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【業界動向】韓国ゲームメーカー最大手NCSOFT、スマホ向けMMORPGが売れまくっているのに、なぜグローバル・コンソールに挑戦するのか? G-STAR 2025が映す韓国ゲーム産業の悲願を分析してみた

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2025年11月13日~16日、釜山にて韓国最大のゲームショウ「G-STAR 2025」が開催された。今年のG-STARには44か国1273社が参加し、3269ものブースが出展され、4日間の累計来場者数は20万2000人を記録した(※外部リンク)。

今年のG-STARは単なるゲームの展示会ではなく、韓国ゲーム産業において構造的な転換期であることを強く示唆しているものだった。今回は、その核心にある大手メーカーの戦略転換を解説しつつ、韓国ゲーム産業の今後について考察してみたい。

韓国ゲームメーカー最大手のNCSOFTは、売上が絶好調なのに、なぜハイリスクな「グローバル・コンソール」に全振りするのか?_001

取材・文/kawasaki

最大手NCSOFTのグローバルシフトの背景

今回のG-STARで最大のトピックは、韓国ゲーム産業の最大手であるNCSOFTが示した、大規模な方針転換である。

同社はメインスポンサーとして最大規模のブースを出展し、『AION2』『シンダーシティ』『TIME TAKERS』『リミットゼロ ブレイカーズ』、そして『Horizon Steel Frontiers』といった新作ラインナップを発表した。

これらのタイトルに共通するのは、グローバル市場を意識していることだ。

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また、近年のG-STARに出展されるゲームのプラットフォームはスマホ向け&ライトに偏重していたが、今回発表されたのは、いずれもPC・コンソール向けを含むコアなゲームである。NCSOFTのG-STAR出展は、同社がグローバル市場で戦うために、PC・コンソール向けのコアゲームへ軸足を移したことの強い意思表示だ。

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『Horizon Steel Frontiers』は、NCSOFTがSIEと戦略的パートナーシップを結んで開発中のMMORPG。ほかにも両社の提携により複数タイトルが開発中だ

しかし、NCSOFT以外の多くのG-STAR出展メーカーは、従来のスマホ向け路線を維持していた。
双方の違いはどこから来るのか? これが、今回のメインテーマである。

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NCSOFTが最も強くアピールしていた『AION2』は、時代に逆行した徹底的にコア寄りのMMORPG。その開発理念などはインタビュー記事で踏み込んで紹介している(※関連記事
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NCSOFTがメインで出展した『AION2』と『シンダーシティ』は、長時間の実機試遊に特化した方向性。ゲームショウ来場客の体験もコア寄りのものとなっていた
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NetmarbleKRAFTONGRAVITYなど他メーカーの出展作は、基本的に従来路線を維持。スマホ向けや既存IPを用いた、どちらかというとライトなゲーム内容が中心だった

韓国ゲーム産業が海外へと軸足を移す構造的な背景

NCSOFTが大胆な方針転換に踏み切った背景には、韓国ゲーム産業全体の構造的な必然性があると考えるのが自然であろう。

これに関しては、韓国コンテンツ振興院(KOCCA:Korea Creative Content Agency)が毎年発行する、ゲーム産業に関する公的な年次統計報告書の「韓国ゲーム白書 2024」に興味深いデータが記載されているので、こちらから引用しつつ解説しよう。

2010年代半ばのスマホゲーム黎明期は、韓国国内市場が二桁成長を続けていた。しかし2020年以降は成長が鈍化し、2023年には前年比3.4%増に留まっている。

しかも、上記の数字には海外への輸出額も含まれている点に注意が必要だ。2023年の年間輸出額は83.94億ドル(約11兆ウォン)に達しており、これは国内ゲーム市場全体(約23兆ウォン)の約半分に迫る規模である。

つまり、現在の韓国ゲーム産業の成長は、海外市場に依存しているのが実情だ。

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COVID-19後は、スマホゲームの利用率が急減し(2022年62.6%→2023年53.2%)、韓国国内のスマホゲームの成長が踊り場にさしかかっている。そういったなか、韓国ゲーム産業が今後大きく成長するには、海外市場は決して避けて通れない。

そして、輸出額の大幅な増加を見込むには、コンソール市場が+5.5%の高い成長率を見せている、北米・欧州を攻略せねばならない。北米・欧州かつPC・コンソールは、現在のNCSOFTにとって未開拓の巨大市場だ。

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さらに、NCSOFT以外のゲームメーカーからは、『PUBG: BATTLEGROUNDS』(KRAFTON ※当時はBluehole、2017年)、『Lies of P』(Neowiz、2023年)、『デイヴ・ザ・ダイバー』(Nexon / MINTROCKET、2023年)といった、欧米でヒットしたPC・コンソール向けのタイトルも登場している。

これらに背中を押されたNCSOFTが、企業の存続と成長のために、グローバル市場へ軸足を移したのだと筆者は考える。

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他社はなぜ同様に動かないのか?

