松竹とGraffityは、両社が共同開発したApple Vision Pro向けの空間ゲーム『Craftrium』(以下、『クラフトリウム』)を1月29日(水)に全世界同時リリースする。価格は無料。こちらは、ハードの機能を最大限に活かして、自分だけのアクアリウムを作ってそばに置いておくことができるという、癒やし系の作品となっている。
2024年2月に米国で発売が開始されたApple Vision Proだが、その特徴はふたつある。ひとつはハンドトラッキングやアイトラッキングなどを活用することで、コントローラーレスで操作が行えるところだ。もうひとつは、ほかのデバイスと比較しても圧倒的な高解像度を誇る4Kレベルの映像体験ができるところである。
だが、いい面ばかりとはいえず、価格が1台あたり60万円ほどするということもあり、気軽に手を出せる製品ではないだろう。そうした状況の中で発表されたのが、今回の『クラフトリウム』である。
リリースに先駆けて、1月28日にメディア向けの発表会が開催された。また、後半は15分程本作を体験することができたので、そちらからわかったゲームの魅力や特徴についても合わせてご紹介していく。
あの松竹が本格的に「ゲーム事業」へ
松竹では、2024年より本格的にゲーム事業に取り組んでおり、インディーゲームを中心に5本ほどリリースしてきた。そちらが好調に推移してきた中で、今回Graffityとタッグを組んでApple Vision Pro向けゲームに取り組んでいる。
今回松竹がGraffityと一緒に共同開発を行うことになったのは、松竹社内にゲームを作る部署を持ってないことが理由だと取締役常務執行役員の井上貴弘氏は説明。また、オープンイノベーションを推進するグループ企業の松竹ベンチャーズがスタートアップと組んで事業を進めていくという一環で、今回の取り組みがスタートしたとのこと。
松竹といえばこれまでは映画や演劇のイメージだったが、そこにゲームが新たに加わった形となる。そしてこのゲーム事業でも、日本のみならずグローバルで展開していく予定だという。
一方GraffityはARなど空間エンターテイメントを手掛けてきた企業。そうした中で、同社のARゲーム・空間ゲーム事業がApple Vision Pro向けに『Shuriken Survivor』という空間シューティングゲームをリリースした。本作は、手で手裏剣を投げるような動作をして敵を倒していくというシンプルな作品なのだが、こちらが松竹の目に止まり、それが今回の取り組みにも発展してきたとGraffity 代表取締役CEOの森本俊亨氏は経緯を説明した。
『クラフトリウム』の4つの特徴
今回発表された『クラフトリウム』の特徴のひとつが、ワークスペースに飾ることができるという点。実際にリアルなアクアリウムを部屋などに設置しようとすると、そのためのスペースやエサなど様々な管理などもあり、ひと筋縄ではいかない面がある。だが、この『クラフトリウム』では、デジタルで簡単に実現できるのだ。
ちなみに、今作の企画段階ではアクアリウム以外にも、盆栽などのアイデアも出ていたようだ。だが、Apple Vision Proならではの非日常感を味わってほしいことから、盆栽よりもアクアリウムの方が合っているという判断を下している。
ふたつ目の特徴は、自由なデザインで自分だけのアクアリウムが体験できるところである。ゲーム内には、アクアリウムを楽しむためのアイテムがいろいろと用意されている。これらを活用しながら、自分だけのアクアリウムを作りあげることができるのだ。
3つ目の特徴は魚を集める要素だ。このゲームでは、アイテムの配置などにより、水槽内に登場する魚が変化する。新しく見つけた魚は図鑑に登録することができ、自分のコレクションとして楽しむことができるのだ。1度図鑑に登録した魚はアクアリウムの中に自由に置けるようになる。
そして4つ目の特徴が、より没入してアクアリウムが楽しめる「Immersiveモード」だ。詳しくは後ほど触れるが、これはアクアリウムを近くに置いて眺めるだけではなく、その世界に入り込んだかのような体験ができるモードである。
この『クラフトリウム』で工夫した点は「仕事の邪魔にならないゲーム性」と語ったのは森本氏だ。常にボタンを押すなどの作業が発生すると仕事に集中できなくなってしまう可能性がある。そのため、仕事の合間に少し触って、あとは放置していてもいいようなゲーム性にあえてしているのである。
アプリ自体はMacと連動することができる。これも、仕事の合間に触ることができるゲーム性からきているのだ。
また、操作についても学習コストが低くなるようにしている。基本的なUIなどは、Apple Vision Proで提唱されているものに準拠した形で作られている。ピンチやドラッグなど通常のPCとは少し異なる操作はあるものの、いずれもすぐに理解できるレベルだ。そのため、とくに難しい説明書などを読む必要はなく、直感的にゲームが楽しめるように作られているのである。
