『あずまんが大王』がついに電子書籍になりました。
SNSでは本作を懐かしむ声があふれ、Kindleランキングで1位を獲得するなど、コミュニティも盛り上がっています。それもそのはず、本作『あずまんが大王』は、20世紀と21世紀の間に多感な時代を過ごした人にとっては本当に印象深い作品なんです。
とはいえ、当時を過ごしていないと「なんでそんなに喜んでるの?」と思うかもしれません。
当時、『あずまんが大王』は衝撃的な作品でした。出てくる女の子たちはカワイイし、絵にも妙な色気がある。キャッチーなマスコットも出てくるし。ただ、それだけじゃないんです。
『あずまんが大王』は、後世に強い影響を残した重要なマンガのひとつです。
作中の様々な要素が、この後に出版されたいろいろな作品に引用され、この作品で試したことがさらに発展して使われ──それが今の漫画に根強く残る、パイオニアとなった作品なんです。
そういえば、映画でも似たような立ち位置のものってあると思いませんか?
そう。『あずまんが大王』は──『ブレードランナー』だったのかもしれません。

サイバーパンク映画の原典『ブレードランナー』
『ブレードランナー』(ワーナーブラザーズ/1982)は、SFの古典『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(フィリップ・K・ディック/1968)を元に映像化された、サイバーパンク映画の名作です。
近年ゲーム『Cyberpunk 2077』(CD Projekt/2020)のようにまたブームになりつつあるジャンルですが、そのビジュアルイメージの典型例である、
・荒廃した、雨が降り続く、汚らしくもネオンでハデハデな町並み
・よくわからない日本語看板が目立つカオスな文化
・なんか空に飛ぶ車がいっぱい飛んでる
これらは、すでに同映画の時点でほぼ完成されたものになっています。
なので、昨今初めて当作品を見た方にとっては「なんか他の作品で見たことのある光景ばかりで、斬新に思わなかった」と思うかもしれません。ただそれは、本作で「サイバーパンク映画」のイメージが完成していることの証左でもあると思うんです。
『ブレードランナー』はサイバーパンク映画の原典といえるでしょう。
「4つのコマに時系列はあるが、その4つだけではオチていない」という新たな様式
『あずまんが大王』は、月刊漫画雑誌『コミック電撃大王』(当時はメディアワークス社、現在はKADOKAWA)に、1999年より掲載された4コマ漫画です。
作者のあずまきよひこ氏は当時アンソロジーコミックなどで活躍しており、そのカワイイ絵柄はマニアの間で人気を博していました。

本作の特徴として、まず「4コマに起承転結がない」という点があります。
4コマはそれだけで完結しており、そこに起承転結があるもの──という概念を打ち破り「4つのコマに時系列はあるが、その4つだけではオチていない」という様式を採用しました。ひとつの4コマだけでなく、続く4コマを読み、そしてその月の連載を全て読むことで1つのお話になる、という構造です。
また「シュールなギャグで、かつ行間を読む必要がある」というのも重要な要素です。ボケキャラである春日歩の「ちゃうねん」の使いかたを(漫画ではイントネーションが伝わらないのに)読み取る必要があったり、美浜ちよの夢の中に出てくる「ちよ父」はなぜか猫のような不思議な姿であったり。
これらの様式は『あずまんが大王』が発明したものではありませんが、本作の画期的であった点は、それをいわゆる「萌え漫画」に導入した、というところです。「萌え」という新しい概念に「萌え」という言葉が与えられ、ジャンル化されたのが1990年代の終わりごろでしょうか。その流れの中で新たな様式を活用したことに、本作の歴史的な意味が存在するのです。
これらの形式を見た時に思い浮かぶ漫画群がありませんか? ──そう、いわゆる「きらら系」の漫画です。4コマが4コマとしてではなく、ひとつの連載で意味を持つ形式で、かつかわいいキャラクターを愛でていくという、きらら系やそれ以外にも波及したこの様式。その元祖のひとつが、『あずまんが大王』と言えるのではないでしょうか。

「原典」が100円で手に入る
『あずまんが大王』を「なんかすごいみんな騒いでるから、初めて読んでみるか」と思って、今回電書を買って読んだ方が「なんか見たことのある要素が多いな」という感想を持たれるのは正しいことだと思います。
ただ、それが重要なところなんです。
『あずまんが大王』も『ブレードランナー』も、それを「原典」として各ジャンル(萌え4コマ、サイバーパンク映画)が発展していき、その要素が散りばめられたものになります。つまり、それらのものを読み込み、理解するのに「原典」を理解しておくと、結果としてそのジャンルの解像度を上げることができます。なにせ、源流なわけですから。
そう考えると、今後も発展していくであろう、ヒット作も産まれていくであろう萌え系4コマへの解像度を上げるために『あずまんが大王』をいつでも読める手元に置いておく、というのはとても大切なことではと思うんです。
しかも、現在(2025年3月上旬現在)なんと1冊100円。ジュース1本分という、とてもコストパフォーマンスに優れたことになっているのです。
『あずまんが大王』の電書化をなんでそんなに騒いでるの?と思っているみなさん、「実家には紙の単行本があるんだよなあ」というみなさん、「押入れの中に新装版があるはず」というみなさん、ぜひ今ここで電書を買い、いつでも「原典」として読めるようにスマホの中に入れておこうではございませんか。
400円で「歴史」が手に入るのです。
思い出だけでは、時間と共にやがて消えてしまいますしね。
そういえば


そういえば、どちらも「わかもと」が印象的な作品ですよね。