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『龍が如く』シリーズの超ハイペースなリリースに隠された秘密とは? 「ゲームの作り方は自由でいい」との考えから効率と働きやすい環境を追い求めた常識にとらわれない開発現場を制作者が語る【CEDEC+KYUSHU 2025】

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2005年に誕生し、20年経った現在でも愛され続けているSEGAのドラマチックアドベンチャーゲームシリーズ『龍が如く』

桐生一馬や春日一番といったキャラクターたちを主人公とする本シリーズのキーワードは、裏社会・歓楽街・大人の遊び。

これらの要素はゲームの題材としてはメジャーではないジャンルであり「まさかここまで続くとは、開発当時の20年前には思ってもいなかった」と開発者は語る。

そんな人気シリーズの大きな特徴のひとつが、新作タイトルが発売されるペースの異常なまでの速さだ。2005年から現在に至るまで、最低でも1年に1本のペースで作品がリリースされてきた。

果たして、このリリース速度はどのようにして実現されてきたのか。その開発方針と具体的な手法を紹介する講演『「龍が如く」シリーズ20周年 超ハイペースでタイトルをリリースし続けるエンジニアチームの秘密』が、九州最大級のゲームカンファレンスである、CEDEC+KYUSHU 2025にて行われた。

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本講演にて登壇したのは、伊東豊氏(以下、伊東氏)と厚孝氏(以下、厚氏)。

アーケードゲーム開発の出身である伊東氏は、龍が如くスタジオのプログラマーを率いる技術責任者であり、『龍が如く』シリーズの1作目から開発に携わっている人物だ。

厚氏は、ドリームキャストをはじめとして初代XboxやPS2など、様々なコンソールでゲームを作ってきたCS系ゲーム開発の出身であり、『龍が如く 見参!』からシステム担当としてシリーズ作品の開発に参加。龍が如くスタジオの内製エンジンである「ドラゴンエンジン」の開発リーダーも務めている。

今回はそんな両氏による「ゆるい内容なのでリラックスして聞いて欲しい」という前置きとともに始まったセッションのレポートをお伝えしていく。

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文/DuckHead
編集/海ソーマ


『龍が如く』シリーズの歩みと、超ハイペースなタイトルリリース

まず、講演のイントロとして、『龍が如く』シリーズを手掛ける「龍が如くスタジオ」についての紹介があった。

「龍が如くスタジオ」は、エンジニア80名を含む約300名が在籍する大きな組織であり、『龍が如く』シリーズや『モンキーボール』シリーズが代表作として知られている。

また、かつては「AM2研(第2ソフトウェア研究開発部)」が開発していた『バーチャファイター』シリーズも、部署の再編などの影響により数年前から同スタジオの手掛けるタイトルになったとのこと。

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伊東氏によると、そんな「龍が如くスタジオ」の特徴的な点は、セガの「事業部」のひとつだということ。このスタジオは “毎年利益を出すことを求められている組織” であると伊東氏は語る。

そして、次に紹介されたのが、『龍が如く』シリーズの20年の歴史だ。

シリーズの第1作目である初代『龍が如く』が発売されたのは2005年12月8日。そこから『龍が如く』シリーズは、1年に1本のペースでタイトルを出し続けている。

2007年度にはプラットフォームがそれまでのPS2からPS3へ移行し、シリーズ初のスピンオフ作品である『龍が如く 見参!』が2008年3月6日に発売。

このタイトルは桐生一馬そっくりの宮本武蔵を主人公とする時代劇で、こういったスピンオフ作品があることもシリーズの特徴だ。

そして、「龍が如くスタジオ」という名前で最初にゲームをリリースしたのが、2012年2月16日発売の『バイナリードメイン』。本作はスタジオのほとんどのメンバーが手を動かし、気合いを入れて開発されたが、売り上げは思うような結果にならなかった。

伊東氏は『バイナリードメイン』がこの1作で終了となったことから、最新の技術を用いて一生懸命作ったとしても、「作品が受け入れられなければ、次につながっていかない」ことを痛感したとのこと。

