約10年の沈黙を破り、2022年に再始動を宣言した『SILENT HILL』シリーズ。それは、リメイクと新作を含む3本のタイトルを一挙に発表するという、異例の打ち出しだった。
そして、2024年の『SILENT HILL 2』、2025年の『SILENT HILL f』は、いずれも高い評価を得て、世界的なヒットを記録している。
舞台を、おなじみの霧の街から日本へと移した最新作『SILENT HILL f』。その和風ホラーの物語を託されたのが、『ひぐらしのなく頃に』の竜騎士07氏だ。この人選には、明確な理由があった。
CEDEC2026で行われた講演では、シリーズ統括プロデューサーの岡本基氏が、その理由も交えながら『SILENT HILL』のプロデュース術を語った。
本稿は、岡本基氏、松尾泰樹氏、杉本絢音氏の3名が登壇した講演「SILENT HILLのプロデュース術 「推し」の時代に推されるゲームをめざすには? ユーザーの熱量を重視するプロデュース方針と海外開発を軸にしたグローバルゲーム開発進行」の内容から、岡本基氏の語りを中心にまとめたものだ。
講演でまず語られたのは、『SILENT HILL』がグローバルな開発環境のなかで、どのような体制を築いたのかだった。
『SILENT HILL』のチームは、ポーランド、台湾、アメリカと、多国籍の開発パートナーを抱えている。当然、彼らとのやり取りは欠かせない。ところが、開発メンバーの約8割は英語を話せないのだという。
それでも問題はない、と岡本氏は言う。グローバル開発だからといって、英語ができなければ成り立たない、というわけではないからだ。実際、『SILENT HILL』のチームでも、チャットツールやメールでのやり取りは、機械翻訳を駆使したテキストコミュニケーションが中心だったとのこと。
重要なのは、言語ではなく開発そのものの能力であり、それさえ備わっているなら、開発パートナーを国内に限定すべきではない、というのが岡本氏の考えだ。
『SILENT HILL』は、最後のタイトルから10年ほどの空白期間を経ての復活だった。シリーズをよみがえらせるにあたって岡本氏がもっとも重視したのは、その中核的なアイデンティティである「サイコロジカルホラー」を、明確にすることだったという。
そこで、「サイコロジカルホラーとは何か」をバイブル(指針書)としてまとめ上げた。トラウマや自信のなさ、自己の崩壊、実存的な感情……そうした内的な反応を重視することこそが『SILENT HILL』である、と定義したのだ。
また、シリーズは、過去に発売中止を経験している。だからこそ、ユーザーに心から信用してもらうには、まず企業の側が本気の姿勢を見せなければならない。岡本氏はそう考えた。
市場の反応をうかがいながら、まずはリメイクを1本だけ。そうした「様子見」の作り方ではなく、『SILENT HILL 2』『SILENT HILL f』『SILENT HILL: Townfall』の3本をまとめて発表したのは、その本気を示すためだった。
ユーザーの予想を、良い意味で裏切っていくことも重要だという。
予期しないタイミングで新作を発表する。『SILENT HILL f』の舞台を日本にする。
いずれも、ユーザーを驚かせ、ワクワクさせるためだ。そうした驚きこそが、ユーザーの温度感を高めることにつながっていく。
その『SILENT HILL f』では、「SILENT HILL」を単なる街の「名前」としてではなく、その地を発祥とする「現象」として再定義することを目指したという。
というのも、同作は新たな「舞台」での展開を目指していたからだ。過去のシリーズ作のように舞台やストーリー、ゲームプレイが似通えば、ユーザーに飽きられかねない。それを懸念したためだという。
そうして日本が舞台に決まったとき、和風ホラーの書き手として白羽の矢が立ったのが、竜騎士07氏だった。
竜騎士07氏は、和風ホラーの名作『ひぐらしのなく頃に』で知られる作家だ。とくに同氏が原作を手がけたマンガ『蛍火の灯る頃に』は、まさに「ザ・和風SILENT HILL」とでも言うべき作品だったという。
じつは岡本氏自身、竜騎士07作品の9割以上を読んでいるファンだとも明かした。
ストーリーが重要なゲームにおいて、ゲームプロデューサーには本を読むことが欠かせない、と岡本氏は言う。
作家にシナリオを発注するなら、その作品は最低でも過半数に目を通しておく。それは作家へのリスペクトであると同時に、その作家の得意・不得意を把握しておくためでもある。
また、開発の後半では、テストとレビューを重視したとのこと。
外部コンサルタント、国内のテスト企業、北米の一般ユーザーによる3種類のレビューを組み合わせている。それだけ、レビューというものを重んじているということだ。
プロデューサーの直感は、企画の発案において重要だ。しかし、その思い込みだけで最後まで走ってはいけない。岡本氏はそう語る。
たとえ自分で自分を痛めつけるような感覚になっても、直感はきちんと検証する。それがプロモーションの形にも影響し、精度高く、良いものを作ることにつながっていくというのだ。
また、現代は「考察」と「推し活」の時代だ。
細部まで緻密に作り込みながら、計算のうえで隠された部分も持つ、そうしたストーリーは、考察コンテンツと相性が良い。
『SILENT HILL』シリーズも、竜騎士07氏の作品も、「考察」によって人気を集めてきた面があるという。
実際のプロモーションでも、情報を段階的に公開したり、周回プレイによって真相がより深く見えてくる構造を採用したりした。その結果、多数の考察動画や記事が生まれることとなった。
さらに、キャラクターイラスト、誕生日企画、グッズ、ポップアップストアなども継続的に展開し、ファンダムへ「燃料」を供給し続けることも重視している。ファンが話題にし続けられるようにするためであり、ファンダムとともに成長していくことが、作品にとって重要だからだという。
最後に岡本氏は、英語が話せなくてもグローバル開発は可能であること、作品の本質を共通言語化すること、シナリオやレビューによる検証を重ねること、そして「考察」や「推し」を通じてファンダムとともに成長していくことの重要性を改めて示し、講演を締めくくった。