さらに、アクアリウムとしてより楽しめるような機能も盛り込まれている。ひとつはUI機能だ。こちらは画面内に表示されるUIを消すことができるというもので、単体で眺められるようにしたものである。そしてもうひとつが、先ほども少し触れた「Immersiveモード」だ。
『クラフトリウム』では大きく分けて「Volumeモード」と「Immersiveモード」の2種類があるのだが、「Volumeモード」のほうはほかのアプリで共有できるものだ。たとえば、Apple Vision Proを付けたままMacで仕事をしながら同時にアクアリウムを楽しめるモードがこちらである。
もうひとつの「Immersiveモード」は、アプリ単体で動かすモードである。こちらはその世界に入り込んだかのようなものになっており、より没入感の高い体験が楽しめる。今回Apple Vision Proがアップデートされたことで、このふたつのモードをシームレスに切り替えながら楽しめるようになった。
たとえば、自分のアクアリウムを作るときは「Volumeモード」で作業して、それを「Immersiveモード」に切り替えてより大きな画面で楽しむといったこともできるのである。
突然「巨大なエイ」が目の前に出現
発表会がひと通り終わったあとで、実際にこちらの『クラフトリウム』を体験することができた。Apple Vision Proを体験するのはこれが初めてであったのだが、ほかのVRデバイスなどと比べても、遥かに視認性のよい映像体験ができたというのが率直な印象だ。
これはどちらかというとアプリよりもデバイス側の話になるが、ゴーグルをつけたあとで、簡単な調整を行っていくことになる。このときに、目線で目標物を選んで指を閉じるだけで簡単に選択することができるのだ。これ自体は単純な動作なのだが、合わせてApple Vision Pro自体の操作の基本を学んでいくようにもなっているのである。その調整が終わると、いよいよ『クラフトリウム』の体験が始まる。
今回はあらかじめ3つほどの要素が設定された状態で始まったのだが、実際にゼロからプレイするときはなにもないところからアクアリウムを作り始めていくことができる。といっても難しい要素はほとんどなく、画面下に並んでいるアイコンからサンゴや草、岩、土台、ライトといった項目を選んで設置していくだけでOKだ。
実際に配置していく操作も直感的で、置けるスペースは決まっているものの、その中でサイズや向きを切り替えられるようになっていた。また、オブジェクトによってはサイズなどもある程度変更することも可能である。リアルなアクアリウムとは異なり、位置だけではなくサイズも自由に変更できるところもデジタルならではといえるだろう。
こうして自分だけのアクアリウムを作っていくと、そのなかに魚が泳いでいるのを発見することができる。見つけた魚を選んで図鑑に登録しておくことで、いつでも好きな時にアクアリウムの中に呼び出すことが可能になる。最初は魚の数が少ないが、遊んでいくうちにその種類も増えていき、図鑑に登録して集めていくといった楽しみ方ができるのだ。
アクアリウムを作る作業は基本的に「Volumeモード」で行っていくのだが、圧巻はやはりなんといっても「Immersiveモード」である。
「Volumeモード」で作業しているときは、それこそ机の横にちょこんと置いておけるようなかわいらしいサイズ感だった。そのため、アロワナのような大きめの魚も金魚のようなかわいらしいサイズ感で見えていたのだが、一気にサイズを拡大して、大きな画面で楽しむことができるのである。
とくに「Immersiveモード」では、アクアリウムのサイズを大きくして設置した後で、その世界一面が海の中に沈んだかのような映像に切り替えることができる。これにより、さらに没入感が増して見えるのだ。魚たちといっしょに水の中の世界に漂っているかのような気分になり、自然と気持ちも落ち着いてくるのである。
ちなみに、サメなどの巨大な魚もこの「Immersiveモード」では大迫力ビッグサイズで楽しむことができる。今回は残念ながらサメは出せなかったもののエイが出せるようになっていたのでためしに設置してみたのだが、突然「巨大なエイ」が目の前に現れたので、かなり驚いてしまった。こうした非日常的な体験ができるところも、この『クラフトリウム』とApple Vision Proならではだ。
Apple Vision Proはさすがに高価すぎるため、まだまだ所有している人の数は少ないのが現状だ。だが、もっと廉価な後継機が登場すれば、少しずつではあるが身近なものになっていく可能性はある。今回の『クラフトリウム』は将来を見据えたタイトルでもあるのだ。
Apple Vision Proを持っている人はぜひとも体験してみてほしい。