また、『龍が如く』シリーズとしては、2012年12月6日に『龍が如く5』を発売。前作を越えることを目標に開発を続けた結果、5大都市を舞台に5人の主人公によって紡がれる壮大な物語に仕上がった本作は、10年以上前のゲームでありながら街の再現度が高い作品であると伊東氏は語る。

2013年ごろからは、PS3とPS4の両方に対応したタイトルのリリースが続く。2015年度からはリマスターではなく、最新の環境と技術で過去のナンバリングタイトルを作り直した『龍が如く 極』シリーズもスタートし、シリーズはさらに広がりを見せていった。

2016年12月8日発売の『龍が如く6』からは、PS4がメインプラットフォームとなり、ここで初めてチーム内で開発したゲームエンジンである「ドラゴンエンジン」が使用された。以降のタイトルはこのエンジンを用いてリリースされている。

そして、2020年1月16日発売の『龍が如く7』でシリーズは大きな転換を迎える。これまでのアクションゲームからコマンド式RPGにゲームジャンルが変化し、主人公も桐生一馬から春日一番に交代となった。伊東氏は「発売までどうなるかずっと不安だったが、無事にファンに受け入れられて安心した」と語った。

この『龍が如く7』をきっかけとして、『龍が如く』シリーズはナンバリングタイトルがRPGで、スピンオフや外伝作品がアクションゲームという形になり、異なるゲームシステムのタイトルが交互にリリースされていくことになる。

2022年度以降もタイトルは毎年リリースされ続けており、2023年11月9日には『龍が如く7外伝』、2024年1月26日にはナンバリングタイトルである『龍が如く8』が、およそ2ヶ月半の差でリリースされている。伊東氏によればこれらのタイトルはひとつのチームによって開発されており、このことを同業者に話すと、とても驚かれるとのことだ。

2025年度は、Switchや各種プラットフォームに向けたタイトルのリリースが多かったこともあり、2026年2月12日に発売予定の『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』も含めて過去最高となる7タイトルが発売となる。伊東氏も、これはかなりハードなスケジュールだったと振り返っている。

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一部のタイトルは外部の会社に委託してリリースされているものの、龍が如くシリーズはその多くが内製で、およそ30本のタイトルがワンチームで開発されているとのこと。

今回の講演では、伊東氏いわく王道ではなく邪道なやり方ではあるが、このペースでのリリースを実現した秘密について紹介していく。

「ルールを決めず、先のことは後で考える」常識にとらわれない効率化

さて、『龍が如く』シリーズが、超ハイペースでタイトルをリリースし続けることができた秘密は、「常識にとらわれない効率化」と「エンジニアに最適化した組織運営」にあると伊東氏はいう。

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そして、常識にとらわれない効率化の具体例として、「ルールを決めない」ことが挙げられた。ルールをしっかりと決めたほうが効率化が進むというのが一般的な常識だが、場合によってはあえてルールを決めない方が効率的に進む場合もあり、龍が如くスタジオでは「何も決めずに自由にやってみよう」というスタンスで業務が進められているとのこと。

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そもそも龍が如くスタジオは、龍が如くを作りたい人が集まったわけではなく、会社の都合によってアーケードゲーム開発部門と家庭用ゲーム開発部門が統合されたことで生まれた組織だったそうだ。

その結果、特にプログラマーはスキルを磨いてきた環境が大きく違っており、開発環境を統一して一緒に仕事をすることが難しいという問題が発生した。

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この問題を解決するために見出したのが、「多様性を受け入れてみる」という考え方だった。

エンジニアにとっては慣れた環境での作業の方が絶対に効率がいい。そのため、あえて細かいルールは決めないという発想からコーディング規約【※】を撤廃。「他人に迷惑をかけなければOK」というルールだけを守って、好きなようにコードを書いてもらったと伊東氏は語る。

以前、伊東氏がこのコーディング規約の撤廃についてXでポストしたところ非常に反響が大きく、それを見て「大きなチームで規約を決めずに進めると、とんでもないトラブルを招く」というのが一般的な考えであったことを知ったそうだ。