NCSOFT以外で、G-STARに出展した大手メーカーの大半は、従来のスマホ路線を維持していた。これには、仮にグローバルを目指したくても、すぐには実行に移せない事情も大きく影響していると思われる。

まず、資金力と人材・技術の壁がある。

PC・コンソール向けに開発を行うには、それに特化した優れた人材が多数必要となる。しかし、2023年の韓国ゲーム開発者の構成比を見ると、スマホゲームの開発者(38.6%)が圧倒的多数を占める一方、コンソールゲームの開発者はわずか2.6%に過ぎないのだ。

この極端な数値は、長らくPCオンラインゲームと、それに続くスマホ向けMMORPGに市場の中心が移ってきた韓国ゲーム産業のいびつな人材構造を端的に示している。

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そしてもうひとつは、仮に今後大きな成長こそ見込めないとしても、少なくとも現在の韓国ゲーム市場では安定した収益を出せている点である。

G-STARに出展するような大手ゲームメーカーは、新作のスマホゲームをリリースする度に、現地のセルランで上位に位置付ける鉄板のビジネスモデルを確立している。これらの巨額の収益を損なってまで、リスクの高いグローバルシフトを行うほうが、非現実的だと判断してもおかしくはないだろう。

むしろ、最大手であるNCSOFTが、タイトル単位ではなく、会社規模でのグローバルシフトを行うほうが異例中の異例といってよい。

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G-STAR自体が抱える課題も

本題からは少し話が逸れるが、ゲームショウを通じてグローバル向けへのアピールを行う観点で考えると、G-STAR自体が抱える課題も直視せねばなるまい。

まずは開催時期について。
G-STARが開催される11月は、誰もが認めるグローバルイベントである、Gamescom(8月)や東京ゲームショウ(9月)のすぐ後だ。出展する側としては、限られたプロモーション用のリソースを最も効果的なGamecomやTGSに集中させ、G-STARへの出展は見送る判断も出てくるだろう。

じっさい、今年のG-STARへの出展を見送った韓国大手のNexonPearl AbyssCom2uSは、東京ゲームショウ 2025には出展していた。NCSOFTも、VIC GAME STUDIOSKADOKAWAと共同展開を行う『リミットゼロ ブレイカーズ』を通じて、今年のTGSに出展していたのだ。

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G-STARが毎年開催される釜山は、人口約340万人を擁する韓国第2の都市。美しい海岸線やリゾート地を兼ね備えた、国際的な観光都市として知られている

そしてもうひとつは、G-STARの開催地が、韓国の首都かつ大半のゲーム会社が居を構えるソウルではなく、遠く離れた釜山という点である。これはたとえるならば、東京ゲームショウが幕張ではなく、九州・福岡で開催されるようなもので、出展側の負担は相当なものであろう。

これらの時期と地理の制約は、特にグローバル戦略を掲げる大手企業にとって、リソース投下の効率を大きく阻害する要因となっている。つまり、NCSOFTがグローバル・コア向けを高らかに宣言したとて、そのためのアピールを行うには、上記の制約があるG-STARが最適とは言い切れないのである。

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釜山は市域全体が海岸に面しており、漁場から市街地までが近い。市場や飲食店で提供される海産物は鮮度が高く、どこでなにを食べてもめちゃくちゃ美味い。プライベートで観光するには最高の街だ

韓国ゲーム産業の未来を占う試金石

話を戻すとNCSOFTは、先行する成功事例と構造的な必然性を踏まえ、従来の国内向けのスマホゲーム偏重からの、大規模な軸足移動に踏み切った。

今回のNCSOFTの動きは、韓国ゲーム産業が本格的にグローバル市場志向へと転換し始めた「兆候」と見ることができる。だが、現時点では他社は、NCSOFTほど本格的には動いておらず、韓国ゲーム産業全体で見ると「岐路」の段階だ。

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NCSOFTの挑戦は報われるか。追従する企業は現れるか。

今後数年間は、韓国ゲーム産業にとって大きな分岐点となる。NCSOFTが舵を切った「国内スマホ偏重」から「グローバル・コア」への転換が、その試金石となるだろう。

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編集者
元4Gamer。『Diablo』 『Ultima Online』 『EverQuest』 『FF11』 『AION』等々の、黎明期のオンラインRPGにおける熱狂やコミュニティ、そこから生まれたさまざまな文化は今も忘れられません。

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