだ。急いでいたのだろうか、それとも置いていってしまうほどの何かが起きたのだろうか。
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▲高く積み上げられた携帯電話機。一体誰がなんのために……?
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▲空き家から発見されたペットボトルを展示したもの。しかし、その住宅には何十年も人は住んでいなかったという。

『行方不明展』では、それぞれのコーナーの最初にどんなテーマでこの展示が行われているのかについて書かれた「プロローグ」が用意されているほか、それぞれの展示物にもしっかりと解説が添えられている。各コーナーの最後には「エピローグ」も用意されており、そこまで読むことで展示物とあわせて物語として楽しめるような造りとなっている。

「プロローグ」と「エピローグ」に関してはネタバレになってしまうため詳細な内容をご紹介できないが、こちらの展覧会に訪れたときは忘れずにチェックしてから展示品を見て回ることを強くおすすめする。

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▲各コーナーには、それぞれ「プロローグ」と「エピローグ」が書かれたパネルが設置されている。
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▲展示を見つけたら、その解説も合わせてチェックしよう。
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▲こちらが上記の展示物についての解説文だ。

個人的に気になったのが、「エピローグ」の近くに置かれていたゲームボーイアドバンスSPだ。壊れた壁に充電機に付けられた状態で放置されており、ゲーム機の上に上には「誰の?」という紙が置かれている。

どうしても気になったので、なんのソフトがささっているのか見たところ、『マスターカラテカ』だった。持ち主はいったいどんな人物だったのだろう。

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▲充電された状態で置かれていたゲームボーイアドバンスSP。
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▲『マスターカラテカ』のカセットがささっていた。

「こっくりさん」や部屋の中に高く積まれた土が不穏を加速させる

会場の奥に進んでいくと”所在不明 「場所」の行方不明”のコーナーにたどり着く。こちらは狭い部屋がいくつか並んでおり、より異世界感が強いエリアとなっていた。壁には「こっくりさん」と呼ばれることが多い、中学校の準備室から発見されたヴィジャボードなどが展示されていたほか、部屋のど真ん中には大きく詰まれた土砂が出現。それらが並ぶ部屋ではビデオが流されているという、かなり不穏な光景が見られた。

この土の山は、廃墟の中でもひときわ大きな部屋の中で形成されたとのこと。その近くで流されている映像には、「なにか」が映っている。

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▲どこか懐かしい雰囲気もある、ヴィジャボード。
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▲思わず部屋に入った瞬間ギョッとする土砂の山。
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▲映像には何が映っているのだろうか。

おびただしい数の文字が書き込まれたハガキなど、不穏な断片が「わからない」不安をかき立てる。一体何が起きているのか

会場の地下へ移動し、“出所不明「もの」の行方不明”のコーナーへ。ここでは、遺留品など人々が持っていた「もの」に焦点を当てた展示が行われていた。

はがきにびっしりと文字が書き込まれているもの。こちらは、いなくなってしまった息子の捜索を依頼するために書かれたもののようだ。しかしその書き込みの量は異常なうえ、一般的な書式とはかなり異なっている。手書きの文字や劣化した紙からは、人間の執念のようなものを強く感じさせる。

薄汚れたシャツと、その胸ポケットに入っていた存在しない地名が書かれたメモ。なにかが起きていることは確かなようだが、不穏な断片は「わからない」ことへの不安をかき立てる。

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▲尋常じゃない執念を感じる書き込み量だ。
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▲どこで発見されたのか、すり切れたシャツとメモ。
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▲かなり変わった内容が記されたメモ。
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▲樹海に無断で立てられた看板。何かについて触れているようだが、はたして?
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▲樹海の木の上に置かれていた、複数のオブジェクト。

同じ地下1階に展示されていたのが、“真偽不明「記憶」の行方不明”のコーナーだ。タイトル通り、これまでとは別の意味で不可解なものが数多く展示されていた。まず目に付くのが、部屋のど真ん中に設置された子どもの手押し車である。こちらはとある日本家屋から発見されたものだが、これで遊んでいた子どもはその家には存在しないはずだという。

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▲存在しないはずの子どもが使っていた、手押し車。

もうひとつ、印象的だったのは「手紙」と題されたケースだけの作品だ。そのすぐ下には手書きで書かれたメモが貼られており、どうやら展示物自体がなくなってしまったのだという。

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▲何も展示されていないように見える不思議な作品も。
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▲どうやら、展示物自体が消えてしまったようだ。

物販コーナーには「展示物ガチャ」も登場。不穏でクールなアイテムがずらり

“真偽不明「記憶」の行方不明”のコーナーで、展示物自体はすべて終了となるのだが、そのすぐ近くに設置されていたのがグッズ売場のコーナーだ。こちらでは、Tシャツやパンフレット、ステッカー、書籍などが販売されていたのだが、なかでも目立っていたのが展示物ガチャである。

