ジークアクスにMAV戦術。随所にみられる言葉遊びからも、鶴巻作品の味がする
ここからは余談になってしまうのですが、ジークアクスという、タイトルでもあり主人公の乗る機体でもあるこの言葉そのものもなかなか面白みがあります。
まずその字面に忠実に紐解けば、「ジーク・ジオン」という有名な掛け声や斧(アックス)がザクの象徴的な装備であるという部分に引っ掛け、「今回はジオンがメインの作品だよ」と既存ファンへ暗に示していたように思えます。
さらに、作中でその正確な呼び方が「ジー・クアックス」、もっといえば「ガンダム・クアックス」であると明かされています。この「qux」、調べてみるとプログラミングの世界で使われる“メタ変数”の一種であるらしく、日本での同種の存在としては「hoge」や「piyo」、日本語で言うならば「ナンチャラ」や「ホニャララ」に該当する、要するに“仮名”ということのようです。
そんなプログラミングで使われる仮名には「foo」や「bar」があり、その4番目の仮名が「qux」、5番目は「quux」である……ということなのですが。ややこしいのは、この内容をまとめた資料「Etymology of “Foo”(直訳すると“Foo”の語源)」の公開された日付が、2001年の4月1日であること。
この内容はエイプリルフール用に書かれたジョークなのではないかとも言われつつ、しかし上記の文書が公開された2001年よりも前、2000年の時点で『Battlefront』の掲示板において「ハッカーの辞書に載っている」と言及されており、「qux」や「quux」という言葉自体が前述の「Etymology of “Foo”」に起源を持っているわけではなさそうです。
どうも「foo」や「bar」とならんで「qux」や「quux」が古くから仮名として使われていたのは事実であるような、一方で「qux」や「quux」がどこまで一般的に使われているのかは定かでないような。
調べれば調べるほどに煙に巻かれていく、そんな単語「qux」を採用し、おそらく作中設定ではガンダムの試作機の何番目か(uの数で単純に数えるなら6番目、qux自体を4番目として考えるなら9番目?)という意味合いで付けられたのが、「ガンダム・クアックス」であると思われます。
この人を食ったような言葉選びや親友などを意味する“マブダチ”から持ってきていると思われる「MAV戦術」など、作品で聞こえてくる単語の端々から鶴巻監督や脚本・シリーズ構成を務める榎戸洋司氏のテイストを感じます。ひとりのファンとしては、そういった意味でも楽しくなってしまいました。
まあ、実際に誰がこれらの言葉を使うことに決めたのかはわからないので、あくまで余談に留めておきます。
追記:……などと、原稿の執筆時点では考えていたんですが、1月27日に株式会社カラーがYouTubeで公開した動画のなかで、この言葉遊びについてなんと鶴巻監督ご本人から言及がありました。
なんでも、「MAV」という言葉は脚本・シリーズ構成を担当されている榎戸氏のアイディアだったそうです。
「鶴巻作品の味」とか言っちゃった手前めちゃくちゃ恥ずかしいんですが、鶴巻監督とともに『フリクリ』や『トップをねらえ2!』を作り、こういった言葉遊びをふんだんに使っていた榎戸氏の仕事っぷりも含めて、僕は「鶴巻作品らしさ」として受容しているんだということで、平にご容赦いただければと思います。
以上、『ジークアクス』を見ての僕なりの感想を書かせていただきました。
とはいえ、まだ物語は始まったばかり。作品のテーマは話が進むにつれて紐解かれていくものですし、今後さらなる魅力も明らかになっていくことでしょう。ひとまずは、遠からず訪れるであろう本放送の開始を、皆さんと一緒に心待ちにさせていただきたいと思います。
サンライズとカラーが共同制作する『ガンダム』シリーズ最新作、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) 』は2025年1月現在、テレビ放送に先駆け『-Beginning-』と冠した先行公開版を全国の劇場で上映中です。
ここまで記事をお読みになった読者の方で、本作を見ていない方はほとんどいらっしゃらないとは思いますが、興味のある方はぜひ劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
また、弊誌では『ジークアクス』に関する特集記事をほかにも公開しておりますので、ぜひこちらも読んでいただければと思います。