※コーディング規約
ソフトウェア開発において、ソースコードの書き方を統一するためのガイドラインやルールのこと

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このコード規約の撤廃により、コードの違いから生じる日々の細かいストレスが解消され、チーム内の誰かが使った効率的なツールが自然に広まっていく文化が根付いたため、20年間大きな問題が発生することなく作業効率がアップしたとのこと。

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次に語られたのが、「先のことは後で考える」という考え方だ。

『龍が如く』シリーズの基本は、町を歩いて会話をし、敵が絡んできたら戦闘になり、適宜イベントシーンが挟まるというもの。これらの異なる要素すべてを同じ汎用システムで動かそうとすると、システムの設計に何年かかるか不明瞭なうえにそもそもシステム自体が完成しない恐れもあり、現実的ではなかった。

そこで、初代『龍が如く』の開発で生み出されたのが、それぞれをバラバラに作ってから最後につなげるという発想だった。

初代『龍が如く』では、敵とエンカウントすると長めのローディングが入るが、この間にステージやキャラクター、モーションなどのデータをすべて読み替えていたとのこと。

つまり、この作品は別のゲームが無理矢理つなげられているような形になっている。ゲーム上では背景が変わらないまま戦闘が始まるものの、データを見るとその中身はまるっきり違い、アドベンチャーとバトルでそれぞれに専用のデータが使用されているという仕組みになっている。

当時はゲームエンジンがほぼ存在せず、目の前のゲームを完成させて売ることが第一の目標であったため、全てに汎用的なシステムを設計・開発して実装するコストを考えると、バラバラに作ってからつないだ方が効率的だと伊東氏は判断したのだ。

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そもそも、仕様や方針が変わることが日常茶飯事で、長期的に見るとプラットフォームや開発環境が変わることもあるゲーム開発は、未来が不明瞭な作業だ。

しかも、時間をかけて10年使えるシステムを作ったとしても、目の前の開発タイトルが世に出なければ、もっと言うと1本目が売れなければ、そのシステムは使われなくなってしまう。

そのため、見えない何年も先の未来を考えるよりも、目の前の作品を完成させるために、後の苦労は考えずに手を動かしてやれることをやるという考え方が、現在でも続く龍が如くスタジオの精神であると伊東氏は語る。

プログラマー総出で同時にプロジェクトを並行して制作

続いて紹介された、常識にとらわれない効率化の考え方は、「属人化」を悪としないというもの。

「属人化」とは、業務の知識がマニュアル化されずに、特定の人の頭の中にだけ存在する状態を指す。知識を持つ人がいないと業務が進まなくなってしまうため、この状態は悪だと考えられがちだ。

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現代のゲーム開発において、特定の人がいなくなったとしても、知識や技術は大抵どうにかなる。しかし、ゲーム開発において一番大事な要素である「経験」や「感覚」は、マニュアル化や引き継ぎが非常に難しい。

つまり、属人化を解消しようと頑張っても、最も大事な「経験」や「感覚」の属人化は避けられず、どうしても属人化せざるを得なかったのだという。

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こうして属人化を許した結果、過去の失敗が繰り返されなかったりコストの見積もりの精度が上がったりしただけでなく、「この人に相談してOKが出たら大丈夫」という認識がプログラマーだけでなくプランナーやデザイナーにも広がっているため、新規タイトルでも効率的に作業が進められた。

もしも大切なメンバーが退職してしまったとしても、若手がカバーしてくれたりといったことでなんとかなるケースが意外と多く、メインプログラマーやコアメンバーが何人か退職した『龍が如く』シリーズもクオリティを落とすことなく継続できていると伊東氏は述べた。

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そして、近年の『龍が如く』シリーズはリマスタータイトルが増えてきており、技術的な判断を求められるケースが非常に多くあるという。