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▲グッズとして売られているTシャツ。
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▲パンフレットやステッカーなど、様々なグッズが用意されている。

1回100円でオリジナル作品も含まれた全12種類がアイテムとして出てくるとのこと。今回の内覧会でも回していいということで早速挑戦。ガチャの中から出てきたのは……なにやら紙が丸められたもの。広げてみると、名前不明の人物を探す張り紙だった。

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▲どうしても気になったのが展示物ガチャのコーナーだ。
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▲名前不明の誰かを探す張り紙

「カーテン1枚を超えてしまったら、別の世界に行くような感覚」──、生活感を突き詰めて描くフィクションについて語る。『行方不明展』製作チームインタビュー

展覧会の取材が終わったのち、本イベントの企画を担当した梨氏と株式会社闇の頓花聖太郎氏、プロデューサーの大森時生氏にお話をお伺いした。

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▲写真左から、頓花聖太郎氏、梨氏、大森時生氏。

──今回の展覧会でもっとも力を入れたのはどんなところでしょうか?

梨氏:
文字数です(笑)。展示って、意外と文章を多めに書くことができないんです。

今回の『行方不明展』は、滞留時間を60分から90分を想定しています。歩いて見て回る、¥60分~90分は、普通に読書で本を読むような文字量を読むことはできません。なので結構削って削って……という感じでした。

人が多くて読み飛ばしても、ある程度は世界観が伝えきれるような導線や設計に気を使いました。最悪でいうと、展示品を見ずに解説文の太字のところだけを読めばなんとかなります(笑)。

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──全体的に生活感があふれているというか……、リアルな作品が多い印象でした。

大森氏:
「ここではないどこかへ」というのが今回のキーワードのひとつになっています。

SFやビジネス的な文脈でよく使われている言葉を、不気味な意味合いや日常に根ざした意味合いで再解釈した展示というのが、我々の中で通底しているイメージです。

「ここではないどこかへ」は、生活感と逆に密着している概念だと思うんです。生活が一気にガラッと変わる。生活が一気に乖離する瞬間というのが、「ここではないどこかへ」だと思っています。

──日常が非日常になるみたいなことですね。

大森氏:
そうです。なので日常のリアリティというものが反転することで、大事になるという考え方がありました。

頓花氏:
「どこかから持ってきたもの」ということを違和感なく認識してもらってこの世界に没入できるよう、各展示では時代の経過であったり風化であったりを全力で制作しています。

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梨氏:
それこそいろいろな取材でも話していることですが、今回の展示のジャンルはホラーというよりはSFかなと思っています。SFといっても「サイエンス・フィクション」のほうではなくて、「スペキュレイティブ・フィクション」(現実世界と違う世界を考えて追求した作品のこと)のほうです。私の中での『行方不明展』は、かなりそれです。

大森氏:
SCP風というか(笑)。

──なるほど!たしかに「怖い」とはまたすこし違いますね。

大森氏:
怖いという感情は、日常と遠いところにある感覚のような気がします。今回は「我々の生活と薄い壁しかない」というような雰囲気を感じてもらえると、嬉しいですね。

頓花氏:
カーテン1枚を超えてしまったら、別の世界に行くような感覚を感じ取ってもらいたいです。

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──最後に、この『行方不明展』に興味を持った人に向けメッセージをお願いします!

梨氏:
物語をテーマにした展覧会は、あまりないと思っています。体験する読書ではありませんが、考え抜かれた物語というものをある意味全身で、読むだけではなくて映像であったり香りであったり、ものであったり、さまざまな感覚で楽しめる展覧会は、実はこれまでなかったのではないかなと思います。制作チームとしては、そうしたところを楽しんでいただけるとありがたいです。

大森氏:
今回は我々的に「いいフィクションを作りたかった」という思いがすごくあります。

「行方不明」という言葉から発せられる、ありとあらゆるものを描いています。フィクションだからこそ、皆さんにそれを楽しんでいただくことができるし、それぞれ何かしらの感覚をもってもらえるのではないかと思います。

頓花氏:
たとえば、今この記事を読んでいる中で「ちょっとホラーとか苦手なんだよね。ドバーッと飛び出してくるとか、音が鳴るとかで尻込みしちゃう」というような方には、よりオススメです!株式会社闇が作ると、おばけ屋敷のようなものだと思われてしまいますが、今回はそうではありません。

展覧会として、現代アートのような見方もできるかもしれません。体験型のイマーシブシアターなどが好きな方も楽しめると思います。(了)


『行方不明展』は9月1日()まで、三越前福島ビルにて開催中。チケットも発売中だ。期間内ならいつでも使える「期間有効券」土日など混雑が予想される日に使える「日時指定券」のふたつを選択することができるので、ご自身のスケジュールにあわせてチェックしてほしい。

ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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