人の通話音声を展示するイベント『050-5893-5336展』が、東京建物 ぴあ カンファレンス TO YAESU HALLで7月17日より開幕した。
『人の財布』や『かがみの特殊少年更生施設』で知られる第四境界が手掛けるイベントで、「ひとのでんわ展」と読む。
イベント名になっている電話番号には実際にかけることができ、謎めいた音声が聞けることでも話題になっている。

7月16日には、開幕に先駆けて関係者向けプレビューが実施された。今回、そこに参加する機会を得たので、本稿ではその模様をレポートする。
『050-5893-5336展』に関して言いたいことはたくさんある。だが、まずは一言だけ言わせてほしい。
このイベントは狂っている。正気ではない。
取材・執筆/パンノキ
博物館レベルの電話機を魔改造するんじゃない

『050-5893-5336展』は、ものすごく簡単にジャンル分けすると、「音声を展示するイベント」だ。
音声を手掛ける声優陣の豪華さについては後述するとして、まず触れたいのが、その展示方法である。

正直なところ、快適さだけを考えるなら、会場にたくさんのヘッドホンを並べたり、QRコードを読み取ってスマートフォンから音声を再生できるようにしたりすればいい。その方が快適に決まっている。
だが、このイベントでは何を思ったのか、実際の電話機の受話器から音声が流れる。

しかも、黒電話をはじめとするかなりレトロな機種から、家庭用の固定電話、ガラケー、さらにはスマートフォンまで、多種多様な電話機がずらりと並んでいる。その光景は、まるで電話の博物館である。いったいどこから集めてきたんだ。
そして、これらの電話機が惜しみない謎技術によって魔改造されているのだ。

改めて、『050-5893-5336展』の体験方法を説明しておこう。
このイベントでは、受付で「時空のテレホンカード」と呼ばれるカードが配布される。

このカードを電話機に設置された端末へかざし、受話器を手に取ると、対応する音声が流れるという仕組みだ。
カードには、あらかじめ度数(いまでいうポイントのようなもの)が入っている。

音声を1本聞くたびに度数が消費され、残りが0になると、それ以上は音声を聞けなくなる仕掛けだ。一応使い切らないように警告が出るのと、追加購入も可能だが、使いすぎには注意したい。
さらに、このカードは自分のスマートフォンと連携できる。いま聞いている音声の概要が、ほとんどタイムラグなくスマートフォン上に登録され、ゲーム的なフラグ進行まで存在するのだ。

つまり、こういうことだ。
テレホンカードを端末にかざす→テレホンカードの度数が減る→受話器を取るとなぜか音声が流れる→音声の概要がなぜかスマートフォンに登録される→目的を達成するとスマートフォンでも物語が進行する
だが、そもそも普通の電話機は、受話器を手に取っただけで特定の音声が流れるようにはできていない。

ましてや、聞いている音声の情報が自分のスマートフォンへ即座に登録されるなど、通常ならばありえない。
ところが、それが謎技術によって実現してしまっている。見た目はただの黒電話でも、中身は完全に魔改造されているのだ。
では「電話機は外側だけを使っているのでは?」と思うかもしれない。だが、実はそうではない。

元の電話機が持つ特性は、しっかりと体験に生かされている。特に音の聞こえ方には、電話機ごとの個性がはっきりと表れていた。
これこそが、実際の電話機で音声を鳴らす利点なのだろう。受話器の重さも相まって、ヘッドホンやスマートフォンで音声を聞くのとはまったく異なる体験を味わえる。

また固定電話であれば、内部に何らかの機器を仕込めるのだろうと、素人なりに想像できなくもない。
だが、年代も規格もまるで異なるガラケーやスマートフォンまで、同じカードを起点とする一つの展示システムとして動いているのは、本当に謎である。

というか、会場内のそこら中から「謎技術…」「なにこの技術」といった声が聞こえてくる異様な雰囲気だった。
ただし、この形式である以上、どうしても混雑しやすい点には注意が必要だ。

実物の電話機の受話器を持ち、一本の音声を聞く。これだけで行列ができることは容易に想像できる。実際、関係者向けプレビューでも、1台の電話機に5人ほどが並ぶ場面があった。
仮にQRコードを使い、各自のスマートフォンから音声を再生する形式だったなら、ここまで混雑することはないだろう。

……なのだが、おそらくこのイベントの主催者は、そんなことは最初から分かったうえでやっている。
それくらい、「本物の電話機から音を鳴らす」ということに本気なのだ。

ここは好みが分かれる部分でもある。だが、唯一無二の体験であることは間違いなく、わざわざ会場に足を運ぶ意味もしっかりとある。
少なくとも私は、ここまで突き抜けたこだわりを高く評価したい。
だって、こんな体験はここだけですよ?