一般的に、開発のトップであるディレクターはプランナーが担当することが多いそうだが、技術的な判断はプログラマーに任せた方が非常に正確であり、少人数かつハイスピードな内製発売のために、現在のリマスタータイトルのディレクターは、ほぼすべて現役のプログラマーが務めているとのこと。

この体制によって開発された『龍が如く』シリーズは11本あり、伊東氏によれば「これらのタイトルを同時開発すればさらに効率が上がるので、本当にこの手法をオススメします」とのことだ。

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そして、『龍が如く』シリーズでは並行開発をマストとしており、エンジニアチームはワンチームで複数タイトルを同時に開発している。ここ10年で超ハイペースにリリースされたタイトルは、並行開発でなければ実現できなかったそうで、この体制のキッカケは、開発の規模が大きくなり長期化したことにあるという。

毎年利益を出すことを求められ、何かしらのタイトルをリリースしなければならないという状態で対応プラットフォームの変化や開発環境などといった技術的に大幅なアップデートが求められた場合、1年に1本のリリースペースが維持できなくなり、事業部として危機にさらされてしまう。

この問題を解消するため、外部の会社への委託やチームを2つに分けて交互にリリースをするという手法を試したが、どちらもクオリティの担保が難しかったとのこと。

こうした紆余曲折を経て、「プログラマー総出で同時にプロジェクトをこなせば、どうにかなるのでは?」と考えた伊東氏は、大きな決断として、エンジニアチームによる並行開発を提案した。

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提案した当初は「本当に大丈夫なのか?」という声もあったそうだが「絶対に大丈夫です」と周囲を説得し、『龍が如く6』と『龍が如く0』、『龍が如く 極』のころには並行開発を進めていたとのこと。

これらのタイトルでの成功体験から、並行開発がその後のスタンダードとなり、現在ではエンジニアだけでなく、プランナーやデザイナーも複数タイトルを手掛けるようになったそうだ。

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伊東氏は並行開発のメリットとして、全員でプロジェクトを並行させるため、プロジェクト間のスキルの偏りが無く技術レベルが維持できることを挙げた。

さらに、プロジェクト間の情報共有の時間がゼロであるため、片方の技術的な問題や不具合が別のプロジェクトにすぐに反映されるだけでなく、どこかのプロジェクトで必要とされて作ったツールが、すぐに別のプロジェクトに使うことができたことがメリットであったという。

もうひとつ大きなメリットとして伊東氏が挙げていたのが、プロジェクト間における人員移動の必要がなくなったことだ。

人手不足を補うための人員移動では、新たに環境設定が必要であったり、移動先のゲームがどういったものなのかを学ぶところから始めたりすることが求められるため、物理的な苦労も含めて時間がかかってしまうことが一般的だが、並行開発の場合は個人の業務の比率を変えるだけで簡単にほかのプロジェクトのヘルプができるため、効率的に作業を進めることができるという。

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また、プログラマーという仕事は仕様の決定やデータの遅れによる待機時間が発生したり、昔であればビルドやデータコンバートに数時間や半日かかることもあったりと、何もしない時間が生まれがちだったそう。

プロジェクトが複数ある並行開発の場合、手が空いたら別のプロジェクトに取り掛かれるため「やることがない」「できることがない」という状況を減らすことができた。これも作業の効率化に影響を与えてくれたと伊東氏は語った。

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この並行開発によって、龍が如くスタジオは2023年に、同一チームによる完全新作を2タイトルリリース。2025年に発売された過去最多となるタイトルについては、すべて並行開発で作業が進められ、全作品が同じメインプログラマーによって制作されているとのこと。

なお、現在でも並行開発中のタイトルが当然のようにあるため、スタジオの人間全員が、常に複数のプロジェクトを並行して進めているそうだ。

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ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW
編集・ライター
『The Elder Scrolls』や『Dragon Age』などの海外RPGをやり込むことで英語力を身に付ける。個人的ゲーム史上ナンバーワンヒロインは『Mass Effect』のタリゾラ。 面白そうなものには何でも興味を抱くやっかいな性分のため、日々重量を増す欲しいものリストの圧力に苦しんでいる。

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