なお、音声のボリュームは一定あるため、少なくとも2人であれば受話器をシェアして同時に聞くことができる。流石に3人以上は厳しいが、2人であれば一緒に見て回ることができるだろう。
夏のイベントとして、ぜひ友達やカップルで楽しんで欲しい。
崩壊する2つの世界。でも救えるのは片方だけ

『050-5893-5336展』が素晴らしいのは、ギミックだけではない。物語性もしっかりと作り込まれている。
そのためこのイベントは、見て終わり、考察して終わり、ではなく、ある種の謎解きゲームとして、来場者にミッションが課せられる。
それは、「崩壊する世界を救え」というものだ。

実は会場は、複数のエリアに分かれている。最初のエリアには、電話機とその歴史に関する展示が並んでおり、そこまでは比較的オーソドックスな展示だ。
だが、その先へ進むと、空気が一変する。

真っ暗な空間の中を進んでいくと、仮面を着けた、すごくいい声の男性「案内人」(CV:速水奨)が現れるのだ。
そして彼の口から、今回のイベントの世界観が改めて説明される。

いわく、この先には、「全人類が廃人と化した世界」と「殺人が日常と化した世界」という、2つの世界が存在し、その世界を救ってほしいと。
いずれの世界も崩壊の危機に瀕しており、来場者はそのどちらかへ進むことになる。

そのため各エリアの音声はそれぞれ異なる内容になっており、それぞれの世界の音声を聞いて回ることで、断片的な情報が少しずつつながっていく。そして最終的には、世界を救うための一手が明らかになり、実際に電話機で“最終解答”を行う――というのが、今回のイベントの本当の体験となる。
ただし、一度の入場で救えるのは、どちらか一方だけだ。
来場者は自らルートを選択し、その世界のエリアへ進まなければならない。ここでは、かなり苦渋の決断を強いられる。

なお、私のように「いや、両方救いたいんだが!」という人に向けて、割引価格で再入場できるリピートチケットも用意されている。
安直な表現だが、声優陣が豪華すぎる
豪華声優……いや、ほかに何と言えばいいのだろうか。
とりあえず、出演者の情報を見ていただきたい。
メインキャスト
・仮面の男:速水奨
・赤いフードの少女:飯田ヒカル
・謎のマスコット:遠野ひかるBLACKルート
・研究に人生を捧げた男:三木眞一郎
・重い病を抱える少女:上田麗奈
・家族思いの女性:大久保瑠美
・止められなかった男:江口拓也
・■■の秘密組織に属する男:祐仙勇
・大学生:三木一眞
・研究者:こばたけまさふみ
・被害者:折原秋良REDルート
・怪物と呼ばれた男:細谷佳正
・後悔を抱えて生きる女:生天目仁美
・怪物に愛された女:稗田寧々
・裏社会に身を置く男:斉藤壮馬
・ヒミツを知る女:荻野葉月
・見守る女:本間沙智子
・踏み込めなかった女:園田れい
・昭和の頑固親父:酒巻光宏
・事務的な男:齋藤峻
・情に厚い刑事:堂坂晃三
・怪物に仕える男:木暮晃石EXTRA
・音声アナウンス:千春
・???:前川涼子
・???:杉山里穂
・???:青木陽菜
・???:本西彩希帆
・???:緒方佑奈
・???:天海由梨奈
・???:角倉英里子
・???:陶山恵実里
・???:桑原由気
・???:天野心愛
・???:松嶌杏実
・???:佐伯伊織
・???:首藤志奈
・???:大渕野々花
・???:綾坂晴名
・???:相良茉優
いやいや、豪華すぎないか?
それにしても、役どころの濃さたるや。
今回、一部を除いて映像はない。だが、声優陣は実力派ぞろいで、音声だけでもかなりの没入感がある。

いや、むしろ映像がないからこそ、この形式ならではの没入感が生まれているともいえる。
演技はもちろん、受話器から聞こえてくる音の鳴り方まで、実際の電話の通話音声そのもの。画面の向こうに用意された映像を見るのではなく、耳元から聞こえてくる声だけを頼りに、その人物や出来事を想像することになる。
まるで、誰かの通話にそっと耳を傾けているかのような感覚だ。
そして何より、声だけで世界の崩壊を表現していることに痺れてしまう。

物語の具体的な内容はネタバレになるため、本稿では省かせていただくが、断片的な通話をつなぎ合わせながら真相へ近づいていく体験には、十分な満足感があった。
ちなみに、キービジュアルに登場する少女と謎のマスコットは、スマートフォン上に現れ、調査のサポートをしてくれる。

特に「でんわ! でんわ!」と話す謎のマスコット「ラパン」がとにかく可愛い。物販エリアではこの子のグッズが沢山売られているので、そちらも要チェックだ。
不便さまで含めて、ここでしか成立しない展示

効率や快適さだけを考えれば、もっと簡単な展示方法はいくらでもあったはずだ。
音声をスマートフォンで再生できるようにすれば、行列もできにくい。大量の電話機を集め、一台一台を魔改造する必要もない。
それでも『050-5893-5336展』は、本物の受話器を耳に当て、そこから流れる声を聞くという方法を選んだ。

受話器の重さ。機種によって異なる音質。耳元にしか届かない声。そして、誰かの通話を聞いているかのような感覚。
そのすべてが、物語への没入感につながっている。
確かに混雑は避けにくい。一度の入場だけでは、すべてのルートを体験することもできない。

だが、そんな不便さまで含めて、ここでしか成立しない展示になっている。
やはり、このイベントは狂っている。
もちろん、最大限の褒め言葉として――。

『050-5893-5336展』は、7月17日(金)~ 2026年8月16日(日)まで、東京建物 ぴあ カンファレンス TO YAESU HALLで開催される。
チケット価格は通常が3,400円~3,900円で、学生およびリピートチケットが2,500円だ。
土日祝は混雑が予想されるため、平日の参加をおすすめする。
■開催概要
開催地:
東京建物 ぴあ カンファレンス TO YAESU HALL
東京都中央区八重洲1丁目6ー1開催期間:
2026年7月17日(金)~ 2026年8月16日(日)開催時間:
10:00 ~ 20:00 ※最終入場は19:00公式サイト:
https://www.hitonodenwaten.com/




